コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 小説カイコ 【二話連続投稿】 ( No.219 )
- 日時: 2012/01/28 01:43
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: krVR01Sc)
- 参照: 身長伸びたw180まであとちょっとやwww(ryukaは女子です 笑)
- それから随分走った。太一は年齢の割には足がとても速くて持久力も相当にあるみたいだった。けっこう付いていくのに精一杯だった。 
 しばらくすると、水の流れる音が聞こえてきて、周りに生えていた草がまばらになってきた。川だ。いつの間にか太一の言う“川”に着いたみたいだった。
 小さな橋が架けられていて、そこを二人で渡った。一歩歩くごとにギシギシと軋む音がしてけっこう怖かった。
 太一の家に着くと、中から太一と同じくらいの年齢の女の子が出てきて迎えてくれた。初め俺を一目見るなり相当ギョッとした表情になったが、太一が「お客さんだよ!」と言うとそれだけで納得したみたいだった。
 太一の家にはその女の子以外には人はいなかった。土間を通って、奥に入ると薪が燃えていた。囲炉裏、ってやつだろう。始めてみた囲炉裏にちょっと感動して、やっぱタイムスリップしちゃったんだな、としみじみと思った。少しだけ、初めて時木に出会ってマンホールに落とされた時の感覚に似ている気がする(笑)
 「へぇ、未来人なんだ。高橋って言うんだ。」太一から事情を聞いたその女の子が興味深げに俺の顔を覗き込みながら言った。
 「そんなに言わないでよ……俺なんか恥ずかしいから。そういえば、名前は?」
 「ハツ。」その子が天井から薪ギリギリまで吊るされた鍋(?)の中身を掻き混ぜながら言った。「太一の妹。妹って言っても双子だからあんまり変わんないけど。」
 ハツ、という名前にどこか聞き覚えがあるなと思った。「そうなんだ。それで、ここには二人以外には誰も居ないのかな。」
 「んとね、たまにお婆が来るよ。お父さんとお母さんは居ないんだ。」太一が事も何気にさらっと言った。
 「あ、そうなんだ……」
 「別に気にしないでね。」太一が俺の内心を見破ったように言った。「お父さんは僕らが生まれる前に神隠しに遭っちゃってね。春の山菜採りの時だったらしいんだけど。お母さんは僕らが小さいころ病気で。けど、この村の人は優しいから誰も僕らのことを変に思ったりしないし、お婆みたいに面倒を見てくれる人も居るし。だから、本当に運がいいんだ。」
 「…そっか。」内心ほっとしながら相槌を打った。
 「ほら食べて。」ハツがお椀に鍋の中身を分けながら手渡してきた。どうやらお粥みたいなものらしかった。
 「ありがとう。」お礼を言って、一口食べてみて、思わずむせ返りそうになった。失礼だが半端なく不味い。。。
 「そだ、カイは元気だった?」ハツが不味いお粥をおいしそうに食べながら太一に聞いた。
 「ううん、あんまり元気じゃないみたい。今日はカイのお母さんに家の前で追い出されちゃったしねー。ああ、もう早く元気にならないかな、早く会いたいや。」
 「その子、病気なの?」俺が聞くと、二人ともうーん、と考え込んだ。
 「多分そうなんだけど。そうじゃないといいなぁ。」太一が寂しそうに言った。「それでね、僕たち明日町に行ってみようと思うんだ。町には薬屋さんがあってね。よく効く薬を買ってきてあげようと思うの。」
 それから、しばらくハツの俺に対する質問攻撃が始まった。未来ってどんなところなの?何を食べてるの?変な髪型ね?それにみんなそんな変な名前なの?それと…… あんまりにも永遠に続く質問に、少し疲れててきたところで自分が今着ているジャージのポケットの中に杏ちゃんから新幹線の中でもらったお菓子が入っていたのに気が付いた。
 ちょうど二個、オレンジ味とりんご味の飴玉だったので二人にあげると、めちゃくちゃ喜んでくれて、お陰で質問攻撃も止んだ。
 二人は飴で相当気分が良くなったらしく、そのまま布団を敷いて寝てしまった。こっちもそちらの方が都合がよいのでそのまま寝ることにした。
