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傷つくことが条件の恋のお話
日時: 2016/04/09 15:38
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

どうも。皐月凛雅です。
今回は、高校生に登場してもらいます。
深い傷を負ったEIGHTEEN女子高生と、
いたって普通だけども普通じゃない男子高生と、
人気モノの男子高生がメインの高校生活のお話。
頑張りますから、小学校の授業参観に来た父兄のような、
温かい目で見守ってくだされば。

ー登場人物ー
・北川 優
 佐久間高等学校3年B組。社会の女王様のあだ名で、落ち着いた雅やかなお姉さま。男女関わらずに人気は高いようだ。テニス部のエースで図書委員会委員長。
・能澤 崇
 別に特徴のない優の同級生。彼はC組でいたって普通。剣道と空手なら誰にも負けないし、水泳とテニスとサッカーだったらできる方。でも面倒臭いから帰宅部。
・朝瀬 翔也
 『めっちゃイケメンで、むちゃくちゃイケボですんごく頼りになる』優のクラスメイト。家も結構な金持ちのお坊ちゃまで、文武両道の憧れの的高校生。


 ≪優 side≫
今から4年前の夏、私は大切なものを失った。
原因は私にあった。どう考えてもそう。
それなのに、それなのに彼の親は私のことを責めなかった。
蔑みもしなかった。私にあたることもしなかった。
ただ、泣きながら一言、
「ありがとう」
そう言った。
私にはそんな言葉をもらう権利などない。
私は貴方の息子の命を奪ったのに。
なんでそんなことを言えるのか、貴方の神経がわかりません。
その時以来、葬式にも出なかったから彼の親に会うことはなかった。
そして、私は心から誓った。
『私は、絶対恋に落ちるようなことをしない』
そうして彼との思い出を、心の奥に封印した。
自分の、心からの笑顔も。

