コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ ( No.154 )
- 日時: 2012/05/05 00:04
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .1vW5oTT)
- 参照: 一部修正〜^ω^(二〇一二年 五月五日)
- 「えっと……」 
 いきなり走り去っていった高橋。さっきからずっと黙りっぱなしの鈴木。
 そして何が何だか全く分からない俺。
 「何があったの?」窓際の鈴木の背中に、そう話しかけた。
 二人っきりの部屋はとても静かで、とても広く感じた。傾きかけたオレンジ色の太陽の光が、横顔を、窓を、部屋を照らす。
 「高橋さ、」しばらく間があって、返事が返ってきた。「やっぱ絶対何かあったと思うんだよ。」
 「……うん。そうかもね。」
 やっぱり、鈴木も感づいていたんだ。今まで口には出さなかったけれど、確かに最近の高橋は変だった。行動の端々に、何か無理をしているような所があった。
 「それで、思い切って高橋に聞いたらあの野郎、関係無いだろ、って言ってさ。思わずカッとなっちゃって。」鈴木の肩が、喋るたびに上下に揺れた。「ほんっと、俺馬鹿だ。これじゃ本末転倒だよな。」
 「そっか。」
 何となく、テーブルの上にあったリモコンを手に取って、適当なチャンネルでテレビを点けた。出てきたのは毎度おなじみのテレフォンショッピングの番組だった。俺たちの事情とは関係無しに、中年の話し手は能天気に洗濯機だの掃除機だの、と大声で宣伝している。
 鈴木は黙っている。いろいろと、考え事をしているんだと思った。
 俺が言う権利は無いけれど、高橋は、少し身勝手なんじゃないかと思う。そりゃ、何か大変なことがあったんだろうけど、俺たちのことも多少は考えて欲しい。こんなに心配してるのに。こんなに悩んでいるのに。
 関係無いだろ、だなんて勝手すぎる。
 「ねぇ、ほっしー。」そんなことを考えていると、後ろから鈴木の声がした。「俺、お前が陸上部に来る前にいろいろとあってね、簡単に言うとそれでけっこう高橋に世話になったわけよ。入学してから、出会って二か月も経ってなかったのに、あいつ十分すぎるってぐらいに親切にしてくれてさ。それで、俺だってやられてばっかじゃさすがに虫が悪いから。なんか高橋がやばいんだったら話ぐらい聞いてやれるかと思った。……ひどい高慢だよな。
 でもさ、俺にとって高橋は何でも話せる相手なのに、あいつにとっての俺はそんな存在じゃなかったんだ。そんな、悩み事に干渉していい存在なんかじゃないんだ。」
 言い終わると、鈴木は あははは、と自嘲っぽく笑った。それから何でもないような顔をして、テーブルに頬杖をして俺の隣でテレビを見始めた。ショッピングの中年を最高につまらなさそうな目つきで眺めている。
 「俺は、高慢なんかじゃないと思うよ。」
 「ああ、うん。その話、もう止めようぜ。っていうかさ、夕食っていつからだっけ?」鈴木が画面を見つめたまま言った。
 「七時から。悪い、食堂には一人で行ってて。俺、高橋を探してくるから。」
 「は?」鈴木が信じられない、といった表情で俺を見上げた。
 「だから、高橋を探してくる。名付けて高橋狩り。津田先生に何か言われたら俺は腹痛で部屋で寝てるってことにしておいて。よろしく。」
