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- 第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜① ( No.39 )
- 日時: 2015/09/08 21:45
- 名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)
- 第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 
 軽いノックの音と共に、部屋の扉が開かれた。
 久しぶりの研究室は相変わらず不思議な香りが漂っていて、たった一週間ではあるけれど、なんだか懐かしい気さえする。
 帰ってきた友人たちと早く話がしたくて、無意識のうちに小走りになっていたシルファは、息を整えながら部屋に入った。
 部屋に置かれたテーブルにお茶のカップを並べていた赤毛の少女が、彼に気づいて顔を上げる。
 今日は可愛らしいカチューシャをつけ、下ろしている髪がさらさらと揺れた。
 「あ!いらっしゃいシルファ。」
 「こんにちは。おかえり、ラヴィン。楽しかった?」
 満面の笑みでシルファを出迎えたラヴィンに、シルファも笑って言った。
 「うん。ただいま。すっごく楽しかったよ。いっぱい話したいことあるんだ!今日は時間大丈夫なの?」
 「うん、ばっちり。午後は休みだから。僕もさ、報告したいことがあるんだ!ジェンとマリーは?」
 お互い早く喋りたくてうずうずしている2人の耳に、奥の部屋から声が聞こえた。
 「ここだ、ここ。」
 奥にある寝室から、仕切りの布をくぐって出てきたのはジェン。
 続いてまだ少し眠たそうなマリー。
 仕事の旅から帰って来たのが昨日だから、疲れも残っているんだろう。
 ジェンのほうはそうでもなかったが、荷物の片付けをしていたらしく、やれやれやっと終わったと一息つきながら、席に着いた。
 「で?どうだった?シルファ。何か思い出したの?」
 皆が席についたところで、身をのりだして急かすように聞いてきたのは、もちろんラヴィンだ。
 待ちきれないという顔をしている。
 「うん!」
 勢い良く答えて、シルファが話し始めた。
 「あれから家で姉上と話してたらさ、姉上も見たことあったんだよ、あの模様。やっぱり家の書庫で!」
 「へぇ!」
 ラヴィンが目を輝かせる。
 「それで一緒に書庫に行っていろいろ調べてさ、見つけたんだ、その文献。やっぱりあれは魔法文字だよ、それも相当昔の。」
 少し得意げに、シルファは言った。
 「まほうもじ?」
 初めて聞く言葉に、マリーが首を傾げる。
 きょとんとした表情がなんとも可愛い。
 そんなマリーにシルファは嬉しそうに笑って解説した。
 「うん。魔法を使える人が使う文字。それ自体に魔法の力があって、術式をモノに書いて魔法を発動させたり、魔法使い同士の連絡に使ったり。魔方陣にも使われてるしね。だから・・、あの石碑には、何か魔法的な意味合いがあったんだと思うんだ。」
 そう言うシルファに、話を聞いていたラヴィンは何か考え込むように聞いた。
 「魔法使いの文字かぁ。・・それって普通の人にも使えるの?魔法の力とか、知識がない人・・。」
 「ううん。その文字を使えるのはあくまで魔法の力を持つ人だよ。そうでない人にとってはただの図形だね。・・どうしたの?」
 うーん、と考え込むしぐさのラヴィンを、シルファが覗き込む。
 そんな2人を見ながら、ジェンが口を開いた。
 「ラヴィンの疑問は分かるよ。あの村にはだいぶ長いこと、魔法使いは居なかった。そもそも、魔法って概念すらよく分かってないような、小さな村だったもんな。もしこの文字が魔法文字で、魔法使いしか使えないってんなら・・・」
 机に置かれたノートをめくって、あの絵のページを開く。
