コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な幽霊少女【参照五〇〇突破記念更新!!】 ( No.63 )
- 日時: 2012/11/02 17:07
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
 ◆
 さて。
 図書館で適当に課題を済ませた頃、丁度お昼の時間になっていた。
 腹は正直なもので、とりあえずマク●ナルドで食べようかと決めた。
 車の音が五月蝿い歩道を歩き、信号待ちをしている時、ふと、向こうで知った顔を見つける。
 「(あ、あれは杉原だ)」
 少し色素が薄い髪をポニーテールに結い上げ、白い肌に赤いニットベストが似合っていた。
 杉原雪。昔、車に轢かれそうだったのを、俺がとっさに突き飛ばしたのが出会いだった。その後、図書委員だった時、ちょくちょく会って話し、お世話になった相手だ。
 最近は俺は図書委員を辞めて、図書室にも行かなくなったせいか、あまり会わなくなった。まあクラスも離れているし、当たり前っちゃ当たり前だが。
 にしても、あそこで何をしているのだろう。杉原の隣には、二十歳ぐらいの男女が、杉原に何か話しかけていた。若い人間にしては珍しく、髪を染めていないしパーマもかけていない。それにかなり、落ち着いた雰囲気を持っている。悪い人には見えなかった。
 だが、杉原は困った顔で会話をしている。
 ふむ。ここは助けるべきだろうか。
 悪い人間に見えないだけで、ひょっとしたら、性質の悪い勧誘かもしれない(にしては、二人とも私服だが)。知らない相手じゃないし、お節介ではないだろう。
 あ、信号が丁度青になった。
 ◆
 「いよ、杉原」
 「いや、だからあの……って、三也沢君!?」
 杉原が、驚いた顔でこちらを凝視する。
 「久しぶりだな……って、杉原?」
 杉原の様子が明らかにおかしい。
 ガタガタ震えているし。……怯えられてる? え? 俺なんかした?
 「……嘘、そんなハズはないよ。ままままさか、三也沢君が自分から挨拶するなんててて……!!」
 ……うおい。
 俺は何処まで、コミュ障だと思われてるのかな?
 こいつもこいつで失礼だな、と思ったけれど、何か相手は感動しているようで、口に出さなかった。
 「うん、うん、本当にお久しぶり! 三也沢君!」
 「ああ、お久しぶり……で、改めて聞くが、こんなところで、何してるんだ?」
 「あ、うん、ちょっと……」
 「三也沢君?」
 杉原が言葉を濁らせていると、女の方が口を開いた。
 歳の割には無邪気な笑みで、女はいった。
 「キミ、名前はひょっとして三也沢健治君?」
 ……え?
 ドンピシャで名前を当てられたので、俺は思わず思考が停止した。
 やっとこさで動きだして、俺は記憶の糸を辿ってみる。
 だが、やっぱりこの顔に見覚えがない。美人だけど。
 「ああ、ごめんごめん! キミと私は、直接会ってはいないよ」
 女は俺の考えていることが判ったのか、そういって両手を振りながら笑った。
 「あ、でも別に怪しいものじゃないから! ……っていっても、怪しさ充満だよね、私ら」
 今まで無邪気な笑みが、苦笑に変わる。コロコロ変わる、忙しい人だな。
 ちょっと、フウを思い出してしまった。
 「えっとね、三也沢君。キミに聞きたいことがあるんだけどさ」
 「はい、なんでしょう」
 その時、俺はもう、女に警戒心を抱いては居なかった。
 見覚えある人種と出逢ったから、移入しやすかったのかもしれない。
 女は、いう。
 その時、俺の目には、やけにハッキリと、唇の動きが見えた。
 「——宮川諷子って名前に、覚えがない?」
 ——その名前は、
 俺以外の人間は知らぬハズの名前だと思っていた。
 「……どうして、貴女がそれを?」
 どうして、フウを知っている、この人は!?
 いやそれよりも、フウを知っているということは、この人はフウに会ったことがあるのか?
 フウは、一体何処で何をしているんだ?
 余りにも驚いて、聞きたいことが沢山あるのに、それしか言葉に出来なかった。
 「あ、ゴメン。まず、自己紹介しないとね。じゃないと、説明できないから」
 女はやけにのんびりとしている(男は元々からのんびりしていたけど)。
 俺の驚いている様子に構わず、女と男はニコニコしながら、自己紹介した。
 「初めまして! 宮川美雪と」
 「高田杏平です。よろしく」
 春を迎えた文学少年は、困惑する
 (この時俺は、)
 (この後何がどう起きるのかなんて、予想できずに、)
 (ただただ、未知の世界に戸惑っていた)
