コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第一章 赤毛の少女、王都へいく ① ( No.1 )
- 日時: 2016/02/03 22:07
- 名前: 詩織 (ID: VNDTX321)
- 「よぅ、そこのお姉ちゃん!ちょっとのぞいてきなよ!安くしとくよ〜」 
 街道に立ち並ぶ露店の店主に声をかけられ、ラヴィン・ドールはつい立ち止まる。
 このあたりはこの国の王都・ギリアの西端に位置する街道だ。
 小さな屋台がずらりと並び、みやげ物や美味しそうな匂いのする食べ物などいろんなものが手に入る。
 このあたりに住む人々や、王都への旅人、観光客など、街道は活気溢れていた。
 髭もじゃの店主が手を振る店は、簡素な台に広げられた大きな風呂敷の上に、髪飾りやアクセサリーなど女の子が喜びそうな可愛らしい雑貨が所せましと並んでいる。
 「わぁ〜かわいい。」
 目をきらきらさせて、ラヴィンは風呂敷の上を覗き込んだ。
 「どうだい、全部手作りの一点ものだぜ。職人が作ったやつをおじちゃんが買い付けてくんだよ。きれいだろ。」
 「へえぇ。うん、きれい。これは?」
 淡いグリーンの下地に花柄の刺繍の髪留めだ。
 「 お、お嬢ちゃん、お目が高いねぇ。そいつぁおじちゃんが作ったやつさ。どうだいなかなかいいだろ?」
 「うん、なかなかだ。やるね、おじちゃん。」
 人懐っこく笑うラヴィンに、店主もついつい笑顔になる。
 「どうしようかなぁ。」
 「ようし、じゃあおまけだ。これもつけちゃうぜ。これもな、おじちゃんが作ったんだ。どうだ、これもなかなかだろ?」
 「あ、それもいいね!うん、買う買う。」
 店主は金色の刺繍でふちを飾った白いリボンを手に取ると、髪留めと一緒に小さな紙袋に入れ、ラヴィンに手渡した。
 「ありがと、おじちゃん。」
 にこにこと素直に礼を言うラヴィンを見て、店主は満足げに笑った。
 代金を支払い立ち去ろうとするラヴィンに店主が聞いた。
 「ところでよ。お嬢ちゃん、どっからきたんだい。観光か?」
 「ううん、違うよ。この街にいる親戚に用事があってさ。ベルリルっていうとこからきたんだ。」
 「ベルリル?そりゃ長旅ごくろうさん。」
 「知ってるの?」
 「そりゃあ知ってるさ。昔買い付けにいったことがある。たしか七日くらいかかるだろ?船も馬車も使って。」
 「そうそう!よく知ってるね。」
 ラヴィンは嬉しそうに言った。
 「今日やっとこの街についたんだよ。さすが王都だよね。やっぱ。
 何度来ても人がいっぱい。」
 辺りを見回しながら、ほぅ、と感心したようなため息をもらす。
 そんなラヴィンに店主は少し驚いた。
 「そんなに何度も来てるのか?ああ、その親戚に会いにか。・・というか、連れが見あたらないんだが。どこかで待ち合わせかい?」
 店主の言葉にラヴィンは首を横に振った。
 「んーん。いないよ、一人旅。」
 「一人旅?」
 言いながら店主はしげしげとラヴィンを見つめる。
 きれいな赤毛を後ろでひとつにくくり、温かみのある茶色の瞳でこちらをにこにこと見ている。
 先ほどの人懐っこい笑顔といい、まだあどけなさを残した明るそうな少女。
 「・・お嬢ちゃん、年は。」
 「ん?16。」
 決して飛びぬけて目立つ容姿ではなく、どこにでもいそうな普通の少女だ。
 確かにきちんと旅のための丈夫で動きやすそうな服を着ているし、厚手のマントもはおり、よく見ると腰には短剣をくくりつけているのが分かる。新品ではなく、よく使い込まれているようなもの。
 旅慣れてはいるようだ。
 だが・・。
 「お嬢ちゃんみたいな若い娘が一人でここまで旅かい?そりゃちょっとあぶねぇなあ。ま、事情はいろいろあんだろが。大丈夫かい?」
 そりゃこんな商売やってたら、いろんな旅人をみる。それぞれに事情があり、この王都へやってくるのだろう。
 けれど、それでもこの時代、旅は過酷だ。
 体力だってもちろんいるし、山の中や人気のない街道では盗賊だってでるだろう。
 こんな可愛らしい少女が一人でよくここまで無事に来たものだ。
 「ありがと、おじちゃん。でも大丈夫。ここまでの旅は慣れてるし、いろいろ教わってるから。
 うちの父さん、昔は冒険家だったんだって。世界中を旅してたんだよ!今は引退したけどね。」
 屈託のない笑顔を向ける。
 「でね、父さんの弟である私の叔父さんも、父さんと一緒に冒険してたんだって。で、その叔父さんが今はこの街でお店やってるの。旅して集めた商品とかを売ったり、知り合ったほかの国や大陸のひとたちとやり取りして、商品を買い付けたりする貿易商人。ジェイド・ドールっていうんだけど。」
 「ジェイド・ドール?!」
 店主が目を丸くする。
 「知ってる?」
 「知ってるも何も・・。この辺で商売してて、ジェイド・ドールを知らねぇ奴はいねぇよ。そうか、お嬢ちゃん、ジェイドさんとこの姪っ子だったのか。」
