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- Re: 2人のダミー ( No.5 )
- 日時: 2016/04/30 08:51
- 名前: マル彦 (ID: 21zier3A)
- 【第五話、深夜の練習】 
 昼から、現在深夜一時まで練習し、添田の方は、歌がマシになってきた。
 本物にはやはりかなわないが、前よりは大分上手い。
 しかし、ダンスはへっぽこのままだ。
 未だに謎の動きが抜けない。
 徹はダンスが踊れるようになった。
 オリジナルの独特の動きが改善して、かっこいいと思える域だ。
 だが、相変わらず歌声はすごい。悪い意味ですごい。
 こうなったら、歌うときと踊るときに分けて二人を出すしかない。
 練習室で、疲れ果てて倒れこむ二人のもとに、俺はしゃがみこんだ。
 「添田、お前は歌担当だ」
 「は……はい……教官」
 「徹、お前はダンスだ。できるな?」
 「……オッケーっす。……です」
 二人共、呼吸を整えながら応える。
 頑張れよ、と声をかけたところで、ポケットの携帯が鳴り出した。
 「はい」
 『あ、加藤くん?』
 「社長!」
 『良かった、徹君が見つかったよ』
 ………は?
 「そ、添田が見つかった!?」
 二人が俺を見上げる。
 何となく俺は少し二人から離れた。
 「見つかったって……添田、明日のライブは出れるんですか?」
 『そんなひどい事はされていないようだ。出れるよ。良かったな、サポートを使うことにならなくて。まだ仕上がってなかっただろう』
 俺は携帯を握りしめた。
 「添田と徹はどうなるんですか」
 『は?添田と徹?』
 「ああ……。添田のサポートは、もういらないんですか」
 『そういうことになる』
 俺は電話を切った。
 ただただ悔しい。
 携帯をしまってからも、俺は二人と顔を合わせられなかった。
 ふと、添田と徹の明るい笑い声が聞こえてきて、驚いて振り返る。
 「良かった。添田さんが見つかって」
 「俺らが出ることにならなくて良かったっすよ」
 泣きそうな顔で笑っていた。
 練習室に、二人の悲しい笑い声が響く。
 「お前ら、それでいいのかよ」
 俺は怒鳴った。
 「この終わり方でいいのかよ!」
 「だって!!」
 徹が叫ぶ。その後に聞こえてきたのは、彼の嗚咽だ。
 「もうどうしようもないじゃないっすか」
 『そうだね』
 「そうですよ」
 添田の声も潤んでいる。
 「また一人に戻る。それで終わりなんです」
 練習室に静寂が訪れた。
 色々な思いが重なって、胸が苦しい。
 「———ここでやろう」
 俺はかすれた声で言い、二人を見た。
 「お前らの集大成を、俺に見せてくれよ」
 精一杯微笑んだ。
 二人とも顔を見合わせ、頬を涙で濡らしながら、大いに頷いて笑った。
