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*紹介文/目次*
ドジな僕は今日スマホを落としてしまった。
スマホは見事に大破。
バイトしながら高校に通う僕に新しいスマホなど買う余裕はない。
でも、スマホなしの生活なんて考えられない。
いま、自由になるお金は3千円だけ。
中古でも無理だとは思ったけど、とりあえず中古スマホ店に入ってみた。
すると、セール品のワゴンの中に、税込2,980円の古びたスマホがあった。
全く知らないメーカーだったが、「MicroSIM対応、動作確認済」とあった。
さっき壊れたスマホもMicoroSIMだし、SIMカードを入れ替えるだけで使えるはずだ。
バッテリーはヘタってるだろうけど、とりあえず繋ぎのつもりで買った。
まずは毎日のようにメールのやり取りをしている親友のメアドを登録した。
そして、昨夜見たDVDの感想を書いて送信した。
僕たちは映画鑑賞が趣味で、毎晩のようにDVDを観てはメールで感想を述べ合っているのだ。
お互い格安スマホなので、電話代のかからないメールという方法を取っている。
LINE電話という手もあるけれど、お互いバイトの時間帯がずれてるので、メールがいいのだ。
メールは文章として残せるのもいい。
ちなみに、僕はレンタルDVD屋でバイトしているのでDVDは見放題ってわけ。
翌日メールの返事が来た。
「はじめまして、lovemovie18(僕のメアド)さん。
おそらく、あたなはメアドを間違って私に送信したのだと思います。
でも、当然ながら読んじゃいましたよ、あなたが観た映画の感想。
あの映画、すごく面白そうですね。私も観たいと思いました。
もしよろしかったら、また映画の感想を送ってください。
では、よろしく」
ぼくは、あらためて送信先のメアドを確認した。
友人のメアドは CR0SSDREAMERが正しいのだが、CROSSDREAMERと登録していた。
0(ゼロ)とO(オー)を間違ったのだ。
間違いメールもいいものだなーと思った。
こうして僕は親友宛てと同じ内容のメールをCROSSDREAMERさんにも送るようになった。
CROSSDREAMERさんからも必ず返事が来た。
そして、徐々に、親友宛てのメールとは別の文面を送るようになっていった。
ところで、CROSSDREAMERさんは、その文面から同世代の女性を思わせるけれど、
実のところは分からなかった。
そこで僕は、映画の感想と共に、さりげなく自分は高校3年の男子でレンタルDVD屋でバイトしていることを書いた。
すると、CROSSDREAMERさんも高校2年の女子であることを明かしてくれた。
僕はちょっと嬉しくなった。だからと言って、どうってこともないのだけれど...
彼女の映画に対する感想は感性豊かで素晴らしかった。
彼女も
「あなたは普通の人が気づかないストーリーの細部まで良く観ているのね。感心したわー」
などと書いてくれた。嬉しかった。
僕と彼女は映画の感想を通して、日々、お互いのことを知るようになっていった。
こうして楽しい日々が続き、3ヶ月が過ぎた。
ところで、今日、DVD屋でのバイト中に変なことがあった。
僕がカウンターでお客さんに対応していると、女子高生らしき子がカウンターの前を行ったり来たりして、僕の方をチラチラ見るのだった。
一旦いなくなったと思ったら、再び戻ってきてはチラチラと...
可愛い感じの子だったけど、変な子だなーと思った。
その時間帯は、いつもは暇なため、カウンター係は僕一人なんだけど、
今日はお客さんが多くて、その子を気にする暇もなかったので放っておいた。
すると最後は、僕のことを睨みつけたと思うと泣き出しそうな顔をして、
そそくさと店を出て行ったんだ。
あの子はいったい、何だったんだろーと、今も気になっている。
と思っていたら、CROSSDREAMERさんからまたメールが届いた。
昨日観た映画の感想が書いてあった。
彼女の感想を読んだら、その映画がさらに面白く感じられた。
まあ、いつもそうなんだけど。
本当に楽しい毎日だ。
僕はだんだん欲が出てきた。
CROSSDREAMERさんと会って映画の話を思う存分したいと願うようになってきたのだ。
でも、そもそも、彼女がどこに住んでいるのかも知らない。
ここ東京に住んでいるとは限らないし...