4時限目、あんまり面白くない音楽科が終わり、音楽室から教室に帰る途中、
「ゆ〜〜う!!」
後ろから誰かがばんっと背中を押してきた。
ひょっこりと顔を出すのは私の唯一無二の親友、斉藤沙穂。
「沙穂。今筆箱でぶつかったでしょ。めっちゃ痛かったよそれ。」
そういって彼女を睨めば悪気なんてそっちのけで、すまんね、とだけ言った。
「それより聞いた?朝瀬って、A組の永井紗菜振ったんだってよ。」
「まあ、当然じゃない?永井紗菜ってあの派手なギャルでしょ。あんなのと付き合って長続きした方がおかしい。」
思ったことを、包み隠さずに率直に述べる。この口調が気に入らない沙穂は、その毒舌何とかしなよ、優、と苦笑してから続ける。
「まあ、永井さんって結構面倒臭そうだから付き合ってくれるまで朝瀬に付きまとって、朝瀬が諦めてやっと付き合えたってことじゃないの?」
「・・・、そんなに面倒なの?そのこ。なんか朝瀬に同情できそう。」
そんなに付き纏われていたのなら、あんまり話したことのない朝瀬でも、素直に可哀相だと思える。
「永井紗菜って、女王様気分でいる出しゃばりとか、女子力が半端ない人ってゆうような見た目だったけど、男子にはどう見えているのかな。」
素直に疑問を口に出してみると、じゃあ、と言って沙穂が上を指差した。
「今の疑問、莫迦男子に聞いてみる?誠と拓真、今日は屋上でお昼食べるらしいから。」
「ああ、そうね。聞いてみようか。」
そう答えると彼女は、優のお弁当持ってくるから先行ってて、とだけ言い残して教室へと入っていった。
沙穂と広瀬誠、山崎拓真、それに私は、中学時代の仲間で、4人一緒にこの高校を受験し、合格した。
いつでも一緒だった。今でも放課後になれば4人で新宿行ったり、誰かの家に泊まったりしてるくらいだ。
「誠、拓真。」
屋上まで行き、手すりに寄り掛かっている2人に呼びかける。
2人とも私を認識すると、ふっと笑って手招きしてくれる。
「なんだ、沙穂はどうした。」
誠が笑いながら、話しかけてくる。
「お弁当取りに行ってる。もうすぐ来るよ。」
「あいつはパシリかよ。」
「そうね。自主的にパシリやってくれて助かる。沙穂っていいね。」
「うわっ、出たよ。優の腹黒思考。女っていつみてもおっかねえ生き物だよ。マジで俺そう思う。」
「お前、ほんと擦れたぜ。もう少し大人しくしてればもうちょっとは可愛げあるんじゃねえか?」
拓真の言葉に少しカチンと来て言い返そうとしたタイミングで後方から声がかかった。
「あんただって人のこと言えないでしょ。このぐれ男。」
「うっせーよ。沙穂は黙ってろ、口デカ女。」
「それ、乙女な女子高生にいう言葉?もうちょっとは考えなさいよ、莫迦不良!」
「誰が不良だっての、俺より脳味噌ないくせに。」
これ以上やりあうと白熱しそうなので、そっと私は誠に目くばせする。
「こらこら、ご夫婦様。痴話喧嘩はどっか違うとこでやってください。こちらとしてもこんなに仲睦まじい様子を見ていると少々焼けるので・・・、」
にこにこしながらお世辞を投げかける誠。
「誰が夫婦だっての!!!」
2人一緒になって誠に怒鳴る拓真と沙穂。
拓真と沙穂は幼馴染で、小さいころから一緒にいるのだ。この二人の痴話喧嘩は、言ってしまえば恒例行事なのである。
「で。どうして男同士の貴重な時間を邪魔しにやってきたの?」
夫婦と言われたことでまだ拗ねている拓真が聞いてくる。
優がおにぎりを口に入れてまだもぐもぐしているところを見て、代わりに沙穂が説明してくれる。
「A組にさ、永井紗菜っているじゃん。男ってああいうタイプ、どういう目で見てるのかなあって、疑問ができたから聞きに来たのよ。」
「別にあんま気になんないけど。美人なんだろうなあとは思うけど、やっぱ遠目に見てて、気に障るような奴だとは思う。」
あんまり感情が入っていないこの声は拓真の声。
「気が強いのはわかるけど、自分の意見がしっかりしてるだけなのかもよ。自分に自信があるみたいだし。まあ、男はエロいからね。漫画なんかに出てきそうな美少女だから、付き合いたいと思う男子は多いよ。」
この、客観的な発言は誠のもの。
「美少女ならこんなに近くにいるのに、よくそんなこと言えるねえ。ま・こ・と?」
沙穂の口調には、はっきりと揶揄の響きがある。
「沙穂・・・、私のこと莫迦にしてる訳?凄くムカつく。」
実際に自分が美人だとか、綺麗だとか思わない。みんなが興奮して称賛するような要素は一つも持ち合わせていない。
「優は確かに美少女だけど、中身がめっちゃ黒いから・・・グハッ!」
間髪入れずに飛んだ私の〈怒りの回し蹴り〉のおかげで、誠は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
「あらぁ、お大事にね、誠。拓真も誠の対処よろしく。」
私がすたすたと屋上を後にしたせいで、沙穂が慌てて後を追ってくる。
次は、私が好きな和山先生の古文。早く戻って予習しよう。
そう心の中で唱えることで、静かに心の怒りを抑えた。

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Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.1 )
日時: 2016/04/09 10:54
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

ー登場人物ー
・北川 優
・能澤 崇
・朝瀬 翔也
・斉藤 沙穂
 中学からの親友。あることをきっかけに仲良くなり、お互いの
唯一無二の親友。毒舌ではっきりしている。
・広瀬 誠
 小学生の頃から優と一緒にいて、一番近くから優を見ていた人物。
明るく騒がしい男子。
・山崎 拓真
 あんまり騒がないタイプで少し冷たい感じのする男子。
優とは中学からの付き合い。


