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Re: 彼女の命は、未だ散らない。 ( No.10 )
日時: 2016/01/05 23:10
名前: 深海 ◆XAZUAOywuY (ID: hujSVxra)

□Episode 5 〜蜂須 瑞貴side〜


■持つべきものは



実行委員の今日の集まりは、只の顔合わせ程度だった。

実行委員は、1クラスあたり、原則4人。

俺と迫河。

後は、ジャンケンで負けたバスケ部の東堂トウドウと、推薦で票が多かった三代ミシロさん。

見知った顔ではあったけど、このメンバーで運営していくのだと思ったら、俄然やる気が出てきた。

......のだけど。

迫河だけは、俺に対して、いつにも増して態度が刺々しくなっていた。

顔合わせが終わった後も、俺がいないみたいに前を華麗にスルーしたし、次の日、話し掛けても俺には見向きもしなかった。

こんな事は初めてで、迫河は、話し掛ければ必要最低限とはいえ、きちんと対応してくれたものだ。

俺は、そんなに迫河に嫌われてしまったのだろうか。

「......で、どうすれば良いと思う、ナツ?」

昼休み、俺はわざわざ隣の教室で弁当を食べながら一部始終を話し、目の前の男に尋ねた。

そいつは、ちらりと俺を呆れた目で一瞥し、溜め息を吐いた。

俺が話している目の前の男は、幸村 夏彦(ユキムラ ナツヒコ)。通称ナツ。(ただしこの呼び名で呼んでいるのは俺だけだ)

185cmの身長を持ち、無口なもんだから、皆に恐れられているが、本質は気配りの出来る、親切な男だ。

因みに、幼稚園時代からの友人で、所謂幼馴染み、というヤツでもある。

「殴られなくて良かったな、瑞貴。オレが迫河の立場だったら、間違いなくお前を殴ってた」

「ちょっとっ!?酷くない!?」

すると、ナツは俺の瞳を見据えて、言い放つ。

「酷いのはお前だろ。

お前のクラスの迫河っての、聞いた限りだとあんまり目立ちたくないんだろ」

ナツには、今日以前にも、迫河の話をしていた。

勿論、迫河の不死身の事は秘密で、だけど。

そして尚も、ナツは言葉を続ける。

「そんな人間を、お前一人の思いだけで、本人が望んでない事をして良いと思うのか?

手助けやお節介でもない、それはお前のただのエゴだ」

ナツの言っている言葉は厳しくも正論で。

正論、なのだけれど。

「うん、ナツは正しいと思う......、というか絶対ナツが正しい。

けどさ......」

目の前の、長年一緒につるんで来たこの友人の良い所は、自分の意見を遮られても、反論されても、相手の話をしっかりと聞く事だ。

そして、今も。

「けどさ、俺、前聞いた事あるんだ。

実行委員決める前の、昼休みに『クラスの人達との交流は、簡単に出来ないから、こんなに苦労してるんじゃないか』って、迫河が言ってたのを」

実は、あの昼休み、迫河が出ていった後を追い、階段で偶然聞いてしまったのだ。

迫河が、美しい孤独の雰囲気を漂わせ、ポツリと呟く言葉が、反響して俺の耳に聞こえて。

「あまりにも寂しそうだったし、俺、何かキッカケを作ったつもりだったんだ。

けどさ、やっぱ、俺の勘違いだったのかな......」

後半になるにつれて、段々と声量が小さくなっていく俺の頭に、軽いチョップがカツンと当たる。

目を上げるとチョップをした犯人はナツで、いつもと変わらない調子で話す。

「じゃあ、今から確かめに行けば良いだろ。

ちょっとやそっとで折れちまう程、お前のメンタルは弱くねぇはずだ。

迫河にクラスの奴等と馴染んで欲しくねぇのかよ」

ナツはそれだけ言うと、漫画を取りだし、読み始める。

目線は漫画に落としたままだが、左手は『行ってこい』という様に、ヒラヒラと振っていた。

そうだ、俺には、迫河の不死身を治す方法も見つけなくてはならない。

約束したのだから(一方的だが)。

その一歩として、まずは迫河と仲良くなろうと決めたんじゃないか。

「ありがとう、ナツ。

俺、行って来る」

早く迫河に会って、謝らなくては。