コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

プロローグ ( No.1 )
日時: 2016/08/03 23:42
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /48JlrDe)

 雨上がりの濃い土の香りと、むせ返るような新緑の香りが混ざり合っている。
 深呼吸をするように大きく息を吸いながら、ゆっくりと目を閉じると、まるで昨日の事のように脳内で映像が鮮明にフラッシュバックした。
 胸の奥をチクチクと小さな針で刺されているような痛み、それと同時に微かだが穏やかな感情も湧いてくる。

 複雑な気持ち。名状し難いこの気持ちは、言葉で上手く説明できない。閉じていた目を静かに開けると、息を吐きながら空を見上げる。さっきまで土砂降りだった雨が止んで、灰色の薄雲が空を覆っていた。
 雨は嫌いだ。外に出るのが億劫になるから。雨は嫌いだ。俺の心を憂鬱にさせるから。雨は嫌いだ。悲しい思い出しか無かったから————でも、また逢えるなら、雨も悪くないと思える。
 視線を戻すと、雨上がりの葉に残った雫が、雲間から零れた一筋の陽光に照らされて、キラキラと輝いていた。また逢えたら今度は何て言おうか。今度は上手く笑えるだろうか。

「そんな事を考えても仕方ないよな」

 自嘲気味に呟いた言葉は、胸の中に残ったあの日の想いを刺激する。片手を額の高さまで上げ、太陽を隠すようにしてゆっくりと歩き出した。


 君が待つあの場所へ————