コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.36 )
- 日時: 2015/02/04 09:57
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
- 49:ひっく 
 生徒会室。いつもの6名はそろっているのに、すごく静かだ。音といえば、誰かが携帯をいじっている音ぐらい。
 「…翔が静かね」
 「静かだー」
 ようやく、千風と由莉が口を開いた。そうだ、いつもうるさいぐらい元気な翔が、今日は全然しゃべっていないのだ。当の本人は、机に顎を乗せて、だるそうにしている。どうしたのだろう。
 「そうだな。翔、どうしたんだ、今日」
 千春が翔の背中をゆする。翔は、それに対して声すら上げない。こんなの翔じゃない…! とみんなが思っていると、
 「ひっく」
 「!」
 ビクッと一段と体を揺らしたのは楓だった。何事だ! と思ったらしい。今のしゃっくりは…
 「んあー、しゃっくり止まんねー」
 翔だった。どうやら、しゃっくりが止まらないので、声を出したくなかったようだ。なんだー、とみんなは胸をなでおろし———翔をほっておく。
 「待って! 気づいたんなら俺を助けてくれよひっく!」
 「助けてくれよひっくってなんだ」
 千春が携帯を置いて、半目で翔を見る。翔はわざとじゃないしー、とふてくされている。するとそのとき、華織が言った。
 「なんか、びっくりさせたら止まるってよく聞くよね」
 「うおおおそれだああっひっく!!」
 ビシッと華織を指さして翔が叫んだ。華織が大きく体を揺らし、うん、とぎこちなく頷く。
 そのとき突然、千春が翔の背中を教科書の角でガツンと一発。
 「ひぎゃあああ!?」
 「びっくりしたか?」
 「なんかちがくねえ!? したけどひゃっくぇ」
 「ひゃっくぇ? なんだそれ」
 千春は今日も冷たい。そこに、由莉が翔がジュースをブシィィッとぶっかけた。
 「あ、ごめんね翔。わざとやっちゃった」
 「わざとぉ!?」
 「びっくりした?」
 「したした! 超したひゃっきゃ!」
 「ひゃっきゃって何、新しいね」
 翔のしゃっくりはなかなか止まらない。みんな半分どうでもよくなってきていたが、翔の反応が面白くて、ちょっと協力してやろうかな、と思い始めている。
 「他に、もっとマシな止め方ねーのー」
 「ああ、私聞いたことあるわよ」
 千風が手を挙げた。おお、頭の良い人が言うことだ! と翔は期待するが…
 「直接横隔膜を止めればいいのよ。手ぇ突っ込んで」
 「うわぁエグい。俺、そういうの求めてない…」
 「あんたが求めてるとか関係ないのよ。ほら、腹出しなさい」
 「えっ!? 腹裂くの!? ふえぎゃっ」
 千風は笑顔だ。翔は違う…と言いながら、まだ何も言っていない楓にすがりつく。
 「楓は、女子力だから、きっと知ってる…」
 「浅川くん、それどういう意味」
 「な、しゃっくり止めてくれよぉ…ひゃっぎゃ」
 楓はうーんと唸ってから、一応方法はある、と言った。
 「え、マジ!? 教えて!」
 「でも、これが成功したら浅川くんの面白い動きが見られなくなる…」
 「え、楓も楽しんでたの」
 「うーん、まあ、教えると」
 「質問に答えて! 楓は俺の味方だと信じたかった!」
 「過去形なら問題ないね。教えなーい」
 楓も意外とこの状況を楽しんでいるようだ。翔はもう半泣きになりながらすがる。
 「信じてるからぁ…」
 「うん、いいよ、教えたげる」
 「ありがとおおお…」
 「息吸って3秒止めて、吐いて3秒止めて、それを3セット。途中で出たらやり直しだよ」
 「おお、すごく根拠がありそうな方法…! メシアだ」
 「ありがとう」
 翔は言われたことを早速始める。その間に、それぞれがそれぞれ好きなことをし始める。翔はそれに気づいていない。
 少し経って。翔はふんと鼻を鳴らし、仁王立ちをして、みんなにこう宣言した。
 「止まったァ——!!」
 沈黙。全員、翔の方を見て、「この人頭大丈夫かしら」みたいな顔をしている。翔はえ、と声を落とす。
 「え、しゃっくりが止まった…みんなの、おかげで…」
 片言で、近くにいた千春に声をかける。千春は気づいて、こう言った。
 「…ん?」
 「ん? じゃねーよ!! さっきまでその話してたじゃんか!!」
 「何? 彼女できた? おめでとう」
 「ちげーよ! 彼女できたらもっとちゃんと言うわ! しゃっくりが止まったっつってんの!!」
 「へえ、よかったね(棒)」
 「ひっでえ」
 そんな会話を聞きながら、女子はひそひそと話をしている。
 「楓に相談してるあたりから止まってたよねぇ…」
 「気づかないのが翔よ」
 「浅川くん、天然なの?」
 「天然よ、あんたの彼氏ほどじゃないけど」
 「楓くん、天然かしら…」
 「今度試してみなさいよ」
 「いいなぁ、二人とも彼氏いてぇー」
 こうして、どんどん話がそれていく女子と、千春に抗議する翔、それを無視する千春、傍で寝ている楓の昼休みは終わったのだった。