でも、思い切ってメールした。
すると早速彼女から返事が来た。
「メールありがとうございます。東京に住んでて良かった。
バイト先のDVD屋さんの場所を知って驚きました。
私の通学路にあるんです。だから明日にでも会えますよ。
私もあなたともっと映画のことを話したいと思っています。」
僕は小躍りして次のように返事した。
「とても嬉しいです。明日僕は仕事が5時に上がります。
5時少し前くらいにカウンターに来てくれませんか。
あなたらしきお客さんを見かけたら、
何気なしに『クロスドリーマー』って鼻歌を歌いますから、
そしたら、僕に声をかけてくれませんか?」
すると彼女から直ぐに返事が来た。
「面白いですね。その方法でお会いしましょう。」
そして翌日。
僕はバイトのDVD屋で4時頃からそわそわして彼女が来るのを待っていた。
しかし、5時になっても、女子高生らしきお客さんは来なかった。
一人、二十代後半とおぼしき太ったお姉さんが入店して来たので、まさかとは思ったけど、
「クロスドリーマー」って鼻歌を歌ったら、怪訝そうな目で見られただけだった。
バイトを終え、がっかりして帰宅した。
何で来なかったのかなー?
もしかして、CROSSDREAMERさんは店の外からガラス越しに僕を見て、
僕の容姿にがっかりして帰ってしまったのかなー?
僕って、遠くから見ただけでドン引きされるような男なのかなー?
と思い、へこんでしまった。
そして僕は、これまでに貰ったCROSSDREAMERさんからのメールを読み返した。
メールの文面を見る限り、僕の容姿を見ただけで約束を破るような子とは思えなかった。
何かの行き違いがあっただけなのかも知れない。そう思えた。
そこで、思い切ってCROSSDREAMERさんにメールした。
「今日、来られなかったのですね。
それとも、僕をひとめ見て嫌になって帰ってしまったのですか?」
すると、直ぐに返事が来た。
「一体どういうことですか!?
今日私行ったじゃないですか!
あのDVD屋さんのカウンターには一人しかいなくて、
それも高3らしき人だったから、
確実にあなただったと思うのだけれど、
私のこと、完全無視だったじゃない!!!
私、泣きながら帰って来たんだから」と。
彼女からの返事を読んで、僕は混乱し、暫く考え込んだ。
もしかして、昨日来たあの変な子がCROSSDREAMERさんだったのか???
だとしたら、僕と彼女との間では丸一日時間がずれているということになるわけだ。
まさか、このスマホで彼女とメールすると一日ずれるということなのか?
つまり、僕が彼女にメールすると、1日前の彼女に着信し、
彼女が僕にメールすると、1日後の僕に着信するということなのか?
そんな不思議なことってあるのだろうか???
いずれにせよ僕は彼女を傷付けてしまった。
何とか誤解を解いて謝りたいと思った。
でもその前に、僕のこの推測が正しいことを確認しなければ、と思った。
それで、こんなメールをCROSSDREAMERさんに送信した。
「泣かせてごめんなさい。
本当にごめんなさい。
でも何かとても不可解な行き違いがあったみたいなんです。
そのことを説明するためにも、お願いだから、ちゃんと答えてくださいね。
今日は何日ですか?」と。
すると、「7月15日に決まっているじゃない!」と直ぐに返事があった。
やっぱり僕の推測は正しかった。
だって、今日は7月16日なのだから。
そこで、僕は次のようにメールした。
「とにかく、ごめんなさい。
ちゃんと説明するから、7月17日の5時にもう一度DVD屋さんに来てくれないですか?」
「いいわよ。」と直ぐに返事が来た。
僕にとっては明日、彼女にとっては明後日の7月17日に会うことになったわけだ。
そして7月17日がやってきた。
DVD屋のカウンターでそわそわしていたら、あの時の「変な子」が入ってきた。
良く見ると、やっぱり可愛い子だった。
僕はありったけの笑顔を彼女に向け、
他のお客さんの目もはばからずに大きな声で「クロスドリーマー」と歌った。
彼女は恥ずかしそうに、でも笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
おわり