コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 彼女の命は、未だ散らない。 ( No.7 )
日時: 2015/12/22 23:35
名前: 深海 ◆XAZUAOywuY (ID: f5yb.dIk)

□Episode 4


■不死身と善人


屋上での一件の後、蜂須君は5限目が始まる直前に教室に戻って来た。

目を合わせると面倒なので、私は視線を蜂須君から校庭に戻す。

5限目は授業ではなく、学級活動。

学級委員やら、立場が上の者達が騒いでいるから、恐らく、近々行われる文化祭絡みの事について話しているのだろう。

文化祭など、私はどうせサボるし、関係がない。

幸いにも、私の席は窓際で、周囲に巻き込まれない位置にある。

私には無意味な話をしているので、少し一眠りをする事にした。


◆◆◆


私が目を覚ましたのは、5限目の終わる3分前。

ほぼ、この時間は眠りについていた事になる。

まだ寝ぼけ眼のまま、視線を黒板に向けると、一瞬で眠気は吹っ飛んだ。

何故ならば。

黒板に、白いチョークででかでかと『文化祭実行委員』と書いてあり、その下には、『迫河』と私の苗字が書いてあったからだ。

迫河という苗字は、この学年の中では私一人だけだ。

そして、あろうことか、私の苗字の隣には、今、私が鬱陶しく感じている、あの蜂須君の苗字が書いてあるではないか。

私が眠っている間に、何がどうなってこうなった。

しかし、いくら考えても黒板の文字は変わりはしないし、誰も異論を挟まない。

「じゃあ、実行委員の皆さんは、この後、残ってって下さーい」

学級委員の間延びした声がこんなに苛ついたのはコレが初めてだ。

号令がかかり、生徒は帰り支度を始める。

私もなに食わぬ顔で帰ってやろうかと思ったが、それは出来なかった。

蜂須君が、わざわざ私の目の前に来たからである。

「......コレは君の仕業か、蜂須君」

私は黒板の文字を指差して問う。

すると、蜂須君は小さく微笑んだ。

「うん。

丁度迫河寝てたし、俺も実行委員やるつもりだったし」

「だからと言って、許可なく私の名前を使わないで欲しい。

私は御免だ、そんな面倒な委員。

担任に話して、変わってもらう事にする」

教室は、いつの間にか私達2人だけになってしまっていた。

私は、そんな教室を後に、職員室へ向かおうとした。

しかし、蜂須君の言葉が静かな教室に、綺麗に響いて、私は思わず足を止めて振り向く。

「......?」

「だから、今更無理。

さっき、他の実行委員の人が委員名簿に名前書いて提出しちゃったし、あの名簿、教頭に出す物だし、うちの担任は結構適当だし。

そろそろ名簿が受理されてる頃だと思うよ」

爽やかな笑顔で、蜂須君はサラリと恐ろしい事を口にした。

「......何で、そこまで」

私は独り言の様に呟く。

けれど、閑静な教室内では、蜂須君の耳に届いた様で。

「だって、ここまで強引にしないと、迫河、俺どころかクラスの皆とも関わろうとしないし......」

それに、と蜂須君は悪戯っぽく笑った。

「コレによって、迫河がもっと交流を深めてくれたら良いなぁ、と思って」

それに対して、私は、段々と心が冷めていく。

あぁ、やっぱり、目の前に立つ、善人のクラスメイトは、分かっていない。

こんな特異な体質の苦しみを、理解出来るものか。

「私は、周りの生徒とは違う、蜂須君とも違う。

そんな私が、普通の人と馴染める訳がない」

そう吐き捨てると、蜂須君は何故か驚いた様な、悲しい様な表情をした。

「実行委員の仕事はするよ。

だけど、私は極力、クラスメイトとは関わらない」

私は、静かに、自分の席へと戻る。

蜂須君は、私の顔を見つめてくるが、何も言葉は発さなかった。