コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: T.A.B.O.O ~僕と君は永遠を誓えない~ ( No.9 )
- 日時: 2015/12/22 11:49
- 名前: 逢逶 (ID: XnbZDj7O)
- episode8 
 title 焦がれる
 『…なんて、ね』
 ちくり…
 誤魔化されたことで胸の奥が痛む。
 さっきの言葉は嘘だったの?!
 私に会いたくないってこと?!
 からかったの?!
 そう責め立てられるほどの関係でもなくて。
 ただ、締め付けられる感じ。
 「…冗談はやめてくださいよ」
 『はは、すいません』
 成瀬さんの渇いた笑いが耳の奥に響く。
 「じゃあ、切りますね」
 『え?あ、ちょっと…』
 「どうかしましたか?」
 『まだ、話したいことが…、』
 「はい」
 『織さんが何を抱えているかわからないし、俺に何ができるかわからないけど…、話を聞くぐらいはできるので。えっと、…とにかく一人で泣かないでください』
 〝一人で泣かないで〟
 私は誠と結婚してから、涙を見せることを避けてきた。
 だから一人で泣こうと思ったし、できる限り堪えようとしていた。
 成瀬さんから貰った言葉は、確実に涙腺を緩ませて。
 「…っ、どうしてっ、どうして…そんなに優しい言葉をくれるんですか」
 私なんてあなたと夫の仕事でしか繋がれていないのに、そう言おうとして飲み込んだ。
 『…不安定すぎるんですよ』
 「…」
 『織さんは会う人が一歩引いてしまう可憐さがある。…立ち振る舞いも非の打ち所がなくて。…それなのに、内面はぐらぐらしていて不安定。…織さん、何を抱えているんですか?…知ることができれば、守れるかもしれないのに…っ』
 私はそで電話を切った。
 そんなこと言われたら、縋ってしまいたくなる。
 この広い家で全ての欲求が失われて、恋の感覚すら麻痺していたというのに。
 私の中に芽生えた小さなもの。
 種を植えたのは私。
 自ら望んで、あなたに恋をするのだろうか。
 私は…誠を捨てられるほど強い心を持っていただろうか。
 全てを投げ捨てる勇気は無いのだ。
 何を失い、傷つけてゆくのだろう。
 私があと少しだけ冷徹だったなら、
 間違いなく、誠を捨てただろう。
 それほど、焦がれているのだ。
 どんな関係も許されない、あなたという人に。
