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- Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.27 )
- 日時: 2015/05/12 18:55
- 名前: 逢逶 (ID: 6k7YX5tj)
- episode8 
 title 知りたくない事実
 「…三部構成にしてみてはどうですか?一部に事務所が推す曲。二部にソロ。三部に定番。アルバム曲は仮歌の時点で事務所と一度もめるはずですから、作曲家さんにあらかじめテーマを伝えておきます。そして作曲家さんは、過去のKISSTILLのヒット曲を手がけた方にお願いしてその中の曲風から一部と三部にわけます」
 私は思ったことを長々と早口で伝えた。
 伝わってない気がするけど、それを確認できないまま、沈黙が訪れる。
 嫌な汗が額に滲み、部屋には時計の針の音だけが響く。
 「…なんか、すいません」
 耐え切れなくなり、私から口を開いた。
 世界を変える、なんて大それたこと私にはできないのかな。
 「…小枝さんって、天才?」
 戸部川さんは思いもよらない言葉を口にした。
 てっきり、新人の分際で、とか言われるのかと思った。
 「凄いな。…だってさ、悩んでたことが一瞬で解決されちゃったんだよ?」
 …そんなに?
 あの時みたいに瞳を輝かせているKISSTILLとマネージャーさんたちは、私の価値を見出してくれているようで過去のことなんて忘れさせてくれる。
 「…じゃあ、小枝さんので決まりね。予定より大分早く決まったね。どっかご飯でも行く?」
 頷きかけたが、朔さんの顔が頭に浮かんだ。
 「…私は、失礼します」
 「えー?なんで?」
 「用事がありまして」
 「ん、わかった。お疲れ様ー」
 寂しそうな顔に見送られながら荷物を抱えて、車に乗り込んだ。
 早く朔くんのところへ。
 帰宅ラッシュはかなりキツイ。
 軽く渋滞に巻き込まれ、家に帰った。
 身支度をして、朔さんのお店へ駆け出した。
 看板が見えて、可愛い雰囲気のお店へ迷うことなく足を踏み入れた。
 「いらっしゃい」
 優しい笑顔が眩しい。
 朔くんは、私を個室へ通した。
 カウンターが良かったんだけどな。
 「どうぞ」
 「…どうして個室なんですか?」
 「悩み相談するの他のお客さんいるところで出来ないでしょ?」
 「…はい」
 そうだ、今日は悩み相談を口実に来たんだ。
 「何にする?」
 「オムライスで」
 「かしこまりました」
 注文をしてすぐにオムライスが運ばれて来た。
 きっと私が何を注文するかはわかっていて、あらかじめ用意していたんだ。
 「…いただきます」
 朔さんは私の向かいの椅子に座って、私が食べているところを眺めている。
 やっぱり美味しい。
 「…私ね、無理矢理どうこうされるのって今日が初めてじゃないから、余計に辛いんです」
 食べながら出来るだけ重くならないように打ち明けた、つもり。
 実際には声はワントーン低くて、目には涙が浮かんでいた。
 そんな様子に気付いてか、朔くんは私の頭をぽんぽんと撫でた。
 「…蓮ちゃんは良い子。誰かがどれだけ酷いことしても蓮ちゃんは蓮ちゃんのまま。変わらないよ」
 「…ありがとうございます」
 自分の過去を全て話してしまいそうだった。
 どれだけのことをされたか…、朔くんに話してしまえば楽なんだろうけど、子供を殺したことだけは口が裂けても言えない。
 「…あー、だめかも」
 朔くんはそう呟いて、また私の頭を撫でた。
 「どうしました?」
 「…蓮ちゃんのこと好きになっちゃいそう」
 …私だって、朔くんのこと好きになりそう。
 でも、この気持ちはあの時に似ている。
 …光と出会ったあの時。
 また裏切られてしまうかもしれない。
 「…」
 「…好きになっちゃいけないのにね」
 「え?」
 「俺、結婚してるんだ」
 目の前が真っ暗になった。
 神様…やっと見つけた希望を私から奪わないでください。
 私は、そんな現実見れそうにありません。
 ねぇ、いつになったら解放してくれるの?
