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- Re: Eternal flowerー花言葉と君と。ー【挿し絵付!】 ( No.61 )
- 日時: 2015/07/23 10:47
- 名前: 彼方 (ID: /yMGlo86)
- 第七章*カンパニュラ* 
 何も見えない。
 「________________________様」
 何も聞こえない。
 「______________________う様」
 何も感じない。
 「______________________嬢様」
 まるで「無」だ。
 「____________________お嬢様」
 闇ではない、「無」だ。
 「______________さい、お嬢様」
 その「無」になってしまうような。
 「________てください、お嬢様」
 燃えて灰になってしまうような。
 「____開けてください、お嬢様」
 そんな感覚がした。
 「目を開けてください、お嬢様……ッ」
 ふと、アイビーの声が聞こえた。それで、意識が水底から引き揚げられる。
 「________どうしたの」
 私は、ゆるゆると目を開いてアイビーに尋ねた。そして、ベッドの上に横たわったまま、緩慢に首を動かしてアイビーを見た。
 アイビーは、ベッドの脇に跪いたまま、心底安堵したような表情をした。心なしか、目が潤んでいるような。
 「……いえ。何でもございません」
 アイビーは頭を下げて言う。
 「……何故そんなに慌てていたの?私、最近は眠いから、寝ていることなんて珍しくないでしょう?」
 私は続けて尋ねた。
 事実、最近は何故かとても眠いのだ。眠くなったと思ったら、意識がなくなっていて寝ていた、という感じだ。
 体調も優れない。熱があるとかそういうことはないが、ゆるゆると、着実に日々悪くなっていく。
 それにさっきのように、よく分からない感覚に囚われる。自分が消えてなくなってしまいそうな、そんな感覚に。
 どんな感じか、と訊かれたら、体が一気に、さあーっと灰になってしまうような、と私は答えるだろう。自分でも訳が分からないが、そんなような気がする。
 「……そうですね。お嬢様が長時間お休みになられていること自体は珍しくありません。ですが……」
 「……ですが?」
 「一週間、一度も目を覚まされなかったのは初めてです」
 アイビーはそう言った。
 一週間?つまり、私が一週間ずっと寝ていたということ?そんな感じはしなかったが。
 「それ、ほんとう……?」
 恐る恐る私が尋ねると、アイビーは首肯した。
 いくら眠いからといったって、一週間ずっと寝ているというのはさすがに異常じゃないだろうか。
 少しずつ悪くなっていく体調と、異常なほどの眠気、そしてあの、奇妙な感覚。
 私は一体どうなってしまったのだろう。私に何が起こっているのだろう。そして、私はこれからどうなってしまうのだろう。
 それをそのままアイビーに訊くこと自体は容易い。ただ、それで何かよくない答えが返ってきたら、私はどうすればいいのだろう?
 例えば、私は何か不治の病に侵されているとか、そんな答えが返ってきたら。
 もし、もしも。私は何か病気に罹っていて、それによって死んでしまうだろうと、そうアイビーに言われたら、私はどうすればいい?絶望感に泣き喚く?人生を諦観する?
 分からない。どうすればいいのか、分からない。死にたくないのか、それとも死んでも構わないのか、それすら分からない。
 そこで私に、ふっと後ろ向きな考えが浮かぶ。
 ____どうせ私は何も生み出せない。ならば、このままだと死んでしまうとアイビーに言われても、なんら問題はないのではないだろうか。
 「ねえアイビー、私は…………、近いうちに死んでしまうの?」
