コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 帰宅部オーバーワーク!【まさかの番外編!!】
- 日時: 2016/07/29 21:54
- 名前: ガッキー (ID: 4IM7Z4vJ)
- 初投稿です。初心者ですが、よろしくお願いします。夜のテンションでバーッと書いているので、誤字があるかも分かりません。一応、チェックは入れてはいますが、見付けた際はご指摘いただけると嬉しいです。 
 ルールも、『参照』の意味も分からないですが、感想もしくはKAKIKOのルールを教えて下さる心優しい方がいらっしゃるのなら、どうか教えていただけると私が喜びます。部屋で小躍りします。
 最後までお付き合い下さいな♪
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- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.53 )
- 日時: 2016/01/11 00:10
- 名前: ガッキー (ID: Uc2gDK.7)
- そう言えば、『下校部』の設定を明かしていなかったので、紹介します! 
 土手・帰路(どて・かじ)。『下校部』の部長。『帰宅部』が『下校部』の活動を真似した事を酷く怒っているらしい。部員からの信頼も厚く、古泉よりも余程部長っぽい。中肉中背の、普通な男。
 実家についてコンプレックスを抱いているらしい。
 富士宮・甲(ふじのみや・こう)。『下校部』の副部長。出会ったばかりの頃は、土手の事を苛立たしく思っていたのだが、とある事件を切っ掛けに、土手について行く事を(忠誠を)誓う。
 自称、忍者の末裔らしい。
 暎宮・白湯(えいみや・さゆ)。入学直後、正門前で部員募集のチラシ配りをしていた土手に一目惚れし、即入部を決める。髪型は、クリーム色のセミロング。
 時々髪型を変えたりしてみるが、土手からの反応が薄くてモヤモヤしているらしい。
 こんな感じです。いやー、月日が流れてもやっぱり説明が下手です。うわー。
 『下校部』に入部した順としては、暎宮→富士宮、です。
 ぶっちゃけ『帰宅部』の彼らよりも動かし易いですね。あまりボケないからでしょうか?
 ・・・さて、物語も佳境を迎えましたが、途中で少し番外編とかも挟みたいなって思ってます。生徒会長と古泉の馴れ初めですとか(こう書くとカップルみたい)、『下校部』の日常の様子ですとか。
 では文字通り、話を戻します。
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.54 )
- 日時: 2016/01/11 00:17
- 名前: ガッキー (ID: Uc2gDK.7)
- 「・・・・・・は?」 
 「惚けるな!」
 と、言われても。前野が怯む程の気迫で言われても。古泉には何の事か分からなかった。
 「いやいや、オレが何したッてんだよ」
 部活を真似した?古泉はその意味を、裏に隠れていそうな他の可能性まで考えてみたが、
 やはり、分からなかった。
 『帰宅部』は、古泉が自ら考えた部活である。そこに、真似や意図的な類似は存在しない。
 「知らねェし、意味分かんねェよ」
 古泉が、両手を上げて降参の意を示す。しかし、土手の態度は冷たい。
 まるで、積年の怒りを晴らしているかのように。
 まるで、大雨で歯止めの効かなくなったダムのように。
 「あくまで、シラを切るつもりか」
 「ーーさっきから何なんだテメェは!知らねぇッつってんだろうが!!」
 「落ち着いて下さい、古泉先輩・・・!」
 ソファから立ち上がり、土手に殴り掛かろうとした古泉の前に青山が立ち塞がる。ベネディクトも、何時の間にか古泉を羽交い締めにしている。
 完璧なチームワーク。長い間、同じ空間で過ごしていたからこそ出来た行動だ。
 「・・・・・・悪かったな」
 フー、フー、と古泉の荒い息遣いだけが聞こえる、室内。数十秒程してから、古泉が『下校部』に謝罪した。しかしそれは『部活を真似』をした事についての謝罪ではない事は、この場に居る誰もが分かっていた。
