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傷つくことが条件の恋のお話
日時: 2016/04/09 15:38
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

どうも。皐月凛雅です。
今回は、高校生に登場してもらいます。
深い傷を負ったEIGHTEEN女子高生と、
いたって普通だけども普通じゃない男子高生と、
人気モノの男子高生がメインの高校生活のお話。
頑張りますから、小学校の授業参観に来た父兄のような、
温かい目で見守ってくだされば。

ー登場人物ー
・北川 優
 佐久間高等学校3年B組。社会の女王様のあだ名で、落ち着いた雅やかなお姉さま。男女関わらずに人気は高いようだ。テニス部のエースで図書委員会委員長。
・能澤 崇
 別に特徴のない優の同級生。彼はC組でいたって普通。剣道と空手なら誰にも負けないし、水泳とテニスとサッカーだったらできる方。でも面倒臭いから帰宅部。
・朝瀬 翔也
 『めっちゃイケメンで、むちゃくちゃイケボですんごく頼りになる』優のクラスメイト。家も結構な金持ちのお坊ちゃまで、文武両道の憧れの的高校生。


 ≪優 side≫
今から4年前の夏、私は大切なものを失った。
原因は私にあった。どう考えてもそう。
それなのに、それなのに彼の親は私のことを責めなかった。
蔑みもしなかった。私にあたることもしなかった。
ただ、泣きながら一言、
「ありがとう」
そう言った。
私にはそんな言葉をもらう権利などない。
私は貴方の息子の命を奪ったのに。
なんでそんなことを言えるのか、貴方の神経がわかりません。
その時以来、葬式にも出なかったから彼の親に会うことはなかった。
そして、私は心から誓った。
『私は、絶対恋に落ちるようなことをしない』
そうして彼との思い出を、心の奥に封印した。
自分の、心からの笑顔も。

