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偽装人間@000【完結しました】
作者: 朔良   (総ページ数: 115ページ)
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*106*

 最終章 菊川澪という女優

 ――いよいよ澪と由香里の演技対決の結果発表の時間がやってきた。
これで勝利すれば「菊川澪」という女優が完璧に知れ渡るであろう。
 だが、負ければ消えていく。そういう世界なのだろう。

『瑞葵由香里・菊川澪 演技対決 結果発表』
 
 澪は事務所でマネージャーと比呂とでwebを見ていた。そこへ上記の表示が出た。
「つ、ついに……」
 マネージャーは手を震えさせながらマウスを動かす。だが、震えているので上手く動かない。
「……躊躇していないではやくして下さい」
 マネージャーの緊張などおかまいなしに澪はマウスを強引に奪い、クリックした。

『瑞葵由香里 2千576票』
『菊川澪   2千790票』
『勝者 菊川澪』

 クリックした先にはその言葉が表示されていた。
 マネージャーと比呂は息をのみ、澪は無表情で見つめていた。
「す……すごいじゃん、澪ちゃん!」
「……はい……」
 相変わらず女優とは思えない表情だ。


 その頃、由香里も自分の事務所でマネージャーと共に結果を見た。
「……由香里」
 マネージャーは優しく声をかける。
「……慰めなんてしないでよ?」
 背を向けながら由香里は言った。
「負けたのは私の演技より菊川さんの演技の方が国民に響いたってだけ。それは女優の本望であり、願いだもの」
 振り向き、笑顔で言った。
「いつかもう一度、演技対決をしてみたいわ」

 差は214票というわずかな数字。どちらも素晴らしい女優なのだ。
 
 
 ――その日の夜、澪は事務所の社長室に入った。
「――どうしたの? 菊川さん」
「……水谷社長、私、まだ伝えてないことがあるんです」
 そういうと、水谷は少し笑い、引き出しからなにかを取り出した。
「君の言いたいことは、こういうことかい?」
「――! どうして……」
 見せてきたのは一枚の写真。
 そこには、藤本理央と赤ちゃん……つまり、澪が映っていた。
「私と藤本は知り合いでね……君がこの事務所に来た時から気付いていたよ」
 社長はなにもかも見透かしていたのだ。
「……では、私がなにを言いたいかも、ですか?」
「ああ。……『自分の演技は母親から受け継いだものだ』……そうだろう?」
 澪は肯定も否定もせず、動かない。
 それはつまり「肯定」だろう。

「――安心しなさい」
 社長は優しく言った。
「確かに君の演技力は受け継いだものかもしれない。だが、君の武器であるアドリブは? 感じ方は? 表現の仕方は?
 それは全部――君だけのものだろう?」
 社長の言葉は澪の心に深く突き刺さった。
「――それに藤本君にはもう少し穏やかな口調と明るさと優しさがあったよ」
「……それ、いりませんよね」
 社長は笑って、最後に告げた。
「君は親の存在なんて考えず『菊川澪』を作り上げなさい」

 それは、澪の一番望んでいた言葉だった。



                      最終章 続く

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