 「気にするな。遙か昔から意見が違えた場合は、力で捩じ伏せると決まっている」
 今回も、同じだ。土手はそう言った。
 「『決闘』についての説明がまだだったな」
 徐(おもむろ)に土手はそう言って、決闘のルールの説明を始めた。
 その説明を、簡単に纏めるとこうだ。
 一、これから『帰宅部』と『下校部』は、日没山へ《帰宅》する。部員の内の誰か一人でも良い。先に着いた部活の勝利。
 二、敗けた方の部活は、廃部とする。
 「どうだ?簡単だろう?」
 土手が、ニヤニヤと笑いながら問い掛けた。勝利を確信した笑みで。『帰宅部』が敗ける事を確信した笑みで。
 「・・・・・・・・・」
 古泉は、無言で顎に手を当てて何かを考えている。
 「・・・・・・戦うんですか?」
 そんな古泉に前野が、問う。
 「当たり前だろうが。ここで引いたら男じゃねェ」
 「あのー、私は女なんですけど」
 「知るか」
 ちょっとぉぉぉ!と抗議の声を上げた前野を青山が宥めている間に、古泉が歩き出した。『下校部』の横を通り過ぎ、部室から出た所で振り返って言った。
 「着いて来いよ。ここじゃ始まりに相応しくねェだろ
 「・・・それもそうだな」
 古泉の台詞に、土手が口角を吊り上げて同調した。そして、古泉に着いて行く。
 「前野さん、僕達も行きましょう」
 「・・・戦わなきゃ駄目なのかな」
 「はい。話し合いだけじゃ解決出来ない事態もあります」
 「それは、コレも?」
 コレとは勿論、『決闘』の事だ。
 「はい」
 「・・・どうしても?」
 敗けたら廃部。その現実とプレッシャーが、前野に重くのしかかっているのだ。乗り気にならないのは青山にも分かる。
 しかし、引けないのだ。古泉ではないが、青山にも『帰宅部』としてのプライドがある。
 尚(なお)も食い下がる前野に、青山が微笑んだ。
 「前野さんは、本当に優しいのですね」
 その表情は、これから始まる決闘の事なんて微塵も感じさせない程に柔らかく、優しい微笑だった。
 「心配しなくても、大丈夫です」
 青山は言葉を区切り、言い聞かせるように前野に言った。
 「どんな不可能もーーバッドエンドにしかならない状況をーーハッピーエンドに変えてしまうのが、僕達『帰宅部』ですから」
 古泉先輩ならきっと大丈夫です。とは、青山は言わなかった。今回の件は、古泉だけの問題ではない。
 『帰宅部』存続を懸けた、部員全員の問題なのだ。
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.55 )
- 日時: 2016/01/18 23:28
- 名前: ガッキー (ID: 62e0Birk)
- 場所は変わり、人気の少ない裏門。ここの生徒ならば、態々(わざわざ)利用しようとは思わない程校舎からーーそして大通りから離れた裏門。そこに、『帰宅部』と『下校部』の面子が揃っていた。 
 ヒュー・・・、と冬特有の肌を刺すような冷たい風が吹き抜ける。前野の三つ編みが揺れた。
 不意に、突然に、古泉が衝撃的な言葉を放つ。
 「・・・前野、お前は帰れ」
 時が止まったように硬直した前野とは対照的に、古泉の口は止まらない。真冬の風のように冷たい現実を突き付ける。
 「この決闘に、お前は加えられねェ。先に帰れ」
 「・・・冗談ですよね?」
 前野が、恐る恐る確認する。
 「嘘じゃねェよ」
 「そ、そんな・・・!さっきみんなで戦おうみたいなシーンになったばかりじゃないですか!何でいきなり、そんな?」
 その言葉に古泉は、前野の肩に手を置き、少し屈んで視線を合わせて「良いか?良く聞け」と言った。
 「これから始まる決闘は、何が起こるか分からねェ。怪我をする可能性だって十分にある」
 「でも、だからって!」
 私だけが外されるのは違うんじゃないですか!?前野はそう言いたかったが、それよりも先に古泉が言葉を重ねる。
 「オレ達は、お前に傷付いてほしくねェんだよ!」
 古泉が声を少し荒げる。
 前野が静かになったのを確認して、咳払い。それから言い聞かせるように古泉が言った。
 「心配すンな。お前は先に帰宅してくれてりゃア良い。後から必ず追い付くからよ」
