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- えっ、今日から私も魔法使い!?【参照2000突破感謝!!】 ( No.200 )
- 日時: 2015/06/21 22:59
- 名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)
- 第七十五話 <何でもアリな体育祭編> 
 観客たちの視線が注がれる中、三人が素早くカードをめくる。
 お題は……
 「白チームの旗…はあ?」
 「……緑チームの…旗」
 「赤チームの旗…なるほど」
 同時に言った三人は、お互いにハッと顔を見合わせた。
 「旗」とは、各チームのカラーの団旗である。今は、テントの脚の部分に括り付けてあるはずだ。
 しかもこの旗、少なくとも三人の身長より大きい。運ぶには、かなりの腕力と体力が必要になるだろう。
 「…まあ、最後だからこういう過酷な戦いになるのは分かってたけど。…どう、今ならリタイアできるけど?正直言って、三年の俺と一年のお前たちじゃ…」
 「はっ、有り得ねぇなあ!」
 「…拒否。」
 二人の即答に、フリトはふっと笑った。まあ最初から、答えは分かりきっていたが。
 「じゃ。…やろうか」
 その言葉を合図に、三人はそれぞれ反対方向にバッと飛び出した。
 目に闘志を燃やしながらそれぞれテントに向かい、ジークは白、リュネットは緑、フリトは赤の旗をつかみ取る。
 当然ながら、テントにいた生徒たちは驚きの声を上げ、半歩後ろに下がった。身の危険を感じたためだろう。
 旗を手にしたのはほぼ同時だったが、ここでもジークが先に括り付けていた紐を外し終え、ゴールへと向かう。
 (…へっ。どうやらこの中では、俺が一番素早いらしい。…勝った!)
 勝利を確信したジークの足元に、
 シュウンッッ!!
 「……あ?」
 冷や汗を浮かべながら足元を見ると、つま先から2センチくらいのところから煙が上っている。
 顔を上げると、緑チームの前に立っている少女が、手のひらをこちらに向けていた。
 「…自分のチームの旗…取られるのは、気分が…良いものではない」
 少女———リュネットは、華奢な肩に緑チームの団旗を担ぎながら静かにそう告げた。そして、数歩でジークの隣にやってくると、挑戦的な目つきでジークを見上げた。
 …なるほど、確かにそれはそうかもなァ。
 ジークはリュネットから視線をはずしてニヤリと笑うと、今まさに赤チームの団旗を手に入れ、駆け出そうとしているフリトめがけて腕を薙いだ。
 ボオォォッ!
 「!!」
 フリトは驚いた様子で迫りくる炎を見つめたが、すぐに冷静な表情を取り戻し、顔の前に手をかざす。
 「…無駄だ」
 ボシュッ。
 ——フリトに直撃するかと思われた炎は、その直前に消滅した。
 「何!?」
 「…ッ、風魔法…!」
 「その通り。風で炎を散らした、それだけだ。不思議なことは何もないだろ?……ああ、あと」
 フリトは見せつけるように赤チームの旗を振ると、目を細めて笑った。
 「お前たちは、俺には勝てない。…まだまだ若いんだよ」
 「ちっ、何ふざけたこと。……ッ!?」
 「……まずいっ」
 二人が自分の足元から漂う冷気に気付いた時には、もう遅かった。
 ピキピキ、と嫌な音が、足元を浸食していく。目線だけで下を見たジークは、ただ呆然とするしかなかった。
 (いつの間にこんな…!クソッ、全く気が付かなかったっ)
 今や、両足を地面に縫い留めている氷は、スニーカーを覆いつくそうとしていた。隣ではリュネットが歯を噛みしめながら、同じくショートブーツを履いた足を引き抜こうと苦戦している。
 「目の前のことに必死になりすぎると、足元がお留守になる。よくあるミスだな…まあ」
 そして団旗を肩に担ぐと、追い打ちのように言い放った。
 「お前たちは弱い、それだけの話だ。…少なくとも、『自分が強いと思っているうちは』…な。」
 「ッ……畜生、待て!」
 「…待つのはあなた、もう…やめる」
 身をひるがえしたその背中に向かって、手のひらを向けたジークの肩を、リュネットが掴んでいた。
 ——ジークはその手を見つめ、悔しそうに顔を歪めて言った。
 「…はっ。あー、マジ認めたくねえけど、これが…」
 (実力の差、か)
 こうして借りもの競争は、緑チームの圧勝という形で幕を閉じた。
 次回、第七十六話。お楽しみに☆
