コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 下校部アナザーワーク!
- 日時: 2016/01/24 22:45
- 名前: ガッキー (ID: 9i/i21IK)
ガッキーです。とある高校の男女が、有意義な下校をする青春コメディ!を目指しています。
コメント、随時お待ちしております(‾+ー‾)
帰宅部オーバーワーク!と併せて読むと、更に面白くなるぞ!(宣伝)
更新は不定期的ですが、頑張ります。
Page:1 2
- Re: 下校部アナザーワーク! ( No.1 )
- 日時: 2016/02/04 23:16
- 名前: ガッキー (ID: 0llm6aBT)
下校部。
帰宅部とはまた違う、下校する事自体に意味を見出す部活。
それは、俺の高校にある部活だ。
と言っても、創ったのは俺だ。少し格好良く言えば創設者って感じか。
ただ平凡に帰宅するだけじゃ詰まらない。毎日行う帰宅という行動に、ちょっとした遊び心を加えようじゃないか、と。そんな思いで創った部活だ。俺自身、最初この部活を思い付いて、担任に話を持ち掛けた時は自らの正気を疑った。俺は何を言っているんだと。
勿論、担任にも友達にも止められた。
だが、しょうがないだろう?火事はすぐに鎮火出来ないように。高速で動く物体が急には止まれないように ーーいや、俺の場合はもっとだ。
何をされても止まらない。
一度俺の中に芽生えたこの想いは、止められなかったのだ。
めげず、挫けず、諦めず。活動を始めた一年生の頃から約二年。俺の努力は報われた。
「・・・・・・よし、土手。お前の熱意はよく分かった。そこ迄するんだったら、やってみなさい」
三年生の四月頃。教師が遂に折れた。
因みに、先程から地の文を務めさせてもらっている俺の名前は。
土手・帰路(どて・かじ)だ。名前からして帰りたそうだろう?
・・・話を戻そう。
かくして、俺が考えた冗談みたいな部活『下校部』は、この高校に設立されたのだった。
そして、今。
「『下校部』です!部員募集してま〜す!」
「あっ、そこの君!『下校部』に興味無いか?・・・あ、無い」
「おっ、君!『下校部』に似合う良いガタイだなぁ!な?見学だけでも・・・行かない」
俺は学校の正門前で、チラシ配りをしていた。十二色のカラーペンをふんだんに使った自作のチラシを、ニコニコ笑顔で。
しかし、結果は良くない。話し掛ければ困り顔で逃げられ、チラシを渡そうとすれば華麗にスルーされ。
嘘だろ、と言いたくなる。二年程の月日を費やして創った『下校部』は、誰の興味も惹かない、誰の目にも留まらない程度のモノだったのか。
誰か一人位興味を示したって良いじゃないか。と、俺は心の中で勝手に憤慨する。
けれども。
仕方無い、のか。
所詮はこの程度だったって事だ。サッカーや野球、テニスにバスケ何かに比べたらマイナーもマイナー。知名度が低い所の話じゃない。この高校限定の部活だ。そんな得体も活動内容も知れない部活に人が入る訳が無かったのだ。
自分で思って自分で考えた事実に割と傷付き、項垂れ、溜め息を一つ。
「・・・・・・戻るか」
自分の教室へ。「絶対、新入部員を入れてみせるからさ!」と俺が自信満々に言ってしまった親友の居る教室へ。
「で?新入部員は獲得出来たのかな?」
「うぐぅッ・・・ま、まだ初日だ。心配は要らない」
「心配なんてしてないさ。憐れんでいるんだよ。『絶対、新入部員を入れてみせるからさ!』って爽やか笑顔で正門に走っていったボクの親友をね」
「ぐあァッ」
「大体、現実的に考えようよ。その、何の工夫も無いチラシと、特にそれと言った技術が有る訳でも無い君の話術だけで、『あっ、この部活楽しそう!』って思うお目出度(めでた)い頭の新入生が一体どれだけいるのだろう、てね」
「ゴハァッ」
「実績も無ければ、歴史も無い。おまけに部員も居ないときた。そんな部活に何の魅力がある?いや、無いね。寧ろボクはーー」
「ちょ、ちょっと待てよ!言い過ぎだろどう考えても!俺の精神がガリガリ削られてるんだが!?」
