コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: わんだーらんど いん わらび ( No.3 )
- 日時: 2016/10/31 01:39
- 名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: IoxwuTQj)
- #2 
 あれから数分、数秒、はたしてどれだけの時間が流れていったのだろうか。少女は大きな、古びた木造建築の前にいた。
 昼に近い時間であるため、日は澄み渡った青空の真ん中にいる。相も変わらず照り続け、辺りは目が痛くなりそうなほどに眩しい。暑い、という感情よりも、肌が焼ける感覚による痛みが全身を支配している。
 こんな炎天下の中では、先程拾った冷たい立方体も熱せられてしまい、冷却剤としての役割を果たせなくなってしまっていた。色も相まってか、そうなるのに五分もかからなかっただろう。
 少女は手で汗を拭うと、目の前の扉を開いた。
 「遅いんじゃボケェエエエエエエエエ!!!!」
 「オウフ!!!!」
 途端、建築物の中から怒鳴り声と共に、何かが少女めがけて投げつけられる。少女はそのまま、尻餅をついた。
 バサリ、と音を立てて落ちてきたのは雑誌だ。少女が投げつけられたのはこれだろう。
 それと同時に、中から別の少女が姿を現した。その表情に浮かべられていたのは上品な笑みであったが、まとった雰囲気は決して上品なものでも、穏やかなものでもなかった。
 「因幡さァん……私言いましたよね?"秒"で帰ってこいって……言いましたよねェ!?」
 少女がそう言うと、因幡と呼ばれた、尻餅をついた少女は、即座に立ち上がった。その表情も、また同じような笑み。
 「あーらごめんなさいねェ先輩!!こちとら愚鈍でぇ?ノロマで役にも立たない後輩でございますからぁ?先輩のように"秒"で移動できるような実力は持ち合わせておりませんのですぅ!!今度是非ともご教授願えますかね徒歩で2キロ以上の距離を秒で往復してくる方法をォォ!!」
 「あァ!?いいでしょうそのまま表に————」
 「黙れ愚民共」
 あれから因幡と呼ばれた少女と、もう一人の少女は、木造建築の中で、再度冷凍庫で冷やし固めたアイスを頬張っていた。
 二人の少女の他にも、この建築物の中には二人の少女がいた。その少女達もまた、アイスを食べている。
 「はー、まったく。なんで冷房って壊れるんですかねえ」
 バニラ味のアイスバーを頬張りながら愚痴を零すのは、姫島 秘香(ヒメジマ ヒメカ)。この木造建築、もとい役場では、何か事件が起こった際に直接現場へ赴き調査をする、「現場担当」という役職に就いている。
 因幡に雑誌を投げつけたのは彼女であり、また因幡にアイスを買いに行かせた張本人でもある。
 「修理できる人間がねェ……ここから遠いところにしか住んでないとかねェ……」
 抹茶味のカップアイスを既に食べ終えて机に突っ伏しているのは、市沢 希望(イチザワ ノゾミ)。「心理担当」という、所謂カウンセラーをしている。
 今この場にいる者の中では一番年上だが、一番若い容姿をしている。先程、姫島と因幡の戦闘を抑止したのは彼女だ。
 「まさか扇風機が家出なんて、誰も予想しませんでし〜たよね〜。付喪神ですか〜ね?」
 イチゴ味のかき氷をよそに、書類に目を通しているのは、香 李夜(カオリ リヨ)。各地から情報を集め、それらを管理する「情報担当」として仕事をしている。
 情報担当、というのはこの役場内ではほぼ最高位と言っても過言ではない役職なのだが、彼女はその部署の主任代理を務めている。
 「…………」
 チョコレート味のサンデーを食べながらパソコンの画面を見つめるのは、因幡 夏恋(イナバ カレン)。彼女もまた、「情報担当」の役職に就いている。
 今この場にいる者の中では一番年下だが、その実力は相当なものであると言われている。
 そして、彼女こそが、黒い立方体を拾った張本人だ。
 「いやしっかし、何でこの役場ってどの村からも1km以上は離れてるんですかね。近ければアイスなんてちょちょいと買ってこれるってのに」
 「ん〜、それに関しては先人に聞いてみなければ分かりません〜ね〜。距離を操る人でも探してみま〜すか?」
 「そんな奴、いたら知ってるに決まってるでしょ」
 「ま、どうせ先輩はここから一歩も出る気ないんだろうけどねー」
 「乙女のお肌を炎天下に晒すなど、私にできるわけがないじゃないですかぁ……!」
 「働けクソ島」
 「いいでしょう表に出ろ市沢」
 「喧嘩は構いません〜けど、うるさいのはやめてください〜ね」
 立方体は、机上に鎮座している。