 翌朝。
 二人はまだ日が昇り切らないうちに起きた。俺はと言うと太一が寝ぼけながらみぞおちに肘鉄を食らわせてくれたので気持ちのいいくらいにスッキリと目覚めた。
 「高橋も一緒に町に行く?ああ、でもその変な恰好どうにかしなきゃね……」太一が眠そうに俺を見ながら言った。確かに、背中に“陸上競技部”と派手に書いてあるこのジャージを着て江戸時代の町中を闊歩する自信は無い。
 妥協案として、ハツが父親の着ていたという着物を着せてくれた。本当にお父さんが来てくれたみたい、とハツは嬉しそうに笑った。なんだか照れ臭かった。
 そして準備も整い、家の戸を開けて外に出ると、霧が出ていた。有り得ないくらいに濃密な霧で、少し先も真っ白で何も見えない。うっわ、すげぇ、と驚く俺を、二人は「未来はきっと霧が出ないんだね。」と可笑しそうに笑うのだった。
- Re: 小説カイコ ( No.220 )
- 日時: 2012/02/01 21:08
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: krVR01Sc)
- 参照: 変な風邪ひきますた(´・ω・`)ショボーン
- 「静かにね。」太一が、急に緊張した声で言った。「誰か居たらすぐに隠れるから。」 
 「どうして…?」聞き返しても、二人とも答えてはくれなかった。
 けれど誰にも会うことは無かった。何せ霧が濃くて周りの風景は何も見えない。全く方向が掴めないが、二人は迷いなく歩みを進めるのだった。二人の表情はどこか険しいというか、不安があるというか、あまりいい感じではなかった。太一は眉根を寄せてキッと前を睨みながら黙々と歩いているし、ハツは太一の隣でずっと下を俯いている。その様子はどこか張りつめた感じがあった。まるで、こっそりと秘密で悪いことをしているような、そんな緊張感があるのだ。
 何となく居心地の悪さを感じながらも俺も黙って二人の後を付いて行った。
 それから、どれほど歩いたのだろうか。
 薄暗い霧の世界に、急に陽が差した。周りが明るくなり始めると、次第に霧も消えていって視界が晴れた。
 「見て!」ハツがパッと明るい表情になって俺を振り向いた。「町があんなに近くに見える!」
 「わぁ、本当だ。」太一が嬉しそうに言った。
 ハツが指差した方向には、よく目を凝らして見ると確かに人家が多く見えた。昨日見た村の風景とはずいぶん違う。山の裾と裾の間に平たい大地が広がっていて、そこの部分だけ緑色はなくて町っぽい感じになっている。
 「でも、まだまだだなぁ。やっぱり遠いや。」
 「あと、どれくらいかかるの?」若干、膝が痛くなってきた。そろそろ疲れた……
 「なんだがや、高橋はもう疲れちゃったのかなぁ?」太一が馬鹿にしたように笑った。笑いながら、さぁ歩くよ!と、一声上げるとまた歩き出してしまった。半端ない体力だな。
 ふと、ハツの方を見るとこちらもまだまだ元気そうだった。俺と目が合うと、二、三回まばたきをすると愛想よくにっこりと笑って歩き出してしまった。しょうがないので二人の後をまた付いていく。
 やっと町に着いた頃には太陽は真上に上っていた。たぶん正午だ。じゃあきっと六時間近く歩き続けていたということなのだろうか……
 こっちはベロンベロンに疲れているのに、やっぱり二人はとても元気そうだった。きっと内心で未来人は体力が無いんだね、とか思っているに違いない。
 町は、とても賑わっていた。多分地元の我島岡のほぼシャッター街と化した商店街よりも賑わっている。
 中年の、少し太ったおばさんが何かを焼きながら大声でどうかねどうかね、とか言いながら食べ物を売っている。ほんわかと芳しい匂いが漂ってきて、不本意ながら腹が鳴ってしまった。
 途中、赤い風車を両手に沢山持った、人の良さそうな老人が太一たちに近づいて、どうかねどうかね、と風車を回して見せていた。二人とも喜んで見ていたが、結局二人が風車をあまり欲しがらないのが分かると、老人はふいと向こうに行ってしまった。
 「ここだ。」太一が、ある一軒の店の前で立ち止まった。
 小さな店で、庇の上には『堂流点』と書いてあった。多分右から読んで点流堂と読むんだろう。
