コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
- 日時: 2015/07/18 08:39
- 名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)
はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。
今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。
主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。
各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪
ではでは、次のレスから始めていきますよー!
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.30 )
- 日時: 2014/09/16 02:42
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
3
きっと再び紫々死暗は真冬と涙を狙ってくる。
彼の再来に向けて、夏樹と昴を含めた四人は、彼が攻撃を仕掛けて来た時の対策を立てる。
というわけもなく、四人でコンビニの前で話し込んでいた。
高校生の男女がコンビニの前でたむろするのはよく見る光景だが、まさか自分達がそれをするとは思ってなかったのだろう、夏樹は明らかに不機嫌な顔で紙カップのコーヒー牛乳を飲んでいる。
昴は買ってきた漫画雑誌を読み、真冬と涙は女子高生らしくお菓子を食べながらガールズトークに花を咲かせている。
「って、こんなことしてる場合じゃないだろっ!」
夏樹の叫びが夜空に響き渡る。
現時刻は夜の八時過ぎ。
今日は友達の家に泊まる、という嘘のメールを送っているため、梨王や冴子が心配するようなことはないが、それは今はどうでもいいことだった。
夏樹の叫びを聞いた涙は眉間にしわを寄せて、不満そうな声音を隠そうともせず、夏樹に非難の声を浴びせる。
「なによー、近所迷惑でしょ? 一体何が不満だって言うのよ」
「不満とかじゃなくて! 紫々死暗が襲ってくるんだろ!? じゃあなんで俺たちはコンビニの前で遊んでるんだよ! 対策とか立てなくていいのかよ!?」
「別に遊んでないわよ。これを見て、どこが遊んでるって言うのよ!」
言いながら辺りを見渡す涙。
漫画雑誌を読んでいる男子高校生と、お菓子を食べながらガールズトークに花を咲かせていた自分、逆にこれをどう見たら遊んでないと言えるのか。
「……あー」
「遊んでるじゃねぇか!」
言い返せなくなった涙に夏樹が畳みかける。
涙はぷくーっと頬を膨らませて、腕を組みながら顔をぷいっと背けた。
「ええ、そうよ! 遊んでるわよ! それが何か問題あるって言うの!?」
遂には開き直られた。
問題があるから抗議をしているというのに、彼女はそこらへんを理解していないらしい。
「問題大アリだ! アイツはいつ襲ってくるか分からないんだろ? だったら、こんな余裕でいいのかよ!?」
「これは作戦なのよ。話したはずでしょ?」
夏樹は言葉を詰まらせる。
確かに夏樹は涙から今回の作戦の内容を聞かされていた。
紫々死暗の狙いはあくまで真冬と涙だ。涙の話によると、昴も涙と一緒に襲われたらしい。彼にとっては夏樹と昴はオマケ程度にしか思っていないだろう。面白いから追いかけた、その程度のはずだ。
つまり、彼の狙いである真冬と涙、しかも一度取り逃がした夏樹と昴がいれば、彼も狙ってくるはず。という涙の釣り作戦が今回の手だ。
夏樹も了承したはいいが、いつ襲ってくるか分からないので、普通の男子高校生である夏樹としては不安でしょうがない。
「何を心配する必要があるのよ。あたしたちは一度紫々死暗をぶっ飛ばしてるのよ? あんな奴に負けやしないって!」
「お前、一回油断大敵って四字熟語を調べてみろ」
辺りは真っ暗で、奇襲を仕掛けるにはもってこいだ。昴と涙がどういう状況で襲われたかは知らないが、夏樹と真冬の時は奇襲だった。こんな真っ暗な中、奇襲を仕掛けられたら夏樹は全く気付けないだろう。
