コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: KEEP THE FAITH ( No.247 )
- 日時: 2016/11/05 15:41
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
- *番外編 
 +コクセイデストロイ+
 「俺はカイン・クロウド。海の音って書いて、カイン。君の名前は?」
 薄汚れた黒いぶかぶかのパーカーを羽織った少年が、表情ひとつ変えないまま首を傾げて問いかける。
 「誰だっていいだろ。どうせもう会わない」
 赤毛の少年はそばにあった布切れを引き寄せて威嚇すると、少年は間髪を容れずに布を剥ぎ取り赤毛の手を奪った。
 「会うよ、これから毎日」
 同様する赤毛の少年を半ば無理矢理立たせ、カインは微笑む。
 「君は今から俺の、相棒だからね」
 「は……、……あいぼう?」
 「そう、相棒。一緒に仕事をする仲間だよ」
 少しずつ早口になりながら話すその姿は、覚えたての言葉を自慢げに使う子どものようだ。
 「なんで僕なんだよ……」
 「さあ。上の人たちから言われたから俺もわからないんだ」
 ——けど、まあ
 「一緒に、抜け出そうよ」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.248 )
- 日時: 2016/11/08 00:21
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「だるい、眠い、疲れた」
 「俺今から仕事。今何時?」
 椅子に腰かけ机の上にある時計に目をやる。
 「22時。——昼夜逆転生活乙」
 「まあ、夜の方がバレないからね」
 「……そうだな」
 カインはいつも通り黒いパーカーを羽織り死んだ魚のような眼で荷物を確認している。
 「その武器、使い辛くねェの?」
 「んー、昔から使ってたから別にそういうのはないかな。むしろこれ以外の武器を使う自分を想像できない」
 クナイに縄を巻き付けた様な形状の武器を見つめ、カインは呟く。
 「フェイこそ、武器は必要ないの?」
 「……別に使う必要ないし」
 「はは、それ言うなら俺も必要ないよ」
 乾いた笑みを浮かべながらショルダーバッグを背負う。
 「今日は荷物が多いな」
 「侵入経路確保から暗殺、ハッキングまで全部1人でやることになったからね」
 「はぁ? ブラック企業かよ」
 「企業じゃないけどね」
 良い子でお留守番しておくんだよ、なんて言いながらカインは部屋から姿を消した。数秒の間をおいてフェイは深い溜め息を吐く。
 「オレの代わりなんだろ?」
 がたん。音をたてて扉が開く。
 「フェイ。カインはいるか?」
 「……たった今出ましたよ。伝えておきましょうか? ボス」
 部屋に入り込んで来た人物を半ば無意識に睨みつけながら椅子から腰を上げる。
 「いや、構わない」
 舌打ちを漏らしながら男は蓄えきった贅肉を揺らして部屋をあとにする。
 「——次は死んでくれよぉ?」
 これがカインへ向けられたものだということは知っている。
 世間体でマフィアの部類に入るこの団体は、竜人のみで結成してある。この団の中でカインとフェイは実力派と謳われている。そして同時に「カインは殺しが出来ない落ちこぼれ」とも。
 「バカじゃねェの」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.249 )
- 日時: 2016/12/09 13:54
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 一応補足として言っておくが、ボスは構成メンバーからの評価は高い。理由は金銭的な問題を主として、比較的仕事が簡単であり楽なものだからだ。尤も、驚異の仕事量とハイレベル極まりない任務を押しつけられまくっている“やつ”や、それを常に見ているオレからしたら逆贔屓が凄まじいかまってちゃんなわけだが。
 カインが執拗に狙われる理由。それはメンバーの中で唯一出来ないことがあるから、らしい。曰く、「強さ」が足りないとのこと。
 「何か考え事? 相談なら乗るけど」
 「別に」
 「とか言いながら今隠した書類。以来だよね? 見せて」
 有無を言わさずオレの手元から書類数枚を取り上げて目を通す彼は確かにこの場にふさわしくない人材だ。なんならこの後舌打ちとともにボスへの愚痴とともにこの書類の作戦へ対する穴を全力で指摘するのだ。
 「ねぇフェイこの人馬鹿なの? まずここで侵入する時点で既に穴があるよね。この位置が弱点なことは俺でも知ってるもん。向こうもそれくらい知ってるよ。それにここ。完全に“強い君”が全て仕留めることを前提にしているよ。——……駄目だな、ここのボス」
 「……ホントだ。どうすっかなぁ、決行日は今夜って言われたぞ」
 「はぁ?! 心の準備する時間すら与えない!! 俺とフェイ扱い一緒なの!?」
 「いや、多分お前と一緒だったらずっとこれだし……慣れるって」
 「慣れなくて良いよ! これは今夜一緒に行こう。そしてフェイの実力を改めて証明する」
 少しずつ早口に、そしてなんとなく黒いオーラを放つカイン。フェイは苦い笑みを浮かべて承諾し、準備に取り掛かる。
 「……つか、オレを上にあげるんじゃなくてお前が本当のことをすれば良いだろ」
 「それは駄目だよ。今更だし、何より……」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.250 )
- 日時: 2016/12/09 14:28
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「——任務完了、ってね」
 「何それ茶目っ気目指して言ってるならやめた方が良いぞかわいくない」
 「かわいさは求めてないんだけども」
 「今回も……お前のおかげで助かったよ。今度何か奢る」
 「それは別に良いかな。俺的には1つお願いがあるけど、それじゃ駄目?」
 フェイは怪訝そうな表情で言ってみろと呟く。
 「うん。じゃあ、俺のこと、“お前”じゃなくて、名前で呼んでほしいな」
 「……はァあ!?」
 フェイの声は現代の都会で言うと確実に近所迷惑に部類される程度に響いた。驚愕の顔も夜闇に紛れて見られることはなかった。
 「なんでそんなに嫌がるのさ」
 「えっい、いや、ちょっま、だっ、そっんな、恥ずかしいだろッ!?」
 「恥ずかしいの?! 俺フェイの名前呼びながら恥ずかしいなんて思ったことないよ!? 良い名前だなって思ってる!!」
 「お前のそういうとこほんっと怖い!!」
 なんでそんな女を口説くような言葉を。
 「もしかして、名前覚えてくれてない……とか?」
 「覚えてるし! “海の音って書いて、カイン”だろ!?」
 「はい呼んでくれた〜! どう、恥ずかしい?」
 「〜っお前のせいで死ぬほど恥ずかしいわ!!」
 ゆでダコのように真っ赤になってしまったフェイの背中を軽く叩きながら2人は帰宅する。
 「今回も、全部お前がやったな」
 「そりゃあね。フェイには汚れないでほしいから」
 「お前またそれ素で言ってんの……」
 荷物を下ろしながらフェイはそうだ、と振り返る。
 「なあ、あまねで通じる?」
 「んえ?」
 唐突過ぎて間抜けな返事を返すカインに、フェイは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 「そ。海の音であまね。これならお前の名前呼んでることになるもんな」
 「……君、それずっと考えてたの?」
 「まあな。一応お礼ってことだったし」
 「真面目だね……完全に建て前だったから忘れてたよ」
 なんてやつだ。フェイは一瞬固まった後に勢いよく回し蹴りを仕掛けるが軽く避けられる。
 「とにかくっ! 礼はするから!!」
 「はいはい、っと。ありがとね、フェイ」
 ふわっと花のように笑うカイン。本当にこの場には向かない人材、人柄、人格だ。
 「報告書、絶対俺の名前書いちゃ駄目だよ?」
 「わかってる」
 「全部フェイがやったことにしてよね」
 「……わかってる」
 ——君の敵は、 全て消してやる。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.251 )
- 日時: 2016/12/09 15:25
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 あの会話を聞いて、人はどう考えるだろう。いちゃついてるカップル? ふざけんな。そっちじゃない。
 気付く人は気付くだろう。むしろ気付かない人はいない。そう、本当は“オレが殺せない”——。
 「フェイ。今夜仕事入った」
 「そう言えばオレも今夜ボスに呼び出されてる」
 「そう。……気を付けてね」
 「? おう。お……あまねも気を付けて行けよ」
 「勿論。出来るだけ早く帰って来るから。……」
 何かを考え込むような仕草をして、カインは布団に突っ伏した。
 「フェイ、もしさ」
 「ん?」
 「俺が君を護るためって理由でとんでもないことをしたら、どうする?」
 「とんでもないこと……?」
 「うん。例えば、君にとって大切な人を俺が殺したりしたら」
 「? さあな、ものによる。そもそも今のオレにとって大切なものなんて——」
 ここまで言って昨夜と同じく石のように硬直したフェイは、次の瞬間真っ赤な顔をして壁際で寝転がっているカインへ踵落としを仕掛けるがまたしても避けられてしまう。
 「いきなり何だよ危ないなぁ」
 「むしろなんで避けれたんだよ」
 「……なんでだろうね?」
 きゃー寒ーいと言いながら布団に包まる黒ずくめの少年にフェイは少なからず胃痛をこじらせたと言う。
 「フェイは絶対に俺みたいなことしちゃ駄目だよ」
 「……? どんなこと?」
 「ふへへ、なんでもな〜い」
 「何か今日のお前、気持ち悪いぞ」
 控え目に言って、変な奴だ。
 「にしても、うちのボスはほんっとに面倒臭いよね。全部1人で勝手に決めちゃって。常にその日に連絡してくる」
 「いや、それはオレとあまねだけだから……」
 フェイはすぐ隣にある椅子に腰かけ、机の上に置いてあるカインの作戦()を見る。
 「さっきの話だけど」
 「うん?」
 「もし逆にオレが、お前のためってので大切なもの? を殺したりしたら」
 「あー……うん。そうだね」
 布団から顔だけ出すと、カインは今までに見たこともないような表情で淡々と呟いた。
 「もしそれをした場合君を恨むことはないだろうね。君はあくまでも俺を護るため、善意でやったから。むしろそこまで追いつめてしまった自分を永遠に憎むだろう。ただし君が自分のためだとその行為をしたら——殴り倒してでも止めるかな」
 最後にはにこりと笑みを浮かべる。ひょい、と立ち上がりいつもの格好で扉に手を駆ける。
 「じゃあ、またあとでね」
 ——生きてね。
 多分、彼はそう言った。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.252 )
- 日時: 2016/12/10 00:45
