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- Re: 雨漏り傘。【短編集】 ( No.2 )
- 日時: 2015/12/13 16:36
- 名前: 洸。 ◆qiPqkmYC.c (ID: XM3a0L/1)
「幸福に潜む不幸。」.君は習慣、僕は願い.
———大粒の雨が、窓に強く打ちつけられる。
一向に止む気配を見せない雨に、気分の失せる人はどれ程居るのだろう。
リビングに雨音が虚しくも微かに聞こえ、僕は〝嘘〟の溜め息を吐いた。
「花音(Kanonn)、なんでお前が此処に居るんだ!?
家は隣なんだから、わざわざこっちに移動する必要はないだろう!」
掃除機を片手に、僕はソファーでくつろぐ花音に視線を向け言った。
今、此処にいるのは僕と彼女だけ———つまり、2人きりである。
しかし、胸の高鳴りなんてするはずがない。幼馴染なのだから。
……それも彼女にとっては。
「別に良いじゃない。汐音(Shionn)が1人ぼっちだから、
可哀そうだなーって思ってわざわざ来てあげてるんだから」
「……本当は?」
「習慣ね」
この会話も何度目だろう、とため息をまた1つ吐きながら考える。
家が隣同士の僕らは、しょっちゅう互いの家を行き来している。
僕が彼女の家に行く理由など明白だが、彼女に至っては習慣なのだ。
雨の日にのみ僕の家に来る、謎の習慣が根付いているのだ。
周りの皆は羨ましいと口を揃えるが、寧ろ哀しくなってくるだけだ。
彼女にそんな習慣が根付いたのは、〝幼馴染〟だから。それ以上でも以下でもない。
「……花音、僕だって一応は男だよ? 少しは警戒、したらどうなの」
床に掃除機をかけながら、さらりと言ってみる。
すると、彼女はテレビを見て笑い、そのまま視線を此方に向けた。
「警戒って、何をどうするのよ? 第一、汐音はそんなことする人じゃないでしょ」
「……何を根拠に言ってるんだか」
その答えに、思わずぼそりと心の声が漏れてしまう。
掃除機の音でかき消され、彼女の耳に届かなかったのは幸いだ。
そして、テレビにまた夢中になってくれたのも幸いだ。
今の僕の表情は、きっと彼女を混乱させてしまうだろうから。
———僕の暗闇の中での戦いは、まだ続く。
幼馴染という境界線は、どんなに強力な洗剤でも落とし切れないだろうから。
× ×