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Re: 彼女の命は、未だ散らない。 ( No.11 )
日時: 2016/02/06 23:11
名前: 深海 ◆XAZUAOywuY (ID: 3MzAN97i)

□Episode 6


■だけど、君は。



昼休みも終わりに近付いた屋上。

今の季節は6月で、春の名残をなびかせながらも、初夏を感じさせる中途半端な空気が纏わりつく。

この中途半端な空気さえも、人間であって人間でない私に親近感を与えるには充分すぎる。

そんな自分に軽く嫌悪感を抱き、手に持った、中身の入っていない栄養ゼリーのパックをぐしゃりと握りしめた。


第一、何故私が人との関わりで悩まなくてはならないのだ。

そう考えた時、脳裏に浮かんだのは蜂須君の顔。

アイツにあの時出会わなければ、こんなにも私が苦しむ事はなかったのに。

アイツの、せい、だ。

お人好しで、面倒見が良くて、お節介な、人気者の、アイツのせい。

そうだ、実行委員なんて、たかが1ヶ月だ。

1ヶ月間、多少注目される事はあっても、数日たてばどうせその注目も廃れる。

このままずっと距離を置けば、きっとアイツも離れていく。

そう思っていたのに。


「迫河!!」


君は、私の目の前に現れる。

肩で息をして、額に薄く汗までかいて。

「...どうして、」

この人は、他人の為に、ここまで必死になれるのだろう。

すると、呼吸を整えた蜂須君は、ガバッと私にお辞儀をする。

「迫河!!ごめん!!」

「...は」

いきなり現れて、いきなり謝って、本当に忙しい人だ。

「俺、ただ、迫河がクラスと関わりを持つキッカケを作りたかっただけなんだ。

上から目線とか、お節介とか思うかもしれないけど...。

でも、悪気はないんだ!」

それを言い切ると、頭を上げて、今度は私を見る。

「...別に私は怒りなんか持っていない。

たかが1ヶ月だろう、責任は果たすって言ったと思うけど」

ふい、と蜂須君の視線から逃れる様に私は目を逸らす。

屋上の床の灰色を見つめる。

「何で迫河は、そこまでクラスメイトと線引きしちゃうんだ。

そりゃあ、他人と関わる事は怖い。

でも、迫河の場合、露骨すぎると思うんだ」

...お前には。

「お前には、どうせ分からない」

心の中で呟いた言葉が、声に出てしまったようだ。

私の口から出た音は、コンクリートに反射して、蜂須君の耳に届く。

「生きていながら生きていないようなものだ、私は。

死にたくても死ねない、まるでこれでは化け物じゃないか。

こんな私が、普通の人間と普通に関わる事なんて、出来やしないだろう?」

私は、コンクリートを睨む。

私の視線でコンクリートを穿つ様に、ただただ床を睨みつける。

私達の間には、沈黙が流れる。

それはとても短いものなのに、酷く長く感じた。

それなのに、その沈黙さえ破って、蜂須君は言葉を発する。

「だけど、君は人間だ。

どんなに自分を化け物と思っていても、君は俺にとって、完璧な人間だよ」

その言葉に思わず、目の前の人を見る。

コンクリートの灰色とは正反対の、深紅色の瞳が視界に入る。

「迫河が今まで、何を背負ってきたかなんて俺には分からない。

だけど、俺は迫河を普通の人間だと思うし、不死身を治す方法を必ず見つける」

だからさ、と蜂須君は右手を私に差し出す。

「まずは俺から、迫河の友達にしてくれないかな」

私の前には、私を人間だと言ったクラスメイトの姿がある。

穏やかな笑顔で、こちらを見る。

私は、今まで他人を拒絶して来ていた。

だけど、君は、その壁さえも壊して私に友人になってくれと言う。

だったら、目の前の君を信じてみようじゃないか。

今思うとそれは、私の単なるきまぐれだったのかもしれない。

蜂須君の目を見据えて、覚悟を決める。

私はゆっくりと右手を差し出し、

「...宜しく、蜂須君」

蜂須君の右手に自分を重ねた。

丁度その時、5限目開始のチャイムが鳴り響く。

「あ、授業...」

「自習だったよ、確か。

遅れていっても大丈夫でしょ」

ついさっき、クラスメイトから友人に格上げされた蜂須君は、再び緩く笑って、屋上の扉に向かう。

私もその後を追い、5限目の始まった教室にするりと入っていった。