「削っているんだよ。そうまでしないと、君はまた無謀な行動に走りかねないからね」
「・・・・・・分かった、もうやらないから。その舌剣をしまってくれ」
「何をやらないのかな?」
「・・・無謀な行動」
「分かればよろしい」
言われた瞬間、机に突っ伏した。肉体的な疲れと精神的な疲れが同時に押し寄せて来たような感じだ。朝のチラシ配りと、親友からの容赦無い罵倒。
後者の方が圧倒的に俺の身体に負担を掛けているな。恐らく。
景色の向こうへと落下を始めた太陽は少しばかり橙色に色付き、その眺めを見ながら俺は小さな声で言った。
「・・・何がいけなかったんだ」
「『下校部』を創った事じゃないかな?」
「止めてくれ。これ以上俺をイジめるな。第一、悠里は俺の考えに賛成してくれたんじゃないか」
悠里とは、今俺の目の前にいる親友、中原・悠梨(なかはら・ゆうり)の事だ。
「賛成はしてない。反対しなかっただけだよ」
「それだけでも嬉しかったんだよ。俺は」
「はいはい。それに、ボクと君が出逢ったのは一年の中盤からだろう?もうあの頃の君は『下校部』についての考えを固めていたじゃないか。一度走り始めたら止まらない君を、止めたくても止められなかったんだよ」
あれ?可笑しいな。親友がいつもより冷たい。言葉の一つ一つに鋭さを感じる。いつもなら「まぁ、それが君の良い所ではあるんだけどね」とか何とかフォローを入れる筈なのにな。
「君が部活を始めたら、ボクは誰と帰れば良いんだい?」
「だから、その事に関しては妥協案を出しただろ?」
出逢って、仲良くなってから毎日下校を共にした俺と悠梨。しかし俺が部活を始めてしまうと、悠梨は一人で帰らなければならなくなってしまうのだ。
そこで提示した妥協案。それはーー
「『下校部に入る』だったかな?お誘いはとても嬉しいけど、ボクは部活をしている暇は無いんだよ。ボクがどれだけ自宅が好きなのかを忘れた訳じゃないよね?」
「それは!知ってるが・・・」
嫌と言う程。悠梨が、家の空気が恋し過ぎて早退する程の自宅好きなのを俺は知っている。
しかしまぁ、それが悠梨の良い所なんだけどな。家に帰りたいって思えるのは素敵な事だ。
と、先程入れてくれなかったフォローを俺が代わりに入れておく。
悠梨が窓の外に視線を移す。景色を見ているのか、それとも、その視線はただ虚空を見詰めているだけで、脳内は『帰りたい』の一言で埋め尽くされているのか。俺には分からない。
しかし、『帰りたい』と口にしないのが彼女の良い所だ。フォローではなく、本心からそう思う。
時刻は放課後にも関わらず、親友は俺の話にも付き合ってくれている。
俺の今日の行いに、キチンとした駄目出しーーもといアドバイスをくれる。
こんな、無鉄砲で向こう見ずな俺に、正面から向き合ってくれる。
・・・いやぁ、文字にすればする程、俺は良い友人を持ったな。と思う。
「よし、今日はありがとうな」
「どういたしまして。・・・って、ボクとは君はそんな間柄じゃないだろう?」
「?」
「親しき仲にも礼儀あり。という慣用句はボクと君との間には不要な言葉さ。礼を言わずとも知れた気心、わざわざ言葉にしなくても良いじゃないか」
「・・・お前、格好良いな」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
悠梨が、机の横に掛けておいた鞄を手に取り立ち上がり、背筋を伸ばした。その際に、綺麗で白いお腹が見える。
「お腹見えてるぞ」
「おや、これは失敬・・・・・・」
それから、黙り込む悠梨。間にしては開き過ぎていたので「どうした?」と声を掛けた。
「いや、もう少しサービスした方が良かったかなと思ってね。ほら、君はヘソフェチだろう?」
「読書様の脳に有りもしない俺の性癖を埋め込むな!」
俺の性癖はもう少しありきたりなヤツだ!
「帰ろう。家がボクを待っている」
「・・・そうだな」
下校するには丁度良い時間だ。今日は、今日だけは、下校部としてじゃなく、生徒として帰る事にしよう。
明日からは、部員と帰ってやるからな!