 ≪優 side≫
ある日の放課後、機械音痴な先生の頼みで文化祭の
プログラムを任された私は、下校時刻ぎりぎりまで学校に残っていた。
PC教室に鍵をかけ、教室に荷物を取りに行こうと戻ったところで、
C組から男女の声がすることに気付いた。
「・・・なんでそんなに私の事避けるの?付き合ってるんだよね?
もうこんなに付き合ってるのに、なんでそんなに冷たいの?」
「・・・。」
「ねえ、何か言ってよ・・・。崇!!」
女の子の声がだんだんヒステリック気味に高くなってくる。崇と呼ばれた男の子は、いっこうに応える気配がない。
ドアの近くで話している様子で、そこを通れば盗み聞きされたと思われるに違いない。
どうしようかと首をひねっていると、急に低いバリトン声が聞こえた。
「・・・。俺、今付き合ってる奴がいるんだ。」
その声とともにドアが開き、すぐ脇にいた私の手首を力強い手がしっかりと捉えた。
「俺の今の彼女。結構前から付き合ってんだ。最初っから森山に
気なんてないんだよ。そんぐらいすぐに分かるだろ。」
「嘘・・・、でしょ・・・。」
覚えがないのか、森山さんは黒みがちの比較的大きな瞳をはちきれんばかりに見開いている。
「嘘じゃねえよ。俺はお前がしつこいから付き合ってただけだから。」
話についていけなくて動揺する私と、冷たく言い放つ崇という男の子。
泣きながらまだ、嘘だ・・・。と言い続ける森山という女の子。
「そんなにしつこいなら、証拠見せてやるよ。」
明らかに苛立った様子の男の子は、そう言うか否やのうちに私に覆い被さって、唇にふわりと何かを寄せた。
その様子を見た女の子は、大きく目を見開いたかと思うと、くしゃくしゃに顔を歪ませて教室の外へ飛び出していった。
私は、思考回路がストップした状態でただ茫然とその様子を見ていた。
「・・・、なあ、さっきは・・・、」
彼が口を開いて何かを言ったが、その瞬間に何かが頭の中で爆発した私は、目の前の彼の頬を思いっきり叩いた。
「あなた・・・、いったい何してんの・・・?」
「えっ・・・?」
「何してんのって言ってんの。なんでこんなこと・・。」
勢いに任せて私は怒鳴る。もう私は止めることができなかった。
「なんで私なんか引っ張り出すの。前から付き合ってる?
冗談じゃないわ、自分たちの私情に他人引っ張り込んで、
キスまでして、貴方いったい何様のつもりよ!!!」
「・・・あんだけでなんでそんなに怒ってんの?意味わかんねーよ。」
嘲笑うようにそういう彼の顔が憎らしくてしようがなかった。
「あんだけ・・・?そうね、貴方にはあんだけのことかもしれない。
・・・だけど、でも私には、私には、・・・!!」
もう、無理。そう思った私は彼に背を向けて駆け出した。
彼が、おいっ、と腕を掴んできたが、触らないで、とだけ吐き出して、
狂ったように私はある場所へと走り続けた。

「ハアっ、ハアっ・・・。」
がむしゃらに走り続けてやっと止まった場所は、白い花を咲かせている一本の枸橘の樹がある丘だった。下には柔らかく流れる小川がある。
「・・・、私は、まだ待ってるよ。ずっと・・・。」
そう呟いて、私はそっと唇をなぞった。
なんでよく知らない男子なんかに口付けられなきゃいけないの。
女の子をあんなに冷たく傷つけるようなあんな最低な人間に。
私の心も、唇も、ずっと壮也のもの。
なのになんで、
「なんであんな男に穢されなきゃいけないの・・・。」
誰か、ねえ、この暗い悲しみの底無沼からどうか救い出して。
ねえ、壮也・・・。

その日を境に、私はこの枸橘の丘に通うようになった。毎晩のようにこの丘に来ては、泣き腫らす毎日。
学校に行けば、この前推薦されて決まった文化祭実行委員長としてみんなの相談を笑って聞いて、実行委員の会議をすればあの最低男と嫌でも顔を合わせなくてはならない毎日。
あの最低男、[能澤 崇]はいたって普通の男子生徒らしかった。まあ運動全般は有能で、色んな部活動からスカウトが来るにもかかわらず、いままでの高校2年間帰宅部を貫いている変わり者だという。その逞しさと精悍な顔つきが女子に好評らしくて、入学時から騒がれていたらしいと沙穂が教えてくれた。
「でも、無愛想で真面目な奴なのか、あんまり浮き立った噂は立たなくて、あの森山秋奈が初めての彼女らしいよ。」
「それにあんまり付き合ってるっていう雰囲気でもなかったぜ。
あんまりC組でも話さないし、登下校も別だったらしいし。」
昼休み、沙穂と誠、それに拓真で久しぶりに屋上で集まっていた。
能澤のキスは、まだ誰にも話していなかった。あの日以来、その一件を気付かれるのが怖くて、必要最低限の接触しかしていなかったのだ。
沙穂との下校も最低限断って、暗くなってから帰るようにしていた。
もちろん能澤にも、絶対合わないようにして、避け続けていた。
「・・・う、ゆう、優ってば!!」
ふっ、と顔を上げれば、三人の心配そうな顔が、私を覗いていた。
私はその心配を取り除こうと、頑張って笑顔を無理やり貼り付ける。
「ん?どうしたのみんな。すごい暗い顔になってるよ。」
「優・・・。」
「ん?何?」
私が一生懸命笑顔を作ってると、沙穂は一言、何でもない、といった。
「じゃあ私、ちょっと用事思い出したから先戻るね。」
それだけ言うと、私は逃げるようにその場を立ち去った。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.2 )
日時: 2016/04/09 15:33
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

