コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

1話 とある優しい国で ( No.5 )
日時: 2016/01/24 09:07
名前: りあむ* (ID: .pUthb6u)

*とある優しい国で 2



 
 先王が亡くなってから、2年が経ちました。今日は、2年前の先王が亡くなった日ちょうどです。
 今日も、どんよりとてもいい天気です。

 あの青年は、2年前から姿は全く変わらないまま、丘の上の先王のお墓の前にいます。先王は、藤色の花が好きな方でした。青年は、王の部屋からも見えた、中庭で摘んだ小ぶりの花を、墓の前に供えます。

「じゃあ、そろそろ行ってくっかな」

 先王の死の知らせは国中に広がり、国民に大きなショックを与えました。しかし、やがて受け入れられなかった死も、国民たちに浸透してゆきました。

 青年も、2年の間にその国の幹部となりました。
 先王の死からしばらくすると次の王の話も表に出るようになり、2年もすると、様々な次期国王候補の情報が青年の元に集まりました。
 この国では、全ての国民が国王の子であり、国王になる資格があるのです。

「セタ・セオトラント様。ご出発のお時間です」
「ああ。もう行く……」

 青年もといセタ様は、次期国王候補の情報を元に、次期国王を決める旅に今日、出発することに決めました。
 そのために、先王の、王としての最後のお別れをしに来たのでした。

「セタ様。本当に誰も付けずに、おひとりで行かれるのですか」

 セタ様の良き友人にあられます、ヨーンス様が、セタ様を心配なさっています。
 セタ様は、いかにも次期国王探し、という体で行くのではなく、旅人を装い、リアルな候補たちに触れ、その上で見極めたいとお考えなのでした。

「まぁな。それに、あいつの遺言のおかげで、今年は異常に候補が少ないらしいし」

 やれやれと首を振ったセタ様は、少しだけ寂しそうに笑いました。
 ヨーンス様は、了解したというように軽く頷きましたが、顔は強張ったままです。

「いつでも援助いたします。気をつけて、無事に国王をお連れ帰ってください」
「すまない。頼む。俺が留守の間の国のことも。つーかお前、出発の前くらい、他人行儀やめろよ」
「いえ、あぁ……そうだな。……といっても何を言えば……まぁ、またな。……僕のことは心配しなくていい」
「ふっ、おい、他に言うことねーのかよ」

 セタ様は、荷物を背負いなおし、墓前から立ち上がりました。
 東の彼方から、からからと冷たい風が吹いてきて、セタ様たちの服の裾をはためかせました。

「まずは東に行こうかな」
「ここは西の端なのだから、何処に行くにも東だろう」
「そりゃそうだな」

 口調は軽いお二人ですが、どことなく不安そうな面持ちでいらっしゃいます。
 国は広いようで狭いのですから、旅なんてきっとすぐ終わってしまいますのに。

 ですが、冒険には危険がつきものだと、身に染みて解っているふたりなのでしょう。
 暫く見つめ合い、親友の姿をかたく目に焼き付けようとしています。

 親友を失ってしまう苦しみを、二度と味わいたくないのでしょう。もう、二度と。

「じゃあ、行ってくっわ。またな」
「……お気をつけて。必ずまた会おう」
「おう」


1話 とある優しい国で ( No.6 )
日時: 2016/01/25 11:00
名前: りあむ* (ID: .pUthb6u)

*とある優しい国で 王の遺言




 醜い。



 それが、この国に課せられた、運命です。

 どれだけ心が清らかで、どれだけ人に優しく手を差し伸べることができても、この国の住民は、皆、怪物。
 頭や手足は異様に大きかったり、身体の随所にはあってはならないものがあったりする。醜い彼らは、満足に微笑むことすら出来なかったのです。

 隣国からはいつも、親愛の握手ではなく、冷徹な討伐隊が差し向けられます。

 それでも国民は、挫けませんでした。

 清き心を忘れず、万人に等しく優しい王を慕い、慎ましやかに暮らしてきました。

 とある国の内情を憂える王は、王になってから八度目の討伐隊が来たとき、ついに決心なされました。
 こんな王が立つ国のままでは、民がかわいそうでならない。次期国王は、隣国との和解をはかることのできる者にしよう、と。

『身も、心も清らかな、民にも、そして隣国にも慕われる、愛らしい者を。自分より、もっと良い王になれる者に、次期国王を任せよう』────と。