ここだけの話、思想と言い台詞と言い、本当に悠梨は『下校部』のエースになるべき逸材だと思うのだが。
- Re: 下校部アナザーワーク! ( No.2 )
- 日時: 2016/02/04 23:16
- 名前: ガッキー (ID: 0llm6aBT)
という訳で、二日目。俺が昨日のチラシ配りで学んだ事は一つ。
朝だと、HRという名の時間制限があるという事だ。
そこで俺が考えたのが、『放課後にやっちゃえば好きなだけチラシ配りを出来るんじゃないか』作戦。
・・・完璧だ。自分の才能が恐ろしくなる。
まぁ、悠梨には反対されたけど。
「何で駄目なんだ?」
HR迄はまだ時間がある、朝。読書やゲームの趣味がある訳でもない俺と悠梨は、暇を持て余している為だらだらと話していた。
そこで、俺が考えた案を話したのだが・・・、清々しい笑顔で瞬く間に却下された。自分の案を他人から無下にされたら、誰だって気を悪くする。俺は悠梨に理由を問うた。
「君は本当に馬鹿なんだね」
「否定はしないが、面と向かって言うんじゃない。傷付くだろう」
「傷の痛みと関連付けて覚えさせないと君は忘れてしまうから、仕方無くだよ」
「忍者か俺は」
忍者は、課せられた任務の内容を忘れない為に、自分の身体に傷を付けてでも覚えたらしい。
諸説あり。
「昨日あれだけ失敗しているのに、何故君は懲りないんだい?それさえも忘れてしまったのかい?」
「流石に憶えてるって・・・」
昨日の悲惨さを思い出し、項垂れる。悠梨はそんな俺の仕草に構わず話を続ける。
「良いかい?ボクが今から君に言う言葉は、忠告じゃない。警告だ。・・・『これ以上部員を勧誘するな』」
「その心は?」
「この学校での君の地位が危なくなる」
「そんなの気にしていられるか」
「君には友達が沢山いるだろう?その友達が、皆寛容な性格だとは限らないんだよ。友達の噂一つで縁を切るような奴等だ。果たして、君には昔のボクみたいにボッチになる覚悟はあるのかな?それとも、君のどんな噂も気にしない程の固い友情で繋がった友達でもいるのかい?」
悠梨の警告を聞き終えてから、俺は可笑しさに思わず鼻で笑ってしまう。
「それならいる」
「へぇ?是非ともボクに名前を教えてくれよ」
俺の言葉を疑ったのか、怪訝な表情で更に問うてきた。
だから俺は、
「悠梨」
即答。俺は真顔で一言、悠梨に言った。
恐らく、今までもこれからも出逢った事も出逢う事もない、最高の親友が。俺にはいる。
俺は良い友達に恵まれたなぁ、とか頭の中で考えていたら、悠梨が話し掛けてこない事に気付いた。いつもなら、「ふんっ。果たしてボクが、本当に君が思っている通りの人間だと思っているのかな?君の知らないボクは極悪人かも知れないのに、よくもまぁ真顔でそんな恥ずかしい事を言えたものだよ」とか言いそうなのに。
それにしても、俺の中での悠梨の評価が滅茶苦茶だ。
「・・・どうした?」
「き、君のそういう所、嫌いだよ」
「?」
声を詰まらせながら、悠梨が俺に言う。何だ?顔真っ赤にしちゃって。何かあったのだろうか。俺の台詞のクサさに笑いを堪えているのか?
だとしたら、俺は相当恥ずかしい奴なのだが。
俺的には、結構決まったと思ったんだけどなぁ。残念だ。
「・・・今日は、もう帰らせてもらうよ」
不意に、悠梨が鞄を持って立ち上がって一言。まだHRも始まっていないと言うのに。どうしたのだろうか。
「え、どうしたんだいきなり。具合悪いのか?」
「うん、少し熱が出たみたいだ」
確かに、顔が赤い。突発性の風邪とかそんなだろう。多分。
「悪かったよ。流石にクサ過ぎたよな。反省する」
両手を合わせて、軽めの謝罪。俺の台詞で風邪を引くとか、俺の台詞にはどんな威力が秘められているんだ。そういう能力なのか。
「・・・寧ろ、気分は最高なんだよ」
「ん、何か言ったか?」
「ううん、何も。それじゃあ、また明日」
「おう、お大事にな」
ポツリと小声で、悠梨が何かを言っていたような気がするのだが、俺の耳には届かなかった。気のせいだろう。
足早に教室を出て行く所を見るに、相当の熱なのかも知れない。悠梨には、大好きな家で安静にしていてほしい。教師には、俺から伝えておこう。
「・・・あれ?まさかこれって」
話す相手が居なくなった事でボーッとしていたら、重大な事に気が付いた。
悠梨が帰った今、俺のチラシ配りを止める人はいないんじゃないか?