学校でも窓ガラスを割られて侵入されるまで気付かなかったのだ。こんな暗がりなら尚更気付けない。
それでも、大丈夫だよ、と言わんばかりに真冬が夏樹の右手を両手で包み込む。
真冬の瞳には夏樹を守る、という決意が見て取れる。
男子として女子に守られるのはなんだか情けないが、相手は真冬や涙と同じ『ヴァンパイア』だ。夏樹がまともに相手をしたって勝てる相手ではない。
真冬は夏樹を守る、その代わりに夏樹は真冬に力を貸す。
その約束で夏樹はここにいるのだ。全く役に立たないわけではない。
「大丈夫だよ。絶対に紫々死暗はここで倒す。夏樹くんも昴くんも、危険な目に遭わせたりしないから」
「……じゃあ、情けないけど任せたぜ」
「はい、任されました!」
満面の笑みと敬礼で応える真冬。
久しぶりに見たような気がする彼女の笑顔に、夏樹がノックアウトされそうになっていると、真冬が必要以上に身体を密着させてくるのが分かった。
「……あ、赤宮!?」
夏樹が上擦った声を出す。
いきなり真冬がこんなことをしてくる理由が分からなかったのだ。真冬はぐっと背伸びをして夏樹の耳元に口を近づけた。
「——ちょっと、痛いかもしれないけど、我慢してね」
へ? と夏樹が声を出すより速く、夏樹のうなじにちくりとした痛みが走った。それからは理解することもできず、コマ送りの漫画のように時間が進んでいった。
ヒュン、という風を切る音が聞こえたかと思ったら、夏樹の視界が一回転して気が付いたら、髪の長い『真冬』に抱きかかえられていた。
さっきまで自分達がいた場所には、ギロチンでも使ったのかと言いたくなるような鋭い傷痕がついていた。
「……嘘だろ、コンクリートだぞ……?」
さっきのうなじの痛みは真冬が吸血した時のものだろう。昴と涙も異変に気が付き、あたりに気を配る。
「もしかして、紫々死暗の奴か?」
「いいや、おそらく違う」
夏樹の質問に答えたのは真冬でも涙でもなく昴だった。
「アイツの武器を覚えていないのか? 手に嵌める巨大な爪だった。今のは何処か遠方からだ。少なくとも近距離からの攻撃じゃない」
昴が言い終えると同時、
「うふふ、案外鋭いのねぇ。感心しちゃうわ」
妖艶な声が響く。
夏樹たちが声の方向を探っていると、涙が見つけたのか声を上げる。
「あそこよ!」
夏樹たちが一斉に視線を向ける。
街灯の上に人影があった。月を背にして立つその細い人影は声からも分かる通り女性のものだ。
やがて目が慣れて女性の姿が露わになる。
チャイナ服のようなスリットの入った忍者が着るような衣装に身を包み、長く深緑の髪はセンターで分けており、後髪を一つに結わえている。
胸元、肩、腹を露出しており、見せても恥ずかしくないくらいに見事な体型の美女だ。
冷たい金色の瞳は静かに夏樹たちを見下ろしている。
「ちょっと誤算だったわ。そこの赤い子……その状態じゃない時は戦闘能力が低いんじゃないの? そこの男の子を殺せると思ったんだけど」
女性が残念そうな声で言ってくる。
一方で真冬は、にやりと獰猛な笑みを浮かべながら言葉を返す。
「誰から得た情報か知らんが、それはガセ情報だ。一つ収穫があってよかったな」
真冬の両手に真っ赤な炎が纏う。
「ま、それを次回に使わせはしないが」
「あらやる気? 私、こう見えて結構強いわよ?」
女性の周りで何かがキラキラと光る。ここからじゃ何かよく分からないが、キラキラと光る何かが彼女の武器なのだろう。
「涙、お前は夏樹と昴を安全な場所へ避難させろ。傷一つでも負わせるなよ?」
「ホントにこの時のアンタって頼りがいあるわね。しかし難易度高いっつの。あたしはアンタほどハイスペックじゃないってのに!」
行くわよ、と涙は夏樹と昴を先導する。
変化後の『真冬』を見て昴は驚いていたが、今はそれどころじゃない。涙は昴の服の襟を掴んで走り出す。
「あらら、逃げちゃったぁ。逃がさないわよ」
女性が腕を振るうとヒュン、と風切り音が再び響く。
しかし、女性の見えざる武器は標的に辿り着く前に、真冬によって阻まれる。
「誰を狙っている? お前の相手は私だろう?」
「……あーあ、面倒くさい奴に引っかかっちゃったわ」
女性は忌々しげに舌打ちをした。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.31 )
