コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【参照2200突破感謝祭更新!!】 ( No.215 )
- 日時: 2013/01/21 19:43
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
 「……一応、脈は安定している。命に別状はない」
 養護教諭の美作は、少ししわを眉間に寄せていった。
 ……ダメナコの容態について、美作は嘘をついていないだろう。ただ、それは身体の話で、精神はかなり参っているようだった。
 「……どうしたんだろう、せんせー。いきなり倒れるなんて」杉原も、顔色が少し悪い。
 「……杉原。俺たちはダメナコについてやろうぜ」
 「三也沢君?」
 「美作は、行方不明の生徒を探してやんなきゃならねえだろ。授業が出来る感じじゃないし、ここは俺たちに任せて、いってくれ」
 警察は、事件性が薄いと動いてくれない。浚われたのか自分から行方不明になったのかは判らないが、後者ならば積極的に介入することはないだろう。となると、人手が足りないハズだ。それに、行方不明ということは、生徒の容態がどうなのかも判らない。養護教諭は緊急事態にすぐ動けるよう、備えたほうがいい。
 「……一応、生徒たちは自習ってことになっているが、まあいいか。お前たちは成績が良いほうだからな」
 美作は「昼まで帰らなかったら、恐らく生徒は強制下校だ。それまでよろしく頼む」といって、出て行った。
 視線を窓のほうへ向ける。町中探して見つからないのなら、恐らく行方不明者は別の町か山のほうにいるだろう。
 ……近くに立っている山は、樹海が傍にある。歩道が作られているし、入れば帰れなくなる事はないが、来た道に戻れなくなることは多々ある(それでも樹海を抜ける道は幾らでもある)。
 ——だが、その樹海は青木ヶ原も真っ青な自殺の名所だ。
 「……今日は、ひぐらしがやけに鳴くな」
 そのひぐらしの声が、これから不吉な出来事が起きると、報せているようだった。
 ◆
 君には、一体何があるのだろう。
 勉強が出来るだろうか。いいや、君は勉強が大嫌いだった。
 不登校になると、嫌悪は拍車を掛けていく。
 なら、運動は? 運動は出来るだろうか。いいや、君は身体を動かすのは好きだったが、疲れるのは嫌いだった。
 不登校になると、引きこもって、身体が硬くなっていく。
 なら、優しさは? 優しさはあるだろう?
 ……いいや、君は君のことしか考えられない。
 だって、優しささえあれば、君は約束を破ることも裏切ることも、人を傷つけることもなかったのだから。
 そう、君は臆病だ。何もない、ただそこに置かれているガラクタだ。
 臆病じゃなければ、こんな風に、何もかも逃げ出すことはない。
 役に立たない、ただの置物だ。
 けれど、君は生きている。
 生きて、そして苦しんでいる。役に立たない君が、周りを巻き込んで他人をも苦しませている。
 なら、こっちにおいでよ。
 楽になれる方法を、教えてあげるよ——……。
 ——誰かが、あたしに囁いた。
 その声は優しそうで、とても残忍な声だった。
 何だというのだろう、あたしは一体ナニをしたのだろう。
 判らない。判らない。
 判らないから、怖い。
 怖いから、逃げるのだ。