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 さて、この組織には暗黙の了解が存在している。と言ってもチープで単純なものだが。
 ボスを潰したものは、任意がなくともその座に立つ権利を持つ。
 現ボスも確かその手段で……、だった気がする。どのような方法かは、現段階まで考えたこともなかった俺には想像もつかないけれども。
 ところで刀という武器をご存知だろうか。昔どこぞの国で使われていた、持ち手のある片刃の刃物のことである。
 だからなんだと言う話ではあるが、今俺の目の前にはそれがある。相変わらずボス様に叩きつけられた任務の先でリーダーと思われる人物に頂いた物である。
 本来なら生きて帰すわけには行かない(らしい)が、ぶっちゃけ俺はボスが嫌いだし、そいつらに恨みもない。ずばりわざわざ血を浴びる必要が全くない。今までは任務だと腹を括ってはいたが、殺したことは——ない。半分もない。全部逃がした俺を褒めてくれる人は勿論いません。
 多分最後になると思ったので、部屋に侵入してリーダー様と直接交渉して来た所存である。
 「今からうちのボスやっちゃうんで、お礼下さい」
 と。
 一瞬「うわなんだこいつ」みたいな表情を向けられたが、とりあえず無害だと証明するべく笑みを浮かべると、引き攣った笑みとともにそれを渡されたのだ。解せぬ。
 ただこの刀。全力で錆びていやがる。あの男任務執行してやろうかとすら思った。やっぱり俺の相棒はあいつ(武器)だけなのだろうか。だがあのクソデbげふん……をやってしまうのは悲しすぎる。武器が可哀想だ。名前まで付けて可愛がっている武器にその仕打ちはあまりにも酷だ。
 強さがモノを言う。ボスの言葉である。
 多分彼の言う“強さ”は、俺の思うそれとは違う。
 違う。だから良いのだ。
 だから——出来るのだろう。
 さあ、フェイが待っている。今頃どこにいるだろう。まだ部屋だろうか。それとももう処刑台前だろうか。後者なら許さない。
 ——俺は、大切なものを護りたいだけなのに。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.253 )
- 日時: 2016/12/10 01:35
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 ボスの玉座が目の前にある。馬鹿みたいに長いテーブルが視界の端に。反対側には大勢のギャラリーが。
 ——バレたな。
 そう気付くのに時間なんて必要なかった。
 処刑なんて初めてで。見えはしないが後ろにいる、腕の自由を妨害している男の力が強くて。ボスが持っている拳銃が。ひそひそと話している人が怖い。怖い。
 「まさかお前だったとはなあ——。クロウド君には、お詫びをしないとねぇ」
 にっこり。ねっとりとした話し方をする奴は、猿のような面を上げてぐちゃりと笑みを浮かべている。
 「相棒の死、というカタチで——」
 カチャン。
 「——いや、そんなの求めてませんけど」
 相変わらず淡々とした声が大部屋に響く。一瞬の沈黙。何事かと声が上がり、部屋がさらに騒がしくなる。
 「っていうかフェイー、気を付けてって言ったでしょ? なに簡単に捕まってんの。まさに秒殺ってやつかな?」
 次の瞬間、真上から——漆黒の翼を持った——天使が降りて来た。
 「ただいま、フェイ。ちょっとその腕話してもらえませんか、おじさん。——邪魔だから」
 そしてその笑顔の破壊力は——一度もフェイに見せたことのないものだった。
 「貴様——ッ仕事はどうした!」
 「ちゃんとやって来ましたよ? ほら」
 錆びきった刀を何故かこれ見よがしに見せびらかすカイン。
 「それはなんだ? そんなものを持って来いと頼んだ覚えはないぞ」
 「頼まれてませんからね。今回の任務に明確に“殺せ”なんて書かれてなかったので、珍しく任務遂行してきちゃいましたよ」
 アハハと乾き切った笑い声と張り付けられた笑み。
 「ね、フェイ。俺の今回の仕事がなんだったか、読んだでしょ?」
 「え?! ……読んだけど?」
 「なんだったか、言える?」
 「反乱分子のリーダーと会い、あとは察しの通りだ。と」
 「手抜きって後からじわじわと自分に返って来るから怖いよねー」
 ふい、とカインはボスへ視線を移した。
 「俺は任務通り、察して動きましたよ。あれですよね? 『反乱分子と結託してボスにとどめを』ってことですよね」
 やれるもんならやってみろってことですよね??
 花が飛びそうなほどにふわりと笑みを浮かべながらとんでもないことをほざく黒尽くめの天使。
 「でも流石にこんな錆びれた刀が最期なのは酷なので、俺は考えました。——あなたの思う強さを持ってなら、許されますよね?」
 もう、誰も口を開かない。
 「確か昔、あなた言いましたよね。絶対的力が強さの基準だ、と」
 一歩ずつ、ゆっくりと、悪魔が近付く。
 「く、来るな……!」
 「そっちに行かないと、出来ないじゃないですか。無茶言わないでくださいよ」
 ——何もすることが出来なかった。
 どん、という音と、ぐちゃり、と言う音が、同時に聞こえた。
 見るとそこには、まだ13歳の悪魔が、ぶくぶくと太った男の肥えた腹部を拳で貫いていた。
 色んな声が聞こえた気がする。悲鳴、悲鳴、悲鳴。叫び声が、沢山。
 そんな中、彼の声だけが、しっかりと聞こえた。
 「————、“解散”だ」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.254 )
- 日時: 2016/12/16 11:18
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 その後はまあ、大変だった。……というのはオレの見解で、あまね曰く「想定内だから問題ないかな」。
 “元”マフィア軍ほぼ全員からの反感がどぉんと。総攻撃を受け——るかと思いきや、短い詠唱で透明な防壁を創り出し一言。
 「 強 さ が も の を 言 う ん だ ろ ? 」
 うん、ヤバかった。後姿だけでも凄まじいというかもう、ヤバかった。正直そこに転がっているボスを遥かに——比較するのもどうかと思うが——凌駕する狂気と威圧だった。
 同年代なんて信じられない。これが13なんて信じない。信じたくない。ふざけるな。
 「さて、と。行こう、フェイ」
 「……手、真っ赤だな」
 ようやく出た言葉。漆黒の天使()ことあまねはたった今人体をぶち抜いた右手を一瞥。
 「あは、ホントだ。ついでに胃袋掴んじゃってる」
 ああそうだな。物理的にな。
 「とりあえず、しばらくは……まだ、良いかな。うん」
 「……?」
 *
 「……ただいま」
 「おかえりー」
 一ヶ月を経て日常と化した会話。
 簡素な家だが帰宅するとどこで習得したのか家事を全て終えたカインが魔法陣の中で出迎える日々。
 「……どうだ?」
 「嗅ぎ付けられたからそろそろ出ないとなーって感じ」
 「マジか」
 「目的が出来た感が良いよね、方向性が悲惨だけど」
 あははー、と遠い目で呟くカイン。フェイは愛用のナップサックを下ろし、魔法陣の外で胡坐を掻く。
 「そう言えば話は変わるんだが、お前の家って……————」
 「——うん、そうだよ」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.255 )
- 日時: 2016/12/16 11:41
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「——ねえ、フェイ。俺達は、多分離れた方が良いよ」
 あれから半年。残党の勢力は増え続け、襲撃なるものも回数が増している。まるで、誰かが情報を漏らしているような鋭さで、場所を当ててくるのだ。
 「狙いはお前だろ? 1人でどうする気だよ」
 「逃げるよ。最初にも最後にも、もう二度と殺したくないし」
 「囲まれたら、先回りされてたら、どうするんだよ」
 「逃げ切るよ」
 「オレは、邪魔か?」
 「——」
 こうして2人の逃亡生活は、終わりを迎えた。
 ————“グラギエス”が竜人による襲撃を受けたのは、この数日後である。
 ↓尺を端折った言い訳
 こじ付けと言い訳とその他諸々が乱舞しまくった番外編でした。お久しぶりです。
 流れとしては、
 マフィアぶち込まれる(8歳位)→2人が会う(10歳位)→なんやかんやで地位を築く(13まで)→なんか色々バレてやばくなる→カイン無双→ばいばい
 って感じです(意味不明)。
 途中から時間が空いてしまったりシナリオ飛んでったりフェイを喋らせるのが面倒になったりとしっちゃかめっちゃかな展開になってしまいました申し訳ありませんorz
 ちなみに時系列的にこの頃真白ちゃんがお城にいます。わかりにくい。
 魔法陣は多分探知(深く考えてない)。
 本編でフェイが奇襲の際に「こうしてお前は偽善者に〜」的な発言(未確認)は、逃げたことというよりも置いて行ったことです。というかこいつの頭がパーなおかげで向こうにも情報は半ば筒抜けでした。ご近所さんグルだぜ、のノリです。ちなみにその可能性に気付いたのはカインと再会する少し前くらいで考えてます。あとはぶち抜いた時に「うっわこいつ今まで強さ偽ってやがったな」な感じです。
 一方でカイン的には、フェイは情報を漏らしてることはなんとなくわかっていた上でそっちではなく、フェイを危ない目に合わせたくないからという理由で別れを告げました(notBL)。
 今回の話で言いたかった(言えたとは言ってない)ことは、カインのごたごたのおかげでグラギエスはドカンされたよということと、カインは自分が逃げるために情報集めしてたんだよということです。はい。
 いい加減に本編に戻ります()。あと少しで終わる……ので、もうちょっと耐えててねコメライ倉庫ログ……ッ!!!
- Re: KEEP THE FAITH ( No.256 )
- 日時: 2016/12/16 12:17
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 あ、っと言う間の出来事だった。
 私の体は硬い音で包まれて、覆われて。攫われた。
 多分、風蘭はわかっちゃったんだと思う。すごく、悲しそうな表情が見えた。
 これ、どうなるんだろうな。私はこれからどうするんだろう。みんなは?
 視界が屈折する。これは、なんだろう。石? 宝石かな。私には到底縁のない代物に覆われたな。
 ——なんて、考えてみたんだけど。
 どうしても、最後には貴方の顔がちらついてしまうの。
 どうしても、最後は貴方の声が聞こえてしまうの。
 どうしても、最後まで私のなかには君がいるの。
 愛しく感じてしまった、君が見えるの。
 おかしいよね、こんなの。
 誰か特定の人だけをこんなに、……なんていうんだろうね。私の知ってる言葉じゃ伝えにくいな。
 だってこんなの、感じたこともないんだもの。
 その人を見てたら、いつも聞こえない音が聞こえてきて、どんどん早くなる。そう言えば、怖いことがあった時もそんな音が聞こえたっけ。
 あとは、そう。その人が誰か別の人と一緒にいると、もやもやする。真白と、仲良かったから?
