コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- えっ、今日から私も魔法使い!?【参照2000突破感謝!!】 ( No.208 )
- 日時: 2015/07/20 00:04
- 名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)
第七十九話 <何でもアリな体育祭編>
「いったあーーっ!……って、もががっ!」
「しっ!気づかれるッスよ」
小さめの手で私の口をふさいでいるのは、ハク君だった。
「え…えーっと、どうしてここに?」
私は小声でハク君に耳打ちする。彼はなぜか幸せそうに眼を閉じた。「そりゃあ、ジーク先輩と一緒にランチタイムを過ごすために!」
あー…ハイハイ、またそれね。
私は小さくため息をつく。
「せっかく、昼休みが始まってからダッシュで駆け付けたのに。周りに人がうじゃうじゃいるもんだから、まいったッスよ。」
「じゃ、なんで私を?」
「それなんスよフィリア先輩!頼むから、今日だけはジーク先輩と僕を二人きりにしてほしいんッス!」
「…ふふ、分かった。いいよ、私もそうするつもりだったし」
「ほ、ほんとッスか!?」
パアアッ、と顔を輝かせるハク君。幼さを残すその笑顔は、どこか母性本能をくすぐらせる。
それにしても、いいなあジークは。こんなに自分のことを慕ってくれる後輩がいて。
「じゃあ、私行くからね?絶対に見つからないところに隠れておくから、あんたもしっかりやりなさいよ」
「は、はいッス!……あ、フィリア先輩、一ついいッスか?」「え、何よ」
「僕、本当に尊敬してる人以外は、『先輩』って呼ばないようにしてるんス」
え…でも私のことさっきから、『先輩』ってつけてるじゃない。
「まあ、ジーク先輩が心に決めた相手ッスからねえ…」
「ん、何か言った?」「あーいや、何でもないッス。じゃ、ありがとうございましたッス!」
うーん…なんかよくわかんないけど、早くここから立ち去ったほうがよさそうだな。
「…まったく。フィリア先輩もニブいっすねぇ。……あっと、いけない!おーい、ジークせんぱーーい!」
小さな少年の呟きは、夏の暑さとうっそうと茂る木々の間に消えた。
☆
「…こんなところにいたのか、フィリア・ヴァレンタイン」
「あ、隊長。お疲れ様です」
私に声をかけてきたのは、風呂敷包みを片手に持った隊長だった。「どうしたんです?こんなところに一人で。隊長くらいの人なら、お食事の誘いもいっぱい受けたでしょうに」
私は、心からの微笑みを浮かべてそう言った。これまで無駄に騒がしかったから、隊長を見ているとなんだか落ち着く。
「…あー、」隊長は気まずそうに視線をそらすと、ポリポリとこめかみを掻いた。「まあもし良かったら、一緒に昼飯でも…と…」
「ほんとですかぁ!?」
私は、水を得た魚のように隊長に駆け寄った。「うおっ!…お、おう、そんなに嬉しいか」
「嬉しいですよお!やばい、何か感動〜…」
隊長は、唯一ジークが頭の上がらない相手だ。そばにいればたとえ見つけても、寄ってこないだろう。それに…
「それってもしかして、手作りですか?」
私は、隊長の体格に合う、大きな風呂敷包みを指さした。
「あ、ああ。こういうのは慣れてるからな」少し照れくさそうなその横顔を、私は尊敬のまなざしで見つめた。
うーん。何か、「隊長」が「隊長」なの、納得だなあ。
こうして目の前にしてみると、威厳と誇りが溢れてて、堂々としてて。何もかも悩みをさらけ出しちゃいそうになるっていうか、全部任せられそうな安心感っていうか。
「そういえば、ご両親は来ていないのか?」
「ああ、はい。遠い所に住んでるものですから」
「そうか、すまない。実は俺も一緒なんだ。お互い一人ぼっちってわけか」
「あはは!そうですね。では、早速頂きます!」
それから私と隊長は、一緒にお弁当を食べた。
めちゃめちゃ美味しかった……。
う〜ん、誘ってくれたみんなには悪いけど、なんか幸せ!!
というわけで、フィリア争奪戦は隊長の圧勝で終わりました。いやあ、無自覚って強い…
次回、第八十話。お楽しみに☆