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Re: 謎嫌い探偵の事件簿 ( No.5 )
日時: 2016/02/05 14:41
名前: 相楽 (ID: g1CGXsHm)


結局、証拠なんて見つかるはずもなく。
悠はどぎまぎして、指定されたカフェへ向かった。
木目調を基本とした外観と内装で、大きな窓からは日差しがよく降り注ぎ、なんとも雰囲気の温かな店だった。
友人とランチもほどほどに終えて、楽しそうに会話をする女性たちの中に二人用の座席で一人本を読んでいる女性が目に留まった。
服装は綺麗に着こなしたオフィスカジュアルで、さっぱりとしたショートカットがよく似合う顔立ちがはっきりした女性だった。
ゆっくりと近づいていくと、その女性は本から顔をあげ訝し気に悠を見つめた。

「三橋加奈子さん……ですか?」
「ええ……。」

訝し気な表情は変わらずして、悠を見つめる。

「えっと、先ほど瀬名葵さんの事でお電話した瀬名悠です。」
「あぁ!」

丁寧に自己紹介をすると、三橋は目を丸くして声をあげた。
目の前にある椅子を悠に勧めて、悠は落ち着いて席に着いた。
三橋は手に持っていた書店のカバーがついた文庫本をカバンにしまいながら言った。

「びっくりしちゃった。電話の時、会話が随分しっかりしてたから……その、もっと大人っぽい子かと勝手に想像しちゃってたわ。」

片方の眉を吊り上げて彼女は笑った。

「よく言われます。せめてもう少し背が伸びてくれたらいいんですけどね。」

悠は苦笑いをした。
それじゃ、と三橋は手を悠に向けた。

「学生証、見せてくれる?ちゃんと確認したいから。」

悠はカバンの中を探り、埋もれていた学生証を取り出して三橋に渡した。

「……これで、瀬名さんの身元はわかったわ。」

はい、と悠に学生証を返しながら言った。

「あの、やっぱり、証拠は見つからなくて、ですね……。」
「それなら、住所はやっぱり教えられないわね。」
「ですよねぇ……。」

はぁっと悠はため息をつく。

「でも、職場なら教えてあげてもいいわ。身元もちゃんとわかったことだし……。何より、彼にはちょっとした借りがあるから、そのお返ししないとね。」

不穏な笑みを浮かべた三橋は、カバンから取り出した手帳から何かを書き出してそのページを破ったかと思えば悠にそれを差し出した。

「彼の職場。」
「えっ。でも、職場って言っても……簡単に入れるわけじゃ、」
「大丈夫よ。普通に入って行ける場所だから。」

悠はその紙を受け取って、紙面に書かれた文字を見た。

「幌南書店……。」

なるほど、と悠は納得した。

「書店員、ですか。」
「そういうこと。」

それならば、気軽に会いに行けるだろう。
一緒に書かれた住所を見ると、どうやらここの最寄りの駅から二つほど行った先にあるみたいだ。

「ありがとうございます……!」
「ただし、条件が一つ。」
「へ?」
「もし、仲良くなれたら。私のインタビュー依頼に応じてくれるように説得すること。いい?」
「は、はいっ。……あの、ところで、借りって?」

引っかかってた事をたずねると、三橋は意味深に笑うのだった。

「内緒。」