 なんていうんだろう。そうだ、どこかの本に書いてあった。
 「独占したくなる」。
 ——何も見えない。何も聞こえない。体も動かない。
 私の頭の中には、知らないことが、入って来た。
 ——「私は、結界だったんだ」
 ぷつん。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.257 )
- 日時: 2016/12/16 13:01
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「じゃあ三人とも、頼んだ」
 「「あいっしゅ!」」
 2人のウサギモドキとロボが元気な返事を。1人のショタがぺこりと頭を下げて部屋を出て行った。
 「何か頼んだのー?」
 「ああ、うん。ちょっとゼウスへひとっ走り?」
 「ここからゼウスって、遠いよね? おくるまはシオンがもってっちゃったけど、大丈夫?」
 「大丈夫。ちょっと長くなると思うけど、もし誰かが傷付けたら——」
 風蘭は真白の(駄目な意味で)良い笑顔を見た。効果は抜群だ。
 「話は変わるが、今日……と言うか今、外には誰がいる?」
 「ふぇ? えーっとねぇ、フラムとごーらい!」
 「あー……、なるほど。ありがとう」
 ダイスが大変なことに、真白は窓から外を一瞥してから部屋を出た。
 武士(詩音愛カンスト勢)と二代目ツッコミ要員で繰り広げる防衛戦(一方的防衛攻め)はあと数分で片付きそうだ。
 「終わったら、地面直してから地下だな……」
 そう呟いた真白が次に視界に捉えたのは、心も服も真っ黒な日向の姿だった。ぼそぼそと今夜の献立の構成を考えながら台所と廊下を往復している。
 ここで生活を始めてから数か月経過する。珍しくグラギエスにいる面子は今蓮を除いても半分近くがいない。
 千破矢はだいぶ前にカインらとともに修行の旅(?)へ。詩音、デジェル、アステルの3名はゼウスへ突撃。片方は実父にボコられ、片方は吸血鬼が無双劇を楽しんでいる。
 ——まあ、とりあえず。真白的見解から見ても関わりたくない雰囲気を醸し出していた(長くなりそう)だったので、目の前でうろうろしている日向に今は近寄らないことにした。のに。
 「あ、真白!」
 「え」
 正直全力で逃げたかったというのは真白談。
 「……どうした?」
 「晩御飯、どうしようかなって。人数が今日少ないからさ」
 「カレー」
 「絶対今適当に考えたよね!?」
 「僕は常時カレー食べたい子だからカレーで」
 「何その設定知らない!!?」
 ぷちツッコミ要員の日向はなんだよそれと言いながらくすくすと笑い出す。
 「なんだかね……」
 日向が口元置いていた右手を下ろし、同時に真白は首を傾ける。
 「ここで蓮が結晶化して、真白がその部屋氷漬けにして入れなくされた時はちょっと、凄く真白のこと恨んだんだけどさ」
 「それは考えた」
 「ちょっとだけだよ? 恨んだのは」
 「呪いの割合が凄くに当てはまる、と」
 「呪ってないよ?!」
 早くも「ちょっと凄く」に固着している真白を放置して日向は続けた。
 「今は感謝してるんだって、伝えようと思って」
 「? それこそ僕は恨み続けられることを覚悟してたのに。泥沼の魔女として?」
 「待って何その泥沼の魔女って」
 「昔読んでた絵本の、悪役に当てはまる人物」
 なにその絵本怖い。日向は某マーメイドな童話に出てくる魔女で妥協した。
 「って、そうじゃなくて。だから、その、ありがとね。僕をあそこから引き離してくれて」
 「……こちらこそ、感謝する」
 真白は少し、口角を上げて見せた。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.258 )
- 日時: 2016/12/16 13:56
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 鈴芽は城周辺を全力疾走していた。理由は特技の副業で。真白からの。
 「この壁をっ? 跳び越える!? 待って身体能力的にもThat does it!?」
 跳べた。
 「っとと、と。よし、流石あたし(?)。次は……、はー」
 メモから視線を外し、一瞬硬直した。そして次の瞬間ゲシュテンペストへドロップキックをぶちかます野蛮な腐女子の姿が。
 「えーっと、あ、これショートカットで城に戻るwayなのね……」
 *
 「真白ォオーっ!!」
 「おかえり、鈴芽。無事?」
 「帰りにゲシュに会ったよぉ……、思わず使ったこともないドロップキック繰り出しちゃった……」
 「思わずドロップキックは強い」
 廊下で横から突撃を食らった真白は真横にぶっ倒れてついでに弾丸(鈴芽)も廊下の床へ放り出された。
 「そうだ、どうだった?」
 「No problem! 問題なく入れるよ!」
 「良かった。僕今から夕方くらいまでそこに潜るから、何かあったら呼んでね」
 「OK♪」
 10分ほど前まで戦場だった城の前のボコボコな部位を銃で撃ちながら真白は出て行く真白を門の前まで見送り、鈴芽は大きく欠伸をする。
 「さぁて、豪雷とフラムくんは怪我してないかなー?」
 くるくると回りながら城内へ戻る鈴芽。彼女はこれから怪我の手当(怪我をしていれば)をし、日向の料理を手伝って掃除をする予定が入っている。グラギエスは今、人手不足なのだ。
 広間は少し静かで、戦場より帰還した2名と、ロリ要員こと風蘭がぱたぱたと飛んでいた。
 「すずめ!」
 「Hello! 2人ともおかえりお怪我はありませんかー?」
 「俺はない。が、フラムが……転倒した」
 「こけたの!? Why?!」
 「石につまずいて」
 「You stumbled over a rock and fell」
 「ごめん、なんて言ってんの?」
 「あなたは石につまずいて転倒した」
 「肯定文ッ!?」
 ちなみに文法は作者がその場のノリで作り上げたため、合っているかはわからない。多分違う。
 「そのくらいならましろんが置いてった薬でなんとかな……らないねぇなぁにそのトマトすり潰したみたいな血みどろえええ!!?」
 「お前はお前でこの前腹部が貫通式を終えただろう」
 「貫通式じゃないし……貫通はしてないし……」
 ニベア達が壊れちゃったけどごにょごにょ。
 簡易包帯だの消毒液だのをぐちゃぐちゃと漁り、フラムを椅子に座らせて治癒魔法をわっしょいと唱える鈴芽の動きは素早かった。
 その間話を聞いていたフラムは膝を見ないようにして一言。
 「腹部がってところは否定しないんだな、この人」
 「何か言った?」
 「なんでもないです」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.259 )
- 日時: 2017/02/10 12:19
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
- あけましておめでとうございます。紅雪です。 
 もうしわけありません。パソコンさんがバグって一月は使えませんでした。スマホで更新もできたのですが打つのが遅いので断念。
 今日は私立の高校受験ですね。私は専願だったので去年の今日が本番でした。
 本日の目標→めっちゃ更新する
 それとは別に。ついったーさん始動させます。【Chitose1019】です。多分。画質の悪いハトのアイコンです(謎)。鍵付いてますけど絵とかを晒す可能性があるので恥ずかしいからです。はい。フォロー拒否的なものではないです。
 EUREKA改めKEEPTHEFAITHは一応終わり方が決まってるのですが、そこへ持っていくのがとても難しいです(文才の欠如)。そして性懲りもなく次の作品考えてます。
 EUREKAのお話について。このコメライ板は私がこれ書き始めた時期(=2014年)には立っていたのでもう(旧)です。あばばばしてます。
 なので。物語部分を先に終わらせようと思います。番外編はもちろん、今残っているフラグのなかで物語を終わらせるまでにどうしても必要な部分以外は物語終わった後に余裕があれば書く方向で行こうと思います。
 今残ってるフラグってなにがありましたっけ()。読み返すの怖い急募。
 詩音メインの話書いた後すぐにカインさんの番外編行って、もう真白たちが出てきたのはリアルタイムで半年ぶりほどなので謎に性格変わってます。一番出てないのはぶっちぎりで蓮なんですけどね。一年以上音沙汰なしでごめんなさい()。
 何が怖いって私のせいで大切な仲間がピンチなのに全く動じないやつらですよ。日向最初挙動不審野郎にしようと思ってたのに今日も元気に飯を作ってます。つらい。
 では書きます。あげ。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.260 )
- 日時: 2017/02/10 13:28
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 結界とは——。
 オブ・ルクスと別世界の干渉を封じる者。ヒトとして生まれ、本人もそれに気付かぬまま一生を終える。機能もヒトと同じく。種族に関係なく高い魔力を保持する。
 害はないが感情が昂ると実質制御不可能となる。
 ——続きは虫食いで読めない。
 蜘蛛の巣と埃と名状しがたい物体が転がる薄暗い書斎にて、ランタン片手に埃を被った厚い本を積み上げていく少女の姿があった。
 彼女がこの部屋へ来て数時間が経過している。空は闇色に染まっているだろうが、地下にいる真白にそれは関係ない。
 背後でかたんと音がした。ゆっくり振り向くと、視界の端に小さな黒い封筒が見える。
 拾い上げると、その紙には一言。
 埃まみれの部屋の中に、汚れひとつ付いていない黒い紙は酷く目立つ。
 「……持って帰るか」
 分厚い本を数冊と、その上に封筒を乗せる。埃と結託したような部屋を背に、真白は城への帰路を急いだ。
 *
 「ましろん遅いね」
 「何かあったら呼べって言われてるけど、ご飯出来たよーって呼ぶのはなんか違うよねぇ」
 「むしろご飯出来たよって呼べってことでは? 用件なんてそれくらいだと思いますけど」
 「呼んでみる?」
 「呼んでくるものなのか……?」
 リクエスト通りのカレーが並ぶ食卓では真白を待つ面子が議論もどきをしていた。と言っても全員手にはしっかりとスプーンが握られているのだが。
 フラムの言葉に日向が便乗し豪雷が首を傾げたが、鈴芽はスプーンを置いて服のポケットから小型マイクを取り出した。扉の方へ向き、すぅ、と息を吸って——
 「——まあああああああっしろおおおおおおおおん」
 叫んだ。
 「……ただいま?」
 扉が押し開けられ、全員固まる。
 「……おかえりなさい!」
 唯一スプーンを落とさなかったフラムが真白にサムズアップで応える。同時に崩れ落ちるように笑いだしたのは鈴芽。他はマジか来たぞとぼそぼそ。
 真白は少し不快な表情を浮かべながらもただいまと答え、運んでいるうちに埃が落ちた本を床に置く。
 「いきなり扉越しに呼ばれて少し驚いた」
 「ごめんごめん。ご飯出来たけど帰って来ないから呼んでみたら、ホントに来たから」
 「ああ、なるほど。待たせてすまない。珍しく本に囲まれて興奮していた」
 「本に囲まれて興奮ってエグいですね」
 「まあ目的のものは手に入れたし、予期せぬ収穫も得られたから——ご飯食べても良いですか」
 日向が全速力で厨房へ走って行った。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.261 )
