完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*5*
家に走って、走って、走って走って走って走って!
走ったつもりだったけど、足は家とは反対方向へ向かう。
もう、息が切れてぜぇぜぇと言っているのに、足は重い灰色のコンクリートを蹴り上げ続ける。
目の前の風景が自分の後ろに流されていく。
足と地面の擦れる音、体が風を切る音、心臓の規則的なリズム。
すべてが一つになってゆく。
やっと足が止まった。息が弾む。目の前を見ると、あのおじいさんのお店だった。しかし、店は閉まっている。
― おじいさんと話したい! ―
そう願って、ドアを開けた。
「どこ…?。」
おじいさんなら、うちのこの思いをわかってくれる。きっと、解決してくれる。
「どうしたんだい?。」
ふりかえるろおじいさんが階段を下りてきていた。
「おじいさん…!」
顔を見た瞬間、何かがあふれだしてきた。心からも、目からも、とめどなくあふれて来る。
「どうしたんだい。言ってごらん?」
「眼鏡をかけたら…ひっく…光でいっぱいになって…すごく怖くて…、今自分がなんで泣いてんのかも分んなくなって。何も信じられない自分が嫌になって…。」
もう、何で泣いてんの。意味不明。光を見ただけで怖がるなんて。
ああ、自分って弱いなぁ。そのくせどっか強がってて、すぐ誰かに頼ろうとする。
「それは君が強いから泣いているんだ。流れに身を任せてごらんよ。きっと何かわかるよ。君の大事な【記憶】は戻ってくる。」
そんなの、簡単にできたら苦労しないよ…。
でも、きっと私以外の人は簡単にできるんだろうな。
私には何一つできない。
なんにも。
なーんにも…。
すーっと深呼吸をして、空気を思いっきり吸い込んだ。瞼を閉ざすと、裏に走馬灯が見える。
友達とケンカして、そのまま夏休みに入って、海に行って、偶然その友達と出くわしちゃって、気まず雰囲気のまま二人で海に入って、仲直りした。その後・・・。
その後、友達と笑いあって、いろんな約束をした。
海の深いとこに入って、今度花火大会を見に行こうとか、キャンプしようとか、いろんな予定を決めて、楽しかった。
でも、おっきな波が来て友達だけ逃げ遅れて…。
逃げ遅れて・・・・・・?
「おじいさん…?」
ニコニコしていたおじいさんの顔が真顔になる。
― そう、それが君の失くしたの箱の中身の一つ…
【記憶】 ―
何も言わないけれど、瞳がものを言う。
流れに身を任せるってこういうことなの?
そう、うちは友達を助けられなかった。
あの時、腕をつかんでいれば、助かった。友達は。
ああ、ホントうちって最悪だ。
せっかく仲直りしたのに。
馬鹿。鈍感。残虐。
友達を見捨てて自分だけで逃げた。冷酷な人間。
床にうつぶせになって声を押し殺して泣いた。
どんなに謝っても、友達は返ってこない。
窓から差し込む紅い光に照らされて、泣き崩れた。