「クックック・・・!悠梨よ、次に学校に来たら驚くだろうな!」
『下校部』の部員の多さに!
流石に、アレからすぐ実行する訳にはいかなかったので、約束通り放課後。チラシを持って正門前で配ってみる。
しかし、というかやはり。結果は芳しくはなかった。
何故だ。俺の何が駄目なんだ。チラシに『来たれ下校部!』とか書いちゃってるのが駄目なのか。それとも、笑顔が足りないのか。パンチが足りないのか。
人手が足りないのか。
部員が欲しいのに、それを獲得するには人手が足りない。人手が足りなければ、新入生の一部にしかアピールが出来なくなり、成果が上がらない。
ううん・・・悠梨の言う通りだったのだろうか。
思えば、そうだ。親友の警告を無視してまで、俺は何をしていたんだ。部活よりも、大事なモノがあるだろう。
『大事なモノ』とは、もう読書の皆様なら気付いているだろう。今までもこれからも、出逢った事も出逢う事もないであろう最高の親友、悠梨との友情だ。
ははっ、あんなにクサい台詞を吐いておいて、この様か。俺は何て恥ずかしい奴なんだ。
帰ろう。部活なんか関係無い。帰って、悠梨に謝ろう。お前は正しかった、と。愚かな俺を許してくれ、と。
俺自身への怒りが力加減に影響し、チラシを少し強めに鞄に詰めてしまう。その事については特に何も思わず、チャックを閉めて歩き出す。放課後なので、そのまま俺も帰るだけだ。
クイッ。
「・・・?」
二歩、三歩と進んでから学ランの袖が引っ張られる。振り返ると、
女の子がいた。
セミロングに、クリーム色の髪色。何だ?と問うと、「あ、あの・・・!」とオドオドしながら何かを俺に伝えようとしていた。深呼吸をして、言おうとしたらタイミングを間違え、深呼吸をやり直して、もう一度言おうとしたら、恥ずかしさで顔を隠してしまい。指と指の隙間からこちらを見ていた。
「落ち着け。ゆっくりで良い。待ってるから」
「わ、分かりました・・・ーーあの、」
「あぁ」
「『下校部』に、興味があるんですけど」
- Re: 下校部アナザーワーク! ( No.3 )
- 日時: 2016/02/14 18:26
- 名前: ガッキー (ID: 9i/i21IK)
今日はバレンタイン!という事で、本編とは関係無い話を一つ投下したいと思います。時系列的には、二年生の頃のお話です。
では!
- Re: 下校部アナザーワーク! ( No.4 )
- 日時: 2016/02/14 18:36
- 名前: ガッキー (ID: 9i/i21IK)
教室にて。朝ではなく、放課後。朝と同じように、俺と悠梨が話す時間帯の一つ。勿論、俺と悠梨しか居ない教室。
しかし、そこに普段のゆったりとした空気は流れていない。
「・・・これは、どういう事かな?」悠梨がゆっくりと口を開いた。
えーっと、状況を整理しようか。ここで、俺が読者様に伝えるのは大きく分けて二つ。
一つ目は、何故こんなに重苦しい雰囲気なのかが分からないという事だ。
放課後、担任に頼まれて掲示物の回収を行って、それから教室に戻るとーー正確には戻った瞬間なのか?兎に角、悠梨が不機嫌だった。俺が放課後の間、教室に悠梨を置き去りにしていた事を理由とするならば、成る程。確かにこの状況は分からなくもない。
二つ目は、俺が教室に戻る際に色んな女の子からチョコレートなるモノを戴いた事だ。自慢じゃない。現に、俺の両腕にあるチョコレートの数々は義理チョコだ。ただの報告である。言い訳がましいかもしれないが、本命は無い。
まぁそれでも、嬉しいんだけどな。
今年もチョコレートを貰えた嬉しさで、ニコニコしながら教室に戻るとーー不機嫌な悠梨。
はて、どうしたモノか。
遅刻と、チョコレート。
うーん、恐らく悠梨は、遅刻した事に腹を立てているのだろう。そうに違い無い。
確信を得た俺は、悠梨の「・・・これは、どういう事かな?」という問いに頭を下げて返した。
「悪い。先生に頼まれていた事があって、席を離していた。何も言わずに居なくなったのは謝る」
「・・・・・・は?」