- 日時: 2015/07/07 12:07
- 名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)
4
涙に先導されながら夏樹と昴は走る。
前を走る涙に夏樹は叫ぶように問いかける。
「おい、一体どうなってんだよ? 敵は紫々死暗だけじゃなかったのかよ!?」
涙によれば真冬たちを狙っているのは紫々死暗だけだったはずだ。夏樹の知る限り紫々死暗はあんな妖艶な女性ではなかった。
全く見ず知らずの女性に襲われ、逃げる羽目になっているわけだが、夏樹は会の女性が何者か知らない昴も同じようで、夏樹の言葉に小さく頷いていた。
涙は前を走りながら答える。
「アイツは紫々死暗が組織する強襲部隊、『アサシン』の一員よ」
「……強襲部隊?」
昴が低く復唱する。
「そ。『天界』で活動している奴らよ。簡単に言えばテロリストみたいなもの。ただの犯罪グループ。強襲っていうだけあって、何人か殺すこともあるみたい」
その言葉を聞いた夏樹は悪寒が走るのを感じた。
さっきあの女性に真っ先に狙われたのは自分だ。もし、真冬の反応が遅れていたら? そもそも、真冬が敵の攻撃に気付かなかったら? 今頃夏樹は死んでいたはずだ。身体にコンクリートを引き裂くほどの傷痕を残して。
口調に少しの焦りを滲ませながら涙は言葉を続ける。
「アイツは『アサシン』幹部の一人。『瞬殺』の荒川芽衣歌(あらかわめいか)。『ヴァンパイア』じゃないけど相当の強者よ。その名の通り、ターゲットの背後から襲うのを得意としてるわ」
涙は人気のないところまで走ると、建物の影になっていてそうは見つからない場所へと身を隠した。夏樹と昴も同じようにする。昼間ならば見つかる可能性は否めないが、こんな暗がりならば大声を出しさえしなければそうは見つからないだろう。
「なあ白波。その強襲部隊は一体何人いるんだ?」
夏樹の質問に涙は太腿に装着していたホルスターから純白を銃を取り出しながら答える。何の装飾もないシンプルなデザインだが、しっかりした重量が見ただけでも分かった。
「正確な人数はよく分かんないけど、幹部だけなら五人よ。でも、一人は頭脳専門だから、戦えるのはぶっちゃけ四人」
「四人か。結構多いな」
「なーに、あたしと真冬にかかればちょちょいのちょいよ! アンタら二人を守るように言われてるしね」
涙は銃のチェックが終わったのか、小さくこくりと頷いた。
「ちょっと敵の微妙な魔力を感じた。ちょっくら行ってサクッと倒してくる! 絶対にそこから動いちゃダメだからね?」
涙がそう言いながら建物の影から飛び出していく。
残された夏樹と昴は遠ざかっていく涙の背中を見送ると、小さく安堵の溜息を同時についた。
「なんとか助かったのか?」
「ああ。涙と赤宮が後はなんとかしてくれるだろ。そういや、桐澤。なんで赤宮は一瞬にして姿が変わったんだ?」
昴は思い出したように、さっき真冬に起こった超常現象を夏樹に聞く。
夏樹も思い出したように、あー、と低く唸ってから頭をかきながら答える。
「すまん、俺も答えられるほど詳しくは知らないんだ。そのことについてはあんまり聞いてなかったし、後で赤宮本人か白波に聞いとけよ」
真冬があの姿に変わったところを二回も目撃している夏樹からしてみれば、今更驚くようなことでもないのだが、やっぱり変化する理由は知っておきたかった。紫々死暗を倒せたら聞いておこう、と夏樹は心に決めた。
その時だった。
遠くの方から、ざっざっと地面を踏みしめる音が聞こえる。その音は徐々に大きくなって——自分達の方へと近づいてい来るのが分かった。
「な、まさか『アサシン』の人間か?」
涙とここまで来た時は周りに人の気配など微塵もなかった。ましてや暗がりで人気の無いような不安を感じさせる場所を通りはしないだろう。
夏樹と昴は建物の影から顔を出して足音のする方向を見る。
確かに自分達の通ってきた道をゆっくりと歩いてい来る人影があった。
今はまだ遠くてその人物の姿は分からないが、おそらくは男性だ。一瞬だけ見えた相手の表情は夏樹と昴を見つめて、不敵な笑みを浮かべている。
そんな近づいてくる男を見ながら、夏樹と昴は冷や汗を浮かべながら、
