コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- もう一度抱きしめたい。
- 日時: 2015/10/08 00:34
- 名前: モノクロ (ID: s/G6V5Ad)
世界は、モノクロだった。
時間はまるで、鉄砲玉のように僕の前を通り過ぎ帰ってくることはなかった。
時間が返ってこないのならもう過ぎたことと嘆くより、忘れてしまうことのほうが楽だろう。
でも、なんでだろう。
忘れようと思うほどに、僕の気持ちをかき乱していく。
忘れようと願うほど、僕の頭の中に深く刻まれていく。
そして僕は気付いた。
大切なものを忘れることは、きっと
何かを忘れることよりもずっと難しい。
大切なものの存在と、それを失うことを知らない僕に、お前はすべて教えてくれた。
時に笑えて、時に苦しくなる。
お前がきっと知らなかった話もあるだろう。
だけど、聞いてほしい。
僕は、本当にお前が大切だったんだ。
——————————
「夕ー!朝日ー!いつまで寝てんの!?朝日は今日学校でしょ!?
夕だって卒業したからっていつまでも寝てないの!」
今は朝の七時半、佐伯家の朝は母のこの怒鳴り声から始まる。
大きな伸びを一度して、僕はけだるい体を起こした。
弟の朝日はきっとまだ夢の中だろう。
ベッドから抜け出して隣の朝日の部屋に入る。
ヒヤッとした外気が体に触れ僕は身震いをした。
「また窓開けて寝たのかよ。」
そこには3月の真冬にもかかわらず窓を開け羽毛布団を頭までかぶってすやすや眠る朝日の姿があった。
「起きろ!!」
そのまま僕は朝日が包まる布団を奪い取った。
「ぎゃっは!さっむ!夕寒い!」
夢の中からいきなり極寒にぶち込まれたような気持ちだろう。
体をさらに縮ませ必死に布団を手繰り寄せようとする。
「真冬に窓開けて寝るバカが悪い!そんな布団かぶって寝るくらいなら 閉めて寝ろ!」
そういっているそばから布団を手繰り寄せ眠りにつこうとする朝日を捕まえ半強制的に母の待つリビングまで連れてきた。
「朝日あんたまた窓開けて寝たでしょ!ほかの部屋まで寒くて大変なん だから最後寝るときは閉めなさいって言ってるでしょ!」
朝食を出されながら朝日はまた怒られた。
はいはいと返事をしつつもまだ起ききっていない朝日の脳内はお花畑だろう。
そんな中でもしっかり口は動かすのだから朝日の食欲は大したものだ。
結局朝日は僕の分の朝食まで平らげていた。
「やっべもう八時じゃん!歯磨いて学校いくわ!」
やっと眠気が覚めたのかバタバタと支度を始めた。
「じゃあお母さんも支度しちゃうから夕片付けだけよろしくね?」
「あぁうん!大丈夫だよ。」
母は獣医をしていて9時からは一階にある病院で働いている。
父は研究職で仕事人間で朝は僕らが寝ている間に出て行ってしまう。
家族はほかにも姉が一人いるが大学が県外にあるため一人で暮らしている。
両親が共働きであったため、僕はだいたいの家事全般ができる。
昔から姉も朝日も家のことは全くしなかったこともあったが家事をするのは嫌いではなかった。
今は先週高校を卒業したため春休みとなり、専門学校が始めるまでの長期の休みに入っていた。
僕が朝食の食器を洗っていると朝日がばたばたと降りてきた。
「やっべー!遅刻する!夕送ってって!」
またこうだ・・・。
「またかよ、遅刻いつもしてるんだから今日も歩いてけよ!」
朝日はいつもこうだ。
遅刻ぎりぎりで免許取立ての僕に遅らせようとする。
「今日朝彼女と勉強するって話してたんだよ!頼む送って!」
「・・・人にものを頼むときは?」
「・・・送って」
「送って・・・なに?」
「・・・・・・・・・。くれ。」
はぁ・・・・
まぁこんな調子で僕は弟のお守りをしている。
朝日は三つ年下の弟で今度の土曜日に中学校を卒業する。
三つも離れているとあまり喧嘩もせず僕と朝日は真逆だった。
僕は口数があまり多くない、それに比べ朝日はよくしゃべる。
僕が恋愛下手な一方で朝日はモテた。
そのためか「夕も恋愛した方がいいよー」と小言をよく言われていた。
車の中でもそれは変わらずで
「俺の同級生で夕のことかっこいいって言ってる子いるんだけど紹介しようか?」
ここまでおせっかい。
「なんでお前の同級生紹介されるんだよ!俺は自分で探すから変な気回 すなよ!」
弟に恋愛まで心配されたら兄として終わりだ。
「じゃあちゃんと探してるの?」
「・・・。」
「ほら!そんなんだからだめなんだよ!」
朝日の小言が始まるころちょうど校門に到着し胸をなでおろした。
しかし朝日は不満そうで
「今度俺と彼女と夕とその子でダブルデートだからな!」
そういって校舎にかけていった。
僕は言葉を返すまもないままだった。
つづく。
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