 ≪崇 side≫

俺は、剣道と空手さえできれば後は何でもいい。
幼いころからスポーツ一筋で生きてきた。世界王者の京極師の指導で、俺は空手に目覚め、何かの調査をしたいからとめてくれへんか、とふらっと立ち寄った色黒の大阪人、服部平次に稽古をしてもらった剣道を生きがいとする。そんな俺が、甘い恋愛なんかに現を抜かすなんて考えられなかった。
佐久間高等学校は、いろんな運動部に力を入れていると聞いて高校受験を希望した。
ところがその高校は偏差値が60以上の難関校の一つ。
スポーツ以外は全くダメな俺は、成績優秀の3歳上の姉さんに
手伝ってもらいやっとのところで受かった高校だ。
ぎりぎりで受かった俺は、夏休みは当然補習の毎日。
部活に入ろうとも思ったが、一番面白そうな夏休みの練習が
補習にばっちり被ることが分かって入ることを諦めた。
高校で知り合った杉野友人とつるんで退屈な高校を生活を送る毎日。
「入学してから、ずっと能澤君が好きでした。付き合ってください。」
二年に上がったころから急に増え始めたこの手の告白。
ずっと断り続けてはいたものの、いっこうに減らない現状に
イラつき始め、結局は一番大人しそうな森山秋奈と付き合うことにした。
『付き合っている』とはいっても、所詮口だけの付き合い。
彼女はいるのか、と聞かれたら、いるから付き纏わないで欲しい、と
言うためだけの利用する存在でしかなかった。
それなのに、進級した頃から森山が急に馴れ馴れしくし始め、呼び出されることが多くなった。
こんな付き合いを考えていなかった俺にとって、この変化は迷惑以上の何物でもなかった。
「どうすればいいかなぁ。」
ため息交じりに友人に相談してみれば、簡潔に意見を言ってくる。
「それはもう崇が悪いよ。気もないのに付き合うなんてのは
相手に失礼だ。きちんと自分の気持ちを伝えて別れたいなら別れろ。」
「どうやって別れるのか知らない。」
「人の居ないところで、きちんと相手も納得する意見を出して納得してもらうしかないだろ。そりゃ。」
そう言って苦笑する友人は、同じ中学だった神崎由紀子という女と付き合っているらしい。
友人に言われたとおりに、下校時刻ぎりぎりの教室で森山に別れを告げることにした。
「お前とはもう付き合えない。」
「なんで?」
俺は、はっきり言ったのに、冗談だと思ったらしく、笑いながら返してきた。
「もう付き合えない。」
はっきりと言って俺は、森山の出方を見ることにした。
沈黙を貫き通す俺を見て、しびれを切らした森山が甲高い声で叫んだ。
「ねえ、何か言ってよ・・・。崇!!」
俺は一度も森山を名前で呼ばないことにこいつは気付いているのか。
気付いてないとしたらこいつは超のつく鈍間だ。
そして俺は気付いた。ドアの外に誰かいることに。
この息遣いは女。
「・・・。俺、今付き合ってる奴がいるんだ。」
あらかじめ定めておいた方向に手を伸ばせば、案の定、明らかに女とわかる細い腕に触れた。
勢いに任せてこちらに引っ張れば、ふわりと気品のある香りとともに、
黒髪の女子が視界に入った。
「俺の今の彼女。結構前から付き合ってんだ。最初から森山に
気なんてないんだよ。そんぐらいすぐに分かるだろ。」
第一此奴に、気のある行動をとったことはないはずだ。
それどころかこんなに邪険に扱ってるのに分からないなんて。
冷たく突き放してもまだ帰らない森山にイラついて、俺は大胆な行動に出た。
「そんなにしつこいなら、証拠見せてやるよ。」
そういって、腕の中にとらえていた彼女を振り向かせ、一方的にキスをした。
案の定、森山は恨みを込めて俺を一瞥した後、振り向かずに走り去っていった。
いなくなったのを確認してから、彼女の方に目をやると、
目を見開いたまま固まっていた。
しばらくの沈黙が続き、俺はゆっくりと口を開く。
「・・・、なあ、さっきは・・・、」
あんなことしてごめんな、そういうつもりだったのに、俺は最後までいうことができなかった。
彼女が俺に平手打ちを食らわしたのだ。
俺が驚いて動きを止めると、泣きそうな顔をして彼女は怒鳴り始めた。
「あなた・・・、いったい何してんの?」
「えっ・・・?」
「何してんのって言ってんの。なんでこんなこと・・。」
そう零したかと思うと、何が壊れたように彼女が怒鳴り始めた。
意味が分からなくて、俺はとっさに口を開いて言葉を差し込んだ。
「・・・あんだけでなんでそんなに怒ってんの?意味わかんねーよ。」
そうやって嘲笑うと、こいつは狂ったように叫んでどっかへ行った。
『私には、・・・!!』
あいつはいったい何を言おうとしたのだろう。