「……おいおいおい、今赤宮も白波もいねぇぞ……? どうすんだよ……」
「どうするって……俺が知るかよ……」
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.32 )
- 日時: 2014/09/21 02:05
- 名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)
5
ヒュンヒュン、と連続で空気が裂ける音をする。
そんな不可視の攻撃を、真冬は長く赤い髪を靡かせながら回避する。標的がいなくなった深しの攻撃が地面に鋭い傷跡を残す。
「んもぅ、また逃がした! 本当にすばしっこいわね、前世はネズミかなにかだったんじゃないの?」
漆黒の夜に包まれた公園の街灯の上で『天界』に存在する強襲部隊『アサシン』の幹部である『瞬殺』の荒川芽衣歌は忌々しげに舌打ちしながら言う。
彼女の見下ろす視線の先には真紅の髪を夜風に靡かせている赤宮真冬がいる。彼女も髪と同色の瞳で、射抜くように彼女を睨み付けている。色とは対照的に、その瞳からは冷たさしか感じられない。
二人は夏樹たちが逃げ出した後、なるべく人目につかない場所へと移動したのだ。ここに来てまだ数日しか経たない真冬だが、以前夏樹が近くの公園にはあまり人がいない、と言っていた。それを思い出して、芽衣歌の攻撃をかわしながらうまく公園へと誘導したのだ。
真冬は小さく息を吐く。
ここへ誘導することに気を取られていたのか、それともただの実力なのか、真冬の身体にはいくつかの切り傷があった。芽衣歌の不可視の攻撃によってつけられたものだ。
何度か攻撃を受けたことで、真冬は芽衣歌の武器がなんなのかの検討がついていた。
明らかに不機嫌な表情を壁ている芽衣歌に真冬は呟くように言う。
「……ワイヤーか」
「っ!?」
武器を見抜かれた芽衣歌は驚いたような表情をした。どうやら見抜かれるとは思っていなかったらしい。
彼女の『瞬殺』たる所以はワイヤーによる目にも留まらぬ殺人術だ。よって普段の彼女では今のような戦いは本業ではなく、むしろ控えたいものだ。
「ふふ、何回か受けたことで分かっちゃった? そう、私の武器は特製の鋭いワイヤーなのよ」
彼女が腕を動かすたびに、周りでキラキラとワイヤーが光る。
真冬が彼女を見つめながら、
「ワイヤーが武器なら、本来はこういう戦い方はしないんじゃないのか?」
「そうね、本来ならしないわ。でも、現実って何が起きるか分からないじゃない? もしもに備えるのもいいわよねぇ?」
芽衣歌が腕を振るう。
それと連動してワイヤーが襲い掛かる。微妙な角度で繰り出されたワイヤーは光に照らされることなく、真の不可視の攻撃となった。目視できる範囲まで動かなかった真冬は、何とか直撃は防いだが、左腕に今までよりも深い傷を残す。
「くっ……」
「チマチマしたやり方だけど、奇襲しか出来ないような奴が、『アサシン』で幹部やってるなんて思わないことね」
真冬は左腕の傷の深さと、今まで自分が受けた傷を確認すると、ニィ、と獰猛な笑みを浮かべながら芽衣歌を見上げた。普段の彼女からは考えられない笑みだ。
「それなりの実力者で良かったよ。本当は紫々死暗の時まで温存しておくつもりだったんだが……」
真冬は心底残念そうな口調で告げる。
「出し惜しみするとこっちがマズそうだ」
その言葉に嫌な予感がしたのか芽衣歌は素早く腕を繰る。
彼女の腕に連動して動いたワイヤーが風を切る音を鳴らしながら真冬を取り囲んでいく。
「何をしようとしてるか分からないけれど……これでどう!?」
芽衣歌が開いていた掌を閉じ、ぐんっと腕を引き寄せる。すると、真冬の周りに巡らされたワイヤーが真冬の身体を強く縛る。肉を切らない寸前の力で止めているのか、少し引っ張られただけでも身体を引き裂かれるだろうと予想させるように、ワイヤーがきりきりと軋んでいる。
「ふふ、奥の手があったようだけど、動けなければどうもできないわよねぇ?」
こんな絶体絶命な状態の中、真冬が取った行動は一つだった。
か細く、溜息をついた。
あまりの場違いな行動に芽衣歌がぎりっと歯を食いしばる。
彼女が怒りの言葉を発するより速く、真冬が小さく言葉を紡ぎ出す。