- 日時: 2017/02/10 14:08
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「本来魔法を使うことが出来ない人間が魔法をバシバシ使ってることから、蓮は結界である可能性があると僕は思ったんだ」
 「お札効果とかじゃないの?」
 「あの札見ましたけど、字が書いてるあるだけで魔力が籠ってるわけではない感じでしたよ」
 「じゃあ書いてるのってただのメモ?」
 「むしろ字に魔力を送っているのでは」
 「まあ問題はそこじゃなくて蓮解凍法なんだけどね」
 「自然解凍してください」
 好き勝手な討論会が行われているが真白はそれを無視して例の黒い封筒を机の上に置いた。
 「書斎にこれも落ちてた」
 「封印の解き方?」
 「そう、封印の解き方。露骨に都合良く埃ひとつ被らないで落ちてた」
 「すっごく、うさんくさいね!」
 「待って風蘭そのwordどこで覚えてきたの!?」
 「?」
 シオンへの褒め言葉だよーってフラムが教えてくれたの。フラムは〆られます。
 何はともあれ封印の解き方と書かれた黒い封筒を開けてみないと始まらない。真白は問答無用で封を切った。中からは白い紙が数枚。開くと可愛らしい便箋に達筆な文字が書かれていた。
 「結界の封印は結界自身の意思でしか解けません。結界自身が出ようと思わないと、出れないのです。とのこと」
 「色々ツッコミたいところ、あるよね」
 「とりあえず便箋がverycute」
 「そしてそれに似合わなさすぎる字体」
 「手紙の文も少し幼稚だな」
 「でもこれが本当なら、レンが頑張るしかないよ? ふうに出来ること、ないのかな」
 明らかにしょぼんとする風蘭。
 「じゃあ、蓮はもしかしたらあの中でも起きてるのかな」
 「だったら蓮が起きて最初の僕への言葉は「真白寒いから氷漬けにしないで」だな」
 「絶対言われますねっ」
 全員の頭に扉越しでも冷気が伝わって来る極寒地獄と化したすぐそばの部屋がよぎった。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.262 )
- 日時: 2017/02/10 15:41
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 私は人間として生まれて生きてきた。確かにそうだ。
 母親の腹から生まれたし、友人もいる——いた。
 謎の祠に幽閉されて、ひとりぼっちになって。
 どれくらい経ったかわからない頃、久しぶりに聞くヒトの声。
 そして、祠の謎システムを解除してもらって、外に出た。
 それで“魔王を倒す”っていう目標を持って。
 仲間が増えていって。
 堅苦しい口調の主戦力で頼りになる氷族。
 ツッコミ系の飛べないけどかっこいい不死鳥。
 まだ幼いのに真が強い癒し系の妖精族。
 胡散臭いけどとても優しい吸血鬼。
 何考えてるのかわからないけど強い雷獣。
 腐ってるけど姉御肌でいつも元気なバンシー。
 そして、私を外の世界へ出してくれたヒトの君。
 一番大切なのは君で。
 でも、みんなと仲良くなるにつれて、どんどん距離が出来て。
 ずっと本と向き合ってた私に対人スキルは皆無で。
 でも君が好きで。
 何より、君を失うその瞬間が怖くて、怖くて。
 ——だから私は、逃げた。
 でも、今も聞こえるの。
 君が私を呼ぶ声が。
 れん、おきて。って。
 うるさいくらい聞こえてきて、とても温かいの。
 でも、ここから出れない。
 それは多分、私が出ることを拒否しているから。
 君を失いたくない。それだけ。それだけだから。
 「私、日向に会いたいよ」
 ぱきっ
- Re: KEEP THE FAITH ( No.263 )
- 日時: 2017/02/10 16:32
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 夜。静まり切った城内に闇色の影が微かに動いた。
 それは少したどたどしい足取りで。辺りに細心の注意をしながら長い廊下を音もなく駆け抜ける。
 暗い階段を上がり、気配のない曲がり角を何度も曲がり、うっすらと冷気の漂う部屋の前に止まる。
 「——……、……」
 人の声を確認して、影はダン、と扉を開けた。
 中にいた少年は短く悲鳴を上げてから、咄嗟に奥にある宝石の前に立ち塞がる。
 ——同時に、影は頭から前のめりに地面へ倒れ込んだ。
 「……真白」
 「やあ、こんばんは。日向」
 影——ゲシュテンペストの頭部と思われる部位をぐりぐりと踏み付けながら真白は腕を組んでいる。
 にっこり、と。凄まじく威圧的な笑みを浮かべながら少女はゲシュの上に両足を乗せる。
 「言いたいことは?」
 「ごめんなさい」
 「何に対しての謝罪で?」
 「……1人で来て」
 「君今の状況で風蘭連れてて僕が来なかったら大惨事だからな」
 「勝手に誰にも言わずに来て、ゴメンナサイ」
 「まあ僕いつもこの隣で張ってるから知ってるけども」
 「えっ」
 睡眠はほぼ必要ないので、と続けながら懐から取り出したロープでゲシュを縛りだす。
 「声、蓮に届いてたらいいな」
 「……うん」
 「届いてると思う」
 「だと、良いな」
 そんな会話をしているうちにゲシュは綺麗に縛り上げられていた。うめき声なんて聞こえない。
 「にしても、それ、どうやって入って来たのかな」
 「単体ならよくこの辺りにいる。それを処理しなかったから調子に乗ったものだと推測する」
 「いるの!?」
 「いるぞ? そうか、日向はずっと城内生活だったな」
 ぽん、と手を打ちながら真白は宝石を見上げた。
 「うん。蓮が戻ってきたら、一緒に外に行こうと思う」
 「それがいい。僕は隣部屋にいるけど、日向は早く戻った方が良い。寒いだろうし」
 「真白の魔法でこの温度なんだけどね? 僕もそろそろ寝るよ。助けてくれて、ありがとね」
 ふと見ると真白はある一点を凝視していた。日向もその方向——宝石へ視線を向けた。
 冷たく光る宝石の一部に、ゆっくりと、亀裂が入っていた。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.264 )
- 日時: 2017/02/10 18:23
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「ほう、大変でしたね」
 「まあな。お前はすっごい楽しそうだな」
 「楽しかったですよ、一撃で倒れてくれる爽快感がたまらなかったですね」
 「んな詳細聞いてない」
 帰り道にばったり再会・合流した詩音チームと千破矢チーム。カイン、フェイ、狼は送る必要はなくなったと言うことで別れた。アレンは絶対帰らないと駄々をこねまくり、最終的に「バーカ!」と情けない捨て台詞を残して消えてった。
 そんなわけで千破矢は今詩音たちと馬車でグラギエスへ帰還している途中だった。
 「まあのくそおや……貴方の父親がまたしても黒幕ですか」
 「いや良いよもうクソ親父だからあれ」
 「ではクソ親父様はカイン様のおかげで片足斬り落として撤退したのですかだっさ」
 「容赦ねェなお前」
 「よく言われますー」
 ふふふと笑いながら詩音は振り向いた。壁にもたれかかって座っている千破矢のすぐそばでは、デジェルが丸まっている。氷族は睡眠が必要ないとは聞いたが、よほど疲れたか暇なのか、死んだように眠ってしまっていた。
 ちなみに奥では魔王ことアステルが身を乗り出して外の景色を楽しんでいる。とても子どもっぽい。
 「グラギエスの方はどうなってるんだろうな」
 「私が出た時は平常運転でしたよ」
 「だいぶヤバいな」
 「ゼノの情報ががっぽり入ってたら良いですねぇ」
 「がっぽり言うなし」
 「で、結局貴方は強くなったんですか?」
 「ぜんっっっぜん! クソ親父にボッコボコにされたわ!!」
 「まさにぷぎゃーですね」
 「うるせェ!」
 日記を読みに行った詩音は無双乱舞し、強くなるためにグラギエスを離れた千破矢は肉親にフルボッコにされた挙句好きな娘の兄に助けられるという雲泥の差である。
 「まあ、千破矢は頑張ってると思いますよ」
 「はァ? どの口が言うんだヴォケ」
 「この口です貴方の目は節穴ですかぁ〜! だって私の魔法その他諸々ポテンシャルは全てシルアのものですし」
 「シルア? 誰だそれ」
 「あっやべ説明してなかった」
 「おいこら似非紳士説明しろ」
 「あーあーーあーーー聞こえませーんもうすぐ着きますよー」
 「お前シルアってあれだろラリッてる時のお前だろおいゴルァ!!?」
 やたらと騒がしい(そして口の悪い)2人のやりとりを余所に、馬達はせっせと馬車を進めるのであった。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.265 )
- 日時: 2017/04/17 19:24
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「あ! シオン! おかえりなさーい!」
 「ただいま戻りました。皆さん忙しそうですね?」
 「そうなの! 大変なんだよ!」
 共に戻って来た3人を完全無視しつつ風蘭は詩音のもとへすっ飛んできた。
 大変だとは言ったものの上手く纏められずに結局言葉に出来ない風蘭。千破矢が困惑していると扉が開き、やつれた表情の鈴芽が出てきた。
 「あ、あれ? 久しぶりー……ん? 千破矢がtogetherじゃんどしたの」
 「先程たまたま合流しました」
 「そうなの? ゲシュは? いない感じ?」
 「ああ、いなかったぜ」
 「OK……それなら良かった」
 「お前もだいぶ疲れてるな、どうしたんだ?」
 鈴芽は「あー」と呟くと少し首を傾げてから説明を始めた。
 「昨日の夜のことなんだけどさ。ほら、レンのまわりをcrystalがcoverしてたでしょ?」
 あそこにヒビが入って、そしたら夜分遅くにドカンバコンとゲシュが押し寄せてくるわけ。ホラー映画でもこんなことってないよね。
 鈴芽はそこまで言って冗談半分に笑って見せたが、恐らくトラウマと化しているだろう。
 「結局そいつらどうしたんですか?」
 「ましろんがフラムくん叩き起して迎撃してくれたからあたしらは起きてからbatontouch! Nowだよぅ」
 風蘭の頭をぽんぽんと撫でながら鈴芽は欠伸をした。
 「ところでデジェルとアステルはー?」
 「ああ、それならあそこです」
 詩音が指差した荷車から、完全に熟睡モードに入ってしまったデジェルをなんとか担ぎながらアステルが出てきた。
 「……ホモォ? アスデジェ? あたしの知らない間にいったいどんなイベントが——」
 「「違う」」
 曰く、疲れが吹っ飛んだ。
 「ね、シオン。ほもぉって、なぁに?」
 「聞かないで下さい」
 「ゲシュテンペストさっきいたよー?」
 「「「……ふぁっ???」」」
 「えっ、どこにいたの???」
 一瞬固まった4人だったが、風蘭が一足先に質問する。
 「ここに戻って来る数分前、大軍でぞろぞろ動いてたねぇ。進行方向はこっちだったけど、どうする?」
 「そろそろ休みたいよー……」
 「あっ、それなら私と千破矢で行きましょうか?? 久しぶりに迎撃参加したいです!」
 「はァッ? 俺を巻き込むなよ!!?」
 「だって私の魔法って極端ですし、前みたいにここら一帯ボコボコにしてしまうのも……気が引けますし? それに——」
 何故あなたはグラギエスを出たんでしたっけ?