4時限目、あんまり面白くない音楽科が終わり、音楽室から教室に帰る途中、
「ゆ〜〜う!!」
後ろから誰かがばんっと背中を押してきた。
ひょっこりと顔を出すのは私の唯一無二の親友、斉藤沙穂。
「沙穂。今筆箱でぶつかったでしょ。めっちゃ痛かったよそれ。」
そういって彼女を睨めば悪気なんてそっちのけで、すまんね、とだけ言った。
「それより聞いた?朝瀬って、A組の永井紗菜振ったんだってよ。」
「まあ、当然じゃない?永井紗菜ってあの派手なギャルでしょ。あんなのと付き合って長続きした方がおかしい。」
思ったことを、包み隠さずに率直に述べる。この口調が気に入らない沙穂は、その毒舌何とかしなよ、優、と苦笑してから続ける。
「まあ、永井さんって結構面倒臭そうだから付き合ってくれるまで朝瀬に付きまとって、朝瀬が諦めてやっと付き合えたってことじゃないの?」
「・・・、そんなに面倒なの?そのこ。なんか朝瀬に同情できそう。」
そんなに付き纏われていたのなら、あんまり話したことのない朝瀬でも、素直に可哀相だと思える。
「永井紗菜って、女王様気分でいる出しゃばりとか、女子力が半端ない人ってゆうような見た目だったけど、男子にはどう見えているのかな。」
素直に疑問を口に出してみると、じゃあ、と言って沙穂が上を指差した。
「今の疑問、莫迦男子に聞いてみる?誠と拓真、今日は屋上でお昼食べるらしいから。」
「ああ、そうね。聞いてみようか。」
そう答えると彼女は、優のお弁当持ってくるから先行ってて、とだけ言い残して教室へと入っていった。
沙穂と広瀬誠、山崎拓真、それに私は、中学時代の仲間で、4人一緒にこの高校を受験し、合格した。
いつでも一緒だった。今でも放課後になれば4人で新宿行ったり、誰かの家に泊まったりしてるくらいだ。
「誠、拓真。」
屋上まで行き、手すりに寄り掛かっている2人に呼びかける。
2人とも私を認識すると、ふっと笑って手招きしてくれる。
「なんだ、沙穂はどうした。」
誠が笑いながら、話しかけてくる。
「お弁当取りに行ってる。もうすぐ来るよ。」
「あいつはパシリかよ。」
「そうね。自主的にパシリやってくれて助かる。沙穂っていいね。」
「うわっ、出たよ。優の腹黒思考。女っていつみてもおっかねえ生き物だよ。マジで俺そう思う。」
「お前、ほんと擦れたぜ。もう少し大人しくしてればもうちょっとは可愛げあるんじゃねえか?」
拓真の言葉に少しカチンと来て言い返そうとしたタイミングで後方から声がかかった。
「あんただって人のこと言えないでしょ。このぐれ男。」
「うっせーよ。沙穂は黙ってろ、口デカ女。」
「それ、乙女な女子高生にいう言葉?もうちょっとは考えなさいよ、莫迦不良!」
「誰が不良だっての、俺より脳味噌ないくせに。」
これ以上やりあうと白熱しそうなので、そっと私は誠に目くばせする。
「こらこら、ご夫婦様。痴話喧嘩はどっか違うとこでやってください。こちらとしてもこんなに仲睦まじい様子を見ていると少々焼けるので・・・、」
にこにこしながらお世辞を投げかける誠。
「誰が夫婦だっての!!!」
2人一緒になって誠に怒鳴る拓真と沙穂。
拓真と沙穂は幼馴染で、小さいころから一緒にいるのだ。この二人の痴話喧嘩は、言ってしまえば恒例行事なのである。
「で。どうして男同士の貴重な時間を邪魔しにやってきたの?」
夫婦と言われたことでまだ拗ねている拓真が聞いてくる。
優がおにぎりを口に入れてまだもぐもぐしているところを見て、代わりに沙穂が説明してくれる。
「A組にさ、永井紗菜っているじゃん。男ってああいうタイプ、どういう目で見てるのかなあって、疑問ができたから聞きに来たのよ。」
「別にあんま気になんないけど。美人なんだろうなあとは思うけど、やっぱ遠目に見てて、気に障るような奴だとは思う。」
あんまり感情が入っていないこの声は拓真の声。
「気が強いのはわかるけど、自分の意見がしっかりしてるだけなのかもよ。自分に自信があるみたいだし。まあ、男はエロいからね。漫画なんかに出てきそうな美少女だから、付き合いたいと思う男子は多いよ。」
この、客観的な発言は誠のもの。
「美少女ならこんなに近くにいるのに、よくそんなこと言えるねえ。ま・こ・と?」
沙穂の口調には、はっきりと揶揄の響きがある。
「沙穂・・・、私のこと莫迦にしてる訳?凄くムカつく。」
実際に自分が美人だとか、綺麗だとか思わない。みんなが興奮して称賛するような要素は一つも持ち合わせていない。
「優は確かに美少女だけど、中身がめっちゃ黒いから・・・グハッ!」
間髪入れずに飛んだ私の〈怒りの回し蹴り〉のおかげで、誠は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
「あらぁ、お大事にね、誠。拓真も誠の対処よろしく。」
私がすたすたと屋上を後にしたせいで、沙穂が慌てて後を追ってくる。
次は、私が好きな和山先生の古文。早く戻って予習しよう。
そう心の中で唱えることで、静かに心の怒りを抑えた。

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Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.9 )
日時: 2016/02/26 18:17
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

どうも、皐月凛雅です。
これ以降、更新が一週間に一回程度に少なくなる可能性大です。
そして、夜7時以降に更新されることが絶対条件だと・・・。
すみません。本当にすみません。
更新が遅くても、飽きずに読んでくれれば光栄です。
杯。すみません。ご了承くださいね。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.10 )
日時: 2016/03/20 15:39
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