「……私には優秀な友人がいてな。『ヴァンパイア』の炎の使い方を学んだものだ。今は、もういないがな」
瞬間、ボッ!! と真冬の全身から真紅の炎が噴き出す。
しかし、その炎は真冬の身体や衣服は全く焼くことはなく、彼女を戒めていたワイヤーだけを焼き払っていった。
「な、なによそれはっ!?」
「これだけじゃまだお前を倒すのに足りない。だから、大技を二つも使うのは嫌だったんだ」
言葉が終わると同時、真冬の背中から真っ赤な翼が生える。その翼は炎で形作られている。
今の真冬の姿に恐怖した芽衣歌は、声を震わせながら叫ぶ。
「し、知らないっ! リーダーは……死暗はこんな技を使わない!!」
「使わないんじゃない。使えないんだ。高等技術だからな」
真冬は炎の翼を羽ばたかせながら芽衣歌へと突っ込んでいく。
赤宮真冬と白波涙の違いは一つ。
吸血鬼化する際に、姿が変わるか変わらないかしかない。
白波涙のような変化しないのは『同一型』といい、吸血しなくてもそれなりに炎が生み出せ、常時戦える『ヴァンパイア』をそう呼ぶ。
一方で、赤宮真冬のような変化するのは『覚醒型』といい、戦う際には吸血が必須となる。この型は常に契血者(バディー)が必要となる。
しかし、『覚醒型』はデメリットが多い反面、『同一型』と比べて高い戦闘能力を誇る。
涙が逃げる際に『アンタほどハイスペックじゃない』と言ったのはこのことである。
よって、真冬は吸血した分の血を炎に変えて使ってしまうと、連戦が難しくなる。
迫りくるワイヤーを全身に纏った炎で焼き払いながら一瞬にして芽衣歌の目の前へと到達する。
真冬は彼女の服の襟を掴む。
「ひっ……!」
「かつての私の目標はその友人を越えることだった。だが今は違う」
真冬が力強く咆哮しながら芽衣歌を街灯から引き離し、そのまま地面へと叩きつけるように投げ飛ばす。
「い、いやあああああああああああっ!!」
芽衣歌は悲鳴を上げながら降下していく。『ヴァンパイア』ではない彼女は、地面に叩きつけられればそこで戦闘不能だ。
ワイヤーを街灯に巻きつけようと腕を繰るが、空を自在に駆ける真冬にワイヤーを焼き払われてそれも叶わない。
抵抗虚しく芽衣歌の身体が地面に叩きつけられる。が、真冬がそれほど強く投げ飛ばさなかったのか、芽衣歌にそれほど強い衝撃はなく、彼女は地面に叩きつけられるというショックで失神している。
着地した真冬は全身を包む炎と翼を消して、失神している芽衣歌を見下ろしながら告げる。
「私の今の標的は、友人を殺した青の『ヴァンパイア』だ。お前なんかにやられるようでは、それは一生叶わない」
真冬は星が浮かぶ夜空を見上げる。
紫々死暗は自分達四人を仕留めるために『アサシン』を使ってきた。一人目は倒したが、頭脳派の幹部を除けば紫々死暗を除いて残り二人。
だとすると、涙一人で夏樹と昴の二人を守りきるのは難しい。
「……急ぐか」
真冬は夏樹たちが逃げたであろう方向へと走っていく。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.33 )
- 日時: 2014/09/28 04:18
- 名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)
6
ゆっくりと近づいてくる男の前に、特にどうするべきか思いついたわけではないが、夏樹は反射的に飛び出していた。
それを見た昴は驚いて止めようとするが、それが結果的に自分も物陰から姿を現してしまう形になり、夏樹を連れ戻して隠れる、という作戦が仕えなくなってしまい、夏樹の隣に立って近づいてくる男に視線を向ける。
男は二人に気付き、距離が十五メートルほど離れた位置で止まる。
余裕を見せている男に昴は、小声で話しかける。
「……おい、どうすんだよ。なんでお前姿現したんだよ」
「仕方ねぇだろ。アイツ、俺たちの存在に気付いてたし」
だからってなあ、と昴は溜息をつく。
相手に存在がバレているのだから、隠れていても無駄だろう、というのが夏樹の考えだと昴は思った。そして、それはおそらくその通りだろう。
昴はこちらへ歩み寄って来ていた男をじっと見る。
建物の影から見ていた時とは違い、今はまだ距離が近いためか相手の容姿がなんとなく確認できる。