 ラヴィンはにこにこしたまま話していたが、はっと思い出したように口をつぐんだ。
 困ったように眉毛が下がる。
 「しまった。この街ではこれ、あんまし言っちゃいけないんだった。」
 「そうなんだ?」
 「うん。ジェイドおじさんの店人気あるからさー。絡まれたりすること増えたんだよね。面倒くさいから、最近はあんまり言わないようにしてるの。まぁ、店にいたらどうせ分かっちゃうんだけどさー。
 おじちゃんもなるべく黙っててね。」
 手を合わせてこちらを上目遣いにうかがうラヴィンに、店主は苦笑する。
 「わかった、わかった。言わないよ。おじちゃんだって、せっかくの可愛いお客さんになんかあったらヤダかんなぁ。その代わり、また帰りには寄ってくれよ?安くしとくから。」
 「うん。わかった!」
 元気良く答えるラヴィンに、じゃあ気をつけていけよ、と声をかける。
 ありがとーばいばーい、と手を振りながら、王都の中心地へと向かう後ろ姿をみて、店主は再び苦笑した。
 大丈夫かな。
 またどっかでしゃべっちまうんじゃないかあの子。
 少し話しただけだけど、素直で明るそうな少女だ。
 物怖じしないし、人見知りもしないのだろう。
 「さすが、血筋かねぇ。」
 話題の主、ジェイド・ドールの顔を思い出し、くっくっと笑う。
 あの男の姪っ子かぁ。
 それにしちゃ、ずいぶん可愛いじゃない、と店主は思う。
 それから、うーん、と大きく伸びをする。青い空が見えた。
 今日は快晴。
 まだまだ客は来るだろう。
 「さて、今日も商売がんばるかー。」
 街道の人ごみに向かって、店主は呼び込みを始めた。
- 第一章 赤毛の少女、王都へいく ② ( No.2 )
- 日時: 2015/04/11 19:08
- 名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)
- 冬の終わりが近いとはいえ、吹きつける風はまだまだ冷たく、道行く人々は厚手の外套を手放せない。 
 それでも昼間のうちは少しはましだったが、日の傾き始めた今のような時刻になるとさすがにキツイなぁとラヴィンは思う。
 「ふわぁ、寒っ。」
 皮の手袋をしていても、寒さで手がちくちくしてくる。
 防寒用のマントをぎゅっと体に巻きつけると、足早に目的地を目指した。
 にぎやかな下町の市場を通り過ぎ、ここ王都ギリアの中心に向かうにつれて街道はきれいに整備されたものになっていく。
 景色もずいぶん変わり、店も屋台などではなくきちんとした建物が並ぶ。
 石畳が続く街道沿いの街灯には、明かりが灯されていた。
 夕刻の街。
 仕事が終わり家路につく人々のざわめきや、
 さあこれからだぞ!と意気揚々と酒場に集う男たちとすれ違いながら、ラヴィンは中心街にある一軒の店の前までやってきた。
 「やっと着いたぁ。」
 安堵のため息とともに、肩の力が抜ける。
 旅は慣れているとはいえ、完全な一人旅は実はこれが初めてだ。
 思っていたより緊張していたのかも。
 思うと同時に、ぐぅぅっとお腹が鳴った。
 その時、
 「あれ!?・・もしかして、ラヴィンか!?」
 後ろから声がした。
 ラヴィンが振り返ると、そこには背の高い黒髪の青年が立っていた。
 ラヴィンより少し伸びた漆黒の髪を後ろで束ね、肩掛けの大きなかばんを提げている。彼もどこかから帰ってきたのか、暖かそうな外套に身を包んでいた。
 深い黒色の瞳が、大きく見開かれている。
 「ジェンっ!!わぁーい!久しぶりだねーっ!」
 ラヴィンは笑いながら青年の首にとびついた。
 ラヴィンがあまりに思いっきり飛びついたものだから、ジェンと呼ばれたその青年は後ろに2,3歩よろけつつ、彼女を抱きとめる。
 ぐぅう、とまたお腹が鳴った。
 「ジェンー、おなかすいたー。つかれたぁー。さむいよー。ごはんー。」
 ジェンの胸に飛びついたまま、ラヴィンが笑い混じりにまくしたてる。
 「おい。」
 その頭をポン、とジェンが軽くたたく。
 「相変わらずだなぁ、お前。俺はお前の母さんか?」
 言葉とは裏腹に、優しい笑顔で彼女を見つめると、そのままぽんぽんと優しく頭をなでた。その声は安堵に満ちていた。
 「・・まぁ、なんにせよ無事着いたみたいで良かった。みんな心配してたんだぜ。俺も、マリーも、店のみんなも。それに、ジェイドさんも。」
 「うん、ありがとう!いろいろあったんだけどさ、無事こられたよー・・って・・」
 ラヴィンが言葉を切る。
 ジェンの胸にすりつけていた顔を、ゆっくりとあげた。
 「・・へ?ジェイドおじさん?え?連絡つかないんじゃ・・。いるの?
 」
 え?え?とわけが分からない顔をしてラヴィンは首をかしげる。
 そんなラヴィンを、ジェンは困ったような顔をして見下ろした。
 『ジェイド社長と連絡がつきません』
 ラヴィンの家族のもとに送られてきた一通の手紙。
 それが今回の、ことの発端だったのだから。