≪優 side≫
「ごめんね?私の私情に連れ込んじゃって。」
私は心底申し訳ない。
8月31日の夏祭りの当日。
能澤君に誘われて困り果てた私は、横山りのちゃんに頼る。
りのちゃんとは、図書室であったあの日から時々言葉を交わすようになった。
心優しい彼女は、私のわがままに付き合ってくれた。
自分がすごく情けないが、彼女がいなければこの誘いは引き受けられなかったろう。
・・・ものすごく情けないことだ。
「いえ、誘ってくれてうれしかったです。」
そう言って大人っぽく笑う彼女は、水色の朝顔が舞っている浴衣を纏っている。
後ろ髪も、綺麗に束ねられて横に流れている。
少し明るめの浴衣が可愛さを出している彼女とは反対に、私が纏っているのは濃いめの紫地に白百合という、何とも地味な組み合わせ。
「・・・北川。」
少し遠くから声がした。
この少し低めのバリトン声。いつ聞いても心が静まる。
「能澤くん・・・・。」
彼の名前を呼んだところで、はた、と気づいた。
彼と待ち合わせているのは覚えていたのだが、彼に自分の着物姿を見られるのは頭からすっかり抜け落ちていた。
急に意識してしまって、かぁと顔に血が上る。
彼も、紺地に線の入った浴衣を着流している。
ただ立っているだけで様になる姿だ。
現に、ちらほらと通る女性の通行人の目は、きちんと彼の姿を捉えている。
「待たせてる人がいるから、少し急ぐぞ。」
そう言い置くと、彼は先を歩き出した。
「男子って、いつもは煩いくせにこういうときだけ素気ないですよね。」
「そう?彼の場合、いつでも口数が少ないように見える・・・。」
「まあ、能澤はそんなに煩いという訳でもないですけど、静かにできない男子というものが嫌い・・・。」
「少し分かるかも。中学の時とか男子凄い暴れてたから。」
「学校は違っても男子はみんな一緒な訳ですね。」
「横山・・・・。」
前を歩いていた能澤君が、振り向かずに声をかけてきた。
小さめに話していたつもりなのだが、彼にはばっちり聞こえていたのだろう。
「自分の考えを持つのもいいし、見方だって正当なんだがな・・・。」
「何かありますか?」
「・・・いや、・・・」
歯切れの悪い彼。
いつもは、言いたいことは言う彼が歯切れが悪い時。
それは・・・。
「何か隠している時。」
無意識のうちに口にだし、数十秒後に口に出したことを認識する。
「あ。」
「はぁ・・・。」
口に出したことがまずかったのかと戸惑う私と、ため息をつく能澤君。
隣を見れば、私の言葉で能澤君を疑いの目で見るりのちゃん。
彼は逃げることにしたらしい。
彼は逃げた。
「能澤、莫迦じゃん。」
「追いかけてみる。」
私は、彼女にそう呟き、彼の背を追った。

