コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 知らなくて、よかった
- 日時: 2016/04/08 17:23
- 名前: hinn (ID: q6B8cvef)
 一つ上の凌也とは幼馴染の間柄だ。
 家が近所だったため小さい頃から一緒にいて、それが普通だった。
 よくケンカもしたし、その度に擦り傷をつくったものだけれど翌日には何事もなかったかのようにまた遊んで。
 当時は身長なんて大差なかったけど、気づけば凌也はグングン背が伸びていて、いつまでも小さいままの私は不公平だ!とよく文句を言ったものだ。
 そんな彼ももうすぐ受験間近。
 同じ小学校、中学校、高校と凌也を追いかけてきた私はこの時期になるとひどく落ち込んだものだった。
 また凌也はこうやって私より一歩先を行ってしまう。
 それはしょうがないことだと分かっていても落ち込んだ気持ちは簡単に浮き上がってはこなかった。
- Re: 知らなくて、よかった ( No.5 )
- 日時: 2016/04/08 23:30
- 名前: どみの (ID: 99568qQj)
- おい!私の名前……どみの「氏」って……笑。 
 大丈夫!最後まで書ききれる気がしないのは私も同じだからw
 今、あこがれの細かい所を修正入れたとこです。
 良かったら読みに来てね(^^)
- Re: 知らなくて、よかった ( No.6 )
- 日時: 2016/04/09 01:17
- 名前: hinn (ID: IpxDtp3C)
 「本田、あのさ…」
 海斗の伸ばされた手が私の髪に触れる。
 瞬間的にその手を振り払い、警戒態勢をとると海斗は大きくため息をついた。
 「なに勘違いしてんだよ、髪にゴミがついてるんだっつの」
 「自分で取れる」
 触ろうとしてきたところを手櫛で梳くと、海斗は再度ため息をつき金色の髪をかき上げて顔をしかめた。
 かき上げたことで見えた耳にいくつかピアスがあるのを見つけて、校則違反だなあとぼんやり考える。
 「照れてんのかよ」
 「なんで照れなきゃいけないの」
 どこか投げやりな言葉に同じ調子で返すと、フン、と鼻を鳴らされた。
 「ほんと、かわいくねー女」
 「可愛くない女で結構です」
 なんであんたなんかに可愛いと思われなきゃいけないの気持ち悪い、と心の内で呟く。
 心境が顔に出ていたのだろうか、海斗は眉根を顰めて睨んできた。
 「もういくわ。じゃーな」
 予鈴のチャイムはもうすぐなるというのに海斗の去っていった方向は教室とは真逆だった。
 今日もサボるのだろうか。不良め。
 冷めた目でその背中を見やると、私は教室へ向かった。
- Re: 知らなくて、よかった ( No.7 )
- 日時: 2016/04/10 22:45
- 名前: hinn (ID: IpxDtp3C)
 午後の授業は眠気との戦いだった。
 半分夢の中にいながら先生が黒板に書いた文字をノートに写していく。後で見直してみたら一体何を書いているのか解読不可能だった。
 ようやくすべての授業とHRが終わると、友達のリサが教室まで来てくれた。
 リサと私は軽音部に属している。
 軽音部は部員とその分だけバンド数が多いせいでなかなか練習場所が確保できないのだが、今日は週一で場所が回ってくる日であるためギターを背負うと、ワクワクしながら練習場所である小講堂へと向かった。
 小講堂は4階の一番奥にある。
 室内に入って電気をつけると窓を全開にしていった。
 講堂、というだけあってかなり広く、長椅子が規則的に配列されており奥にいくにつれ下り坂になっている。
 ちょうど大学の講義室を想像してもらうと分かりやすいかもしれない。
 広い上にパフォーマンスをするのに最適なためよくここで軽音部はライブを行っている。
 私たちのバンドも何回かここでライブで演奏したことがあった。
 開け放たれた窓からはグラウンドの様子が良く見て取れた。
 リサが機材の準備している後ろでふと外を覗くと丁度サッカー部が練習をしているところだった。名前の知らない部員がゴールを決めたのを見て私も負けじとリサのもとへ駆け寄った。
 今年の6月は少し暖かい。
 夏に入る準備なのか梅雨への前触れなのか分からないけれど窓から爽やかな風が入ってきてとても気持ちいい。