 「ここが薬屋さん。でもすっごくお薬高くてね……僕らじゃとてもとても。」
 「え…じゃあ買えないの?お薬は。」じゃあなんでこんなに歩いてきたんだろうか。
 「ううん、買えるよ。……お邪魔しまーす。」言いながら、店に一歩踏み込んだ太一の表情は暗かった。
 店の中は薄暗く、土埃がもうもうと漂っていた。壁の少し高いところには一つだけ格子のついた窓があって、そこから細々とした光が入ってきている。まるで小さく空を切り取ったみたいな窓だった。
 「いっらっしゃい。小さな御客人たちよ。」
 どこからともなく、男のしわがれた声が聞こえた。
 どこに人が居るのだろうかと思って周りをキョロキョロ見回すと、あろうことか目の前に居た。俺たちの前には人が丸々一人入ってしまいそうなほど大きな瓶が三つ並んでいて、その真ん中の一つから、老人の顔だけがまるで生首みたいにひょこんと出ていた。どうやら瓶の、俺たちとは丁度反対側に座っているらしい。でもこっちから見ると顔だけ生首みたいにあるみたいで、少し不気味だった。
 「……もってきたのかね。もってきていないのかね。もってきていないのなら、売らぬぞよ。」ゆっくりと、けれど凄味のある声で独り言のように呟く。
 「もちろん持ってきました。」強張った声で太一が答えた。すると、ハツが持っていた小さな灰色の手提げから、さらに小さな巾着を出した。それを震える手で老人のところまで持って行くと、痩せこけた老人の土気色の腕が一本ぬっと出てきて、それを受け取った。
 中身を確かめながら老人はブツブツと何か呟いた。どうやら満足しているらしい。
 「よろしい。売ってやる。」
 するとのっそりと老人が立ち上がった。とても小さな身体だ。おぼつかない足取りで背後にあった沢山引き出しの付いた大きな黒い棚に近づくと、そのいくつかの引き出しから、それぞれ怪しげな草の束のようなものや木の実のようなもの、さらに根っこみたいなものを取り出した。ゆっくりとした手付きで何種類か取り出すと、それを長細い黒ずんだ鉄のような容器に入れて、丸い擦り棒でゆっくりと擦りだした。
 その様子を俺を含めて三人でじっと見ていた。やがて、その草やら木の実やら根っこやらが細かい粉末になった。最後に、小さな水差しを取り出してその怪しげな粉末に振りかけると、老人は擦り棒を脇に置いた。それから、薄茶色の大きな和紙でその粉を丁寧に四角く包むと、無言でそれをハツに差し出した。
 ハツは小さな声でありがとうございます、とお礼を言うと、相変わらずに震える手でそれを受け取って、再び小さな灰色の手提げにしまった。それから、二人は逃げるように店の外に出て行ってしまった。
 「若者、」二人の後を追って店を出ようとした俺を、老人の声が呼び止めた。「気を付けよ、そなた、逆さだ。」
 「さ、逆さ?」老人の顔を見ると、珍しい物でも見るような目付きで、俺を見ている。口元は少し笑っていて、不気味だ。
 「左様、逆さである。そなたの渦は人のそれとは違い逆さ周りだ。珍しい。」
 「え…あの、よく分からないんですけど……」
 老人はまるで蛙の鳴くような潰れた低い声で愉快そうに笑った。「愚かなことよ、気付きなんだか。左回りということだな。」
 左回り、またか。青服もそんなこと言ってったっけ。……それに、拓哉も。
 「教えてください、なんなんでしょう、その、左回りって。」
 「断ろう若者よ、馬の耳に念仏とは言ったものよ。私は忙しい。」にやりと笑って老人はそう答えると、店の奥に引っ込んでしまった。
 薄暗い店内には、相変わらずもうもうと土埃が煙っていた。
- Re: 小説カイコ ( No.221 )
- 日時: 2012/02/04 22:26
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: krVR01Sc)
- 参照: ねねねねねねねね眠い(゜Д゜ ))))
- 外へ出て二人に追いつくと、そのまま町を後にして元来た道を帰って行った。ハツは灰色の手提げを抱えるようにして持っている。 
 行きよりも速い足取りで帰り道を進んでいく二人に、俺は付いていくだけで精いっぱいだった。……速い。
