完結小説図書館
<< 小説一覧に戻る
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*5*
一週間後、衝撃の事実を見つけた。
うちの家庭内事情の一つに、わたしがまだ赤ちゃんだったころ、母が最愛の夫を亡くした、というのがある。
その最愛の夫というのが、空の人。
わたしは母に詰め寄った。その人はどこかの国のハーフなの、どうしてあんな変な恰好をしているの、と。
その波に押されて、聞いてしまった。
聞いてはいけないこと。
――わたしは愛されていないの。
「ぐすっ――ひぐっ……ううっ……」
「なんだか知らないけど、悲しそうだね?」
「がなじく、なん、か……ないで、ず」
「鼻声鼻声ー」
「るっさいバカ。阿呆空の人」
「ハハハ」
意味のない笑いを放ち、男性は寂しげに笑う。
「――紀子はどうだったかい?」
のりこ、ノリコ、紀子。わたしの嫌な名前。
結局、母は答えてくれなかった。そのかわり、乃愛がやってきたかと思うと乃愛は母に甘え始めた。
どうせこのパターンなのだろう。最初からわかっていた。
そして――。
――あら、乃愛。どうしたの〜?
わたしには言ってくれなかった言葉を言うことだってわかっていた。
わかって、いたんだ。
わかって、いた、のに。
涙が止まらない。悔しい。これじゃ嫉妬ばかりの嫌な姉じゃないか。
駄目じゃん、自分。悔しくなるな、自分。
そうは言っても、滝のように流れる気持ちは抑えられなくて。
気持ちと一緒に涙まで、滝のように流れていく。
「う、うあぁああああ、ああああああ――!」
まだ中学生だし、子供だけど。
「よしよし」
それよりも子供っぽく泣くわたしの背中に、ぽん、と手が置かれた。
あたたかくて、あんしんする。そんな大きな手だった。
これは、父だ。紛れもなく父の手だ。
「よしよし……」
会ったこと、ないくせに。
そう呟きながら、わたしはふっと微笑んでいた。
PR