誠心誠意、真心を込めた謝罪は残念ながら悠梨としては納得のいくモノではなかったようで、不満気な声を洩らした。
「い、いやいや、そういう訳じゃないんだよ。取り敢えず座ると良い」
「?」
この後、悠梨からの凄まじい罵倒の嵐が来ると踏んでいた俺は拍子抜けし、しかしこのまま突っ立っているのも悠梨の意に反すると察し、大人しく悠梨の対面に座った。その際、チョコレートは机の端に寄せて置いた。
「ボクは別に、君が遅刻した事に怒っている訳じゃあないんだよ。寧ろ、先生の手伝いを文句一つ言わずに出来る事はとても素晴らしい事だ」
と、なると。
何故悠梨は不機嫌なんだ?俺が遅刻した事に怒っているんじゃないのなら、何に対して機嫌を悪くしているんだ?
「よく分からないんだが、ありがとう」
「うん。人の賛辞を素直に受け取れるのも良い事だよ」
ニコリ、と笑顔で俺を褒め称える悠梨。しかし俺は素直に喜ぶ事が出来なかった。
それは、嵐の前の静けさのようで。
それは、これから始まる何かーー例えるなら、ジェットコースターの最初の上りの段階のようで。
ようするに、不気味な笑顔だった。
頬を掻いて窓の外に視線を移す。うん。こんな時でも空は変わらず青空だ。
「ボクが怒っている事は、別にある」
やはり、俺の予感は当たったようだ。数秒
間を空けてから、悠梨が口を開いた。
視線を戻す。
「是非とも教えてくれ。謝るから」
懇願。俺としても、いつまでも友人に不機嫌で居て欲しくはない。非があるのなら、慎んでお詫びを申し上げよう。
「・・・・・・れは」
「うん?」
「・・だい、それ・」
「え、ごめん。よく聞こえないのだが」
「だからーーなんだい、それは!」
顔を赤らめて恥じているのかと思いきや、その顔には怒りも含まれているーーそんな、どっち付かずの表情で、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、指を指して悠梨は言った。
視線ならぬ、指線を辿る。その先には、小山になったチョコレート群があった。
「・・・あぁ、そういう事だったのか」
成る程。俺にもようやく合点がいったよ。悠梨が不機嫌な理由が、やっと分かった。
「これはな、チョコレートというーー」
「そういう意味で言ったんじゃないんだよ!わざとやっているのかい!?」
「え、えぇー?・・・違うのか?」
「当たり前だよ!ボクだってチョコレート位分かるさ!」
違うらしい。俺的には、包装紙に包まれている物体が何なのか分からずモヤモヤしているが故の怒りだと思っていたのだが、またまた外してしまったらしい。
少し声を荒げていた悠梨も、自分のやっている事に気付いたようだ。咳払いをしてから着席した。
「・・・ボクが言いたいのは、『何で君がそんなモノを貰っているんだい?』という事だよ」
「あぁ、そっちか」
人様が用意した代物を『そんなモノ』と言うのはどうかと思うが、そう言わざるを得ない理由があるかも知れないので、黙っておく。
「他の方向性は無いと思うけどね・・・。どんな読解力をしているんだ君は」
額を押さえて、首を振る悠梨。
さて、
問いには解で返そうか。
「義理チョコだよ義理チョコ。いつだったか、プリント運ぶのを手伝ったり、高い所のモノを取ってあげたりしたから、多分そのお返しだろう。それ以上の事は無い」
「そんな、十何人からも?」
「・・・違うのか?」
改めて言われると、自信が持てない。俺は、不安を孕んだ声色で問い返した。
悠梨が、頭を抱えた。
「本っ当に馬鹿だね、君は」
「その暴言、今までで一番本気のトーンのような気がするんだが」
「多分合ってるよ」
何てこった。
地味に傷付いている俺には構わず、悠梨は話を続ける。
「そんな、何十日もーー下手したら、何ヶ月と前の出来事をその日限りの出来事にしないで、わざわざバレンタインデーにお礼を渡すような子が居ると思うかい?」
「 ・・・いないのか?」
「いないだろうよ」
「そうなのか・・・」
この短い時間で、何回目かの予想を外した事にショックを覚える。
・・・ん?
