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1話 とある優しい国で ( No.2 )
日時: 2016/01/24 09:09
名前: りあむ* (ID: .pUthb6u)

*とある優しい国で 1



 
「あーもう、めんどくせェ」

 真っ黒装束に身を包み、腕を頭の後ろで組む、不機嫌を隠さない青年が王宮から歩いてきます。

 カッカッと音の鳴る、異様に大きな足。ときどき覗く鋭い眼光、左頬にするりと伸びた前髪。それが彼の、トレードマークのようです。

 今日も、どんよりとした雲がかかり、赤月ののぼる、いつもと変わらぬいい天気です。

 その青年は、見るところ、そんな年かさがあるようには見えません。王宮に入れる身分にも見えません。
 王宮に一体なんの用があったのでしょう。

「ったく、王もよ、旧友だからってなんでも頼んでくれるなよ。しかも、次期王様探しダァ? そんな大役をただの友人ごときに頼んでいいのかよ」

 ああ、そうでした。この国の国民は年を取らないのでした。姿も生まれたときのままです。
 この国では、男と女の間から子が産まれるのではなく、皆、国王の一部から生まれるのです。

 ただし、国の中でただひとり、まさにその王となった国民だけ、王になったその瞬間から年を取り始めるのです。

 今日は、そんな王様の亡くなった日。

 この青年は先程、唯一無二の親友の死を、見守ってきたところなのでした。
 
「しかも、心と外見の見合った、自分よりいい王様だって? はっ、都合良すぎだろ」

 青年の周りに誰かの気配はありません。青年はひとりで、宙に向かって喋ります。
 何か煮え切らない想いを、言葉にぶつけるように。

「……外見なんて、関係ねーよ。お前より、いい奴なんて、どこにもいねーよ……」

 ついに青年の足は止まり、空を見上げました。後ろで組んでいた腕も、前に組み替えます。

「…………」

 何も言わない彼は、じっとそのまま、しばらく立ち続けました。
 その腕の下で、静かに、雫が流れていきました。