コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.22 )
- 日時: 2015/01/31 18:30
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
- 37:誕生日 
 5月8日。今日は翔の誕生日だ。それでか、翔はいつも以上にうるさい。
 「忽那あああ!! 今日は何の日いいい!!」
 「今日はお前の命日ー」
 「うおお殺すなよ、今日は俺の誕生日いい!!」
 「そうかご愁傷様」
 「違うわ!! 殺すな!!」
 翔が携帯いじりをやめない千春の肩を揺さぶる。なかなかおめでとうと言ってくれないことに腹を立てているようだ。千風と由莉、楓はそれを見て見ぬふりをしている。
 「忽那ひでえよ! 言ってくれよおめでとうって!」
 「おめでとう(笑)」
 「かっこ内聞こえてんぞ!」
 「翔うるさいー誕生日おめでとー(殺)」
 「おめでとぉー(泣)」
 「おめでと…(同情)」
 「みんなかっこ内がひどいですううう!! 楓に至っては態度に出ちゃってますうう!!」
 翔が地団駄を踏む。そんな彼の頭を千春が教科書の角でどついた。
 「ちぇすとぉー」
 「やってから言うなよおおお!! いてええ!!」
 「もう一回やられたいか」
 「いえ、遠慮しときます」
 翔はやっと静かになったが、やはり少しかわいそうなので、4人とも結局おめでとうと言った。
 「みんな誕生日いつーもしかして俺一番ー?」
 「俺4月」
 「俺も4月〜」
 千春と楓がすかさず答えた。翔はえっと変な声を出した。
 「えええ!? じゃあ何か、お前ら俺より年上か!」
 「そんな、1か月じゃんか〜」
 「ああ、お前より年上だ、俺は」
 「楓と忽那で態度が違いすぎる…」
 自分より頭の悪い千春が、自分よりふわっとした楓が、まさか年上だとは翔は思わなかった。
 「二人は、どっちが早いの? 千春?」
 「俺は16日」
 「えっ、俺10日」
 「えっ」
 「えっ」
 意外にも楓の方が誕生日は早かった。しかも10日といったら始業式の日だったから、めちゃめちゃ早い。
 「楓がこん中じゃ一番『お兄ちゃん』かあ、意外だー」
 「私が7月だから…由莉は、12月よね?」
 「そーだよー! この中で一番『妹』!」
 千風が7月25日、由莉が12月20日だ。由莉は楓と半年以上離れているということになる。
 「楓が『お兄ちゃん』なのはいいけど、千春がそうなのは癪でしかないわ」
 「うるせえ、こっちからお断りだ」
 「仲良い『兄妹』だねー」
 「「誰と誰が『兄妹』だって!?」」
 由莉がちゃかすと、二人同時に叫んだ。翔も楓も仲良いじゃんと同時に言った。
 「千風はぁ〜、上と下、どっちが欲しい?」
 「優しいお兄ちゃんが欲しいー」
 「私もー」
 「俺はぁー羽柴さんみたいな妹が欲しくなーい」
 「いらん情報ー!!」
 由莉にがくがくと肩を揺さぶられる翔だが、気にせずに男性陣に話しかける。
 「忽那と楓はー?」
 「俺は一人っ子のままでいい」
 「俺は、下かなぁ。妹欲しいな、羽柴さんみたいに活発な」
 「ほんとぉー!? 楓やっさしー!」
 「海は楓くんが欲しいいいい!!」
 「ううわあああああ!!!」
 突然声が聞こえたかと思えば辰野海が登場。条件反射で叫び声をあげた楓が、翔の後ろに隠れる。しかし海はそんなのお構いなしに追いかけてくるので、翔の周りをぐるぐると回っている状態だ。
 「辰野さん、帰ってええええ!!」
 「帰んないいいい!! 久しぶりにお話ししてんのにいいい!!」
 「いいやあああだああああ!!!」
 ここまで徹底的に人を避ける楓を初めて見た千風たちは絶句している。ぐるぐると回られている翔は、とうとう痺れを切らして、二人の間に割って入った。
 「辰野さん!」
 「何? 告白なら受け付けないわよ」
 「違うわ! 俺、本当は辰野さん無理だから! とりあえず楓から離れてくんね!?」
 「海が、無理…!?」
 辰野さん無理、という言葉に相当傷ついたのか、海はその場に崩れ落ちてしまった。楓はぜえぜえ言いながら、翔の腕を掴んだまま座り込んだ。
 「もう…マジ、無理…」
 「辰野、苦手って言ってたもんな」
 「うん、超苦手…」
 「でも残念、こう見えて副会長だから」
 沈黙。
 「ええええええ!!?」
 「じゃあ、ここにしょっちゅう来るってことか!?」
 「ああ、そうだ」
 翔と楓がずーんと音を立てて沈む。そんな男性陣の横で、千風ら女性陣は普通に会話している。
 「辰野、誕生日いつ?」
 「え…3月28日…」
 「じゃあこの中じゃ辰野が一番『妹』だ! っしゃー免れたー」
 由莉がガッツポーズをすると、海が怪訝な顔をした。
 「え、何? 何の話してたの」
 「誕生日の話とか」
 「ふーん、楓くんは3月何日なの」
 「3月前提なのはなんで…」
 「3月っぽいしー、海と同じがいいしー!」
 「自己中…」
 千風がボソッと呟いたのは聞こえていないみたいだ。すると、翔がにこにこして、言った。
 「辰野さーん、いいこと教えてあげよっか」
 「何よマリモ」
 「マリモじゃねーよ! 楓は4月生まれ。この中じゃ一番早い10日だぜ〜」
 「4月10日!? 近いじゃ〜ん!」
 「遠いわ!!」
 「10日くらいしか離れてないじゃん」
 「同学年だよ!? 1年近く離れてるよ!」
 みんなわかってはいたが、海は馬鹿だ。おそらく千春以上の。しかも、間違いを指摘されても認めないたちの悪い馬鹿だ。だから、千風たちは苦手としていた。
 「辰野さん、5限始まるよ、帰ってよ…」
 「そんなのみんな一緒じゃない。楓くん、一緒に帰ろ〜!」
 「拒否します」
 楓は翔の後ろに隠れて、出てこようとしない。翔はそんな彼にだいぶ迷惑しているようだが、溜息をつくだけで動こうとはもはやしない。
 6人が本鈴が鳴ったのに気づかず、先生にこっぴどく叱られるまであと5分。
