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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ぱーとつー』更新!】 ( No.356 )
- 日時: 2013/04/03 18:44
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
 しかも、あの話はきっと、ほんの一部分でしかない。
 佐藤はいっていた。「まだ、落ち込んでいるんだし」と。
 辛いとき、人は言葉を省いて、保身に走る。
 「泣くな」と教えられた。「怒るな」と教えられた。
 つまりその感情は、否定されているわけで。
 いじめられている人間は、自分そのものを否定されているのだ。それを表して、その感情すら否定されたら、どうなるかぐらい、目に見えている。
 だから、嘘をつくのだ。
 自分は平気だと思う為に、辛いことを認めたくないが故に、言葉を省いていくのだ。
 今井は話してくれたけど、きっと、あたしを心から信用しているわけじゃない。
 実際、その判断は正しかったんだと思う。だってあたしは、その一部分しか聞いてないのに、こんなにも聞いたことに後悔しているのだから。
 こんな人間がいるから、いじめは無くならないのだ、と今ようやく気付いた。
 だって、そうでしょう?
 よく、いじめの特番で、「まずは周りの人に相談して」なんていうけれど、こんな人間ばかりじゃ、絶対にそれは無理だ。
 一部分だけ聞いて、「いけない」とただ叫んで、満足がっているなら、尚更だ。それで判ったつもりになってしまったら、もうそれは、更にその人を追い詰めていることにしかならない。
 「人」として真剣に話を聞いているわけじゃなく、「可哀想なモノ」と決め付けて、ろくに話を聞かずに、自己満足に陥っちゃ、相談なんて無理だ。
 人と向き合う。
 簡単なようで、とても難しい。
 そしてそれは、とても辛くて、苦しいことなのだ。
 人と向き合う為には、まず、「辛いことを無視しては」いけないのだから。
 自分のやましさと苦しさから、逃げてはいけないのだから。
 ふと、三也沢君と、フウちゃんの後姿を思い出した。
 あの二人は、赤の他人とはいえないけれど、殆ど何も知らない、上田君の妹を助けた。
 とても凄いと思った。
 三也沢君は、お母さんと上手くいってない。でもその恨みを誰かにぶつけることなく、それどころか、他人であったあたしを助けるほどの余裕があった。
 フウちゃんも、家族と上手くいかないまま、死んだことにされて、半世紀以上幽霊として、人と接することが出来なくても、自殺しようとした三也沢君を救った。
 あの二人は、ヒーローのような存在なんだ。
 だから、あたしもああなりたいって思ったんだ。やれることは、やってみせると決めたんだ。
 そして、真似しようと思って、やってみて、判った。
 あたしはだからダメなのね。
 だってあたしは、辛いことがあれば、「心がなければよかった」と思ってしまうぐらいに、弱い人間。
 鈍感であれば、迷惑をかけないと、見捨てられないと、そんな風に怯えて、臆病になって。
 何も出来ないでいる、そんな人間。
 きっと、テレビとかでいっている言葉じゃ、今井を助けることは出来ない。
 それを見て悲しんでいる佐藤を、励ますことも出来ない。
 なのに、それを完全に無視することも出来ない、中途半端な存在で。
 何時も、何時も考える。
 どうすれば、好かれる人間になれるのだろうと。
 どうすれば、嫌われない人間になれるのだろうと。
 そうなれれば——あたしは、あの二人に何かしてやれたかもしれないと思った。
 そんな風に、努力もしないで、ないモノねだりをする自分に、腹が立った。
 「(——大人だったら、こういう時、なんとか出来るのかな?)」
 そう思ったけれど、すぐに否定した。
 あたしみたいな人間は、何処にでも居る。
 辛いことから目を離して、その罪悪感から逃れたいから、正論をいって満足にしている人間は。
 それは子供も大人も関係なく、沢山いる。
 じゃなきゃ、いじめを苦に自殺する人は、絶対に少ないもの。
 『どうすれば良かったの?』
 今井の、弱弱しい言葉が、頭に響く。
 「あたしだって、聞きたいよ……」
 泣き言を、一人呟く。
 友達なんて、知らない——そう思っていたあたしが、今、友達の為に何とかしてやりたいと、そんな風に思う自分がバカみたいで、それでも、何とかしてやりたかった。
 あたしの悩みを何とかしようとして、今日一日中連れまわしてくれた二人を、何とかしてやりたかった。
 沢山、いろんなことがあって
 (身体も心も疲れていて、)
 (とても足取りが重くって、帰ってきたとき、倒れるように眠った)
