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＊紹介文／目次＊

1

雨が、降っていた。
土砂降りの雨だった。
細い一筋の流れが、坂を下って行く。
その流れは、少しずつ、本当に少しずつ、太くなっていって。

騒めきが、聞こえる。

「あれ…なん…だ？」

雨音で声が消されてしまう。

ーあの流れは何か、だって？

知る訳、無いじゃないか。領らないよ。

そう、知らないんだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・

雨の中、座ったままで。
口を、動かした。
けど、声など出なくて。出せなくて。
…でも。
その声は、
届かなくて良い。
自分への、戒めだから。

10～ 20～ 30～ 40～ 50～ 60～

＊27＊


6ー2
・・・・・・・・・・・・・・・

「お父さんが、危ないの」

母からそう連絡を受け、舞は学校を早退して病院に向かった。
父は、目を閉じていた。息が浅くなっていく。時間が無いようだった。

「…お父さん…？」

司は、少しだけ目を開いた。瞼が震えていた。

「…戻れ、ない…きょう……逢え…」

心拍が、止まった。

「嘘……お父さん？！」

本当に、止まった。

彼が教壇に戻る事は、無かった。
生徒に再び逢う事も、無かった。
父が戻れない、と言うのを聞いたのははじめてだった。いつも舞の前では、戻りたい、と語っていたからだ。
舞は、はじめて、父は自分の人生の終わりを悟っていたのだ、と気づいた。母も気づいたらしかった。

まだ、湊先輩の事話してないよ？

お父さん、もう一度目を開けて。

湊先輩はね、とてもカッコ良くて、仕事もできて…
私の事を、想ってくれた。
嬉しかったんだ。…ねぇ、私に彼氏ができたら、お父さん、どう思うかな…？

父の顔を見た。もう開く事のない瞳には、もう乾きそうな涙が一粒だけ残っていた。

「お父さん！」

「あなた……」

「お父さん…。教壇に、戻りたかったよね…？生徒に、会いたかったよね…？」