コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 我ら変人部っ! ( No.3 )
- 日時: 2015/12/04 21:44
- 名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)
- 頭の中で何度もその言葉が反響する。それでも理解が全くできない。 
 ……踏んでくれ、って言ったのか?まさか。
 「……えっと……どう、いう……」
 訳が分からずに視線を泳がせていると、突然、鍵が差し込まれるような音がした。
 そして、がちゃ、と音がして、ドアが開く。
 「…………誰?」
 そこにいたのは、次期生徒会長と噂される、2年副会長の佐渡 英梨先輩だった。
 校内の見回りかな、と思い、違う意味で自分の身に危機が迫っているのを感じた。
 なぜなら、ここは本来生徒が立ち入ってはいけないし、立ち入れもできない場所だからだ。先生に勝手に屋上に入った1年、と報告されてしまうだろう。
 いや、それだけならまだいいが、煙草を吸っていた、またはハーブを服用していた疑いがあるなんて言われてしまったらどうすればいいんだ。
 「……名前は後でいいや。一年生君、君、どうやってここに入った?」
 柔らかい口調で佐渡先輩が問う。
 柔らかい口調なはず、なのになぜか詰問されている気分になって嫌な汗が流れる。
 そうか。佐渡先輩は薄く笑みを浮かべて優しげに俺に問いかけているが、目だけは笑っていない。剣呑な光を放っている。
 だからそんな気分になるんだ。
 答えられずに俺が固まっていると、その表情のまま佐渡先輩がなおも言う。
 「ねえ、答えて?どうやって入ったの?」
 なぜか前園先輩よりも恐怖を感じる。どこも怖くないはずなんだが。
 答えないとこれより怖くなる気がして、意を決してブレザーの胸ポケットに入れていたヘアピンを二本出す。
 「なにこれ?」
 一瞬目を落として、にこっと笑って俺の目を見て佐渡先輩は問う。優しい表情なはずなのに、やっぱり恐怖を感じる。
 「えっと……、すみませんっ、その……、ピッキング、しました」
 恐る恐る俺が言うと、佐渡先輩は眉をひそめて「え?」と呟く。
 「ピッキング?何で」
 「その、屋上って立ち入り禁止じゃないですか。だから、ピッキングして入れば、その……「君だけの場所が手に入る、と」
 俺が言い淀むと、その後を佐渡先輩が引き取った。
 すみませんっ、と言って頭を直角に下げる。
 すると、俺の頭上から笑い声が聞こえた。嘲笑のような笑い方ではなく、心底愉快そうな声だ。
 しばらくして笑い声が止み、佐渡先輩の声が聞こえた。
 「あー、笑った笑った。何だ、君は屋上に来たかっただけか。ならいいや。てっきり、この部活を知っててここに来たのかと」
 おずおずと顔を上げると、さっきのような詰問じみた雰囲気は霧散していた。
 「部活、ですか」
 「うん、そー」
 優しそう、というより快活そうな笑顔を浮かべ、佐渡先輩は言った。
 「しっかしびっくりしたなー、時々部活に入りたくてしつこいヤツがいるから、君もそういうヤツかと思ったよ、もー」
 「あの、部活って何の部活ですか……?」
 こわごわ俺が尋ねると、何でもないように下に寝っ転がる前園先輩が言う。
 「……社会問題研究部だ」
 「……ええええっ!?ここが!?本当ですかっ!?」
 今日ちょうど話をしたあの、謎の部活がこれなのか。
 確かに屋上が活動場所じゃ、見つかる訳がない。
 それに、部員が学校きっての最強の不良といわれる前園先輩と、次期生徒会長間違いなしといわれる佐渡先輩、という何の関連性もなさそうなメンバーじゃ、分かるはずがない。
 「……本当だ。それよりお前、もう一回ふ「はいはい一年生君に変なこと吹き込まないでね一生黙ってようか豚野郎」
 何たる口の悪さ。
 佐渡先輩はこんな人だったのか。というか、こんなこと言われたらさすがに前園先輩も怒るんじゃないか____、
 「……ありがとうございます」
 「えっ、えええっ!?」
 前園先輩の反応は斜め上どころか思いっきり真反対にぶっちぎったような反応だった。
 前園先輩は、さっきまで感情の薄い声だったのに今は明らかに嬉しそうな声を出していた。
 ……え、待って、もしかして前園先輩____。
 「それよりさっさと起き上がって?わざわざ寝っ転がって家畜アピールしなくてもマゾが薄汚い豚だってこと分かってるからさ?そこに寝られると目障りなの」
 「……すみません、今後気をつけます」
 さっきまで無表情だったのに、前園先輩は頬を緩ませて実に嬉しそうな声でそう言いながら立ち上がった。
 「ごめんねー、こいつドMだからさあ、変なこと言ったら素直にキモいって言っちゃっていいからねっ?あと、こいつの名字前園でしょ?そっから2文字とってマゾ先輩って呼んでやったら喜ぶからさ、そう呼んでやって」
 ……やっぱり前園先輩、ドMだったか。しかしにわかに信じがたい。
 だって、喧嘩で負けた試しがなく、子分やファン紛いの輩も多いと聞いたことのある前園先輩が、そんな嗜好の持ち主だなんて。
 「何か、噂とすんごいギャップでしょっ?マゾね、喧嘩したくてしてるんじゃなくて、色んな人に暴言吐かれたり暴力振るわれたりしたいから喧嘩してんの」
 暴言吐かれたり暴力振るわれたりしたいから喧嘩してるなんて……、
 「ちょっと気持ち悪いですね」
 それを聞いて嬉しそうになるのも少し、いや結構気持ち悪い。
 俺があまりのギャップに驚いていると、
 「おー、ちょっと遅れたぞ、英梨、マゾ」
 と、声が聞こえた。そして、再びドアが開いた。ドアが開いた先には____、
 天使がいた。