年は二〇代程度だろう、控えめな黒い髪に眼鏡を掛けている。執事のような恰好をしており、立ち姿も真っ直ぐで、間違っても強襲部隊などという物騒な組織とは無縁に思える男だ。
武器らしきものは今はまだ確認できないが、どこかに隠しているかもしれないため、迂闊に近づくこともできない。
夏樹と昴が相手を警戒していると、男は優しい口調で二人に語り掛ける。
「随分と怖い顔をしていますね。私程度の人間に、それほど警戒はしなくても結構ですよ」
「……それは謙遜か?」
昴の問いかけに男はくくっ、と小さく笑った。
「いえ、そういうわけではございません。ただ、警戒しても何も出来ずに終わるから、という意味で言いました。たかだか普通の高校生が、私たち『アサシン』に適うなどと思ってはいないでしょう?」
男の馬鹿にしたような言い方と表情に昴は不満を覚えるが、夏樹はいつも通りの口調で答える。
「当たり前だ。俺たちはただの喧嘩がちょっと強い程度の高校生だからな」
「なら何故私の前に立ちはだかるのです? 私は貴方達の方へ歩いていただけで、何もしなければそのまま見過ごすつもりでしたよ」
もちろんそんな保証はない。今更隠れ直して相手が通過するのを見送る、というのも出来ないだろう。
「見過ごすって、俺たちをスルーしてお前は何処に行く気だったんだ?」
「無論、赤宮真冬もしくは白波涙の攻撃に。当初の予定は彼女二人、貴方達はただのついでに過ぎませんので」
「だからだよ」
男は夏樹の言葉に眉をひそめる。
夏樹はびしっと男を指さして言う。
「お前が赤宮か白波のどっちかを狙うって分かってたから、俺はお前の前に出て来たんだよ。力不足を承知でな」
勝算があるわけでもない。何か策があるわけでもない。不思議な力が使えるわけでもない。だが、自分達を守るために戦ってくれている女の子が攻撃されると分かっていて、夏樹は素直に引き下がることは出来なかった。たとえ、相手が自分よりはるかに強い相手でも。
「赤宮と白波は俺たちを守るために戦ってくれている。そこでお前を見逃せば、あの二人が不利になる可能性がある。だったら!」
夏樹は右の拳を自分の左の掌に打ち付けると、獰猛な笑みを浮かべて、
「あの二人が少しでも戦いやすいようにする! それが今の俺たちにできるアイツらへの支援だ!」
男はやれやれ、といった調子で溜息をつくが、夏樹の隣にいた昴は笑みを浮かべながら息を吐いた。
「ったくお前は……いいぜ、俺も付き合ってやるよ。せいぜい足を引っ張らねぇことだな」
昴は腕を組みながら男を睨み付ける。
そんな昴を夏樹は横目で見ると、
「おいおい、無理すんじゃねーよ。さっきビビりまくってたじゃねーか。怖いなら隠れてていいんだぞ?」
「誰がビビりか! お前だって実は怖いんじゃねーのか? 『なっちー』とかいう女々しいあだ名はすっこんどけ!!」
「んだと!? お前だって『ばるっち』じゃねーか! どこぞのゆるキャラみちなあだ名しやがって!!」
「付けたのは俺じゃねぇだろ! お前の幼馴染じゃねーか!」
「じゃあ俺も悪くねぇだろうが! なんで俺が悪いみたいに言われてキレられてんだよ!?」
「今はニックネーム関係ねぇだろ!? お前が俺がビビってるとか言って喧嘩売って来やがったのが悪いんだろ!」
「だったら買わなきゃいいだろ!? こうなることは分かってただろうが!!」
突然言い合いを始めた二人に、男は呆れ返っていた。
いきなり闘志を見せたかと思えば些細なことで言い合いに発展し、今は隙を見せている。これは簡単に二人を討ち取れる。
そもそも彼——『アサシン』の一員である数藤九郎(すどうくろう)は本来はあまり強襲に加わらない。頭脳禅門の『アサシン』の幹部とともに作戦を立てるのが主な仕事である。
今回の出撃は紫々死暗が『普通の高校生ならお前でもやれる』と言ったからである。闘志を見せた時は少しヒヤッとしたがこの分なら問題無い。
自分の磨き上げた足技ですぐに決着をつけてやれる。
「……愚かですね。『殴殺』の私、数藤九郎の前で隙を見せるとは!」
九郎は二人の距離を一気に詰める。彼の武器は足技だけではなく、その素早い走りもある。九郎は二人を自分の蹴りの射程に収める。
「すぐに終わらせてあげます! ご安心を。貴方達は殺さないように、私から死暗さんに掛け合って——」