 詩音がにっこりと笑うのと、千破矢が駆け出すのは同時だったという。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.266 )
- 日時: 2017/04/17 20:55
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「外が騒がしいな」
 「はは、ゲシュテンペスト来たんじゃないですか?」
 「そこまで騒がしくはない」
 「へえーマジっすか。午前3時に叩き起されて寝起きだなんて関係なしに戦場へ駆り出されたオレには何もわかりませんスヤァ」
 「おつかれ」
 フラムは犠牲になったのだ。日向は机に突っ伏して即行で眠るフラムから全力で目を逸らした。ある意味その原因である真白は相変わらずの表情で山積みになった本をぱらぱらと捲っていた。
 「ありがとね、大変だったでしょ」
 「んー。礼ならフラムに送るべきだろう。僕の独断と偏見で叩き起された被害者だし」
 「自覚はあったんだね……」
 「だって豪雷は僕と別のタイミングで出したいし、鈴芽は美容か何かで無理だろうし、風蘭と日向は戦えないし、……フラムだなぁ、って」
 「否定が出来ない件。そういえば、豪雷は? 今朝から見てないけど」
 「うん。僕らと交替で遊撃隊してるよ」
 「ゆ、遊撃隊……?」
 「ぼっちで」
 「ぼっちで!?」
 それは“隊”ではないというツッコミはフラムの胃袋に蓄積された。
 そう。鈴芽と風蘭に見張りを任せてからゲシュテンペストの数が減ったのは向こうが引いたのではなく、こちらの遊撃隊が殲滅しているからなのだ。
 「えっ、いつの間に?」
 「本人から言われたからな」
 がたん、ばたん。酷い音をたてながら鈴芽と風蘭が帰還する。
 「ただいまーっ!」
 「おかえり。どうだった?」
 「千破矢と詩音がゲシュをinterceptしに向かいました!」
 ビシッとポーズを決めながら鈴芽が報告すると、開きっ放しの扉をさらに押し開けながらアステルが部屋に入って来た。——何故かデジェルを所謂お姫様抱っこの状態で抱えながら。
 「ホッ……うっあああああやばい待ってやっばい吐く」
 「ふぇっ!? すずめ大丈夫!!??」
 「大丈夫じゃないよ。彼女の病気はもう治らない」
 「ふぇえええええっ!?」
 アステルはだってこの方が楽なんだもんと言いながらソファにデジェルを下ろす。それとほぼ同時にぴょーんとそちらへ飛ぶのはフラム。
 「デジェル様どうしたんですかああああああああ!???」
 「暇すぎたんだろうね。寝ちゃったよ」
 「そうなんですか。良かった……」
 「それにしても、この子はよく寝るね」
 ふいと真白に視線を向けると、すぐに気付いた彼女はデジェルに視線を移し——あれ?と声を出す。
 「デジェル、また髪黒くなってるね……?」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.267 )
- 日時: 2017/06/09 18:35
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
- 書きたいのに時間がないのでせめてもの抵抗手段としてあげに来ました(酷い)。お久しぶりです、紅雪です。 
 新しいクラスやら何やらに馴染んできても時間が作れないと来れませんからね……最終更新から1カ月と少し、全くPC触ってませんでした。キーボードもマウスも埃かぶっててなんというかもう悲惨です。もうしわけない。
 多分内容自体はすぐ終わります。しかしあくまで中2の頃(作成時点)に決めていたエンディングを狙っているので、それに合わせるとフラグを立て過ぎてしまったりフラグ立て忘れてしまったりと大変なことになっているので難しいんですよね。語彙力の低下。
 とりあえずこれから最終話まではシナリオ終わらせることに専念する形にして、余裕があれば番外編として書いてみたいと思っています。ほら、風蘭のフラグとか……(だいたい忘れてる)。
 まあ今のところ何も呟いていない鍵付きアカで呟く程度だと思っています。というか本気でフラグ忘れてるので誰か教えて下さいぃ(切実)!
 ちなみに懲りずに次の作品を考えていたりします。誰得。
 では、期末が始まる前に更新します。目標は夏休みまでに終わらせる!!(フラグ)
- Re: KEEP THE FAITH ( No.268 )
- 日時: 2017/06/15 21:48
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 数年前までは街であったはずの瓦礫の中に1人少年、豪雷は座っていた。
 藍色の髪を束ねた、暗い青の目の彼は今——絶賛ハッスルしていた。心がピョンピョンしていた。ウハウハだった。
 理由として挙げられるものは大きく分けておそらく2つ。1つは詩音帰宅の気配を感じてのことだろう。断じてそういう関係ではないが。2つ目は蓮の結界が壊れたことによる突然の開戦命令。しかもぼっち。ちょっと寂しいが遠慮なく潰して良いぞと言われたのでありがたく城を飛び出したのは朝日が昇る前の出来事だ。
 まあその結果として刀はものすごい色に変色してしまってはいるが。
 「くくく、弾けろ、俺のシナプス……!」
 そして謎に厨二堕ちである。弾けているのは間違いない。傍から見たらキチでしかない。
 ちなみに彼の足元では十人十色を体現したような容姿のゲシュテンペスト達が山になっている。その上に青系統一色の武士1人と言うのもシュールな光景なわけだが。
 とにかく見ればわかる程度に豪雷は働いていた。ぼっちとは思えないほどには城に近付く敵を殲滅していた。むしろどうやったと言うほどに。
 豪雷は深く息を吐くとゆっくりと立ち上がる。
 「よし……、行くか」
 血みどろの刀を引き摺りながら再び歩き出す彼の姿はゾンビのような、そうでないような。闇落ちをしたわけではないのに酷い光景である。
 数分後、詩音と千破矢が返り血(?)塗れの豪雷を発見&保護するわけだが、それはまた別のお話。
 *
 暗い、暗い部屋の中、ずるりずるりと音を立てながら、男は独り呟いた。
 「——待っていたぞ」
 赤とは到底言えないような闇色の髪を揺らしながら、自ら切り離した脚を睨み付ける。
 「ツクヨミレン——オブ・ルクスの、“結界”」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.269 )
- 日時: 2017/06/24 17:25
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「髪が黒くなってる……って、別に染めたとかじゃないよね」
 「デジェル様はどんだけテンション昂っても髪は染めませんよっ! ……やっぱ何かあったんですね?!」
 「いやこれと言って特には……ないはずだよ?」
 アステルは首を傾げながら不思議そうに答える。
 ——ゼノに捕まって突貫工事間違いなしな塔に監禁されてこの台詞である。
 「デジェルの髪は前も黒かったよね。たしか、魔王討伐だーってみんなが頑張ってた頃だったはず。少しずつ元の色に戻ってんたけど……」
 「そうなの? オレ千暁以外の部下まともに見たことないからなぁ。そう言えば彼が言ってた使える手駒ってデジェルのことかな。ならワンチャン乗っ取りとか来そうだねぇ」
 「「「……」」」
 「「「それだあああ!!!!!」」」
 話を理解した面子は一致団結して叫んだ。
 これまでの情報からまともにやり合ったことのない彼らでも“千暁”のヤバさは理解している。その彼がここへ来る可能性は十二分にある。何故ならここには散々利用した駒も、盾である魔王もいるのだから。
 アステルと話をいまいち飲み込めなかった風蘭は思わず耳を塞いだ。
 「な、なんだよいきなり……どういうこと?」
 「今あんたが言ったことそのままですよっ! 千暁さん攻めて来たらオレら流石に無理ですよ!!」
 「えっそうなの?」
 「そうなのじゃないよ! むしろthe highest priority!! 最優先事項だよ!!」
 ごちゃごちゃと質問責めされているアステルを横目に真白は頭を抱えていた。
 千暁が攻めて来ることは想定していた。ここを落とすことは彼にとってメリットの山だということも。しかしその際にデジェルが“どうなるか”。全く考えていなかった。完全に不覚を取った。
 「……とりあえずデジェルは寝てるだけ、なんだよね?」
 「うん、そのはずだけど。……なんかみんなの反応見てると心配になって来ちゃったな」
 「そこは自信持って下さいよォ!!」
 パニック状態のフラムに胸倉を掴まれているアステル。風蘭は慌てながらもフラムを止めようと奮闘している。
 鈴芽はちらりと真白を見やり、それからデジェルへ視線を移した。
 「とにかくさ、今はみんなグラギエスにいるんだよね? ニベアたちは除いて」
 「え? ……ああ、そうなるはずだけど」
 「じゃあ一旦みんなが帰ってから、改めてそのことをconferenceしよう? そろそろだしあたしはdinnerのお手伝いしてくるね!」
 時計を指差しながら鈴芽はアイドルスマイルを撒き散らして部屋をあとにする。6時。そろそろ日が暮れる。
 朝一から殲滅命令を下されたバーサーカーもとい豪雷はそろそろ詩音達と合流しているだろう。
 「確かにそうだね。オレもそろそろお腹が減ったよ」
 「ふうもお腹減ったなぁ〜! フラムもスズメとヒナタのお手伝い行こうよ!」
 「えっ?! ……ま、いいよ! じゃあ厨房まで競争!」
 きゃっきゃと騒ぎながら鈴芽を追いかける2人を見送り、残された2人は思わず苦笑を浮かべたのであった。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.270 )
- 日時: 2017/08/10 21:22
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 時は満ちた。
 「おかえりなさーい!」
 風蘭の高らかな声が部屋に響く。
 ロボを除くメンバーが久々に揃い、普段にも増してテンションの高い風蘭。
 まだデジェルは起きない。
 「さっき外で会っただろーが。ただいま」
 風蘭の頭をわしゃわしゃとかき回しながら千破矢は苦笑を浮かべた。
 「お城に入って来てなかったからあれは違うのー!」
 ぷんぷんと怒りながらも機嫌の良さそうな風蘭を横目に、詩音はふと首を傾げる。
 「デジェルはまだ眠っているのですか?」
 鈴芽は食事をテーブルに並べながら「そういえば」と呟く。
 「さっき部屋に運んで来たけれど、そろそろ起こさないとだね」
 時計の針を見ながらアステルはのんきに言う。
 「なんであの話の後にぼっちにさせるんですかぁあ!?」
 やや食い気味にアステルに詰め寄るフラムは
 「オレ起こしてきますっ」
 そのまま弾かれるように部屋をあとにした。
 沈黙。
