コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

〜序章〜 ( No.1 )
日時: 2015/09/20 09:37
名前: ストレージャ (ID: 5NmcvsDT)



 僕はただひたすら、口を開けていた。


 赤、青、黄。三色の光。


 多くの人々が創りだす、歓喜と熱気が、僕を極限まで小さな点へと、変化させる。その大きな渦の中心には、間違いない、クラウンの姿がはっきりと見えた。


 クラウン。別の言い方をすれば、多少の御幣はあるが、ピエロと言ってもいい。日本語では道化師と呼ばれる彼らは、見る人々を楽しませることを目的としている。


 クラウンと、その道具たちが、さも糸電話で繋がっているかのように、呼応し、舞う。巻き起こる歓声とともに、この真っ暗な夜空を、全て燃やし尽くそうとしている。


 その炎が立ち上る光の先でただ立ち尽くす僕はふと目を見開いた。
 右を見ても、左を見ても、どこを見ても、どの老人を見ても、どんな幼い男の子を見ても。


 皆、顔が笑っているじゃないか。そこにあるのは、幸せだ。

 今までずっと、思っていた。
 父さんは、サーカスの人間だから、忙しいから。そう言って、僕をほったらかしにしている人間なんだと。最低だと。サーカスなんて、クラウンなんて、存在しなければと思っていた。

 人を幸せにするはずが、一番近い人間すら、不幸にしているじゃないかと、父さんの人格すら否定していた。


 ステージの上で、父さんが笑った。サーカスの間中、ずっと保ち続けている全力の笑顔の中でも、とびっきりの笑顔。
 軽やかなステップとともに、動きは激しくなる。ステージは、ついにフィナーレを迎える。


 全然違うんだ。父さんが自分のために僕を犠牲にしていただなんて、そんな浅はかな言葉で表現するなんて、実に愚かしい。今までずっと父さんは、これだけ大勢の人々を、いや僕もだ、僕も含めたたくさんの人間を、幸せにしようと頑張ってきたんだ。


 クライマックスに花が咲く。そしてステージの三色の光が、滲む。



 狭まる視界に、小さな銀河が脈を打つ。
 網膜に結ばれる像は、いつもとひっくり返り、ぼやけた光は混ざりあう。
 前なんて見えない。どこも見えない。



 でもその世界に、僕の脳が感じ取ったその世界の中心には、一人のクラウンが、堂々と立っていた。