夏祭りの会場の裏手にある神社。
彼の背を追いかけてここまで来て、知らない人が神社の段差のところに立っていた。
「ん・・・?・・ふぇ!!」
私は腕を掴まれ、誰かに口をふさがれた。
「静かに。二人きりにしてやれ。」
「・・・?」
口を塞いだのは能澤君なのは分かったが、言葉の意味が分からない。
影からそっと向こうを覗いてみると、りのちゃんとその人は知り合いらしかった。
なんか話してる。いつも通りのように見えるが、今の彼女は何か少しいつもより明るい雰囲気がした。
「森山和志。俺の知り合いだ。横山を夏祭りに誘って欲しいとあいつに頼まれた。」
「・・・、りのちゃん楽しそう。」
「北川も楽しむか?」
彼の顔を見れば、片頬を上げて意地の悪い笑みを浮かべていた。
それから私は、彼に腕を取られて小一時間ほど遊びまわった。
綿あめを作るおじさんの動きの速さに目を奪われて立ち止まってしまい、射的でものを次々と倒していく能澤君の命中率の良さに圧倒され、同クラスの生徒に見つかり、散々冷やかされて過ごした時間に、当初の様な2人きりになることに対しての恐れはなかった。
ただただ、楽しかった。
「花火だって。」
花火打ち上げの放送が流れ、大勢の人が騒がしく移動し始めたとき、彼がそう呟いた。
「ん?」
「見る?花火。」
「見たくないの?」
「おまえは?」
「見ないと損だって友達から教えられた。」
見る気満々の私は、自然と笑顔になれる。
目を細めて微笑する彼の表情が新鮮で、そんな彼の顔に目を奪われる。
「じゃあ、面白いところ連れて行こうか?」
「ぜひ!!」
能澤君の言う面白いところ。それは公園の少しはずれにあった。
人がちらほらとしか見えなくて、お祭りの騒音が遠くに聞こえる。
ちょうど何にも邪魔するものがなくて花火がばっちり見えるところ。
小川の川原だった。
「涼しい・・・。」
「ここ、よく近所のやつらと遊びまわっていたところなんだ。川が綺麗だから怪我してもすぐ洗える便利なとこ。」
「こんなところで遊んでいたの?」
「親とか大人に見つからない絶好の秘密の場所。」
「何して遊んでたのよ。」
「大人に行ったら怒られること。」
「・・・悪い子だったんだ。」
「ああ。」
潔い彼は素直に認める。少し耳を澄ませば、目の前の小川のせせらぎ音が微かに耳に届く。
数多の星と、数十秒ごとに打ち上げられる花火。
それらの背景は、濃い群青の夜空。
「いいね、ここ。全部が綺麗に見える。」
瞳を輝かせて眺める私。
「・・・ああ。」
緊張したような声が返ってくる。
「どうしたの?」
「・・・、お前は、こんな時でも枸神を見てるのか。」
「・・・・、どうして名前を・・・。」
私は、自分の頬が引き攣るのをはっきり感じた。
なんでこんな時に壮也の事なんて・・・。
「いや、お前の顔を見てると、何だかそう思えてな。」
「なんで・・・・、」
「俺がそのことを知ってるか、か?山崎が話してくれたよ。お前の昔話。まだ引き摺ってんだろ?」
「あなたには、関係無い筈よ・・・。」
声を張った割には、弱く貧弱に語尾がかすれる。
せっかく忘れられる日を過ごせると思ったのに。
貴方といられて、少し淋しさが紛れたと思ったのに。
・・・どうして今この時に言うの・・?
「・・・俺が、お前が好きだって言ったら、困るか?」
「・・・え・・・」
今・・・、何て・・・・。
「だから、俺じゃ、お前を支えられないか?」
私は彼の瞳を覗きこむ。
きっと私をからかってるんだ。
少し私をいじめたくなったんだよね?
・・・彼の瞳に浮かんでいたのは、私をはっきりと裏切る色だった。
彼の瞳にあるのは、一点の曇りもない誠実で真っ直ぐな気持ちだけだった。
「・・・嘘、・・・だよね・・・?」
「なんで嘘だと思う。」
「だって・・・、だって私、そんなに好かれるようなことした覚え、ないよ?綺麗でも何でもないし、自分に自信が持てないような意気地なしだし・・・、」
「いいから・・・、」
「だって、そうだよ?なんでこんな私なんか・・・、」
「お前が認めない理由をはっきり言え!!」
能澤君の大きな凄味のある声に私は言い返せなくなる。
その真っ直ぐな双眸。
その瞳に映るのは、情けない私ひとり。
この瞳に映っているのは本当に私なんかでいいの・・・?
ううん、いけない。絶対に許されない。
私は壮也を待つ。
「・・・、待つって約束したから・・・。」
「それは一方的な約束だろ。」
「でも約束に変わりはないから・・・。」
「そんな約束に本当の自分を隠し続けて、一体お前は何年経つんだ。」
力強いその声で言われれば、私など到底反論できない。
彼の言葉は、私の心を言い当てているから。
私は、自分を隠したかった。
壮也がいなくなってボロボロに壊れた自分を。
自分に自信がなくなった、情けない自分を。
そして、悲しみを覆い隠すためにつかれた嘘の数々で汚れた自分を。
そうして流れた年月は、もう4年にもなる。
「もう、自分の心に素直になってもいいだろ・・・?」
彼の優しい声に、私の心は、耐え切れなくなった。
「・・・、私は、恋をしたくないの・・・。」
「原因は。」
「壮也を、最後まで信じてあげられたら、あの人は生きていたかもしれないのに、私の弱い心は、些細なことで傷ついて、彼を信じてあげられなかった。」
私は、心にたまったものをすべて明かした。
この時、初めて。
「壮也のバックに、沙穂からの手紙が入ってて、それを開いちゃったの。中身は、沙穂からの告白の手紙。それを見たときに、目の前が真っ暗になって。それからは、壮也と距離を置いて過ごしてたの。」
「それで別れたのか・・・?」
「ええ。私の行動が、不思議でたまらなくなった壮也の問いに、私は答える事が出来なかった。そうしているうちに、信じてくれないんだったら、付き合えない。そういわれた。」
そう言って私は深呼吸をする。
「私が馬鹿だっただけなのに、壮也はもう一度話がしたいからって、丘の上で私を待っててくれた。その帰りに壮也は・・・。」
嗚咽が止まらなくなって、私は言葉を紡げなくなる。
そっと柔らかく彼がつつんでくれる。
「いいから・・・、分かった。もう少し心の整理がついたら、もう一度返事を聞かせてほしい。」
彼の温かい気持ちに触れて、私は涙を流すことしかできない。
・・・なんでそんなに、私にやさしくするの・・・?
・・・私に優しくなんてしないで。
・・・どうしたらいいのかわからなくなるよ。
・・・・・、壮也・・・。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.11 )
日時: 2016/03/04 18:07
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

