コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.27 )
- 日時: 2012/12/27 23:24
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)
- 参照: ヤンデレ違うよ。BLでもないよ。
- 今日のバイトは解体工事のバイトである。力が強いのでこんな仕事は朝飯前。 
 着々と古いビルが解体されていく中で、昴は思った。
 こんなビル、俺が1発で吹き飛ばしてやろうかと。
 高さは10階建てとまぁまぁな高さではあるが、それでも限界15階建ての昴にとってはお手の物だ。15階建てのビルまでなら素手で吹っ飛ばせます。
 え、じゃあ他の高さのビルはどれぐらいだって? 記憶にございません(by昴)
 「新入りー、この鉄筋を動かしてくれ」
 「はいはーい」
 親方であろう年配の男に命令され、昴は上から降りてきた鉄筋コンクリートを片手で持ち上げる。昴にとっては木の枝を持つような感じである。
 全員の頭に当たらぬように気を配りながら鉄筋を移動させた時、ふとある事に気づいた。
 誰かがいる。
 工事現場に、誰かがいる。
 「……あんのクソ死神か? 工事現場にも来るのかよ」
 ここ隣町だぞ、とぶつくさつぶやいて、昴は闇の向こうを睨みつけた。が、いつもの死神ではなかった。
 確かに東翔は全身真っ黒の黒いコートを着ているが、相手はそうではなかった。頭からつま先まで真っ黒なのは分かる。だが、ぽっかりと浮かびあがる藍色の瞳が見えたのだ。
 「……誰だよ、お前」
 「……へぇ。こんなところで働いているんだ、今どきのヒーローって」
 鈴を転がすような高い声が、闇の中から帰ってくる。
 辺りは既に暗い。街頭だけが頼りである。ゆらゆらと体を揺らしながら現れたのは、なんと、山本雫だった。
 昴は眉をひそめた。何故、彼女がこんなところにいるのだろうか。
 「……ヒーローって、知っているのか?」
 「隣町ではひた隠しにしているようだけど、うちは知ってるよ? 椎名昴君」
 「こっちだって、お前の名前を知っているぞ。山本雫」
 「あらら。有名だねぇ」
 ケタケタと楽しそうに笑う雫だが、表情は読めない。声だけが笑っているのかも知れない。
 昴は警戒しながら、じりじりと後退をし始めた。こいつと構っているとバイト代が……。
 「待ってよ、逃げるの?」
 「逃げねぇよ、バイトあるから帰れ鉄筋コンクリート投げるぞ」
 「へぇ? あ、じゃあさぁ……君に1つだけ訊いていいかな? 大丈夫大丈夫、簡単な事だよ」
 雫は相も変わらず明るいテンションの声を保ったまま、問いかけた。
 「炎の死神——知っているかな?」
 炎の死神? と昴は首を傾げた。普通の死神とどう違う。
 あぁ、まさかあのクソ死神の事かなーとか思いつつ、昴は答えた。
 「それなら仕事じゃね? あいつの仕事は大体夜が多いっていうし……白鷺市を探し回れば見つかるぜ。あとはコンビニ巡ってみろよ、コンビニスイーツ求めに来るかもしれねぇから」
 「ふーん、ありがと」
 「でも何であのクソ死神の事を探してんだよ? 何かするのか?」
 闇の中に消えようとしていた雫は、ふと昴の方へ振り返った。わずかに見えた口元に笑みを浮かべて、昴の問いかけに答える。
 「だって、死神を殺せたら————面白いじゃない?」
 ふっと、雫は闇の中に消えてしまった。
 最後の言葉に、昴は思考を止まらせる。ぴたりと立ち止まって、ぐるぐると思考を巡らせた。
 今、彼女は何と言った?
 というか死神を殺せたら面白いじゃないと言った?
 冗談じゃない、あの死神を殺すのは————この俺だ。
 「よーし、ちょっと休憩だー」
 「親方! すんません、少し家に忘れ物したんで取りに帰ります!」
 「え、あぁ? 気をつけろよー」
 ヒーローの事は秘密にしているのにもかかわらず、昴は目を疑うような速さでコンクリートの道路を駆け抜けた。
 あのフードの少女よりも、死神に会う為に——恋の意味でじゃありませんあしらず。
 ***** ***** *****
 ドドドドド、という音を聞いた気がする。
 翔は今まさにドアノブに手をかけていたが、ふとその音に気が付いて手を離す。街頭だけが輝く目の前の道路だが、なんかドドドドドというまさに牛の大群でも迫ってくるような音がした。
 眉をひそめて、首を傾げる。
 「気のせいか?」
 いや、気のせいな訳がない。確かに聞こえるのだ。
 この音は、まさに嫌な予感がする——。
 翔はその嫌な予感を察知して、柄の赤い鎌を取り出した。そして迫りくる脅威へとその銀色の刃を向け——
 「あーずーまーしょぉぉぉぉぉおおおおおう!!!」
 暗闇の中から突如として飛び出してきたのは、なんとあのポンコツヒーローの椎名昴だった。
 昴は跳躍1つで2階へと飛び乗り、翔の胸倉をつかむ。何が何だか分からぬ状況に、翔はされるがままだったが、コンマ1秒で自分がどういう状況に立たされているのか知る。
 「テメェ! いきなり胸倉をつかむとはどういう——」
 「答えろ!!」
 すごんだ表情で怒鳴られたものだから、思わず「お、おぉ?」と頷いてしまう。
 「……炎の死神って、お前の事か?」
 「知らなかったのか? 今まで炎を使いに使いまくっていただろ。あれで分からないとか頭の中身を疑うぞ」
 「じゃあも1つ……死神って死ぬの?」
 「俺の炎は同族をも殺せるが……まぁ多少の事で死ぬ事はないな。つかいつまで胸倉つかんでんだよ離せクソが」
 ペシッ! と昴を振り払い、襟元をただす翔。
 すると、昴はその場にへなへなと座り込んでしまった。何かに安心したかのように。
 「おい、どうしたんだよ。そんな奴じゃねぇだろ」
 「今さっき、山本雫に出会った」
 「……かぐや姫の?」
 「かぐや姫の」
 2人で顔を見合わせてしまう。
 「何だって?」
 「『死神を殺したら楽しいじゃない?』てふざけた事を言ってた。月のない日は気をつけろよ」
 「馬鹿。今も新月だよ」
 「東京の空は汚いからなー、月も見えねぇよ」
 なんだかんだ言って仲いいんじゃないの? と思った。
 いや、違うんです。昴は「自分が殺すのだこの死神を」と思っているので。他の奴にとられたくなかったんですね、殺す権限を。
