コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.42 )
- 日時: 2013/02/07 22:36
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
- 「……おや、椎名君じゃないか。最近、学校はどうだい? 楽しいかい?」 
 「テリーさん……今はそれどころじゃないんですよ。ていうか紅茶何杯目ですか。もう軽く20杯は超えていると思うんですけど、トイレ大丈夫ですか」
 「問題ないよ。ワシはトイレに行きたくなったら漏らす主義だから」
 「……(ドン引き)」
 「冗談に決まっているだろう?」
 艶やかな黒髪を揺らしながら、近くにいた店員である昴に紅茶のお代わりを頼む。
 白磁のティーカップを危うく握力だけで叩き割りそうになったが、何とか理性でこらえた。ここでカップを叩き割って、店長に怒られたら本格的に首である。
 生活費を稼ぐ為にも、真摯にバイトに取り組まねばならない。学生の身、そしてヒーローでありながらバイト生活に明け暮れるって一体どういう事だろうなと心の中で考えたのは言うまでもない。
 というか、ビルを馬鹿みたいに壊れるのだ。もう少し丈夫なものを作れ。あの女顔死神を人柱(神柱?)にしてビルを建てたら、絶対に崩れなさそう。
 そんな事を考えながら、昴は店長に「紅茶お代わり。——砂糖の代わりにタバスコを入れてください」と要求した。
 さすがの店長も紅藤はお代わりしすぎだと思ったのか、茶色の液体に赤い液体をどばどば投入した。完成、紅茶INタバスコ。
 「……どーぞ」
 「なんだかやけに辛そうな匂いがしないかい?」
 気のせいですよー、と昴がポーカーフェイスを保って言うと、紅藤は素直に頷きながら紅茶をのどに流し込んだ。
 そして、
 「うん。これはこれで、変わった味の紅茶だ!」
 えぇ?! と昴は言ってしまいそうになった。ていうか、「え、」まで出てしまった。
 紅藤、恐ろしい人……っ! と思いながら、昴は店内へ引っ込む。紅藤は何故かいつもテラス席を好むのだ。光合成でもしているのか。
 すると、来客を告げるベルが店内へ響き渡る。
 「いらっしゃいませ……げ」
 「……げ」
 互いに顔を見合わせた瞬間に、まるで汚物でも見たかのような表情を浮かべる店員と客。
 言わずもがな、客として来店したのはあの女顔死神、東翔であった。これでもか、と言うぐらいに顔をしかめている。
 昴も昴で、店員なのにもかかわらず翔へ舌打ちをした。何でこいつがこんな時に来るんだよ、と思った。
 「おや、翔のお嬢様じゃないかい?」
 「ぶち殺すぞ」
 テラス席から顔を出して、紅藤が紅茶を掲げる。
 「ここの紅茶は少しばかり辛いものが取り揃えられているようだ。ところで、君はもしかして限定のザッハトルテを食べに来たのかな? ここのケーキは絶品だよ」
 「む。確かに評判には聞いていたが……テリーの情報を聞いてさらに興味がわいた。おいポンコツ店員、さっさと席に案内しろ。テリーのところがいい」
 「へーへーかしこまりましたー(超棒読み)」
 最悪の接客態度を以てして、昴は翔を案内する。背中を狙われるかと思ったが、良心があるからかまたは気づかなかったのか、翔は何も攻撃をしてこなかった。
 紅藤と相席にしてもらって、翔は「じゃ、さっきのザッハトルテ。あとはミルクティー」と注文した。
 ボールペンがへし折れそうだったが、相手は客。こんなところで喧嘩を吹っかける訳にもいかない。昴は素直に注文を取って、奥へと引っ込んだ。店長にミルクティーを作るように指示をして、自分はザッハトルテを作り始める。
 昴は料理が得意である。バイトが長引いた時は惣菜を買ってしまうが、できるだけ自炊をするように心がけている。さらに小豆やポチ、飴と同居している状態なので、甘いものは大体作れるようになった。
 「ここのスイーツ、ザッハトルテだけじゃなくて他のもおいしいよ?」
 「ほう。甘いものが好きな俺にとって、それは有益な情報だな。ただ、あの店員が気に入らないが」
 「気に入らなかったら食べられないよ?」
 ハァ? とでも言うかのような表情を作る翔。キッチンからでもそれはうかがえた。
 昴は皿に盛り付け——敵と言えど客だからきっちりきれいに盛り付け——翔の前へ置いた。
 「……おい、これ」
 「あぁ、作った。俺が。何か?」
 「……まずいんじゃないのか?」
 「食べる前からいちゃもんをつけてくる野郎は初めて見たよ、俺は」
 文句があるなら食ってから言え、と命令すると、翔はゆっくりとザッハトルテにフォークを差し込み、口に運んだ。
 2、3度咀嚼して、嚥下する。
 「……む、うまい。コンビニスイーツより美味ではないか」
 「量産型と一緒にするな。1日10食限定だぞ。小豆ちゃんやら飴がいるから甘いものをせがまれるし……だからいろんなものは作れるようになっただけだ」
 ここでもその特技が活かされてバイトできているけどなー、と付け足しておく。
 大人しく食べている翔をしり目に、昴は「店の外を掃除してきます」と言って箒片手に外を出た。
 「やっぱり、大嫌いだ。ポンコツヒーローめ」
 翔の声でそんな台詞が聞こえたのは、この際言うまでもないだろう。
