コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.38 )
- 日時: 2013/01/24 23:09
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
- お客様からの指名を受けたなら、それに答えないで如何にする。 
 という訳で、ご要望・ご希望にお応えして、ポンコツヒーローの椎名昴と女顔死神の東翔が、学校に登場——
 「「ぶち殺すぞ作者ァ……」」
 失言でした。
 もとい、白鷺市の怪力ヒーローの椎名昴と炎を操る死神の東翔が、学校に登場した。
 彼らを前にした雫は、ぺろりと唇を舌でぬらす。何やら状況を楽しんでいる様子である。
 「ご指名ありがとうございまーす、貴女の椎名昴ちゃんでーす。希望のコースはフルぼっこにしたあと宇宙旅行コースでよろしかったですかぁ?」
 ボキボキと拳の骨を鳴らす昴は、柔らかな笑みを浮かべて物騒な事を告げた。周りが戦慄する。
 「今夜は寝かせないどころか永遠に明けない夜をプレゼントしてやるから覚悟しろよな、お姫様?」
 鎌からメキャメキャという音が聞こえてきた翔は、普段は浮かべない惚れ惚れするようなきれいな笑みを見せて言う。周りが震え上がる。
 あれ? こいつらこんなんだったっけ?
 というか、ヒーローと死神ってめちゃくちゃ仲が悪かったけど、この時は協力してない?
 そんな事を思ったそこのあなた。それは勘違い。180度違うどころか地球1周するぐらいに違います。
 現状はこう。
 「——おい東翔。ちょ————————うぜつ不本意だが、俺から提案がある」
 「言ってみろ。場合によってはあいつと共に地獄旅行をプレゼントしてやる」
 ピリピリした雰囲気が漂う廊下に、昴の声。
 それに対してピリピリした声で、翔は返す。
 「……あいつを共にぶっ飛ばすか。やるなら月まで強制送還だ」
 「いーい考えだ。かぐや姫だもんな。月に帰らなきゃいけねぇもんな」
 「ちょ、何でその事を知っているんだよwwかぐや姫www」
 雫がケタケタと楽しそうに笑っていたが、数秒したあと、途端に黙り込む。
 「————ぶち殺すぞ、マジで」
 フードの下からでは見えない。が、確実に分かった事はある。
 彼女は、自分たちに殺気を放っている。そりゃもうかなり鋭く研ぎ澄まされた殺気だ。ぞくりとした寒気が背筋に走るが、昴と翔には効かなかった。
 むしろ、彼らの闘志をあおるには最適だった。
 「「上等だ、かかってきやがれ」」
 2人同時に、そんな事を言い出した。
 それから、校舎内は戦場と化した。
 肉弾戦が得意な昴は割れんばかり(いや実際割れた)に床を蹴り、瞬きの間で雫へ接近する。それから右拳を振り、問答無用で雫の腹部めがけて叩き込む。
 ドッゴォォォォオオ!! という壮大な音と地響きがしたが、雫は吹っ飛ばなかった。そこに立っていた。
 「な、」
 「もう終わり?」
 雫は残念とでも言うかのようなトーンで、昴の足を払った。しりもちをついた昴の目の前に突き付けられたのは、銃口。弾がきちんと見える。
 ガァン! という銃声が校舎を揺らし、昴の肩を銃弾が貫通した。
 痛みはなかった。もとより銃弾に貫かれても丈夫な体をしているから、平気である。しかし、それ以上に昴へ襲いかかったのは、
 「う、ぁ?!!」
 頭痛だった。血は出ていないのに、目に見えない痛みが頭を支配する。やがてその痛みが全身へ回り、動けなくなってしまった。
 翔に攻撃されても平気だった昴なのに、雫から銃弾を1発お見舞いされただけでこんなに動けなくなってしまうものなのか。
 「……おい?」
 「さて、次は君か」
 気づいた時には、翔にも銃口が向けられていた。昴ほど至近距離ではないにしろ、引き金を引いたら確実に当たる距離だ。
 昴を通り越し、雫は翔を狙う。
 「おい! おい、椎名昴!! 何をしてやがる、さっさとそこの女をぶっ飛ばせ!!」
 「いた、あたま……」
 撃たれた場所は肩のはずなのに、頭を押さえてうずくまる昴。
 それを見た翔は、自分へ近づいてくる雫を睨みつけた。
 「そいつに、何をした?」
 「んー? うちの弾は、人の精神を破壊する能力を秘めているのだ。今頃頭痛に教われている事だろうね。しばらくは動けない」
 にやりと唇が弧を描く雫。
 いや、それはよくやった————ではなくて!!
 「テメェ……人の獲物を横取りしてんじゃねぇぞ?」
 珍しく、翔は怒っていた。死神が怒る事はないものだと(いや実際昴を前にするとかなりの確率で怒っていたけど)思っていたが、これほど剣呑な声を出せたのかとある意味感心した。
 とにかく、翔は怒っていた。お怒りだった。
 何故なら、自分が絶対に殺すと決めていた相手を——傷つけられてしまったから。
 「あいつを傷つけ、泣かせ、殺していいのはこの俺だけなんだよ。死んどけ、この変態姫君!!」
 「変態じゃねぇし、誰が変態だし!」
 ギャーギャーと言い争いを繰り広げる一方で、昴は、
 (……頭痛い。ていうかめちゃくちゃ気持ち悪い)
 うぷ、と今にも吐きそうな感じだった。もやもやしたものが胸の奥で蟠っている。何とかしてほしい。
 すると、スッと横から袋が差し出された。
 見ればそこにいたのは、石動誓と鈴だった。心配そうな顔をしてくれている。
 「……これ、使って」
 「頑張ってー。じゃないと授業ができないよー!」
 どうやら応援してくれているみたいだ。
 昴はありがたくその袋を受け取り、朝ご飯を全てその白い袋の中にぶちまけた。げろげろー。
 ——そのまましばらくお待ちください——
 「ふぅ、すっきり」
 吐いたら頭痛も消えた消えた、と昴は意気揚々と立ち上がる。そしてぐっと背伸びをしてから、石動姉妹にお礼を言った。
 「ありがとう。助かった」
 「いえいえ! 頑張れ!」
 鈴に素直に応援され、元気が出る。
 昴は拳を握ると、翔と未だに舌戦を繰り広げていた雫へ殴りかかった。
 不意打ちを食らった雫は、そのまま窓ガラスをぶち破って外の世界へ放り出されてしまう。何とか受け身を取ってコンクリートの地面に着地した。
 「……頭痛は?」
 「吐いたら治った。時間稼ぎどうもありがとう(超棒読み)」
 「泣いて喜んでもいいんだぜ?」
 「誰が泣くか」
 破壊された窓から2人同時に飛び降り、昴と翔は雫へと言う。
 「「覚悟は————」」
 そこで、新たな闖入者。
 「覚悟ができているのかと問うならば——それはこっちの台詞だ」
 ビクリ、と。3人が肩を震わせる。
 そこに立っていたのは、
 赤いジャージを着て、竹刀を構えた、ゴリラの体育教師だった。