 そんな風を頬に浴びながらリサと二人で練習を始めた。
 私のバンド『空白ジャンカー』はリサと私と、他二人で構成されている。リサはベース、私はギター、他の二人はドラム、キーボードをそれぞれ担っている。
 最初は初心者の集まりだったけれど1年も練習すれば、簡単な曲ならそれなりに弾けるくらいにまで上達した。
 自主練した分だけセッションするのが楽しくなる。
 被っている楽器が無いだけに自分のパートの責任は重大だ。でもそれが楽しくて嬉しくて仕方がない。
 バンドの中で自分が他人から必要とされていることが分かるから。
 だから頑張れる。もっと上手くなりたいって思える。
 アンプから流れる音はお世辞にもうまいとは言いがたい代物だけれど、一曲弾き終わると達成感で身が震えた。
 「アヤとナナはもうすぐ来るって!補習だったっぽい」
 「マジか補習とか辛いわ」
 ギタースタンドにギターを置くと大きく伸びをした。リサは携帯片手に笑みを浮かべ、机の上で足をぶらぶらとさせている。
 「二人が来たらまた一曲通してみよっか」
 「そうだね」
 少しだけ痛む左手の薬指を見つめながら答える。ギターの弦の上を滑るためほんのり摩擦で赤くなっていた。
 その後リサと他愛ない話をしている途中で残りの
 メンバーが来たためもう一度練習を再開した。
- Re: 知らなくて、よかった ( No.8 )
- 日時: 2016/04/12 15:44
- 名前: hinn (ID: Ij88/0W6)
 練習が終わったのは18時を少し過ぎたあたりだった。
 リサたちに先に帰るよう促してから私は小講堂の鍵を返しに一人で職員室に向かっていた。
 空はまだ遠くの方で夕焼けを残し、太陽光の届かない藍色と鮮やかなグラデーションを描いていた。
 もうすぐ夏なんだな。
 窓から見える空を見上げて誰もいない廊下で一人つぶやく。
 「失礼しまーす」
 職員室に着き、顧問の先生の机へと向かう。
 すると、そこにはギターを背負っている見慣れた背中があった。
 「凌也、残ってたの?」
 「お、結月。練習おつかれ〜」
 声をかけると振り返って笑みを浮かべる凌也。
 背は高くなって逆に声は低くなったけれど、その無造作にはねた黒い髪と笑顔は何年経っても変わらない。小さい頃のままだ。
 顧問の先生に鍵を手渡すと凌也と二人で職員室を出た。
 「凌也のとこって次はなんの曲やるの?」
 階段をおりながら聞いてみる。窓から差す夕焼けと月明かりしか光源がないため校内は一層暗かった。
 凌也は、んーともったいぶったあとで照れくさそうに口を開いた。
 「次はさ、 コピーじゃなくて自分たちで曲をつくることにしたんだ」
 「えっ!?すご!」
 予想外の返答に声が裏返る。
 凌也も私と同じ軽音部だが、既存の曲を演奏するコピーバンドが大半だった。奏でる才はあっても創る才は無きに等しい。
 一から曲をつくるなんてとてもじゃないが私には真似できない。
 「大変じゃない?」
 「うん。すごい難しいけどさ、文化祭に間に合わせないといけないから頑張ってる」
 そうか、次の軽音部のライブは文化祭か。
 と、いうことは
 「四ヶ月で出来るの?」
 「正直厳しいかも」
 ハハ、と笑って凌也がポケットに手を突っ込んだ。
 廊下には二人分の足音だけが響く。
 「でもさ、完成させたいんだ」
 ふと、凌也の足がピタリと止まる。
 少し先を歩いた後で私も止まって振り返った。
 この距離でもお互いの顔はあまりよく見えない。
 凌也がいまどんな顔をしているのか分からなかった。
 「必ず、必ず完成させるから」
 でも声は真剣そのもので、私は少し首を傾げた。
 「凌也?」
 「だから聞きに来てね、絶対」
 そう言うと凌也は歩き出し、私の横をすり抜けていった。
 「あっ待ってよ」
 小走りで追いかけて横を歩く。急にどうしたの、と聞いても、ううん、何となくね、と言ってはぐらかされてしまった。
 昇降口を出ると一層冷たくなった夜の風が髪を撫でた。
 ポケットに手を突っ込んで無言で帰り道を歩く。
 月明かりと街灯に照らされて二人分の影が地面に映っていた。
- Re: 知らなくて、よかった ( No.9 )
- 日時: 2016/04/14 19:07
