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Re: センセイ×セイト ( No.19 )
日時: 2017/01/14 21:28
名前: 鐶 ◆u8YacDeZBU (ID: as61U3WB)

第13話


資格試験が無事終わり
彼の顔は少し安堵の表情になっていた。

「はぁ……。」

近くの小さな公園で私は1人
ブランコに揺られていた。

「風間さん。会いたいな。」

ボソッと呟き私は顔をあげる。
綺麗な青空。
吐く息は白い。
ボーっと空を眺めていると

「なにしてんの?」

ひょこっと顔がイキナリ私の前に現れた。
私はビックリして小さく悲鳴をあげ
ブランコから落ちる。

「……!?」
「いたたた…。」

地面に座っている彼の顔を
私は間近で見ていた。
ブランコから落ちた私を優しく抱き込み
下敷きになっている彼。

「ご、ごめんなさい!」

焦りと恥ずかしい気持ちで
私は1人テンパっていると
笑いを堪える声が耳元で聞こえた。

「俺が悪いんだから謝らなくていいよ」

柔らかい彼の声と笑顔。
私は口を紡ぎ目を逸らす。


2人で近くの椅子に座る。
暖かい飲み物を手に私は彼を見つめる。

「そういえば風間さん。」

フッと彼の名前を呼ぶ。

「まただ。」

彼は顔をあげ私を見つめてくる。
真っ直ぐと目を見る。

「えっ?」

顔が一瞬にして赤く染まる私。
彼は真剣な顔で私を見つめていた。

「環ちゃん」

私は少し肩をビクッと揺らした。
高鳴る鼓動を感じながら。


「俺の事、名前で呼べない?」

目を丸く見開く私を彼は真っ直ぐ
目を逸らさずにずっと見ていた。
口を小さくパクパクさせながら
私は彼を見つめていた。

「な、なんで……?」

顔が熱い。
声が少し震える。
私は顔を隠すように前髪を触りながら
彼に問いかける。

「呼んで欲しいなって。」

すぐに彼の回答が返ってきた。
ドンドン心臓が高鳴る。
指の先まで熱くなる自分が少し可笑しくて
私は顔を両手で隠した。

「……け、慧さん……」

小さく小さく彼の名前を呼ぶ。
呼んだ事のない彼の名前を。

「ん?」

スッと髪をすくわれる感触がした。
聞こえなかったとでも言われている感じで。
唇を少し噛み締め私はチラッと
手の隙間から彼を見る。

「慧さん。」

名前を呼ぶ私を
目を細め見やる彼は
私の手を掴み顔に置かれた手を
自分に引き寄せた。
顔が赤いのがバレるくらい近い距離
ジッと私を見つめる彼はなんか色っぽい

「環ちゃん顔が赤いね」

今すぐココから逃げ出したいけど
掴まれた手を振りほどく事が
私には出来なくてちょっとした抵抗で
顔を逸らす。

「か、風間さんが虐めるから。」

私は口を開く。
彼はニッと笑いながら私の頬に触れる。
小さく肩を揺らし私は目を小さく見開く。

「まただ」

イジワルそうに笑いながら
彼は私の顔を自分の方に向ける。
何も言わない彼を私は見つめる。

「……。」

何か思いつめた顔をしながら
彼は私を見つめていた。

「今日、家を出るんだ。」

微笑みながら彼は言った。
サヨナラなんてしたくなかったから
ひっそり公園にいた私は涙を我慢する。

「だから最後にワガママ言ってみた」

優しく手を離し彼は言う。
目が離せない私は胸に手を当て
ギュッと手を握る。

「イキナリごめんね」

少し悲しげに言う彼は
スッと椅子から立ち上がる。
私に背を向け

「またね環ちゃん」

顔を見ようとしない彼は
そのまま歩いて行く。

(このままサヨナラ……。)

頭の整理が出来きれていない私は
不意に立ち上がり彼の背中に
抱きついていた。

「慧さん」

驚き目を丸くする彼の顔を
私は見れないけど
手に力を入れて抱きしめていた。

「ありがとう。」

何故かお礼がいいたくなった。
でもこの気持ちだけは彼には言えなかった。
だって彼は春から教員になる。
私は伝えちゃいけないと心のどこかで
噛み締めていた。

「環ちゃん」

彼は唇を噛み締める。
ゆっくり私は彼から離れる。

「行ってらっしゃい。」

彼の背中を押す。
振り向く事の無い彼の姿
私の視界は涙でぼやけていた。
彼に背を向け反対方面に歩いた。

振り向いたらもう歯止めが効かなくなる。

私はそう思いながら振り向きたい
気持ちを抑える。
涙が溢れてくる。

「サヨナラなんて嫌だよ慧さん」

ボソッと呟き私は顔を手で覆った。

「好きなのに。伝えたいのに。」

聞こえない声で微かに呟く。
掠れた私の声はもう彼には届かない。
1人しゃくりあげながら泣く。

するとイキナリ後ろから抱きしめられた。
私は目を丸く見開いた。

「行ってきます。」

震えた彼の声。
震える彼の身体。

私はそんな彼を振り返る事なく
ただただ背中で感じていた。
これは最後のあたしなりの強がり。


そして最後の私のワガママ。
──ずっとこのままで居たい──