≪沙穂 side≫
茜色の帯と、黄色っぽい菖蒲の浴衣。
薄く施したメイクと、いつもよりも力を入れたヘアスタイル。
今年の夏祭りはいつもより力が入る。
今回、誠は運悪くサッカーの試合。
優はほかの人と行くと断りのメールが入っていた。
きっと能澤君からお誘いが来たのだろう。
待合場所に行ってみれば、見慣れた彼の姿。
濃藍の浴衣に、ひょこっとてっぺんが立っている少し長めの黒髪。
微妙にそれがかっこよくて、日本の男と思わせるその風情は、拓真のものだ。
「拓真!!」
「・・・おう。」
ちらりとこちらのことを確認するように見て、お祭り会場へと入っていく拓真。
いつも通りに無造作で、冷たいような彼。
少し涼しくて冷徹に物事を見極める。
けれどそんなクールさは自分の事を隠すためにあることを私は知っている。
たまに見せる、柔らかい優しさが自分じゃ恥ずかしくて、冷たい言葉で隠してる。
そんな彼の後ろ姿が、私の心をいつまでも疼かせた。

「たこ焼き食べる!!」
「ねえねえ、綿あめあるよ!!」
「かきごーりぃ!!」
幼稚園児みたいにはしゃぐ私。我ながら自分自身が恥ずかしい。
そんな私を、呆れ顔で眺める拓真。
「そんなに食べて、腹壊さないのか・・・。」
「知ってるでしょ?私は丈夫なの。全然大丈夫!!」
・・・大丈夫じゃない。
今も拓真の横顔見てるだけで心臓がバクバクしてる。
落ち着いてなんかいられない。
静かにしてたら拓真の事だからどうせ見抜いちゃうから。
私とは正反対に少しだるそうにして落ち着いている彼。
あぁ、自分が本当に恥ずかしいです・・・。
「疲れたろ。なんか買ってくるから、ここで待ってろ。」
慣れない下駄で何度も転びかけて、その度に拓真の力強い腕に支えられた後、人気の少ない場所に来て、拓真が言った。
「うん。お願い。」
そう答えると、拓真は少し微笑んで、人ごみの中へ走っていき、身を隠してしまった。
私は木の根もとに腰掛け、下駄を脱ぐ。
案の定、足の皮が少し剥がれて、擦り傷が出来ていた。
「うぅ・・・・。」
痛みに涙が滲んできたとき、微かに男女の声が聞こえてくるのに気が付いた。
興味をそそられた私は、その声の近くまで聞き、その話の中身を全て聞いてしまった。
その話の内容に、私は目の前が真っ暗になる。
「・・・、そん・・、な・・・。」
私の手紙、壮也とのこと。
優は、そのことをずっと気に病んでいた。
でもあの手紙は、私にとっては何の気もない手紙だった。
ただ、小学校の時に書いたただの落書きにしか思ってなかったのに。
なんで、相談してくれなかったの・・・。
・・・ねぇ、優・・・。
私は地面に膝をついて、涙を流した。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.12 )
日時: 2016/03/04 19:01
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

