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作者: 朔良 (総ページ数: 115ページ)
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第6章 撮影初日、少女は偽装する
澪は自分の楽屋に入り、ため息をつきながら椅子に腰をかける。慣れない撮影で気を張っているのであろう。
「菊川さん」
「――え……」
後ろから名前を呼ばれ、さすがの澪でも一瞬、動揺する。人がいたことに気付かなかった。
「何で人の楽屋に入っているんですか……」
「別に、良いでしょ? 減るもんでもないし」
楽屋に入ってきていたのは篠田颯だった。
「菊川さんさ、よく隠してるよね」
「……意味が分かりません」
颯は澪に向かい、微笑みながら言った。
「……本当に? 君のお母さんのことなんだけど」
澪の瞳が少し動いた。それを颯は見逃さなかった。
「その調子じゃ、事務所の社長クラスの人にしか言ってないかな」
澪は颯を睨みつける。
「美人の睨みって怖いねー。安心して? 君に危害を与えるつもりはないし、このことを世間に広める気もないから」
「……どうして、私の母親のことを……」
澪が静かにそう告げると、颯は少し寂しそうに笑った。今までの、見下すような笑みではなかった。安心できて、懐かしくて、でも切なくて、寂しげで――……。
「……やっぱり、覚えていない、か……」
颯は静かにそう口に出し、元の笑みに戻る。
「俺がなぜ知っているのか気になるなら、明日会おうか?」
澪は少し悩んだ顔をしてから、頷いた。
連絡先を交換した方が都合が良いため、澪と颯は携帯電話を取り出した。
澪は赤外線通信をしている途中、ぽそりと本音を口に出した。
「……新手のナンパとかじゃないですよね?」
そう言うと、颯は少し笑い、否定した。
「後で会う場所とか書いたメール送るけど……変装とかはしてきてね? 騒ぎになったら困るから」
颯は手を軽く振りながら出て行った。
澪は頭をフル回転させる。
なぜ、篠田颯が母親のことを知っているのか。
そればかりを考えていた。
第6章 完