コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 短・中編集(参照300突破感謝!) ( No.58 )
- 日時: 2014/08/12 11:29
- 名前: 夕陽 (ID: KVjZMmLu)
- ことわざ『案ずるより産むがやすし』 
 「どうしよう……」
 私はこれ以上ないくらい緊張していた。
 とりあえず落ち着くためにも脳内を整理しよう。
 今は合唱コンクール。学校行事の一つだ。
 そして私は伴奏者。ピアノを弾ける人が私しかいなかったから。
 最後に、このクラスの合唱が終わったら私のクラスの番。
 「やっぱり、無理だよ……」
 誰にも聞こえないように小さく呟く。
 このときのためにがんばって練習してきた。
 一日ほとんどピアノに触っていた。
 けれど、この人数の前で失敗したら……!
 『続いて1年3組。歌は——』
 ついに私たちのクラスの番。
 私の手は小刻みに震えている。
 しかし次の瞬間手に人のぬくもりに包まれる。
 「怜奈ちゃん、がんばって成功させよう?」
 そう言って手を握って笑いかけてくれたのは指揮者の歩美ちゃんだった。
 その笑顔とぬくもりに私は
 「うん」
 と返事をしていた。
 いつの間にか手の震えは止まっていた。
 ステージに上がると客席で見ていた景色とは別の景色が見える。
 こちらを向く1000の瞳に怯みそうになるけど歩美ちゃんがこちらを見て大丈夫だよという風に微笑んでくれた。
 私は小さく呼吸を整えてピアノの前に座る。
 絶対、間違えない。練習の成果を出す!
 私はピアノの鍵盤に指を乗せ指揮者を見る。
 指揮者は軽く頷いてから指揮を開始した。
 気がつくと合唱は終わって次のクラスだった。
 あっという間だったな……。
 私はそう思い次のクラスの合唱を見ていた。
 「皆のおかげで今までで一番いい合唱が出来たよ! ありがとう」
 1年生と2年生の間の休憩時間、指揮者の歩美ちゃんは皆にそういった。
 皆の顔は晴れ晴れとしていて歩美ちゃんに「歩美ちゃんが引っ張ってくれたおかげだよ」とか「まあ俺たちだしな」とか声をかけている。
 「あと、怜奈ちゃんもありがとう。怜奈ちゃんがいなかったらこのクラスやばかったよ」
 歩美ちゃんが感謝の言葉を私に投げかけてくれる。
 「本当だね。怜奈ちゃんもありがとう! というか皆にありがとうって言わなきゃ」
 クラスでの中心の那美ちゃんがそう言って皆が笑った。物事を達成できて嬉しそうな笑みだった。
 「いよいよ表彰だね」
 隣にいる歩美ちゃんが私にそうささやいた。
 表彰は金賞・銀賞・銅賞の三種類。
 3学年バラバラだが、1学年にクラスが5クラスあるのでもらえないクラスもある。
 私は祈るように手を組んだ。
 『一年生、銅賞1年4組』
 クラスが呼ばれていない。まだ上か、落選か……。
 『銀賞1年1組』
 1組のほうから歓声が上がる。私は必死に祈った。金賞取れますように……。
 『金賞……1年3組』
 3組か……。どこのクラスだろう?
 そうぼんやりと思ったとき隣で歓声が上がった。歩美ちゃんの声だ。
 「やったね! 皆、がんばったもんね!」
 席から立ち上がり皆に言う。
 その顔は嬉しかったからか涙が混じっている笑い方だった。
 「金賞1年3組。——」
 校長先生から表彰されるのを指揮者である歩美ちゃんが受け取る。
 私はその光景を見て涙が一筋流れ落ちた。
 私にも伴奏ができた。伴奏でクラスに貢献できた……!
 嬉しくて涙がとどまることを知らないように流れている。
 「怜奈ちゃん、やったね!」
 戻ってきた歩美ちゃんに私は、
 「うん。皆のおかげだよ」
 と返した。
 『案ずるより産むがやすし』
 意味:はじめ心配したことも、実行してみると案外たやすく出来ること。
 —END—
 あとがき
 なんかあまりことわざの意味になってなくてすいません……。