 「そんな村になんでこんなモノが置かれてるのかってことだろ?」
 「そうなんだ?」
 シルファが3人を見渡して言った。
 「うん。」
 ラヴィンが頷きながら、曖昧な表情で続ける。
 「私たち、仕事の合間に村の人たちにもいろいろ話を聞いたんだよね。小さな村でね、もちろん村人の中に魔法使いはいないの。たまーに旅の魔法使いが立ち寄ることが、あったりなかったり・・。」
 「つまり、村の年寄りの記憶にうーっすら残ってるくらい昔に、そういや居たかなあ、くらいな。」
 ラヴィンの説明に、ジェンが苦笑しながら補足する。
 「そんな村だから、そもそも魔法って概念がないんだ。たいていの村人は魔法なんて見たことないしな。だから石碑に彫られてる図形・・文字、か?それについても知ってる人間はあの村には居なかったよ。」
 と肩をすくめた。
 「素朴っていうのか、素直で信仰心が厚い村だからなぁ、代々守られてきた石碑は村の守り神のものとして大切に残されてきたみたいだけど・・。それがどういったものかとか、何が描かれてるんだとかは・・、あんまり疑問に思ったことはないらしい。」
 「そうするとさ。」
 珍しく口を挟んだのはジェンの隣に座るマリーだ。
 「気になるわよね、なんの為に立てられたのか。神様を奉るだけなら、魔法文字じゃなくたって、普通の文字でいいじゃない。どうせ村の人には分からないんだから。本来の用途はなんだったのかしら。魔法使いの居ない村で、意味も伝えられていなくて・・だったら今は何の役にもたってない、ただの石よね?」
 「ただの石って・・。お前、そりゃ言いすぎだろ、仮にも村人にとっては崇拝する守り神なんだからな。」
 マリーのバッサリ言い切る言葉に、ジェンが苦笑いする。
 ところが。
 「うーん、でも、マリーの言うことも一理あると思うんだよなぁ。」
 意外な答えが返った。
 片手で頬杖をついて、考え込むようにノートを見ていたシルファだ。
 「一理あるってどこが?」
 「ん、村人にとって今はただの石かもしれないってとこ。」
 ジェンの問いに、目線だけ上げてシルファが言った。
 さらっと言われたその答えに、えぇ〜、とラヴィンが眉毛を下げる。
 「村の人たち本気で信じてる神様なのにぃ。それはなぁ。」
 だってだって、村のひとたち、みーんな心底信じてるんだよ?
 おばあちゃんなんかさ、毎日広場の石碑の前でお祈りしたりさ、
 おじいちゃんなんてさ、自分のおやつ、石碑の前にお供えしたりさ?
 ・・非難の色が含まれる声に、シルファは慌てて首を振る。
 「い、いや、そうじゃなくて。あのね?神様とか、信仰してることとか、それはもちろんあると思うよ、うん。大切だよ、ほんとに。もう絶対。」
 なにやらあわあわと言い訳めいているが、顔は必死だ。
 「そうじゃなくて、この石碑に関してさ。僕と姉上が2人とも、気になってることがあるんだ。でもこの一週間じゃ、まだ調べきれなくて・・。それ考えてたら、その村人の信仰する神様の件と、この石碑って、別物じゃないかって気がして。」
 「別物?神様に関係ないってこと?」
 まだうっすらと不服そうな表情を浮かべているラヴィン。
 そんな彼女をなだめようと、シルファは必死な顔のまま続けた
 。
 「そう、そうなんだ。村の人が信じている神様はそりゃ素晴らしくてきっとずっと村を守ってくれてるんだと思うよ、うん。でもね。」
 こほん、とひとつ咳払いをして、3人を見回した。
 「全く関係ないのか、少しは関係しているのか、そこまでは僕には分からない。
 けどこの石碑に関してだけ言うなら、やっぱり魔法がらみだと思うんだ。なにかの魔法が、この村にかかってる。いや、かけられてる?っていうのかな。」
 そう言ったあと、足元の自分の鞄をごそごそといじる。
 「書庫の本は持ち出し禁止だからね。僕と姉上が気づいたこと、まとめてみたんだ。」
 鞄から取り出した一冊のノートを机に広げると、自分を見ている3人に差し出した。
