コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.12 )
- 日時: 2016/12/12 16:54
- 名前: 薄葉あた丸 (ID: V9u1HFiP)
 「ひとつ、聞きたいことがある」
 千紘に言われ鞠乃は何ですかと首を傾げた。
 出会って数分だが、彼の表情は第一印象よりも真剣に見える。
 小さくため息をついてから、千紘は口を開いた。
 「君は特殊体質者か?」
 …………。
 待って、待って、待って。質問の意味が分からない。
 私が特殊体質者だなんて、そんな訳ない。
 この人の思考回路はどうなっているのだろう。
 なぜ今さっき「初めまして」の人にそんな冗談を言われなければならないのだ?
 よくよく考えてみると、自分が何故ここにいるのかも分からない事に気付いた。
 天国か、という結論に至りパニックには陥らなかったが、どうやらそれは見当違いのようだった。
 鞠乃は目を細くして、右手側に設置されている窓から外を覗いた。
 上体を起こしてベッドに座っている姿勢でも、十分景色が見える。
 日は暮れかかり、空を覆う青と下の方に沈んだオレンジ、黒い影となった電柱……。
 いつも見ている風景だった。
 ここは家からそう遠くない場所ということなのだろうか。
 意識を失っている間に何が起きたというのだ。
 鞠乃がようやく焦り始め質問に答えない間、千紘はずっと待っていた。
 それに気付き、鞠乃は冷や汗を拭いながら、根本的な答えを逆に求めた。
 「ここはどこですか?」
 檻に閉じ込められたハムスターのような彼女に、千紘はふにゃっとした笑顔を向ける。
 「そうだな、まずはそこから話そうか。——君はさっき路上で倒れていただろう? 俺は人が倒れていると思って近づいたんだが、何か妙だと感じてなあ」
 数時間前、額に傷を負った鞠乃を千紘は冷静に見ていた。
 大怪我をしている事と、確実に普通の人間ではないことも含めてだ。
 「ここを通ったのが俺で良かったな」
 千紘は心からそう思う。
 もう大分傷口は塞がっているのに、地面に付着した血の色は鮮やか。
 初めから軽いけがだったと考えてもその出血量と比例しない。
 それに、首全体にぽつぽつと痣が出来ていた。
 典型的な特殊体質者の傷の治り方だ。
 異常な速度で回復し、時間が経過しても血液は酸化せず黒っぽくならない。
 そして怪我を治癒している間は、紫色の痣が現れる。
 
 イデントは男性のみが発症する病気だ。
 でも横たわっているのは明らかに女性。
 病院に連れて行かれていたら、女性のイデントが公の場に発表され、研究所の餌食だ。
 
 余計なことは考えず、とりあえず千紘は鞠乃を背負い、常盤木荘へ向かった。
 常盤木荘は我が家のようなものだ。
 あそこは道具も揃っているから面倒くらいはみてやれる。
 幸い鞠乃はうつ伏せで倒れており、洋服の背に目立った痕はついていなかった。
 「ここについて少し手当てしてから、君はこのベッドにずっと寝かせていた。傷を大修復するときは目が覚めるのにも時間がかかるから、そうだな、もう三時間も寝ていたぞ」
 千紘の話を聞き、何だか申し訳ない気持ちになった。
 こんな美形の長身に背負っていただき、手当てまでしていただいたなんて、かたじけない……。
 「ごめんなさい。ありがとうございました」 ひとまずお礼を言う。
 千紘は「謝るな、何てことない」と爽やかスマイルで返し、「まあ俺は白い服を着替える羽目にはなったが、な」と付け加えて穏やかに笑い声を上げた。
 この人が助けてくれて良かった。
 難しいことは良くわからなかったが、きっと違う人に見つけられていたら大変だったのだろうという事は理解できた。
 「では、本題だが」
 千紘は唐突に、だがゆっくりと言った。
 「君は、特殊体質者なのか?」
