コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: EUREKA ( No.100 )
- 日時: 2015/03/20 23:14
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)
 その頃、少年の住んでいた街——ブルート街はとても賑やかだった。紅色の雲に覆われた空と、闇を中心とした街。そこには吸血鬼が“人間”のように暮らしていた。
 そしてこの街ではとある“ルール”があった。
 「次から気を付けて下さいね」
 「あ、……ありがとうございます」
 “他種族には手を出さない”
 領主である西園寺詩雲(さいおんじしうん)の出したそのルールによって、この街は平和を保っていた。
 そこに現れたのが、中年太りの男性——クレーエである。
 「ここを、譲って貰えないか? 金ならいくらでも払おう」
 「残念ですが、ここを譲る気はありません」
 家の一室で2人が話している時、幼い少年——詩音はその場にいた。詩雲が近くの本棚を漁っている間にクレーエが彼の飲み物に何かを混入させ、詩音の耳元で囁いた。
 「口外すれば命はない」
 ——クレーエが訪ねる度にそれが繰り返され、詩雲は少しずつだが、確実に弱って行った。
 それでも街は賑やかで。詩雲の様子に気付いた者は、心配してくれていたし、詩音のことも気にかけてくれていた。だが——。
 西園寺詩雲失踪後、クレーエは乗っ取るようにブルート街を買い取った。
 *
 「ま、まさか……。お前は、西園寺詩音……ッ!?」
 「ええ、やっと気付きましたか。……本ではよくありますよね。復讐のために、相手を信頼させて油断したところを——、と。今朝読んだ本がまさにそんな感じでしたね」
 嘲笑しながら腕の力を強め、クレーエは苦し紛れに呪文を唱えようとする。
 「何故ですか? 私、誰にも言ってませんよ? 約束を破るのは駄目ですよ? ——フェアヴュンシェン!」
 ——詩音はゆっくりと立ち上がり、スカートについた埃をはらう。彼の頬に、一筋の涙が流れた。
 少ししてから扉が開き、リンが入って来る。
 「……どうか、した?」
 「いいえ、なんでもありません」
 「泣いてる」
 「……大丈夫です。あとはあなたに任せますよ」
 「わかった」
 袖で目元を押さえ、その場をあとにする詩音を見た。
 「あ り が と う」
 パタン、と扉が閉まる。
 「……さすがにこの顔は見せられませんね」
 自嘲するような薄笑いを浮かべ、詩音は部屋とは反対の方向へと足を運んだ。
