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- 第12章 『魔女の棲む山』〜女神エルスの子守唄〜 ( No.77 )
- 日時: 2015/10/07 20:48
- 名前: 詩織 (ID: /BuoBgkT)
 「あ!帰ってきた!」
 マリーがそう言って、ジェンの服の裾を引っ張った。
 ジェンが振り返ると、道の先に小さく、2人分の人影がこちらへ向かってくる。
 「ごめん!遅くなって!」
 宿の前の薄明りの下、心配そうに2人の帰りを待つジェンとマリーの姿を見つけて、シルファとラヴィンは思わず2人に駆け寄った。
 ———あの森での急襲のあと。
 男達から事情を聞いていたら、いつの間にかすっかり日は暮れていた。
 約束の時間はとうに過ぎ去り、2人は星の瞬く夜の道を、とにかく急いで戻ってきたのだ。
 「心配したぞ、こんな時間になっても帰ってこないから。何かあったのか?」
 2人の元気そうな様子にほっと安堵の表情を浮かべながら、ジェンは2人の顔を交互に見る。
 シルファはかいつまんで事情を話した。
 「そうか、大変だったな。だからか。そんなに埃まみれになって、どこまで行ってきたのかと思ったよ。」
 ジェンは苦笑しながら、ラヴィンの髪に絡んだ木の葉をとって地面に落とした。
 「とりあえず、先にお風呂入ってこれば?2人ともすっごく汚れてるわよ。食事はおかみさんに頼んでそのままとっといてもらってるから。ねぇジェン。」
 「だな。詳しい話は食べながら聞くよ。」
 そう言われて、シルファとラヴィンはお互いを見る。
 バタバタしすぎて気付かなかったが、言われてみれば、確かに。
 髪は風でくしゃくしゃになっているし、服は砂ぼこりまみれ、おまけにどこで引っかかったのか蜘蛛の巣の糸までへばりついている。
 2人、顔を見合わせて苦笑する。
 言われた通り、まずは宿の風呂場に向かうことにした。
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 「ははっ。そりゃシルファも大変だったなぁ。」
 ラヴィンが男たちにくってかかったくだりを聞いて、ジェンはマグカップ片手に楽しそうに笑った。
 隣に座ったマリーもパンをちぎりながら
 「ラヴィンのフォローごくろうさま。」
 と続ける。
 そのセリフに、シルファは困ったように笑った。
 「ちょっとぉ、2人とも?どういうイミよ?」
 ちょっぴり不機嫌な声に入り口の方を見れば、風呂上がりのラヴィンが濡れた髪をタオルでふきながら、食堂に入ってくるところだった。
 ここは4人の泊まっている宿屋の1階。
 古ぼけた木のテーブルとイス。色褪せたチェック柄のテーブルクロス。
 そんな小さな食堂のすみっこで、3人は遅い夕食をとっていた。
 シルファの隣の席には、もちろんラヴィンの分の食事も並んでいる。
 「あのカッコがいけないのよ。動きやすさ重視の旅装束だもん。あーあ、もっと可愛いやつ選べば良かった。」
 「でもなぁ。いきなり大の男が2人もふっとばされちゃあ、向こうだって女とは思わないんじゃないか?」
 「いきなりじゃないって!向こうから仕掛けてきたんだから!ジェンのばーか!」
 「いてっ!おいラヴィン!」
 歩いてきたラヴィンが椅子の後ろを通り過ぎながら、ジェンの伸びた黒髪を思い切り引っ張った。
 「いってーなぁ、おい。抜けたらどうすんだ。」
 「知—らない。抜けちゃえ、ジェンの髪なんて。」
 「うわぁ。ラヴィンそれひどい。」
 頭を押さえるジェンに、シルファが同情のまなざしを向ける。
 「あら。ジェンなら全部抜けたって、自分で毛生え薬くらい作れるんじゃない?大丈夫よ。」
 「マリー・・、お前そういう問題じゃないぞ。」
 ジェンはうめくように隣のマリーを見るが、マリーは気にしない。
 ぱくりとスプーンを口に入れるともぐもぐと口を動かしている。
 「あーお腹すいたっと。いっただっきまーす。」
 ジェンに八つ当たって幾分スッキリしたのか、ラヴィンは席に座ると美味しそうに夕食をほおばり始めた。
 今夜のメインは、大きく切った肉や野菜のごろごろ入った具だくさんのシチュー。
 2人が帰ってくるまでにすっかり冷めていたのを、宿のおかみさんが温めなおしてくれて、今はほかほかと湯気がたっている。
 ほんの少し肌寒い、山の春の夜にはぴったりだ。
 横にはグリーンのサラダ。砕いたナッツが振りかけてある。
 そして昼にも食べた粗びき粉のパン。ちぎってシチューに浸せば絶品だ。
 「うーん。おいしい。しあわせー。」
 ラヴィンは満足気な声を上げた。
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 「それで?」
 食べながら、ジェンが話を切り出した
 「その男たちを襲った賊の中に銀の髪と赤毛のやつがいて、お前らをそいつらだと思って捕まえようとしたってことだよな?」
 「うん。そうみたいだ。背丈も僕くらいだったみたいだし。」
 「でも、赤毛がどうこうよりも、とにかく『銀の髪』が印象に残ってたんだろうね。」
 シルファとラヴィンの言葉に、ジェンが頷いた。
 「分かる気はするな。銀の髪なんて結構珍しいし。現にこの村に来てからだって会ったことないしな。」
 すると2人は、なぜか複雑そうな表情を浮かべる。
 「ん?なんだ?」
 マリーも不思議そうに、2人を見上げた。
 「それがね・・。」
 言いづらそうに、先に口を開いたのはラヴィンだった。
 シルファは、何かを考え込むように口を結んでいる。
 「確かに珍しい髪色なんだけど、それだけじゃないの。それだけじゃなくって・・。」
 そして、ラヴィンが口にした言葉に、ジェンとマリーも同じように複雑な表情を浮かべた。
 「魔法、使ったらしいんだ。その、『銀の髪』の男が。」