瞬間、
「っるせぇんだよ、今取り込んでんだろうが!!」
夏樹の右拳が顔面に、昴の蹴りが鳩尾に、それぞれ同時に叩き込まれ、九郎の身体は後方へと勢いよく吹っ飛んでいく。
そのまま九郎の身体はずざざー、と数メートル滑って停止する。九郎はピクリとも動かなくなる。大の大人でも顔面と鳩尾に一発ずつ食らったら相当なダメージらしい。
九郎は両の鼻の穴から血を流して、白目をむきながら気絶している。
「……なんかよく分からんが……」
「……倒せた、みたいだな……」
いえーい、と特に感慨もなくハイタッチをかわす夏樹と昴。
「夏樹ー、昴ー!」
そこへ、一足遅く真冬が赤く長い髪を靡かせながら駆け寄ってくる。
「無事か!? どこも怪我してないか? 痛いところはないか? 血を流したりしてないか? 無事だな? 無事なんだろうな!?」
早速まくしたてる真冬に、夏樹は落ち課せるように肩に手を置くと大丈夫大丈夫と表情を引きつらせながら言う。
「俺たちは無事だから。ついさっき『アサシン』の一人を倒したところだよ」
なに? と驚く真冬は執事服の男が転がっているのを見て、あー、と納得したように小さく声を洩らした。
しかしそこで冷静さを取り戻し、
「待て、じゃあ涙は何処に行った!?」
「『ちょっくら行ってサクッと倒してくる! バイビー☆』って言って行った」
「『バイビー☆』は言ってねぇだろ」
昴の言葉に夏樹はツッコミを入れる。
真冬は昴の言葉を聞くと、額に手を当てて盛大な溜息をついた。
「……アイツ、なにを勝手な……」
「ま、まあ俺たちも無事だったんだし、今回はいいじゃねぇか!」
「とりあえず今は涙と合流するのが先だ。向かう道中、赤宮の姿が変貌するカラクリを教えてもらおう」
それ俺も知りたい、と夏樹は昴の提案に賛成の意を示した。
二人の緊張感に欠ける言葉に、真冬は小さく溜息をつきながら、
「ああ、いいだろう」
諦めたように笑みを浮かべながらそう言った。
「……しかしお前ら、もうちょっと緊張感を持ってだな……」
控えめに呟かれたその言葉は、漆黒の夜空に消えていった。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.34 )
- 日時: 2014/09/28 18:16
- 名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)
7
「で? リーダーの紫々死暗は何処にいるのかな〜? ねえ、おにーさん? 教えてくれると、涙ちゃんとっても嬉しいんだけどぉ?」
「あだだだだだ!! 痛い痛い!! た、頼むから足をどけてくれ……!」
一方で微妙な魔力を感じ、倒しに行った涙はおそらく敵であろうちょび髭を生やしハットを被った男の顔を足で踏みつけている。
彼女の表情はとてもにこやかなもので、間違っても人を踏みつけている時に見せるような表情ではない。涙の右手には装飾の無いシンプルな純白の銃が握られている。
涙は片手でそれをくるくると回しながら、
「え〜? もっと踏んでくれって〜? もぉ〜、おにーさんったら変態さん? そんなに欲しいなら……」
涙は足を上げる。
ようやく拷問から解放されたと男は安堵の息をついたのも束の間、上げた足が次は勢いよく振り下ろされた。地団駄を踏むように何度も相手の顔を踏みつける。いつか表情は笑顔から汚物を見るような感情のない物へと変わっている。
「あだっ、ちょっ、まっ……!」
男の制止を聞こうともせず、涙は地団駄を踏むように何度も何度も踏みつける。
「いいからとっとと教えろっつってんでしょーがッ! このエロ野郎が! なに、なんなの? 足フェチ? うわっキモっ! とっとと紫々死暗の居場所教えてあたしの前から消えてくんない?」
涙の罵声と拷問に耐えながらも男は意識が遠ざかりながらも、腰にあるホルスターから短銃を引き抜く。
その銃口を涙に向けた瞬間、男の鼓膜に銃声が響く。が、その銃声は男の銃から発せられた音ではない。男の行動に気付いた涙が、自分の銃で男の銃の銃口を撃った音だ。
男の銃は内側から破裂し、男の手に痛々しい傷痕を残した。
「ぐあああああああああっ!?」