≪拓真 side≫
僕が沙穂の元に戻ると、言いつけておいた場所にはいなかった。
その代わりに、その近くの茂みに座り込んでいた。
「・・・沙穂。」
声をかけるが、返事を返さない。その様子に不信感を持ち、そっと近くに寄っていく。
初めに耳に飛び込んできたのは、紛れもなく彼女の嗚咽だった。
「沙穂!!」
理由が分からない僕は、怒鳴るような口調で彼女を呼んだ。
口から出してしまった後で後悔する。
はっきりしないことが大嫌いな僕は、いつでも正しいことを求めたいがために相手を傷つける言い腰になる。
案の定、僕の声に肩をびくりと大きく波打たせ、潤んだ双眸が怯えるように僕を見上げている。
「・・・た、く・・・、まぁ・・・」
「・・・何があった。泣くだけでは分からない。」
「・・・。・・・優が・・・。」
「ん?」
優が何かしたのだろうか。
今回の夏祭りも、ほかの人の誘われたとかで断りを入れていたはずだ。
まあ、狭い敷地内のこの会場のどこかであったという可能性もあるが、優はそう簡単に人を傷つけるような言葉は口にしない。
そして沙穂も、そうやすやすと人にいじめられるような人間ではない。
いじめられれば、お得意の悪口等でいじめ返すだろうことは容易に想像が出来た。
だが、沙穂の口から出てきたのは、想像していない単語だった。
「・・・壮也と、別れたわけ、分かったの・・・。」
「・・・なんで今更・・・、」
「その理由、私のせいだから・・・。私が原因で、優は苦しんでたんだよ。私が、この手で・・・。」
顔をくしゃくしゃに歪め、苦しそうにこちらを見る沙穂は、こちらの心の臓を鷲掴みにするような、そんな気持ちにさせる。
「・・・、私さ、遊び半分で壮也に告ったでしょ?その手紙、あいつずっと持ってたらしくて。それを見ちゃった優は、ずっと一人で苦しんでたんだよ。だってそうでしょ?自分が恋い慕う相手が、違う女子の恋手紙を持ってた。それってとっても苦しかったんだと思う。」
「・・・そうか。」
「・・・、拓真、私が優を変えちゃったのかもしれない。」
「気にするな。沙穂がそんな顔してると、優に気付かれてまたあいつに負担を背負わせかねない。」
口に出した直後に僕は内心ため息をつく。
どうして僕は自分の心に素直になれないのだろうか。
どうして思ったことを先に言えないのだろうか。
一言、優しい言葉を付け足すだけで彼女の心は軽くなったろうに。
それなのにいつもと同様の無情な口調になる自分につくづく呆れる。
「・・・ごめんなさい。」
彼女はいつものように萎縮して謝る。
こんな顔をさせているのは自分自身。
でもこんな顔をして欲しくないという己の欲が心を苛む。
自分勝手な自分自身に、薄く自嘲を浮かべた。
・・・一体僕は、この先どれだけ彼女を己の言葉で苦しめるのだろうか。
そしていったいいつになったら彼女に優しい言葉をかける事が出来るのだろうか。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.13 )
日時: 2016/03/07 18:37
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

≪崇 side≫
第二学期 始業式
今回も長ったらしい教頭の話に付き合わされた俺は、潔くそそくさと下校する。
その理由はただ一つ。
何か変な予感が俺の本能の何かに引っかかったからだ。
そんな自分でもあほ臭いと思うようなそんな理由だ。
まだ暑さの残る九月の一番最初の日に、意味のある理由もなく帰路を歩む俺。
そんな俺の目に留まった姿。
そして俺の聴覚が拾ってきた音色。
この時の出来事を、音を、目に映る風景を、この先俺の脳は忘れることはない。

 傾いた 気持ちはやがて 秘密ばかり 増やしてたこと
 また一つ 『変わらないで』と 頬の紅を 崩してたこと
 降り続く 雨はやがて 洗い流した 鮮やかな色を 付けた
  雪の椿のように