俺は、自分の予想が否定された事により生まれた新たな疑問を、悠梨にぶつけてみた。
「じゃあ何だ?悠梨の言い方だと、本命がいるみたいじゃないか」
自分で言っておいて、面白い。机の上にある、この小山全てが本命?非現実極まりない自分の意見に、笑いが身体の内から込み上げ「そうだろうね」
・・・は?
「え、ちょっと、今何て言ったんだ?」
「分からなかったのかい?君の手元にあるそのチョコレートの数々は、全て本命だーーそう言ったんだよ」
「・・・・・・・・・・・・ハァァァァァァァァああああああああ!?!?」
「あぁもう、五月蝿いな!だから言ってるじゃないか!『・・・これはどういう事かな?』って!何で君はそんなに本命チョコを貰っているんだい!?ラブコメの主人公なのかい!?」
閑話休題。
「つまり、『ここにあるチョコレートは全て本命で、俺は十数人の女子なら好かれている、と?」
「・・・そういう事じゃないのかな?」
俺の、事実確認の為の問い掛けに、悠梨は心底詰まらなそうに返した。何を怒っているんだ。
「『お返しは要らないから!』というのは、金欠気味な俺に気を利かしての一言だと思っていたのだが・・・」
「恥ずかし過ぎて、ホワイトデーの時に顔を合わせられないんだろうね。・・・・・・でも、良かったじゃないか」
「何がだ?」
「だって、お返事をしなくていい。君は、告白に対する答えを出さなくて良いんだよ」
「・・・まぁ、そうなるが。それで良いのか?」
俺としては、有り難いが。それで良いのか?という気持ちになる。
俺の為にこんな素敵なチョコレートをくれた子達にお返しをしないで、一方的に喜んでいて良いのか、と。そんな気持ちに。
「そういう子もいるーーって事で、納得しておいた方が良いんじゃないかな?」
「・・・それもそうだな」
女子の中には、そんな奥ゆかしい子も存在する。という事で、この話は終わりにしよう。
「で、今日はどの位まで話すか?」
自分で遅刻しておいてアレだが、結構時間が経っていた。しかし、最終下校時刻迄はまだ時間があるので話す事は出来る。
「いや、もう帰ろうじゃないか。夕焼けに照らされながら帰るというのも、中々乙なモノだろう?」
「分かった。・・・今日は本当に悪かったな」
「何だい、今日の君は。三点リーダーを使い過ぎだよ。その事なら、気にしなくて良い。・・・ボクも、そのお陰で準備が出来たし」
「ん?何か言ったか?」
途中からいきなり小声で話し出すモノだから、最後だけ聞こえなかった。
それに対する悠梨の返答は、
「いいや、何も」
階段を降り、下駄箱へ。俺と悠梨は、出席番号の都合上番号が近いーーと言うか番号が隣なので、下駄箱も隣だ。
俺の下に、悠梨の下駄箱。
今時珍しくなった、木で出来た下駄箱の蓋を開ける。
「うん?」
靴の上に、薄い箱。訝しみつつ取り出してみる。日の元ーー外から侵入している夕陽の光に照らされて、ようやくその正体が分かった。
「おやおや、またチョコレートじゃないか」
隣に居た悠梨が気付いたらしく、大袈裟に驚いている。
「そうらしいな」
「君は本当に罪な男だね。ほら、帰ろう」
やり取りも程々に、悠梨が靴を履き替え外に出た。夕陽を浴びた悠梨が淡い橙色に輝く。それから、手元のチョコレートが入った箱の表面を見て、思わず笑ってしまう。それを鞄に入れてから、同じように外へ出た。
「良い下校日和じゃないか」
「そうだな」
中原・悠梨《いつもありがとう。これはボクからのささやかな気持ちだ》
- Re: 下校部アナザーワーク! ( No.5 )
- 日時: 2016/02/25 21:53
- 名前: ガッキー (ID: aOQVtgWR)
次から、本編へ戻ります!
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