「無駄な抵抗はやめなさいよ。そもそもあたし相手に銃で挑むなんて一〇〇年早……いや、一〇〇〇年? やっぱ一〇〇年でいいや。一〇〇年早いわよ」
涙は男の顔から足を離す。その代わりなのか、次は銃口を男のこめかみに当てる。それから感情のない瞳で男を見つめながら尋ねる。
「で? もう一回だけ問うわ。紫々死暗は何処? 答えないと……どうなるか分かるよね?」
男はひっ、と喉を鳴らした。
恐怖のせいなのか、相手に口止めをされているのか、中々口を割らない男に涙は溜息をつきながら、
「さーん」
三秒のカウントダウンを始めた。
その瞬間、
「し、知らねぇんだ! 俺たちも、アイツが何処にいるかなんて! 全く聞かされてねぇんだよ!」
男の叫びが夜空に響く。
言葉尾聞いた涙は眉間にしわを寄せながら、銃を惹き太腿のホルスターにしまう。恐怖が顔に貼りついた男にはもう興味を示してないのか、腰に手を当てて溜息をつきながら辺りを見回した。
「……知らない? 仲間にも教えてないってこと……?」
顎に手を添えて考え込む涙を、背後から少女が呼ぶ。
「涙」
声に振り返ると夏樹と昴を連れた真冬がこちらへと駆け寄ってきていた。
「あら真冬、随分と早かったわね。夏樹くんと昴とも合流できたようね」
「できたようね、じゃない。なに私の命令無視して二人から離れてるんだ。お陰で『アサシン』メンバーに攻撃されてたんだぞ?」
なんとか撃退したみたいだが、と付け加えながら涙の胸倉を掴む真冬。涙は苦笑いしながらわざとらしく頭をかいている。
「あ、あははー、いいじゃん……なんともなかったんだし……」
「そういう問題じゃないだろ!」
今にも涙に噛みつきそうな表情をする真冬を落ち着かせるように、夏樹は無理矢理に話題を変えようと涙に話しかける。
「で、でさ、紫々死暗は何処にいるんだ?」
真冬が涙の胸倉から手を離すと、涙は乱れた胸元を直しながら、
「それがそこのオッサンも分かんないんだって。おそらく他の奴らに聞いても同じ答えが返ってくるでしょうね」
涙は頭の裏で手を組みながら、つまらなそうに答えた。
「だが奴が動き出していることは間違いないだろう。きっと高みの見物でも決め込んで——」
「ほォ、『アサシン』を全員潰しやがったのか。やるじゃねェか」
突如上方から声が聞こえる。
声の方を見上げると近くにあった廃ビルかの屋上に人影がある。
大きな爪に黒い忍者のような装い。間違いない、紫々死暗だ。
「……紫々、死暗……!」
真冬が睨みつけながらその名を呟く。
死暗はキヒヒ。と不気味に笑うと真冬、夏樹、涙、昴と準に睨みつけるように視線を向ける。
「全員割とピンピンしてんじゃねェか。ホントに役に立ってねェな、オマエラは!」
死暗の視線は無様に転がっているハット帽の男に向けられていた。おそらく他の二人も同じように転がっているだろう姿を想像して、嫌悪感を滲ませた瞳で見下ろしている。
そんなハット帽の男と死暗の間を真冬が割って入る。
「部下を使って私たちを倒す算段だったようだが残念だったな。私たちを殺したければ、お前が直接来た方がいいんじゃないのか?」
「それともなーに? ビビってるの?」
涙が死暗を煽るように挑発する。が、死暗はそれを気にもしていないようで、
「キハハハハハ! ほざきやがる! 確かに俺はビビってたさ。だから、安心してお前らを殲滅出来るように——」
死暗が巨大な爪を装着した右手を上に掲げる。すると、どこから湧いてきたのか、死暗のものと比べれば少々地味な黒装束の男たちが真冬たちを取り囲む。
「なっ……!?」
「何よこいつら!?」
突然の敵の襲来に狼狽する真冬たち。
そんな彼女たちを眺めて、死暗は愉快そうに笑う。
「キハハハハハ! お前らを潰すために用意した『アサシン』幹部候補の精鋭どもだ。その数一五人足すことの……」
言いながら死暗がビルの屋上から飛び降り、鮮やかに着地する。飛び降りた高さにも関わらず、着地した時の足音はほとんど聞こえなかった。
「俺一人だ」
「全員で一六人か……。ならばそう言え、いちいち面倒臭い」
真冬、涙が臨戦態勢に入り、夏樹と昴も出来るだけ足を引っ張らないように構える。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
この掲示板は過去ログ化されています。