 今迄に無い程優しく、らしくもなく、キャラでもない笑みを浮かべた。
 「・・・・・・」
 黙っている前野。古泉は前野の頭を少し乱暴に撫でてから、
 「だから、先に帰ってくれ」
 ドラマのワンシーンのように、前野の両手を包み込んで言った。
 苦笑。
 「そんな事言われたら、逆らえないじゃないですか・・・・・・。分かりました。先に帰ります」
 凛とした目。伸ばした背筋。固く握り締めた拳。今の前野にはもう、先程までの弱々しさは無い。
 「おう、頼んだ」
 それを見たから古泉は、安心してもう一度笑った。
 (なんだアイツ。そういう言い方も出来るじゃないか)
 その光景を見ていた土手も感心。古泉に対する印象を少し改めた。
 前野が、裏門から出て行く。
 それによりーー今迄『帰宅部』と『下校部』の《潤滑油》兼《緩衝材》と化していた前野が帰宅した事によりーー火花を散らし、殺伐とした空気が双方の部活の間に流れる。
 「よし、始めようじゃないか」
 「だな」
 土手が、学ランの右ポケットからコインを取り出した。『何の細工もありません』とでも言いたげに裏表を『帰宅部』の三人に見せてから、
 「コレを投げて、地面に落ちた瞬間から決闘を始める。シンプルで良いだろ?」
 「成る程。ですが・・・」
 青山が言おうとした言葉の続きを、古泉が引き継ぐ。
 「投げる方が圧倒的に有利だろ、ソレ」
 「そうだな」
 土手が頷いたのを確認し、古泉が言う。
 「オレ等にやらせろ」
 「・・・・・・公平に決めないのか?」
 土手が、少し間を置いてから古泉に聞いた。
 「馬鹿かよ、そっちが用意したコインで、そもそもこの決闘自体お前等のタイミングで始めた事だろうが。それ位こっちにやらせろ」
 言い方がイラッとする。
 が、
 正論。
 「それもそうだな。分かった、お前達がやって良い」
 その言葉が終わるか否か、古泉が身体を反転させて青山とベネディクトに向き直った。
 「よし、こうして始まりの合図の権利を勝ち取った訳だがよォ」
 「思い切り上に投げる?」
 ベネディクトの問いに、古泉は
 「いや、そうじゃねェな」
 と言った。
 「ならどうしますか?普通に初めては、有利とは言え、効果はまずまずです」
 恐らく、『下校部』の人達はコースに何かトラップを仕掛けている。自分達が有利になるようなトラップをーー青山はそう予想していた。
 日付も時間も決められたこの決闘。何も無いという方が可笑しな話なのだ。イカサマはバレなければ作戦にはなる。
 青山のそんな危惧に、古泉はニヤリ、といつもの笑みでかえす。
 「大丈夫だ。良いか?今から言う事をやれば、勝てる」
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.56 )
- 日時: 2016/01/28 00:00
- 名前: ガッキー (ID: lBubOowT)
- 「話し合いは終わったか?」 
 「あぁ、大丈夫だ」
 自信満々に、古泉が応える。
 場に何度目かの沈黙が訪れ、それから土手が言った。
 「もう一度ルールを確認しよう。
 一、これから『帰宅部』と『下校部』は、日没山へ《帰宅》する。部員の内の誰か一人でも良い。先に着いた部活の勝利。
 二、敗けた方の部活は、廃部とする。
 これに、意見はーー異見は無いか?」
 「ねェな。さっさと始めようぜ」
 パキパキ、と古泉が指を鳴らす。歯を見せて笑い、瞳はギラついている。獰猛な、狼のような笑み。その様は、隣にいた青山が思わず身震いする程だった。
 「良い返事だ。・・・・・・じゃあ、お前達の好きなタイミングで投げてくれ」
 「なら、お言葉に甘えてーーッと!」
 言い終わるや否や、不意に古泉が下投げで腕を大きく、残像が見える程速く、振るう。
 完全な不意打ちかと思われたこのタイミング。しかし、土手等『下校部』はコレを予想していた。
 土手が内心ニヤつきながら、コインが投げられた上空を見ながら、思う。
 (お前の考える事はお見通しなんだよ!古泉!お前はまともに物事を始められない。正確に言うなら、不意打ちかイカサマの二択。そして今この状況ーー俺がセッティングしたこの状況では、お前には不意打ちしか出来る事は無い!!)