 「えっ大丈夫かな!? 1人で行かせて大丈夫?! さっきのガチだったらヤバめじゃない!!?」
 「何かあったんですか?」
 昭和のようなポーズを決めながら焦り出すアステルに、詩音は事情を聞いた。デジェル君乗っ取り計画説をある程度聞き、少し悩む素振りを見せる。
 「……ぶっちゃけ人の髪の色なんて微塵も興味なかったんである意味予想外ですね」
 「「ですよねー……」」
 鈴芽とアステルが沈みながら同意する。部屋の奥でそわそわしていた真白が意を決したように拳をつくった。
 「僕も行ってくる」
 「お、俺も!」
 言うが早いか電光石火で部屋から飛び出す真白。そしてそれをさらに追いかける千破矢。
 「芋づる式に行ったね」
 「千破矢、真白に追い付けるかな」
 「追い付けないに晩御飯のプリン1個」
 「えっ、えっと、……なんとか追い付いて「俺とあいつどっちが大事なんだよ」って言って「今はデジェル」って返されるにプリン2個!」
 「日向って意外と妄想激しいね」
 鈴芽のツッコミに顔を赤らめる日向。アステルは賭け事ということで真面目な表情を浮かべ、ふむ、と頷く。
 「デジェルを千暁が攫う瞬間にはち合わせたフラムが全力でデジェル姫を救おうと奮闘しているところに真白が追い付いて飛び蹴りを噛まし、なおかつその瞬間をさらに追い付いた千破矢が目撃して一言、「何があった!!」って叫ぶに明日の朝ごはんのデザート」
 鈴芽は何故か「それ凄く良い」と叫んだ。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.271 )
- 日時: 2017/08/31 19:37
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 前回魔王様もといアステルが立てやがってしまったフラグは回収されることになるが、それはこれから話すものとする。
 曰く芋づる式に部屋を飛び出して行った3名。
 トップを駆け抜けるフラムは後ろ2人の気配はわからずともとりあえずデジェルの身に十中八九何かが起こる予感がしていた。「だって尺的に来てるじゃないですか!」。
 そのしばらく後ろを走る真白はあれよあれよと言う間に千破矢との距離を(物理的に)離して行く。まだフラムの後ろ姿すら捉えられていないが一応正常。今は後悔とかしてる場合じゃないのです。
 最後尾の千破矢くん。前と比べると体力もついたのか真白の背中を追うことは出来ているが多分時間の問題。頑張れかませ犬。負けるなかませ犬。
 「——デジェルさっあああああああ!!!」
 空気を読めない叫びが部屋に響く。
 扉の音で起こす、というかむしろ仕留めんばかりの勢いで開かれた扉の先にいたのは、ご丁寧に窓から侵入を果たした千暁。ベッドの上にいるデジェルはこころなしか——どう見ても苦しみ悶えている。
 「デジェル様っ! 大丈夫ですか?!」
 咄嗟に駆け寄り様子をうかがう。髪は黒。呼吸は荒く、大丈夫の“だ”の字もない状況だ。
 「安心しろ、まだ生きている」
 安定の厨二ポーズを決めて笑う千暁を睨み付け、フラムはそのまま硬直する。
 ——勝てるわけがない。
 「はち合わせたのは想定外だが、1人ならば問題ない」
 ゆっくりと足音を立てて近付いて来る悪魔。デジェルを背にフラムはおもむろに立ち上がる。
 「お、オレはデジェル様をまもるんだ!」
 何の宣言だ。そう心の中でツッコミを入れる。
 いやもうダメだろこれ普通にオレ無駄死にしてデジェル様連れて行かれるやつ——……?
 次の瞬間オレの目に映ったものは、勢いよく飛んできた氷のつぶてと真白さんの膝をモロにくらって吹っ飛ぶ悪魔の姿でした。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.272 )
- 日時: 2017/10/04 20:38
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 この物語はリアルタイムで言うと3年ほど続けられたものである。高校受験をひかえた中2の冬休み直前、作者は最後の作品として書いておこうと思って立ち上げた小説なのである。ぶっちゃけ3ヶ月ほどで終わらせる予定だった。
 故に、作者(高2)は嘆く。「いや、倉庫ログ入ってもまだ終わってないなんて思ってなかったんです!!!」と。
 何が言いたいかをまとめるとつまり、こう言うことである。
 ——もうこのまま本気でラストスパートぶち込みますがお許し下さい。
 なお、この作品で終わる気はさらさらありません(・ω・´)
 吹っ飛んだ悪魔(ラスボス)、吹っ飛ばした鬼(チート軍人姫)、そしてゼェハァと息を切らしながらその光景を目の当たりにした悪魔の子(ツッコミ要員)は叫んだ。
 「いや何があったしざけんな説明しろやこの野郎!!!!!」
 「それ誰に言ってるんです?」
 「知らん!!!」
 もはや本能にも近いツッコミ(不燃焼)が現場を襲う。彼の目に実父の姿は映っている。映ってはいるがそいつはもう満身創痍である。ラスボス戦は残念ながらマジで終了しそうな感じである。
 「普通に考えて下さい! こんなあっさり行くわけないじゃないですかぁ!!」
 「それ逆フラグだからな?! あいつガチ魔王に正直自分より強いかもとか言わせたレベルの存在だから!! やらかす子だから!!」
 「千破矢さんはそんな真白さんを、す?」
 「き!!!!!! 今!!! それどころじゃ!!! ない!!!!!」
 「はいはい、ハイテンションテンション」
 ある意味熱源のフラムになだめられる。千破矢はものすごくイライラしている。
 真白は千暁を一瞥してから3人のもとへ駆け寄る。
 「大丈夫?」
 「アッ↑大丈夫です! 千破矢さんめっちゃ不機嫌ですけど」
 「え、あ、ごめん。腐っても君の父親なのに蹴りなんて繰り出しちゃって……。あと——」
 「いやそっちじゃねぇと言おうと思ったがまずとりあえずそこに対してツッコませて!!」
 たじたじ男子2名。真白は真白で、フラムとデジェルが危険だと察する前に動いてしまったようで、いまいち状況は理解していなかった。後に語るに、「ぶっちゃけ膝入れてから誰か把握した」。
 「俺の親父をぶっ飛ばすのは良いわむしろもっとやれ!! 俺だってぶん殴ってやりたいわ!!! 何があったかを説明できるやつ急募!!!!!」
 「デジェル様の部屋入ったら丁度アレと鉢合わせしまして、やっべぇ人生オワタと思ったところで美脚が飛んできました」
 「真白、真白」
 「?」
 「【?】じゃないんだよこの馬鹿ァァ!!!」
 行き場のない感情を押し込めて真白の頭にげんこつをお見舞いする。女子に向かってとか今更言えない。フラムもつっこまない。そしてデジェルは起きない()。
 「……結局千破矢は何に怒ってるの?」
 「俺が知りたいよ俺何に怒ってんの!!?!??!」
 「いや何言ってるんですかアンタ???」
 謎の逆切れを噛ましフラムにツッコミをもらったところで真白は話を切り変えた。
 「ごめん、取り逃がしたから追いかけて良い? 多分蓮のとこ行ったから……」
 「それ一番最初に言ってほしかった!!!!!!!!!!」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.273 )
- 日時: 2017/10/05 19:53
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 いや言おうとしたしとぼやく真白を半ば無視し、2人は走り出す。
 フラムはデジェル看護にまわしたが、1人ではどうしようもないので広間にでも連れて行けと指示をした。身長的に運べない可能性は微粒子レベルで存在しているが、多分問題ない。
 そしてシリアスブレイク前提として、この回は説明回だと思ってください。
 「なんでまた逃がしたんだよ! そのまま凍らせとけばよかったのに!!」
 「親に向かってとんでもないこと言うね君。正直迷ったんだけれど、デジェルとフラム見た一瞬で消えちゃったから……」
 「俺の親父ゴキブリかよ!!!」
 「どちらかと言うとてけてけ」
 「それこの世界にはいないから! それこの世界ではメタ発言だから!!」
 「メタ発言という発言がメタ発言という……」
 「ダァー! お前作者が出してないうちにキャラかわったくない?!」
 「……最終話前にしてキャラ崩壊か?」
 「まだ何も解決してないし!!!!!」
 ぐうの音も出ないレベルで作者を遠まわしに罵倒しながら千破矢と真白は全力で廊下を走る。時々床に血が落ちている。
 「あいつの目的って結局なんなんだ?」
 「さあ。最初はデジェル強奪だと思っていたのだけれど、結界——蓮のことを狙ってる可能性もある」
 「蓮を狙うって、狙って何をするんだよ」
 「それはあの人の目的によって違うけど、目星は付くよ。一応」
 デジェルを狙うのは手駒として(呪いが埋め込まれている)。本来メインで千暁が欲しているのはツクヨミレンなのだろう。真白は話しながら情報を自分の中で纏め出す。
 「ツクヨミレンがどういう存在か簡単に言うと、オブ・ルクスの結界だ。媒体である蓮が死ぬと、この世界は控えめに言って終わる」
 「終わる?!」
 「ああ。僕達が行動を共にすることになったきっかけ、終末だ」
 「じゃあ、魔王を倒さなくても終末は来るのか……?」
 「ううん。魔王倒したら終末来ないよ?」
 「——ハァ??」
 千破矢は首を90度傾け聞き直した。
 「えっ、魔王倒したら終末来ないのに蓮倒したら終末来るの??」
 「まあ、うん。今の状態だと来るね」
 「今の状態?」
 「そう。今の蓮は、アステルの魔王としての力を封印した結界なんだ。……本によるとね」
 「じゃあ厳密に言うと終末の原因は“魔王の力”か」
 「その通り。ただ、君の父親はなんか、こう、——ショタコン説、があるんだよね? 加虐心旺盛的な意味で」
 千破矢はもう全方向とデジェルとフラムに土下座したくなった。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.274 )
- 日時: 2017/10/05 21:04
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「俺の親父がショタコンで何が悪い」
 「ラノベ的な」
 「話を続けてほしい……傷を抉らない範囲で」
 「あ、ああ……。まあつまり、蓮を直接攻撃する可能性って案外低いんだよね。千暁は男の子が好きだから」
 「男の子好きとか何があったんだよ……ッ」
 「なので、僕的に千暁は日向殺しに行ったと思います」
 「ナンデ?!」
 「多分だけど、蓮にとっての“一番の大切”は日向だと思うんだよ。少なくとも特別な存在だと思うよ。今、封印された魔王の力を持っているのは蓮だ」
 「俺にもわかるように言うと?」
 「——蓮を絶望させてこの世界破壊させようとしてる説?」
 *
 「なんか上がどったんばったん大騒ぎしてるね?」