 「ねぇ太一。」突然、ハツが立ち止まって呟いた。「本当に、本当にこれで良かったのかな。」
 「何言ってんだよ。もう決めちゃったし、やっちゃったことなんだよ。」太一が無機質な声で、ほぼ機械的にそう答えた。「それにこうするしか無かったじゃないか。」
 「……でも!」
 ハツが沈痛な声を絞り上げた。太一は歩みを止めて、怪訝そうにハツと向き合った。
 「…でも?」
 「でもやっぱりダメだよこんなこと!!私たちはきっと許されない、これからずっとこんな気持ちで過ごしていかなくちゃいけないなんて、あたし絶対に嫌だ!!」
 「じゃあハツはどうしたいんだよ、僕たちもう戻れないじゃないか!」
 「戻れるよ。」ハツが今にも泣きだしそうな目で言った。「お薬屋さんに戻ろう。それであのおじいさんに謝って、蚕を返してもらおうよ。」
 太一が無言でハツを見つめた。唇をきゅっと一文字に結んで、何かに堪えているようだった。冷たい風が吹いて、二人の焦げ茶色の髪を揺らした。
 「…ううん。」ハツが地面を俯いたまま、呟いた。「やっぱりだめだ。私の馬鹿。あのおじいさんが返してくれるわけ無いよね。それに、そんなことしたらお薬は二度と手に入らない。……そうだよね。」
 言い終わると、ハツは地べたに座り込んでしまった。太一も突っ立ったまま、少しも動こうとしない。ただただ遠くを眺めている。
 ……物凄く暗い雰囲気だ。二人に何があったのだろうか。というかたった今までの間で何をこんなに後悔するようなことをしてしまったのだろうか?うーん、全く見当がつかない。
 「あのー、二人ともどうしたの?俺、全然わからなっ……」
 「高橋!」太一が、突然俺に抱き付いてきた。ギュッと握る力に、言葉が途中で無くなった。小さな体には不釣り合いな、とても強い力だ。
 「あのね、あのね……!」太一が顔をうずめながら叫んだ。「高橋は、許してくれる?僕たちを許してくれる?」
 「え?え、ええと……」突然の行動に、びっくりしながら太一の肩に手を置いた。「どうしたの?二人ともそんな深刻そうな顔しちゃって。」
 顔を上げた太一は、泣いていた。太一は年の割にはしっかりしている印象があったので、少し混乱した。どうして急に泣き出したのか、その理由すら思いつかない。
 ハツの方を見ると、ハツも地べたに座ったまま、ぐしゃぐしゃに泣いていた。
 「二人とも一体どうしたんだよ。俺で良かったら話聞くよ?」
 そう言うと、太一はうんうんと頷きながら俺を握っていた手を放した。その手を見ると、ひび割れていて傷だらけだった。労働者の手だ。まだこんなに小さいのに、今まで随分苦労してきただろうことを物語っていた。
 座り込んでいるハツに手を差し伸べると、弱弱しく握り返して立ち上ってくれた。そのハツの手のひらも、マメや傷ができていて痛そうだった。
 三人でゆっくり歩きながら、なぜか俺は合宿の時の事を思い出していた。あの時は鈴木やほっしーに散々迷惑かけちゃったな。はたして俺はあの二人に、それだけに見合うことを何かしてあげられているのだろうか。いや、何もできてないんだろうな。だってずっと、助けてもらってばっかりじゃないか。
 話聞くよ?
 そんなセリフ、前までは言ってもらう側だったな、とぼんやり思った。
 ◇
 それから、二人が喋り出すのをずっと待った。三人で帰り道を歩きながら、ずっと待った。
 空の色はあっという間に清々しい水色から、鮮やかな夕焼け空に変わっていった。血の滴るような真っ赤な色で、視界に見える物全てが赤色に見えた。
 しばらくすると、太一がポツリと呟いた。
 「聞いて、欲しいんだ。」とても透き通った声だ。「聞いてもらったからって僕のやったことが許されるわけでは無いけれど。でも、やっぱり聞いてほしくって。少しでも楽になりたいって、そんな風に思っちゃって。けどね、僕には楽になっていい資格なんてこれっぽっちも無いんだ。」
 「いいよ。好きなだけ話してよ。俺どうせやる事なくて暇なんだ。」
 二人を安心させたくて、できるだけ気楽そうに笑って見せた。あんまり上手に笑えた自信は無いけれど、それでも二人は返すように微かに笑いかけてくれた。