 視線は上に。目を凝らし、落ちてくるコインを一早く視認しようと視線を張り巡らす。目を焼く陽射し何ぞ気にせず、見張る。
 数秒。数十秒。
 「・・・どうなっている」
 土手が、ポツリと。視線はそのままに呟いた。
 「おい古泉」
 土手が、古泉に問い掛ける。まさか、この状況でイカサマをした訳ではあるまい。
 「聞いているのか、古泉」
 コインは何処へ?まさか、校舎の屋根に引っ掛かったのか?
 だとしたら、決闘は仕切り直しか。折角気分は昂(たか)ぶっていたのに。
 しかしまぁ、仕方無い。予備のコインを使って仕切り直すと
 「土手先輩!」
 そんな風に考えていた所に、真横からの大きな呼び掛け。見ずとも声で分かる。暎宮だ。
 「どうした?」
 「あの、『帰宅部』の人達がーー居ません」
 「・・・な、何だと?」
 あまりにも受け入れられない言葉に、上空から視線を外し、つい暎宮の顔を見てしまう。
 そして、自分の正面にいた筈の『帰宅部』の三人が、忽然と姿を消している事に気付いた。
 「何をやっているんだアイツ等は・・・!イカサマ所か、明確なルール違反じゃないか!こんな決闘無効だ!」
 「た、確かに!これはもう白湯達の勝ちで良いんじゃないですか!?」
 「・・・・・・いや、待って下さい」
 土手と暎宮の会話に、《待った》を掛ける富士宮。二人が見たその横顔には、脂汗が滲んでいた。
 富士宮の両目が、恐ろしい速度で動く。しかし視線の方向は上ではなく、下だが。まるで、何か地面に落ちたモノを探しているかのように。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレは、ま、まさかッ!?」
 富士宮の瞳が、限界迄開かれた。
 土色の地面。そこに光る、銀色のモノ。
 それを視認した土手と暎宮も驚きに目を開く。
 一つの見落とし無く見張っていた上空。三人分の監視をすり抜けたのか?話している間に落下していたのか?
 いやいや、そんなまさか。と、『下校部』一同は脳内で必死に否定した。
 しかし。現実はいつだって残酷で。
 「いつの間に、コインが地面に!?」
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.57 )
- 日時: 2016/01/30 22:50
- 名前: ガッキー (ID: 32zLlHLc)
- 「アイツ等、今頃驚いてンだろうな」 
 「え、えぇ。確実に・・・」
 「でも、よくボクと青山クンも合わせられたよね〜。アレに」
 「流石は『帰宅部』って所か?ハッハッハーーあッぶねぇ!」
 「気を付けて下さい。落ちたら怪我じゃ済みませんよ」
 「悪い悪い、油断してたわ」
 一方その頃。全員で日没山を目指していた一行。『下校部』の目を欺き、一足先にスタートを切っていた一行。先頭に、『帰宅部』最速の男ベネディクトを。次に、『帰宅部』のブレイン青山を。殿(しんがり)には、『帰宅部』部長の古泉。空気抵抗を出来るだけ少なくする為に身体を前傾にしているが、それでも風を切れる程の速さで走っていた。
 おや?
 『帰宅部』の会話が所々可笑しい。不自然だ。
 Q.果たして、彼等『帰宅部』は今どこにいるのか?