- 名前: hinn (ID: XnbZDj7O)
 「ねえー私達も曲を決めないとまずくない?」
 学校の帰り道に空腹ジャンカーのメンバーで近くのマックにたむろしていたとき、リサが声を上げた。
 ポテトを口に放り投げてから頬杖をかく。
 「私も思ったわ。そろそろ曲だけでも決めないとヤバイよね」
 ナナがストローを咥えたまま頷いた。
 私はというと我関せずでハンバーガーにかぶりつく。正直次のライブは出ても出なくてもどっちでも良かった。凌也たちのバンドさえ聞ければ何でもいい。
 「結月は?なんかいい曲ないの?」
 そんな訳にはいかないか。
 白羽の矢が立ったところで最後の一口をシェイクで飲み込む。
 「『vivi』はさ、自分たちで自作した曲やるんだって」
 突如、みんなの動きが面白いくらいにストップした。一様に目が見開かれ身を乗り出してくる。
 「マジで!?」
 「マジマジ、凌也から聞いた」
 viviというのは凌也の属しているバンドの名称だ。結構上手い人たちが集まり、軽音部の中で一番人気のあるバンドでもある。
 毎回ライブでは難易度の高い曲を弾き生徒たちの評判を得ていたが、今回は自作曲ということで度肝を抜かれたことは言うまでもない。
 「はあーやっぱviviには勝てないわ〜」
 「そもそもまず同じ土俵に立ててない〜」
 アヤとリサのため息混じりの言葉に私も小さく息を吐く。これは嫉妬じゃなくて期待だ。
 毎年私達の期待を良い意味で裏切るバンドだ。今年も何かやらかしてくれるに違いない。
 「まあ私達はviviの前座としてやれればそれでいいっしょ」
 「それな〜とりあえずviviの後には弾きたくないよね〜」
 アヤの言葉に確かに〜と言って笑う。
 曲探しはLINEでしようか、という結論に至ったところで談笑に戻る。
 段々とポテトの数が減ってきて解散の雰囲気がし始めたとき、その声は聞こえてきた。
 「おい、買い食いかよ不良」
 頭上に降ってきたその声に楽しかった気持ちが急速に萎んでいった。
 「わっ生徒会長!やばい見つかった…」
 「会長見逃して〜」
 ナナとアヤが急いでポテトを隠す。声の主である海斗は不敵な笑みを浮かべて私を見下ろした。
 「まあ、どうしてもって言うんなら本田以外見逃してやるよ」
 「やった!ありがとう会長」
 「ちょ、なんで私だけ!」
 立ち上がって海斗に詰め寄ると、後ろから賛美の声が上がる。
 「ゆず、ありがとう!」
 「ゆずの犠牲は忘れないから!」
 「ちょっとあんたらそれはズルい!」
 ナナ達のところに行こうとすると腕をぐいと引っ張られて阻止された。
 眉を顰めて振り返れば海斗とばっちり目が合う。
 「わかるよな?」
 「何がよ」
 「バラされたくねえだろ?」
 「……」
 思わず口をつぐんで下を向く。
 私の通う高校は変に校則が厳しく、なんと買い食いが禁止されているのだ。
 といってもそんなのを守っている生徒は一部の真面目ちゃんしかおらず、殆どの生徒はよく帰り道に買い食いを行っていた。
 だけどバレたら面倒な説教&成績だって下げられる可能性大だ。かなり危ない。
 恐る恐る海斗を見上げれば意地の悪い笑みをまだ保っていて反吐が出そうな気分になった。
 「仮にも元生徒会役員が校則を破って買い食いしましたなんて報告したら笑いもんだろうなぁ?」
 「あ、あんただって校則破って変な色に髪染めてんじゃん!」
 「うるせえ、変な色じゃねえよ。これは地毛だバカ」
 海斗が顔を顰めて口を尖らせる。てかそれ自分ではイケてると思ってたのか。
 「なーにが地毛だよ全然似合ってないから!」
 「はあ!?お前の私服よりかは断然似合ってるっつーの!」
 「私の私服見たことあんのか!」
 「ねーよ!!」
 ねーのかよ!と後ろの席のアヤたちからツッコミが入る。海斗は苦虫を噛み潰したような顔をしてとにかく、と口を開いた。
 「本田、お前は今日から俺のパシリだ。俺のため
 よく働け」
 「えっいや意味分かんない!」
 「うるっせえ黙って言うこと聞け」
 そのまま腕を引っ張られて出口へと誘導されていく。ナナとアヤがヒューヒューと口笛を吹くのを後ろに聞きながら、抗議の声はついに海斗には届かなかった。
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