翌日から、俺はいらいらしっぱなしだった。
謝ることもできずにむしゃくしゃして、やりたくもない実行委員をやらされる。
会議に出てみればあの女と顔を合わせることになり、近づこうとすれば避けるようにして逃げる。
今まで、そんなに女と関わったことのない俺は、意味が分からずに気持ちだけが空回りしてた。
でも、少し経つと、あいつを見つけると自然に俺はあいつを監視するようになった。
そして気づいた。
「あいつ、なんか無理してる。」
「ん?」
俺の前で、古文のノート整理をしていた友人がこちらに顔を向けた。
こいつにだったら言ってもいいか。
「B組に、北川優って女いんじゃん。あいつのこと。」
「へえ、あいつが気になんだ。いい傾向だね。」
「ちげーよ。ただ見てると何となくそう思うんだ。あいつ、いつも笑ってるけど、その笑い方がなんか人形みたいなんだ。」
「そこは否定するなよ。でも、ふーん。そうなんだ。人間の心に敏い崇がそういうなら、そうなんだ。」
「俺、あいつに謝んなきゃいけねーんだ。」
「謝れば?」
「謝れねーから困ってんの。あいつ、俺のこと避けてんだ。」
あーもうどうすればいんだよー、と叫びたくなるが、こんなとこで叫んだらただの頭イカれてる奴だ。
そうやって頭を抱えてると、友人が突飛なことを言い出した。
「じゃあ、僕が仲立ちしてやるよ。おまえに北川呼んで来いって言われたって言っとけば、俺のこと知らない北川は断れないだろ。」
「・・・お前結構卑怯な奴だな。」
「ストレートだな。普通、ここは、ありがと、って感謝するとこなんだけど・・・。」
そう言って頭を書く友人は、けどいい案でしょ、と笑った。
これからもこんな状況なんて俺は面倒臭くって嫌だ。
それだったら・・・。
「その案、乗ったわ。」
「は。」
「そのおびき寄せる案、実行だ。今日は先生たちの会議だから三時で終わんだろ。俺は屋上にいるから、呼んできてくれ。」
俺が頼むと、友人は少し驚いた表情で、ああ、といった。

Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.3 )
日時: 2016/04/01 10:27
名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)

≪崇 side≫

友人に、[北川を呼んで来い。]と言い置いて、自分は一足早く屋上へと向かった。

屋上に行くまで、あの憎たらしい女のことだけを考えていた。
なんであいつは、あんなに無理ばかりしているのか。
なんで、“仲間”と呼べる人間がいるにも拘らず一人だけで行動しようとしているのか。
どうしていつもあいつは、無理に作ったような笑顔を他の人に向けているのか。
そして、どうしてあいつの仲間はそんな状態の女を放っておくのか。
一度考え出せば、脳の中が疑問符で埋め尽くされる。
【北川 優】あの女は、一体どんな人間なのか。
俺は、その答えが無性に知りたかった。