 A.塀の上。
 「考地が考えた最短ルートが、まさか民家と民家の間の塀だとはなァ・・・」
 塀の上を器用に駆け。時々途切れる塀を、跳んで道を繋ぎ。時折現れる電線を、空中で身体を捻って躱し。忍者のように最短ルートを進んでいた。
 「なるべく一直線で日没山に向かうには、このルートしかありませんでした」
 青山が眼鏡のブリッジを押し上げながら言って、後ろにいる古泉に合図した。
 「そろそろ視界が開けます。三、二、一」
 青山のカウントダウンと丁度同じタイミングで、塀が途切れた。青山とベネディクトの身体で古泉の視界は少し隠されていたが、古泉には瞬間的に着いた場所が理解出来た。
 地面に両足が付く瞬間に、膝を思い切り曲げて勢いを殺す。それから、更に勢いを殺す為に前転を一度。それから立ち上がる。
 この動作をしないと、足を痛めてしまう可能性がある。『帰宅部』では、高所からの飛び降りにはコレが欠かせないのだ。
 互いの背中に付いた砂を払ってから、辺りを確認。視界が開けた瞬間と思った事と同じで、どうやらここは空き地のようだ。
 「何だか、ドラえも」
 空き地らしい。
 「そ、その話は置いておきましょう。色々と危ういです」
 「何で?ドラえ」「わー!わー!」「面白いじゃん」
 寸での所で、青山が大声を出して肝心の部分を掻き消した。圧倒的知名度を誇る作品の前では、あまり伏字も使っていられないのだ。
 「ゴホンっ・・・。ルートの再構築を始めますので、少々お待ち下さい」
 閑話休題。
 「ねぇねぇ青山クン。今ボク達はどこら辺迄来てるの?」
 「そうですね。・・・大体、三分の一程度です」
 「まだそんなかぁ」
 青山からの答えに、ガックリ肩を落とすベネディクト。しかし、そんな彼も流石は『帰宅部』最速の男というべきか。
 その額には汗一粒浮かばず、息も全然切れていない。
 普段から全力疾走で登下校をするベネディクトにとって、この程度の運動は、余裕らしい。
 「あまり休んでいる暇はありません。そろそろ出発しましょう」
 「・・・追い付かれたら、危ないからな。今みたいに」
 「「「ッ!?」」」
 背後からの、冷たい声。古泉も青山もベネディクトも、全員立っている位置は違う筈なのに、何故か全員の背後から声が聞こえる。思わず振り向いてしまった程だ。
 「・・・足が速いのが、ベネディクトだけの特性だと思うなよ」
 ベネディクトの肩を叩き、影の如くベネディクトの陰から現れた富士宮。
 「な、コイツ・・・もう追い付きやがったのか」
 「・・・まあな。お前達があんな手を使わなければ、とっくに追い越していただろう」
 自身有り気、というよりかは、ただ事実を伝えているだけのような淡白さを漂わせる富士宮。あの古泉でさえ、若干気圧されていた。
 (ヤバいぞ。どうする、オレ!この富士宮って奴が相当足が速い化物だってのは馬鹿でも分かるが、恐らく、そう時間が立たない内に残りの二人も来る!どうにか、この場から逃げるには・・・!どうすりゃあ良い!!)
 考える、古泉。
 この決闘は、全員の戦い。全員で勝たなければ意味が無い。
 「古泉クン。ここはボクに任せてよ」
 一人でも欠けたら、意味は無い。
 なのに。
 古泉の横に立っていたベネディクトは、そんな事を言っていた。
 古泉と青山が、驚いてベネディクトの方を見る。するとベネディクトは、照れ臭そうに頭を掻きながら自らの意図を説明した。
 「ほら、この人って凄い足が速いみたいじゃん?三人で隙を突いて逃げても、すぐ追い付かれちゃうのかなぁって。だから、ここは『帰宅部』最速の男ーーボクが身体を張って、タイマンを張ろうかなって思ったんだ」
 「・・・自分が言ってる意味、分かってンのか?」
 「うん。だから!『必ず追い付く』何てベタな台詞は言わないよ」
 ベネディクトは、弾けるような清々しい笑顔でーー死地に向かう兵士ような儚い笑顔で、言った。
 「先に頂上に行っててよ。一番乗りは譲ってあげるから」
 その言葉を聞いて、古泉は口元の緩みを抑えきれなかった。
 「ンだよそれ・・・。分かった。ここはお前に貰ったハンデを活用させてもらうとするわ。そうでもしないとお前には勝てねェしな」
 行くぞ、と古泉が青山に言ってから、ベネディクトに背を向けて歩き出した。
 「良いのですか?」
 何に対する問い掛けか分からない青山の問い掛けに、古泉は一言、言った。
 「良いんだよ」
 その一言で全てを察した青山は、喉を通ら鳴らして頷いたのだった。
 「次は、僕が先頭を走ります。・・・・・・行きましょう」
 地面を蹴り、走り出した。
 振り向かずに、前だけを見て。
 「うおおおおぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!」
 背後に、ベネディクトの勇ましい雄叫びが突き刺さる。
 戦いは、まだ始まったばかり。
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