 仮初の 夢がいつか 覚めたなら 貴方を探して 
 何処へと進むだろう ささやかな 願い事を したことも
 見渡す景色も忘れてくだろう

 遥か遠く離れて それはとても儚く 過去も現在も全てを
  託していくなら


 終わらない雨の中で抱きしめて 貴方が答えを探しているのなら
 雪椿 紅く染まる花びらに 今宵を預けて迷い続けた

微かな古琴の音色と、涼やかな女声。
ある小さな丘を通りかかったとき、雅やかな声が音を紡いでいた。
惹かれるようにその方向へと足を運ぶ。
顔も分からない女性の元へ足を運ぶ殿方の気持ちがよくわかる。
眼を引いたのは、一括りにされた艶やかな黒髪。
この声にも聞き覚えがある。
そしてその後ろ姿にも。
「・・・、北川・・・。」
思わず呟くと、彼女がゆっくりとこちらを振り向く。
ひどく驚いた表情で。
・・・そして、ひどく狼狽した表情で。
「ど、して・・・。」
「別に理由はない、けど。」
「なんで今来ちゃうの・・・。」
眦に光るもの。
それは、彼女の決意がまだ、固まっていないことを示している。
まだ青く葉を茂らせる頭上の樹が、枸橘の樹だということは鼻腔をくすぐる微かな柑橘類独特の香りが教えてくれた。
ここに彼女はいた。
北川の元彼との思い出の場所が、ここ。
「まだ、約束の事を引き摺るのか。」
「・・・。」
「そろそろ自力で立ち上がってみないか?」
「・・・どうしたって、忘れられないよ?たぶん、貴方と付き合ったところで君を苦しめるだけだし、私の心は他の男の子を見ている。そんな人間の傍にいても、自分が嫌になるだけだよ?」
「・・・どうしてそう思うんだ。」
「私は、好き合っていた人とでもうまくやっていけなかった。まだ吹っ切れない状態で付き合ったとしてもまた傷つけるだけだから・・・。」
見ている方の胸が潰れるような表情をしないで欲しい。
そんな自信なさげな弱りきった声で言葉を紡がないで欲しい。
きちんと自分に希望を持って欲しかった。
それを、彼女に伝える。
ありのままに。
「一回あったからって、二度目もそうとは限らない。人間の付き合い何てやらないとわからないんだよ。」
「何回やっても無理なことだって沢山ある・・・。」
「無理だと思ってればうまくいかない。」
「・・・。」
「・・・ただ、傷つくのが怖いだけなのだろう。」
俺の低い一言に、彼女は肩を大きく揺らした。
心中を中てられた動揺。
人間の心は、必ず体のどこかに現れる。
大きな傷を負ってしまった一人の人間。
ただじっとしているだけではだめなのだ。
「行動に移して、失敗してでも学べるものはある。実行することに恐怖を覚えてはだめなんだよ。傷ついたら、その傷を癒やすためにも、周りの人のためにも、動かなければ意味がない。」
そう言い切る。
僅かな静寂。
その静寂を裂いたのは、彼女の静かな一言だった。
「・・・、信じても、いいの・・・?」
静かな声だった。
たったの一言。
その中でも、彼女のきちんとした意志の感じられる声だった。
そして俺はその言葉に返す。
「ああ、信じろ。信じて前に進もうと努力するんだ。」
俺が片頬を少しだけ持ち上げると、北川もつられたように微笑んで返した。

それからの彼女は、今までとは少し違う表情を少しずつだか見せるようになった。
少しずつだが明るさが覗くようになった彼女の笑顔。
今まで硬かった言い方や物腰が、柔らかさを帯びていく。
少し毒舌な口調も、本当はただ凛々しくはっきりとした涼やかな物言いだったのだと今では思う。
自分らしく進もうとしている北川に、俺の心は一層惹きつけられるようになった。
そして、彼女を恋い慕う気持ちも募り、大きく膨らんでいく。
・・・彼女が好きですと、今、心から言えます。
どこかで聞いていたら、枸神、北川の変わり様、きちんと見ていろよ。
何としてでもお前を超えてやるよ。
・・・助けを求めるのが枸神、お前ではなく俺になる日が来るまで。
それまで俺はずっと一方通行の恋を辿る。


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