 「千暁がrealに来たのかな」
 「足音も聞こえてきますし、移動……していますね」
 「うーん……、厄介だね。本当に来ちゃってるし、こっちに来てる」
 「こっちに!?」
 風蘭はビビる日向のそばに行き、床に降りてから腕を組んだ。
 「ねえねえ! ふう、ひなたと一緒にいて大丈夫?」
 「ええ、そうですね。……何か感じたのですか?」
 「うん。えっとね、なんか、ひなたに向かってね、びゅああって、なんかやな感じがして、……うん」
 「ふむ。わかりました。風蘭、あなたは日向を連れて逃げて下さい」
 「えっ」
 「わかった! ふう、頑張って逃げるね!!」
 言うが早いか、風蘭は日向の腕を引いて走り出す。
 「……どういうことなの?」
 「アステルさん。本当に千暁は来たのですね?」
 「ん? あーうん。間違いないよ。城内にいる」
 「そうですか。……そうですかー、なるほどですねー」
 「えっちょっと本当によくわかんないあたしにもわかるように説明please!」
 「そうですね。何があったのかはわかりませんが、彼にとっての標的はデジェルではなく、日向……といったところでしょうか」
 「……日向?」
 豪雷が聞き返すと、アステルは納得たように頷き苦笑する。
 「あいつの目的は、変わらずってとこかな……?」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.275 )
- 日時: 2017/11/07 18:39
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
- 5年ほど連れ添ってきたマウスの左が壊れる事案。更新さらに遅れる可能性アリ。 
 城の構造は前と同じ。自分が設計したものだ。それに、前侵入に成功した使い魔のおかげでどの部屋を拠点にしているかは知っている。
 故に、“次期魔王”の居場所はすぐに分かった。
 オレの目的に気付いたのか反応が遠ざかるが、さすがにもう隠し通路はない。だがこれは一刻を争う話だ。すぐにでも行かねば、彼女が——。
 目の前に、馬鹿魔王と西園寺息子が立つ。
 「正直思っていた以上にボコボコにされてて驚いているのですがこれ言って良いんですか?」
 「言っちゃったね君???」
 記憶が正しければ初対面の相手にシンプルに煽られたが今はそれに切れている場合ではない。
 「えーっと、久しぶりだね、千暁」
 「ええ、かれこれ2年ぶりですね。メタ的に」
 「あれ? もしかしなくてもオレツッコミ係かな??」
 「まあいいや。で、千暁。君の目的は日向、……ってことで間違いないかな?」
 「わざわざ聞く必要もないでしょうに。わかっているのならそこを通せ」
 「いやだ、って言ったら? 力ずくでーって感じかい?」
 にこり、と、奴は笑う。
 遠くの方から、爆音が響く。壁でも粉砕されたのだろうか。
 「知っての通り、今のオレを煮ようが焼こうが終末は来ない。えーと、そう。出雲蓮だっけ、彼女に封印されちゃったからね」
 「だから、オレに出来ることは遠隔的に隠し通路を塞ぐことだけで……、まあ、なんか真白達がちょっとした奇行に走っているみたいだけれど」
 「つまり、まあ、長々と話したんだけどさ——」
 「はい。時間稼ぎも充分出来たのでどうぞお通り下さい」
 「……は?」
 そこまで時間は経って、いない、は、ず。
 ——通路を塞いだ? それに、想定ではあと2人……。
 「アステル撤退です。さっさと合流しましょう」
 詩音はアステルの手を引いて千暁の横を通り過ぎる。
 だがそれを千暁は追わない。追う時間がないのだ。彼はもう進むしかないのである。
 「クソが……ッ!」
 千暁は自分から遠ざかる人影を睨み付け、重い体に鞭を打ち走り出した。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.276 )
- 日時: 2017/11/08 21:06
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 魔王と吸血鬼がラスボスを煽っている最中、鈴芽と豪雷は城門の前に辿り着いた。目の前にはゲシュテンペスト一行。
 「Oh……シオンの言った通りだったねぇ、豪雷」
 「うむ。まあ、これなら少し考えればわかることだが」
 「そう? んー、あー、たしかに。チアキが来たってことは彼のfamiliaも来るよねっ! そりゃそうだ!」
 「納得したか。では、そろそろ良いか?」
 「Of couse! あたしはいつでもOKだよ!」
 いつも通り刀を構える豪雷。鈴芽はその隣でふにゃりと笑いながらスタンドマイクを掴み——
 『みっんな〜! げんきぃ〜!!????』
 キィンと耳鳴りがした。
 *
 一方、千破矢と真白。
 「真白それ何してんの」
 「破壊工作」
 「はかいこうさく」
 「自分の仕掛けで苦しめ濡れ雑巾め」
 「俺の知ってる真白はそんなこと言わない」
 「本より抜粋」
 「本!!!!!」
 会話の内容はともかく。
 真白は機械室のような小部屋に入り、そこら中のボタンをカチカチと押しまくっていた。千破矢はヘタに触ってはいけないと思い一歩後ろに下がった。
 「千破矢、そこの星の模様のボタン押して欲しい」
 「えっ? ……これか?」
 「そうそれ。その次は心臓模様の」
 「ハートって言えよなんだよ心臓模様って怖ェわ畜生!!!!」
 そう言いながら星とハートマークの模様が貼られた(ダサい)ボタンを順に叩く。すると真白の目の前に大きくウィンドウが開かれた。
 「うおっ、……と」
 「はーなるほど。アステルはいくつか場所を知っているんだね」
 「監視カメラなんてあったのか?」
 「機能してなかったからたった今監視し始めたところだけど」
 「ふーん……」
 コードに気を付けながら真白の隣に立つと、千破矢は真白とは反対側の画面へ視線を移した。
 「? 真白」
 「なんだ」
 「ちょっとこれ見てみ?」
 すっと人差し指を映像へ向ける。
 「……ふむ。なるほど」
 真白は数秒間固まった後そう呟くと、画像全体を一瞥し、すぐそばにあった赤いボタンをポンと押した。
 「なるほど、なるほど。わかった。千破矢、詩音らと合流しよう。僕達の仕事は終わった」
 「えっ」
 言うや否や真白は千破矢の腕を引っ掴んで部屋を飛び出す。
 いくつかの爆発音が響いたが、千破矢は何もツッコミを入れなかった。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.277 )
- 日時: 2018/01/06 18:10
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
- 「すっごく遅くなっちゃったね〜」 
 「ね〜」
 「そうですねー」
 そんな話をしながら城内をぽてぽてと歩く2体と1人の人影。
 「みんなぼくたちのこと忘れてたりしないよね?」
 「忘れてたらどうしよう?」
 「忘れてなかったらいいですね」
 ヒト型の少年は諦めきったような表情で答える。
 ニベアとフェルーム。そしてイニティウム。だいぶ前に買い物に出かけた彼らがここまで時間の掛かったわけは、(忘れられていたというわけではなく。断じてそうではなく(忘れてた)、)2匹が道を覚え過ぎていたからである。
 3人そろってここ、グラギエスまでの道のりを“通った道通りに”進んできたのである。
 「でもおそと、騒がしかったねぇ」
 「なんだか今近くで大きな音しましたね」
 「ホント? ぜんぜん聞こえなかったぁ」
 「じゃあ大丈夫ですね」
 両手いっぱいの荷物を気だるそうに振りだすイニティウム。あとの2匹は飼い主()の気配を探していた。
 *
 「ねえ、これどこに逃げてるの?」
 「え? えーっとね……、ヒナタが大好きなところ!」
 「??」
 「今はそっちからぶぁーっていやな感じがするから、寄り道? してるんだ!」
 「遠回り?」
 「うん!」
 背後で何度か道か崩れていることから、真白あたりが助力しているのだと推測する。
 風蘭は相変わらず——いつもよりは数段焦っている様子だが——のほほんとした雰囲気で日向の手を引いている。
 「ふう、知ってるんだよ」
 「何を?」
 「なんか、胸がもやもやってしててすっごく苦しいのに、離れたくないの!」
 「恋って言うんだって!!」
 ドヤァ……。迫真のドヤ顔で風蘭は日向を見る。一方日向は時が止まったかのように停止してしまった。数秒後、ぼんっ、と顔を赤らめる。
 「なっんでウソえっ風蘭知ってたの?!」
 「うん! 恋って言うんだよ!」
 「ヘェーそっかー恋って言うんだー……」
 こい、こい、こい。何度も反芻しながら悶絶する日向を見かねた風蘭(言いだしっぺ)が、とどめを刺すように笑顔で言った。
 「レンが起きたら、えっと、告白しようね!」
- Re: KEEP THE FAITH ( No.278 )
- 日時: 2018/01/06 19:19
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 「やっと合流できたぁあああ!!」
 「さっきぶりだね」
 「だな。千暁は元気にしてたか?」
 「満身創痍でした」
 僕がやってしまいました(にっこり)。
 アストルと詩音、真白と千破矢がやたらと長い道のりを経て廊下で合流した。
 「それでも動きまわるあたりもうクリーチャーとかの範疇超えてますよね」
 「シンプルにきもい」
 「わかりみが深い」
 「実父があれって恥ずかしいわ」
 「千破矢もいつかああなるんでしょうかね」
 「絶対無理」
 「ところで、これからどうするのですか?」
 「うん。僕らにはもうこれといってやることはないんだ。千暁の件はもう3人に任せるしかないし」
 「でしょうね」
 「本当は外でゲシュ狩りしたいんだけど、多分2人でなんとかなるし」
 「さっき外見たらもう残り半分以下でした」
 「豪雷も鈴芽も夏野菜みたいにイキイキしてたね」
 夏野菜?と首を傾げながらも真白は話を進めた。
 「3対がやっと帰って来たから、作業に取り掛かろうと思います」
 「「「作業?」」」
 遠目にロボ3対の姿が見えたとき、男性陣の心は1つになった。
 ——うわこいつマジかよ。
 *
 「ヒナタ、大丈夫?」
 「う、うん。まだ」
 「走れる?」
 「……大丈夫、行けるよ。走ろう」
 すぐ後ろに、いる。
 風蘭の表情からそれはすぐにわかった。腕を引かれながら、脚を縺れさせながら、走る。
 階段は風蘭が調節が難しいらしく高く飛んでしまうため自力で。上り切って、風蘭が背中を押す形で再び走り出す。
 「なんか、あの人真っ赤だね」
 「エエエ見えてるの?!」
 「うん。今階段ひとっ跳びですごいなぁって思ったところ」
 「近い近い近いぼぼぼくどこ行けばいい!?」
 「あっ! そこの扉! 入って!!」
 押し込む形で指示された部屋に飛び込む。
 「——え」
