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- Re: 魔断聖鎧ヴェルゼファー ( No.16 )
- 日時: 2016/02/27 02:12
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 16oPA8.M)
————ヒタリ。
しめやかな感触。
水の匂い。
「ここは・・・」
ロベルトが辿り着いたのは地下に広がる地底湖だった。
その湖には渡り回廊があり、中央には白いアーチの建造物が建っていた。
ポータルだ。
見たところ損傷は無く、おそらく起動できるだろう。
「・・・よし。まずはこの遺跡から出よう。その後ハンスと合流して———」
ふと、両手に抱く少女を見やる。
その場の勢いで連れてきてしまったが、一体どうしたものか。
溜息をひとつ吐きロベルトは中央のポータルへと歩く。
外に出たら、ちゃんとした墓でも作ってやるか。
そんなことを思いながら長い渡り回廊を中ほどまで進んだとき、違和感に気付いた。
湖の中に何か大きな影が映った。
「まさか、こんな時に・・・!」
・
水面の波紋が徐々に大きくなる。
それは凄まじい速さで水上に出ようとしていた。
「やばいっ! 魔物だっ!!」
ロベルトが少女を抱えなおし、前方に走り出した。
刹那。
先ほどまで自分が立っていた回廊ごと巨大な顎が咬み砕いていた。
盛大な水飛沫を散らし、異様な何かは長い肢体をぐるりとくねらせて喰らいそこなった獲物に視線を向ける。
それは全長二十メートルはあるであろう巨大な蛇のような物体だった。
魔物。
魔物(デモドゥス)と呼ばれる史上最悪の怪物。
いや、災害。
すべての生き物の天敵。
生きとし生けるものの存在を貶める呪われた存在。
遥か昔から人間と争ってきた。
「くそっ! 生身じゃ戦えないっ! 鎧機(マギナ)がないと・・・!!」
魔物は多種多様であり、既存の生物の概念は一切当てはまらない。
ある学者は言う。
魔物は生物ではない、と。
魔物が死んだ、もしくは活動が停止するとその体は無数の粒子となり霧散してしまうのだ。
死体が残らない。
学者は言う。
彼らを構成するのは高純度の魔導元素である、と。
意志を持つ自然災害だ、と。
つまり現在、自分たちが、あらゆる生活面、生産面で消費しているエネルギー源である魔導燃料は遠い昔の魔物の化石から出来ているのではないか、と。
これに魔導学会はおおいに着目し、魔物の研究が行われているらしい。
しかし、聖教会が反目し異端扱いしているとも言われている。
学会や教会の思惑はとにかく、発掘屋としては常に魔物の脅威に晒されている自分らを労ってほしいものだ。
ロベルトは少し自嘲気味に笑った。
こんな状況下で冷静に考えている自分に対して。
全速力で走る背中に感じる圧倒的な威圧感。
これが生物じゃないって?
たしかに災害なのは間違いない。
普通の重火器ではまるで歯が立たない。
故に鎧機、とくに戦闘用にフレームカスタムされたもので一気に叩き潰すしかないのだ。
今までも魔物には出会ったことはある。
こんな大物ではないけれど。
それでも並みの鎧機でようやく撃退出来る程度だった。
自分も鎧機には乗れるが、ハンスほどのセンスは無い。
せいぜい牽制して注意を引き付けるのが関の山だ。
今、真後ろで蜷局(とぐろ)を巻いてるみたいな奴は見たことない。
全身を貫くような殺気がヒシヒシと伝わってくる。
やばい・・・相当にやばい。
ハンスはいない、鎧機もない。
目の前のポータルまでとてつもなく距離を感じる。
後ろで気配を感じる。
首を大きくもたげて姿勢を低く構えている。
マズい・・・来る。
ポータルまであと少し。
駆けろ、俺の足。
もう少し。
ロベルトが白い光に包まれると同時に、突風がポータルごと貫いた。