コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 恋花火—ひと夏の恋— ( No.29 )
- 日時: 2017/08/30 02:08
- 名前: Aika (ID: 0otapX/G)
Episode26:傾く心。
■青葉 side■
お昼休み。
無心であたしは、シュート練習を一人でしていた。
バスケをしているときだけは、余計なことを何も考えなくて済む———。
そう思ったから———。
———ガンッ。
ゴールの縁に当たったボールが
跳ね返って床に落ちた。
コロコロと転がるボールを。
「———めずらしいな。青葉がフリースローの距離でシュート、はずすとか」
そう言って。
ボールを拾って、あたしに向かってパスをした人物がいた。
あたしは、そのボールを片手で受け止めて。
ため息をついた。
それから、その人と向き合う。
「———輝。どーしたの?昼休みに」
「青葉こそ、何してんだよ」
質問を質問で返されて。
あたしは、ムッとしながら答える。
「別に。見たら分かるでしょ、自主練習だよ」
輝から目を背けて。
あたしは、練習の続きをした。
しばらく、無視すればどこかに行くだろう。
そう思っていたから———。
「練習熱心なのな」
「まぁね。分かったらどっか行って。邪魔だから」
適当にあしらうと。
輝はあたしに向かって、言葉を投げ掛けた。
「あの、さ…昨日はごめん」
力ない言葉に。
あたしの動きは止まる。
そっか、昨日は———。
爽の告白とキスもあったけど。輝からの…キスもあったんだっけ———。
「別にいーよ。気にしてないし」
「———それ、嘘だろ」
遮った輝の言葉に。
あたしは、何も言い返すことができなかった。
それから輝はあたしの方へ近寄って。
今まで目線を合わせていなかったあたしを。
無理やり、自分の方へと向かせた。
そのとき。あたしの両手からボールが落ちて。
コロコロと床に転がっていた。
そんなことは、気にせずに輝は口を開いた。
「———俺の目見て…さっきと同じ事、言える?」
まっすぐな瞳の奥には、ゆらゆらと自分の顔が写っている。
あたしは、すぐに即答することができなかった。
たしかに。
輝の言うとおりで、あたしは昨日のコトを意識している。
「——ごめん、ほんとのコトを言うと…あんたの言うとおり、気にしてるよ。でもっ…謝って欲しいわけじゃないから」
そうだ。
気にはしているけれど…でも。
怒って輝を責めようっていう気持ちにはなれない。
「怒ってるわけじゃないの。たぶん…あれが初めてのキスだったから…だから、動揺してるだけというか——」
そうだ、 ファーストキスだったから。
だから…こんな複雑な気持ちなんだ、あたし。
それを聞いた輝は。
さらに、焦った様子になっていた。
「えっ!そしたら、俺…マジで申し訳ないんだけど」
「——いいの!ほんと、怒ってないし!たしかに初めてのキスがあの形はあたし的にはショックだけど…でも」
ひとつだけ、気づいたこと。
それをあたしは、口にする。
「———はじめてが…輝でよかった」
その言葉を聞いた輝の顔を横目でみると。
真っ赤になって…唖然としていた。
その姿を、あたしは可愛いと思ってしまった。
あたしは、輝から背を向けて。
再び練習に戻ろうとした。
だけど——。
勢いよく腕を捕まれて。
輝が赤い顔のまま、 あたしに向かって言う。
「そんなこと、言われたら…期待するよ?俺——」
自分でも何言ってるんだって思う。
でも。
この鼓動の高鳴りは。
「——勝手にすれば」
ほんの少しだけど。
貴方に想いが傾いている証拠——。
このときのあたしは、 そんなことを感じていた。