 いつも通り、宝石の中に閉じ込められた蓮が、そこにいた。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.279 )
- 日時: 2018/01/07 22:26
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 驚愕していると、風蘭がさっと背後に目を向けた。——千暁だ。
 「ほぉ、これが出雲蓮、か……」
 ニタァ……と笑みを浮かべて血みどろのまま一歩ずつ近付いて来る千暁の目には、今の今まで追いかけまわしていた日向の姿など映し出されていなかった。
 ただただ、不気味な笑みを晒しながら千暁は鉛色の刃物を振り上げる。
 「これで、俺は——!」
 日向を一瞥したかと思えば、鉛をそのまま振り下ろした。その時、
 「ヴィダー・ハル!」
 風蘭が叫んだ。呪文が部屋にこだまし、次にぴきり、とか、キィン、とか。そんな鈍い音とともに鉛色が床へ転がる。千暁はゆっくりと、風蘭を睨み付ける。彼女は息を飲み、桃色の目で千暁を見つめていた。
 「なんだ、今のは」
 「え、っと……。……今のは、魔法ですっ。防御魔法の呪文!」
 「は……?」
 「ヒナタ!」
 風蘭は怒鳴るように再度叫ぶと、日向へ駆け寄る。日向は——、蓮のいる宝石を凝視していた。ずっと、ずっと。
 「ひなた……?」
 「……て」
 「……」
 「——蓮、帰って来い!!」
 *
 “いつも通り”、宝石に閉じ込められた彼女。
 閉じ込められているはずだった、彼女の姿が。
 今日はやたらとはっきり目に留まった。
 *
 ぴき、ぱき。氷の割れるような音だったそれはクレシェンドのように音を上げていく。
 日向が声を上げた瞬間、それはひときわ大きな音を立て、止まった。
 ばきん。
 我ながら良い音だと思った。こんな音立てて割れるんだ、これ。みたいな。なんだっけ、そう、鉄琴。あれの右側を勢いよく叩いたみたいな音。耳に残るやつ。
 視界が開ける。久々に地に着いた足は正直重すぎて驚いたけど、それと同じくらい久しぶりに見た2人は、それ以上に驚いてるみたい。奥のおじさんはなんだか千破矢に似てるね。
 言いたいことはいっぱいある。っていうとなんだか物語みたいだけど、本当にその通り、……なんだろうな。日向と風蘭、百面相してるみたい。わかるよ、わかる。
 だからとりあえず、物語らしく話を進めるとしたら
 「——ただいま、2人とも」
 私の脚はもうガッタガタですわぁ。老化かしら?(すっとぼけ)
- Re: KEEP THE FAITH ( No.280 )
- 日時: 2018/01/07 23:21
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 数ヵ月後。
 結論から言ってしまうと、千暁は逃げてしまった。これで2度目である。後に息子から「あいつプライドないのか?」と首を傾げられていた。
 ちなみにその息子は未だに告白出来ずにもだもだしている。先日真白から、「告白とやらはまだなのか?」と聞かれていたのは流石に可哀想だった。いいぞもっとやれ。やってやれ。
 真白、千破矢と詩音、アステルがあのあと何してたかって? なんだかよくわからないけど、千暁が逃げた後に合流したときには何故か久しく見なかったロボ達と日曜大工中だった。しかも蓮を見たときの真白の第一声は「あ、おはよう蓮。眠れた?」。それに続いて詩音が「千暁は死にましたか?」。アステルが「おつんご〜」。千破矢はツッコミの渋滞に暴走したのか「全員そこになおれー!!」と叫び、何故か一緒に正座させられ怒られた。
 ちなみに何を造ってたかというと建物製造用のロボットだそうだ。グラギエス復興を本気で考えていたあたりものすっごく真白らしいなと思った。
 ゲシュテンペストたちは、アステルに夏野菜みたいだと評されていた2人組が一匹残らずぶちのめしていた。実に楽しかったそうな。
 そしてこの2人の恋愛事情、なんと豪雷から動きだしたのである。デートに誘ったりプレゼントしたり、けっこう頑張っているのだけれど、たったひとつの問題。そう、鈴芽が気付かないのである。
 鈴芽は片思いだと信じて疑わない(ようにしていた?)らしく、「勘違いするようなことするな」と言われ「ふざけんなよ勘違いすんな好きなんだよ」という流れで晴れて結ばれたそうな。
 詩音のことについてどう思ってるか聞いたところ、豪雷は「親友」、鈴芽は「ライバル」だと言い張っていた。……鈴芽の言うライバルって腐った意味じゃないよね?
 ……真っ先に犠牲になった(語弊)デジェルはいい感じに復帰している。髪の色も戻っている(真白談)ため、大丈夫だと思われる。千暁がまた来たりしたらセンサー代わりになるね、と笑われていたがその数日後思いっきりショートにしていた。真白が珍しく驚いていたのは覚えている。
 フラムは相変わらず千破矢とツッコミ祭りをしている。最近は元とはいえ上司であるデジェルにも問答無用でツッコミを入れるようになった。戦闘の腕前も着実に上がってはいるがオブ・ルクスはここ最近どちゃくそ平和である。
 風蘭はあの後、ものすっごいぎゃん泣きをかましてくれた。それはもう大地がひっくり返りそうな大声で。その隣で僕もひそかに泣いたのだけれど、それは秘密である。
 蓮は「あははー大丈夫ー?」とか軽いノリで風蘭を抱きしめて座り込み、僕の頭を撫でた。大丈夫なわけがない。元気そうで良かった。
 なんであの時宝石が割れたのかは、蓮にもわからないそうだ。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.281 )
- 日時: 2018/01/08 00:05
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 ちなみに、蓮が自由になった今、グラギエスに籠城する必要がなくなった。
 ……ということで各自解散。となったわけだが、特に生活は変わっていない。
 真白はグラギエス絶対復興させるマンだし、千破矢は親の責任を……とかは関係なく実家わからんしいいや、とそのまま残っている。
 詩音は一旦実家に戻ったが数日でこちらへ帰って来た。何やら町長と話をして完全なる自由を手に入れて来たそうだ。時々オラオラ系の方の人格が出てくるがどっちも人生をエンジョイしてる。
 豪雷は鈴芽と恋人になってからすぐに、「旅に出る」と出て行き、鈴芽がそれについて行った。1ヶ月に一度は手紙とリア充前回な写真を送りつけてくる。
 っていうかここに集まってるのはほぼ全員ホームレスのため、ここを拠点にするのが一番楽なのである。
 ああ、あと、僕はなんだかよくわからないけど2代目魔王になりました。
 なんだかよくわからないけど、2代目魔王に、なりました!
 アステルさんがある日突然、
 「日向はどうやら、オレと同じ所から来たようだねぇ」
 と言い出した。
 ちょっとよくわからなかった。本人もフィーリングのみでそう思ったらしく、詳しくはわからないと言っていた。まあ少なくとも100年は生きてる人だから忘れてても仕方ないと思う。おじいちゃんだもんね。
 それでそれに反応したのは蓮だった。「えっマジで?」みたいな反応。
 そこからはあれよあれよといううちに蓮から魔王パワーを授かり、2人に笑顔で
 「「はい、2代目魔王頑張ってね」」
 ……と。
 なにそれどゆこと。多分これは口に出したと思う。
 「これで魔法が使えるよ! やったね日向くん!!」
 サムズアップを噛ましながら肩ポンして来たのは蓮だったかホモォ族だったか。
 「あっ、でも下手したら世界滅ぶから気を付けてね?」
 アステルだったかもしれない。
 絶対魔法は使わないと心に決めた。
 *
 この世界で生きとし生ける全ての存在よ、この世界を訪れる全ての存在よ。
 ——ようこそ、私のもとへ。
- Re: KEEP THE FAITH ( No.282 )
- 日時: 2018/01/08 00:37
- 名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: 5YqwrR3X)
 あとがき(?)
 約3年、4年間?(?)閲覧頂きありがとうございました。失踪期間もあったため「最初から最後までいたぞ!」という方は少ない……というかいないと思います。いるのであれば友達になって下さいぃ(ネットでもコミュ障)。
 さて、一応「EUREKA」「KEEP THE FAITH」は完結となります。
 ……フラグが回収できていないところがあるのは大目に見て下さい。中2の厨二な発想を直視できない(あまり読み返さない)。
 改めて読んでみると「ここ絶対こうした方が良かった!」とか「この設定いるの?!」みたいな点が沢山ありました。はい。書き切れなかったし……。
 予定から大幅にずれた子をいくつか紹介すると、
 風蘭→本当はなかなか凄い家系で実は凄い潜在能力を秘めてます設定(消え失せた)
 シルア→もともと詩音の中から消えてもらう予定だったけどシアンを叩きこむことで阻止(してしまった)
 カイン→アリスちゃん(友人)に「死ぬキャラ作って」と言って作ってもらった(だから死線を潜り抜けまくった)
 ロウ→アリスちゃん(友人)から「殺っちまえ☆」って言いながら貰った子。元気に窓から逃げてくれた
 フェイ→アリスちゃn(ryに「殺っちm(ry」って言われたけど以下略
 ですかね。一部です。
 ちなみに説明できなかったラストについて。
 風蘭が呪文を唱えた時のぴきりは宝石、キィンは刃物の音。風蘭は凄いんだぞ!(せめてもの抵抗)
 で日向の声で割れたのはもちろん蓮が「日向ktkr」ってなったのもあるんですけど(?!)、日向に魔王としての能力が移転しつつある状態でした。多分「カイン一行with千破矢」あたりでフラグ立てまくった気がするんですけど(既に忘れてる)、蓮は結界(転生)で、日向はオブ・ルクスの訪問者です。アステルも同じく訪問者でーっていう。
 どこから来たかというと、どこかから来ましたね、としか言えません。そっちの世界については書く予定が全くなかったので想像にお任せします(丸投げ)。
 今まで書いた作品の中でも一番スケールの大きな話でしたね。これ書く前はなんか二次小説(映像)の方でとんがりボウシをひたすら書いてた気がします。内容はほぼ無関係じゃねぇかーと思って書いてて最後になんか、樹氷魔法学校を書き終えたあたりで思ったんですよ。「あれこれオリジナルじゃね!?」って。そっからはこの作品の構想練ってもにゃもにゃしてましたね。
 とまあ、語り出すと無駄なことまで言ってしまう私ですが、本当にEUREKAはこれで終了です!
 しかし!
 私はこのサイトが自分でも嘘だろってくらいに好きです(告白)。
 大学生とか成人とかになっても書いてるんじゃなかろうか(現在高2)。
 出来ればこのサイトが終わるまで書き続けたいですねぇ……。えへへ(気持ち悪い)。
 次は二次小説(映像)にてibを執筆予定。
 おやすみなさい!!