屋上に着いて幾分も待たないうちに、北川はやってきた。
「なんですか。私は何も言うことないですから。」
そう言って、一定の距離を保ったまま俺に近づこうとはしなかった。
少し前に踏み出そうとする気配を漂わせれば、あいつは底冷えするような殺気を放った。
「お前はこの前のこと、気にしてんのか。」
「気にしていません。それだけなら帰らせてもらいます。」
そう言った彼女の顔が強張るのを俺は見逃さなかった。
「嘘ばっかつくな。自分では気付いていないかもしれないが、お前はあの日以来、全てを偽物になったような態度で人と接している。」
「これが本当の私ですから。嘘などついておりません。」
「嫌だったのなら、本当の気持ちを言えばいい。謝罪してくれと言えば、俺だって良心位はある。」
「ですから、気にしてなど・・・。」
微笑を浮かべながら答える北川は、明らかにおかしかった。
そして異質だった。
俺は目の前の人間の言葉を、最後まで聞かなかった。
「だったら、だったらなぜ!!あの直後、あそこまで声を荒げた?
どうして怒っていた?まさかあれは嘘でしたなんて言わないよな。あれはどう見たって気にしていないなんて言える人の行動じゃなかった。」
北川の双眸を捉えて、瞳を背けることを許さなかった。
黙っている人間に、容赦することはもうない。
「あの時は俺に非があったのは間違いない。そのことは謝る。でもあそこまで一方的に怒る必要があったのか。人の言葉も聞かずに。ただ自分の感情のままに。」
「・・・。」
「恥ずかしかったから?嫌だったから?ムカついたから?
・・・、ハッ、ふざけんじゃねえ。それとも、ファーストキスか?
高三にもなってか。莫迦じゃねえの・・・。」
冷たく、冷ややかに、そして嘲るように俺は一気に全てをぶちまけた。
僅かな間、二人の間に静かな沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、彼女の方だった。
「・・・じゃないわよ。」
「あ?」
「冗談じゃないわよ。こっちが無理して普通にしてるっていうのにわざわざこんなこと持ち出して。」
「無理する必要、あんの、これ。」
「私はそうするしかないの。あなたは分からないでしょうね。もう二度と復元することはできない大切なものを汚されたこの気持ちは!!」
目の前の女は、激しく振り乱していて、壊れた玩具みたいだった。
そんな状況の北川は、言葉をなくすのに十分すぎる光景だ。
「・・・、お前、なにいって・・・、」
「分かってくれなんて思わないわよ。ただね、壮也からもらったものを汚して欲しくなかった・・・。」
彼女の瞳には、涙が光っていた。
その姿は、偽りのものではなかった。
・・・・、壊れかけそうになった、人間の姿。
「・・・・、初めてのキスだったら、どんなに良かったか・・・。」
そう言い残し、ふらりと動いたかと思うと彼女は消えていた。
気品のある香りを、残り香のように漂わせて・・・。

手すりに寄り掛かり、快晴な空をぼうっと眺めていると、勢いのあるバンっという音に違和感を覚え、そちらに目を向けた。
「・・・、能澤・・・。」
「広瀬。なんだ、今はあんまりお前とは話したくないんだが。」
「・・・!お前、優に何したんだ。」
「あ?お前には関係ないだろ。」
「ある!いいから答えろ、何をした!!」
そういって掴みかかってくる広瀬は、明らかに興奮していた。
広瀬は力はあるが、幼い時から武道で鍛えられた人間を相手にできるほどではない。
「なんだよ、そんなに興奮して。自分の好きな女に手を出されたのが嫌なら口で言えばいいだろ。」
「さっき俺が声をかけたら、あいつ、ひどく怯えていた。
・・・、もう、あいつを苦しめないでやってくれよ・・・。」
そう小さく呟いて、俺の胸ぐらをつかんでいた腕を力なくおろした。
肩が、小刻みに震えている。
「・・・、あいつはもう、十分すぎるほど深い傷を負ってんだよ。
・・・・自分自身じゃあどうしようもならないぐらいになあ!!」
今まで下を向いていた広瀬が、急に声を荒げて二発、思いっきり俺の頬骨を殴った。
「・・・ってぇな。」
「一発は優のだよ・・・。」
「二発も殴りやがったじゃねえかよ。」
「・・・・・、最後のは、壮也のに決まってんだろ。」
そう言い残してあいつは走り去ってった。


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